第十話 魔物討伐
「じゃあ、次は魔物退治のクエスト行くぞ」
前回の山賊討伐から帰って次の日。まぁ、それはいい。
「その前にさっさと合格にしてくれ。昨日ギルドに寄った時。合格できなかったんだとか。足引っ張ったんだろうなぁとか笑われたんだぞ」
実際は一人でやったのに。周囲から笑われるのはさすがに腹立たしい。
「まぁ、悔しかったら俺を納得させてみろ」
昨日の何が不満だというのだ。こっちは手こずってすらいないのに。
「不満そうな顔だな。まぁ、何といわれても合格にする気はないがな」
「次で終わりなんだよな」
「お前次第だな」
冒険者になるためには従うしかない。
「じゃあ、次は何のクエストだよ」
俺がそういうとゼルトはにんまりと笑いながら言う。
「魔物の討伐任務だ」
B王権者都市はごく一般的な当たり前のクエスト。だからこそ、ゼルトがそんな任務を選ぶとは前回の剣からとても思えない。
「相手はなんだ?ドラゴンか?キメラか?サイクロプスか?」
なんとなくまともなクエストじゃない気がする。
「おいおい、この辺じゃあそんなモンスターなんて出ねえぞ。ましてやドラゴンなんて言ったら。亞竜ですら辺境の山の頂上に行かねぇと。そんなの面倒じゃねぇか。近場の森のDランクのクエストのモンスターたちだ」
「・・・・本当だろうな」
聞く分には楽な簡単な仕事みたいだ。魔物と戦うのは初めてだが昨日よりランクが低い相手であればまず大丈夫だと思う。
「覚悟は決まったか?」
ゼルトは意地の悪そうな笑みを俺に投げかけて覚悟を問う。
「クリアしたら合格なんだろうな」
「あぁ~、まぁ、いいや。もし本当にクエストクリアしたら合格にしてやるよ」
やっぱり何か裏があるとそう思いつつ頷く。その思惑すら超えてやると思って。
「よし、この辺んだな」
ついた場所は町からそう離れてない森の中だ。歩いて二時間もかからなかった。
「もっと奥の方に行かなくていいのか?」
まだ森の入り口から少し入ったところだ。魔物すら見えない。
「本来ならもっと奥の方に行くべきなんだがなと・・・おっとあったこれだ」
ゼルトは持っていた荷物の中から小さな袋を取り出した。
「魔物の餌だ。撒けば魔物の種類にもよるがだいたい数キロ先まで魔物はにおいをかぎ取る」
ゼルトが袋の口を開けた瞬間。空気が変わった。周囲から強烈な殺気を感じる。
「おっ、鼻がいい魔物はもう匂いを嗅ぎつけたな」
森の奥からオオカミのような魔物が四匹飛び出してきた。
「グレイウルフか。討伐対象の一つだ。素早い動きだから気をつけろよ」
「どうでもいいけど餌持ってるのおっさんだから狙われてるのおっさんだぞ」
「ん?」と自分の手に持った餌の袋を見る。その時にはすでに一匹ゼルトに牙を向けていた。しかし、意に介した様子もなく裏拳で襲ってきたグレイウルフををたたきのめす。
「あっ、やっちまった。まぁ、いいや。今のサービスな。ほれっ。お前が餌持ってろ」
ゼルトが投げてきたえさの袋を俺は受け取る。
「・・・・また俺一人かよ」
「それが試験だからな」
「ちなみに、どれくらい狩るんだ?」
「グレイウルフが1132匹。ロングベア4匹だ」
やっぱりかこんちくしょうめ。質じゃないなら量だって思っていたんだ。
初めにいた三匹だけじゃなく次から次へとグレイウルフが森の奥から現れる。早めに片付けないと増えすぎて手が付けられなくなりそうだな。
「肉体強化」
肉体強化して木刀を構える。確かに素早いようだが肉体強化した俺よりは遥かに遅い。
一斉に襲い掛かってくるグレイウルフを迎え撃つ。数は多くても迎撃は可能だ。牙を向けてくるグレイウルフの頭を次々たたきのめす。
「余裕余裕」
爪と牙に気を付けてればいいのだ。迎え撃つことは容易だ。
「だといいがな」
腕に痛みが走る。浅くだが腕に引っかき傷だ。見ると先ほど叩きのめしたグレイウルフがすでに復活していた。
「おいおい、これは討伐だぜ。何生け捕りを考えてるんだ。それにその程度ならすぐに復活するぞ」
人間相手のようにはいかないか。多少の痛みでは気にも留めない。一撃一撃骨を折るようにやるしかない。
魔力を体にさらに流し込み身体能力を上げ正面の三匹の頭と背中に叩き込む。骨が砕ける感触が残る。元にいた世界でも何度か経験した嫌な感触だ。
初めて生物を超え押した感触に顔をしかめていると。背後から二匹襲ってきたのでそれを撃退する。次は殺した感覚が気にならなかった。いや、気にしている暇はなかった。次々と仲間は死んでも躊躇せず襲ってくるのだ。油断をすれば怪我どころか死ぬ可能性がある。
「数が多いな」
魔物のくせに学んだのか。俺と一定の距離を保ちつつも周囲をぐるぐると隙を伺うように周っている。まずい状況だ。時間を稼がれれば俺の魔力が切れる。そうなったら終わりだろう。
「覚悟を決めるか」
魔物の一匹に突っ込む。きれる前に行動を起こすしかないのだ。だが、この先の展開も予想通りだった。一匹仕留めたはいいが。その隙をついて一斉に襲い掛かってきた。襲われるのは常に四方の四か所からだから。常に四対一を繰り返し続ければいいと確か範馬勇〇郎さんが息子に教えていたが。そんなの無理です勇〇郎さん。人間の視覚は狭い。気配だけですべてをたどるなんて芸当俺にはまだ到底できない。四方から襲い掛かられればなすすべもないのだ。できることといえば一匹でも返り討ちにすることだけである。
「あぁ、いてぇ」
肉体強化のお陰かそれとも異世界だからか鋭そうな爪や牙を受けても深手にはなっていない。それでも、これだけ傷つけば動きが悪くなりそうだが。むしろ向上している。
「久しぶりだ。この感覚」
命がかかっているスリル。試合では決して味わえない。
「あぁ、思い出してきた」
なぜ自分がこうまで試合じゃあむなしいだけだったのか。その理由を。命と命のやり取り。負けても失うものなど何もない試合程度ではあくびしかおきない。
「さぁ、あの時の借りを返そうか」
木刀の切っ先を目の前の巨大な熊に向ける。前の世界の熊に形は似ているが。完全に二本立ちして歩いている。地面に着きそうなほうな程の長い腕から出される攻撃はリーチが大分長そうだ。
鑑定した結果討伐対象のロングベアだ。レベルは19。すてーたうは文字化け中。もちろん、こいつと会うの初めてだ。だが、前の世界で熊に襲われた事がある。足がすくみただただ逃げることしかできなかった。そしてそれは今もだ。足が震えている。怖い。当たり前だ。逃げだしたいと思う。熊が俺につけた心の傷は想像以上に深くトラウマになっている。だからこそ俺は乗り越えなければいけない。あのころとは違う。今の俺には戦う力がある。
「お前を倒して俺は過去に清算