第十二話 金欠
ゼルトの出した条件は簡単だった。町の北にあるダンジョンの第七層にいるボスモンスターを倒せばいい。期限はないが一つだけ失敗の条件があった。それは、渡されたダンジョン内だけで機能する帰還用のアイテム。テレポウィングを三つ使い切る前に達成すること。もちろん買い足しNG。このアイテムはダンジョン前でしか売ってないので購入すると自動的にばれる。
そして、三か月が経過した。そう、三か月経っても俺はクリアできずにいた。思っていた通りにこの試練魔力便りの俺に少々不向きだ。もちろん、ポーション類は常備している。問題は・・・
「金がない」
致命的だ。その日暮らす日銭を稼ぐのがやっと。ポーションを無駄に使うわけにはいかない。普通ならダンジョンにさえこもればモンスターの素材でその日を余るぐらいは稼げるはずなのだ。
俺はのろのろとギルドの受付カウンターに行く。そして、俺は持っていた袋から魔物の素材を出す。
「また、牙ですか」
ギルドの受付のお姉さん笑顔が凍り付いてる気がする。そう、俺は素材の牙しか持ってこれない。だって、ナイフが使えないから・・・・皮とか剥げないんだよ。牙とか爪を叩き折るので精いっぱいなんだ。しかも、あのダンジョン皮とかの方が有用性高いのが多いんだよ。おかげで、今日も宿で一番安い飯だ。
「せめて、もうちょっと牙をきれいにとってもらえますと」
「すいません。それが限界なんです」
「では、合わせて148ガルになります」
ちなみに宿代82ガル。食費20ガル程度。残り36ガル程度。ちなみに粗悪品のヒルポ一個変える程度だ。マナポは十倍くらいする。
「すいません。最近牙の在庫が余り気味で、もしかしたら次回より安く・・・」
「これ以上下げないでください。お願いします」
すでに二度下がっている。これ以上はその日の宿代すら危ない。子供の特権でも何でも使って泣きすがるしかない。
「まぁ、もう少しだけの間でしたら・・・」
まずいまずいまずい。このままでは野宿生活に行ってしまう。魔物の狩る量を増やすのも大変だし。増やしたところで余計下げられかねない。
「やっぱり、そろそろクリアに本腰を入れるか」
クリアの準備は着々と進めている。実際にボスには一度対峙したことがあるのだ。だが、ここまで来るのにテレポウィングを既に二度使ってしまっている。次はない。
「やるしかねぇか。今現状のアイテムは・・・」
ヒルポが五本。マナポが三本。七層に着くまでに恐らく両方とも一本ずつ
使う程度。行けるはずだ。
本来なら二週間ほど前にはクリアできた。いや、一か月前にボスと対峙した時に無理すれば倒すこともできた。だが、前回の一件を反省し今回は念入りな準備を済ませておいた。
宿に戻り装備の手入れをする。木剣はセリアの自信作といったところか。ここ三か月使い続けているのに傷一つつかない。だが、所々に汚れが目立つので綺麗に掃除し磨き上げていく。
「防具類はさすがに安物だから傷んでいるものが多いなぁ」
もともと丈夫な鉄製品はあまり使っていない。精々籠手くらいだ。身軽さが売りな俺は下手に重いもの着込むのはかえって邪魔になる。せめて、高モンスターの皮等の装備が買えれば良いが金がない。ぼろくなった皮などを不格好なりに繕う。ここ三か月で何とか応急処置程度には繕えるようになった。
「女将さん。明日昼食用のサンドイッチ一つ頼めますか?」
本来なら何も味がほとんどついてない固いパンだけだが。最後だから奮発する。
「おっ、ファバル君。明日豪華に行くってことは今日の稼ぎは良かったの?」
答えたのは別の人だ。同じ宿に泊まっている冒険者。ラシュウさんだ。20過ぎくらいの冒険者ってのが疑わしくなるくらいひょろい人で。以前三層で罠にはまってるところを助けたことがある。それ以来こうやって声をかけてきて来るのだ。
「逆に今度から宿代払えるか微妙なところまで追い詰められそうです」
ギルドには俺の外見といまだにFランクな事で見下してみてきている奴も多い中。対等な目線で話してくれるから俺はこの人のことが嫌いじゃない。
「そっか、お金のことは僕もあんまり稼いでるわけじゃないからね」
三層で罠にはまってる時点でこの人はあんまり腕は良くないんだろう。この安いぼろ宿に泊まってる時点で金がないのも明白だし。
「大丈夫です。明日でテスト終えますから」
そうすれば、普通の討伐依頼なんかもこなせるようになるから宿代払ったって浮くはずだ。
「そっか。明日で終わらせるんだね。そうなると近いうちにこの宿を出ていくこともあるのか。寂しくなるな」
確かに収入が安定するようになればこの宿よりもっといいところに行く可能性は高い。それに、ここだけじゃなく他の町にも行ってみたいと思うし。
「まぁ、もう少しはいますし、同じ冒険者続けてればどこかで会えますよ」
「ぅん、そうだね。君が合格できるように応援してるよ」
「まぁ、必ず成し遂げますんで」
そういって俺は部屋に戻っていった。
「まったく、彼は頑固だね。この試練の意味に何も気づいちゃいない。いや反抗期なのかな?」
ファバル君が部屋に向かったのを見送りながら僕は聞こえないようにつぶやく。恩師に頼まれた仕事だったが、いい休暇にはなった。
「あんただって、他人のこと言えないだろう。あんたがここにいたときは随分やんちゃしてたじゃないか」
僕の独り言に後ろから突っ込みが入る。この宿の女将さんだ。新人のころを知ってる人ってのは自分の恥ずかしい記憶も知ってるからたちが悪い。
「昔の事を掘り返すなんてやめてくださいよ」
「私にとっちゃ昨日のような出来事だよ。ゼルが連れてきた新人はみんなとがった奴ばっかりだしね。でも、今回は極め付けだねぇ。まさか、必要ないなんて」
「まったく彼八歳らしいですよ。末恐ろしいにも程がある」
僕も冒険者になったのは早い方だけど。それでも12歳だ。そして、実力はあの頃の僕とは比べ物にならない。
「ゼルも頭抱えることになるだろうねぇ。まさか、自分の試練の意味も理解せずにクリアされるなんて思いもしないだろうから」
「あの人が頭抱える姿はそれはそれで見てみたいかもしれないですけどね」
サブタイが思いつきませんでした。そして、内容量少し短めです。たぶん、あと二話ほど短く続くと思います。あっ、そういえば再就職先決まりました。まだ、働きはじめではありませんがこれにてニート脱却です。心配してくれた方ありがとうございました