第十一話 反省
「ハァッ。ハァッ。ハァッ」
呼吸が荒い。疲労がたまっている。だが、この程度の疲労は慣れているはずなんだが。
「クソッ」
飛びかかってきたグレイウルフを叩き落とすが。駄目だ。骨までいってない。こんなんではすぐ復活する。
追撃をしようと倒れたグレイウルフに剣を向ようとするが、次々襲いかかってくるグレイウルフに防戦一方でそれどころではない。
まずい、意識が朦朧としてきた。体もやたら重い。これは傷や疲れのせいじゃだけない。魔力が枯渇しかけている。
もう弱っている事に気づいているのか。魔物がどんどん押し寄せてくる。討伐対象でないスライムやら虫型のやつやらも集まってきた。
「ちくしょう。ファイアーボール」
木刀をスライムにむけて放つ。ドラ○エでは最弱モンスターでも、この世界では打撃斬撃が効果が薄いやっかいなモンスターだ。力こそ弱いものの捕まるとまとわりついてきて直接溶かしてくる。
「ハァッ。ハァッ。ハァッ」
膝を付く。限界だ。視界がぼやける。気持ち悪くて吐きそうだ。正面から襲ってきたグレイウルフを何とか叩くが気休め程度にしかならない。奥からロングベアが近づいてくる。
ここで死ぬのかぁ。魔物討伐を甘く見すぎた。これから、どうやっても逆転の目はない。
「ここまでか」
その瞬間、ロングベアが真っ二つに避けた。美しい緑の宝玉が輝いている人の身ほどのクレイモア。銀色に輝く刀身。
疲労も忘れて目が奪われる。何度も何度も使われてきたはずなのに。今打たれたばかりの用な輝き。今切断したロングベアの血すら付着していない。
「これが、聖剣」
刀身からなんとも形容しがたい神々しい光が輝いている。例え素人が見たとしても見間違えるわけがない。
「いくぞ。クレア」
ゼルトのその言葉に呼応するように緑の宝玉がさらに強く輝く。あれは、俺のと同じ魔石なんだろうか?俺のより三倍くらい大きく比べ物にならないほど強く光輝いてる。
「そっから動くなよ。ストームシェル」
俺の回りに風が吹き荒れる。風のバリアみたいなものか。何匹か俺に襲い掛かってきたが。俺に触れる事なくはじかれる。そんな事よりも俺は目の前の光景に目を奪われていた。
「なんだ。あれは」
次々と魔物を両断していくゼルト。俺のように肉体強化など使ってないため俺より数段遅い。しかし、一度も魔物の攻撃を受けてない。例え背後や複数からの攻撃でもまるで未来が予測できるかの如くこれ以上はないと効率よく余裕をもって行動している。
「きりがねぇな。大技いくか」
そういうと剣を頭上にかがげる。
「テンペスト」
辺り一帯に暴風が魔物を吹き飛ばす。見ているだけで凄い風圧なのに。このストームシェルのおかげか。いや、周りの木々もこの風でも大したダメージがない。大型のロングベアさえ吹き飛ばされる風圧なのに。敵だけを攻撃する魔術か。まるでサイフ○ッシュ。凄い便利な魔術だ。
「ちと、やり過ぎたか」
たった一発の魔術で俺があれだけ苦労した魔物達が叩きつけられ。あるいは切り刻まれ絶命していく。
新たな魔物は来ない。いや、遠くから見てはいるが襲う気配がない。怯えているのだ。俺の場合は数で押せばどうにかなったが。ゼルトにはいくらやっても通じない圧倒的な実力差を理解したのだろう。少し見た後次々森の奥に消えていった。
「ほれ」
俺に青色の液体の入った瓶を俺に渡した。
「マナポーションだ」
やっぱりか。色と今の状態と色からだいたい想像できた。それを一口飲むだけで体調がだいぶ回復する。
「さて、クリアできなかったが」
「あぁ、わかってるよ。不合格って言いたいんだろう。でも、前回といいこれが試験か?正直無理過ぎるぞ」
言い訳なのはわかっているが言わずにはいられない。前回のだって俺は結構余裕だったが。それでも試験でCクラス任務は高度過ぎる。
「しゃあねぇな。本当は全部の試験やってから話すつもりだったんだが。まず第一の試験だが。あんなに簡単にクリアするのは意外だったが、クリアはできるとは思ってた。試験のポイントは人を殺せるかどうかだ。冒険者家業に足をいれると必ずいつかは通る道だからな」
「殺せなかったから不合格なのかよ。なんだったら今からでも別の盗賊を」
ゼルトが思いっきりため息をつく。
「勘違いするな。どっちでもいいんだ。お前の年で手を血に染めるのも早いのも事実だしな。そういう事があると知ってほしかった。だから、第一の試験は合格不合格はない。問題は第二の試験だ」
確かにクリアできなかった。一体一体はこっちが上でも集団になるとあれほどやっかいになると思わなかった。
「まず、問題点を上げていこう。お前は魔物との戦闘に弱い。逆に言えば対人特化しているとも言える。素早い動き子供とは思えない高い技術で人体の急所でしとめていけるが、逆に初めての魔物の場合急所はわからないから適当に力ずくしかない。だが、お前の場合武器が問題だ。魔物に痛みを与えられても大したダメージにはならない。人間だって痣が少しできたくらいじゃあ死なねぇだろう」
「うるせぇな。剣がつかえねぇんだよ」
「やっぱりそうか」
気づいていたような言い方が気になる。ソードイーターは過去に誰も取得した人がいないスキル。それをしっているとすれば・・・・
「てめぇもアスフィルの関係者か」
サーシャと同じだろうと予測できる。
「アスフィル????なにいってるんだ?俺はこいつがお前が警戒しているのと。お前のその技量から予測しただけだ」
「聖剣って喋れるの?」
「持ち主にはなんとなくわかるんだよ。まぁ、次の問題点は全ての技に魔力に頼っている事だな。武器が限られてるんだからしかたねぇが、常時肉体強化なんて使ってたら俺だってもたねぇ。ましてや、あの力任せの技。威力はすごいが魔力の消費も激しいだろう」
確かに全てに魔力に頼っている事には気づいた。だけど、肉体強化だけならトレーニングでは一時間程度ではきれなかったから十分だと思っていた。しかし、現実には二十分程度で息が上がった。
「まぁ、これらは実戦を繰り返せば改善できる。こんなのは覚えといた方がいい程度の注意点だ。問題はこれからだ」
声が険しい物に変わる。まだあるのか。ってか、さっきのでも十分耳が痛いんだが、これ以上ってそこまでやらかしたのか。
「まず、なぜ逃げなかった?」
「あぁ、考えなかったわけじゃないんだが」
逃げることは考えなかったわけじゃない。ただ、最初はいけると思いこんだのが原因だ。気づいたら半分もいかずに逃げる余力がなくなっていた。
「逃げるタイミングなんていくらでもあっただろう。最悪俺を呼べばいい。一声あればあんな限界になる前に助けに入るつもりだった」
「戦いに夢中で忘れてた」
そんなこと考えてる余裕なんてまるでなかったからな。
「戦いに夢中になるやつはこの業界多い。だが、それで周りが見れなくなっちまう奴は早死にする業界だ。退路の確保は冒険者の基本だ。そして、次に回復アイテムを何故用意しなかった?」
「今まで困ることがなかったから」
ヒルポをを知らなかったわけじゃない。ついこの間まで腐るほどあった場所にいたわけだし。実家にも常備してあった。ただ、使うことがなかったのだ。金もあんまり心もとないから用意するのは後回しにしていた。
「馬鹿野郎が。今時子供でも外歩くのに持たされている。あるだけで生存率が全然違うんだ。冒険者で持ってねぇ奴なんていねぇ。ましてや、お前は魔術師と同じで魔力が尽きたら何もできねぇんだ」
そういえば出かけるときは持たされていた様な気がする。だが、元日本人の俺からすれば傷薬を持たされているような気分だったから荷物も嵩張るし敬遠してた。確かにこれはぐーの音も出ない。
「つまり、実力以前の心構えができてねぇんだ。冒険者を・・・いや、命を懸けることを軽く見てる」
「ちがっ」
うとは言い切れなかった。だって、すでに俺は命を一度あきらめた人間だ。そして、今の状況はあの時以上に酷い。目の前にニンジンが釣らされている馬の気分だ。目の前に俺があれだけ臨んだ命のやり取りの場面がある。だが、肝心の剣がない。なら、どこかでこの半分だけの状況の中で満足できているうちに死にたいと思っていなかっただろうか。
「心当たりはあるようだな。なら、お前は冒険者になるべきじゃねぇよ。冒険者は確かに命を懸ける職業だが、死にに行く職業じゃねぇ。まだガキなんだ。この業界にはもう少し考えてから足を踏み入れろ」
「だったらどうやって生きていけっていうんだよ。剣しかねぇんだよ。俺には。剣以外じゃあ生きていけねぇんだよ」
なめるな。こちとら転生者だぞ。何度だって考えた。剣以外の道なんて何度だって。そもそも日本は剣道で食っていくには極端に狭い競技だ。花形のオリンピックの種目でもない剣道は高校までは全国大会とかあるくせに、大人になると。指導者か警察。あとは剣道に力入れている実業団くらいだろう。指導者はともかく、他のは俺から言わせれば趣味の延長でしかない。侍の国なんて言われてるくせに他の競技に比べて力入れてないのだ。指導者として致命的に向いてないことはよくわかってる。なら、今まで人生をかけてきたものを趣味の領域まで落とすのか?我慢ができない。もっと、今より先へ。それこそ、戦国時代のような剣の腕だけで成りあがれるような世界。それが異世界という形でようやくかなったってのに。今度は剣が持てない。騎士にもなれないなら。冒険者でこの木剣一本だとしてもやっていきたい。
「ガキのくせに剣にこだわってんなぁ。まぁ、確かに剣を生かす職業なんて限られてるがな。冒険者。騎士。護衛。騎士は無理だとして護衛は木刀なんて使うやつは雇わねぇか。そして、あきらめる気もねぇか。まぁ、その熱意に免じて三番目の試験をやってみっか」
「どうせ、また無茶難題だろう」
「安心しろ。他の試験とは違い俺が手にかけて面倒見たやつは七割程度合格して。しかも、期限なしだから何度でも挑戦可能だ」
逆に言えば何度も挑戦しないとだめってことか。
「先に試験の内容を言えばダンジョン攻略。指定した場所までたどり着くだけだ。試験の意図をよく考えれば簡単な筈だ」
簡単でないことは明白だ。魔力に頼る俺には持久戦なんて一番厳しい試験だ。だが、期限がないっていうなれば出来ないってわけじゃない。
四か月ぶりの更新です。エスパーの方が次々かけて後回しにしてしまいました。そして、活動報告でもあったのですが仕事辞めることになり何も手付かずな無気力状態。明日からニートです。いや、退職自体は八日付だから現ニートです。次の就職先決まってません。寮も明後日に追い出される。ビバ・ホームレスなんて言ってる場合じゃない。まぁ、実家に帰りますが。十年勤めていた会社をいきなり辞めることになるのは正直精神的に来ますね。正直小説書く時間は腐るほどあったのに何も手付かずになってしまいました。ですが、そろそろ頭が落ち着いてきたので更新再開・・・予定。誤字脱字報告ありがとうございます。打ちミスの多さに恥じるばかりです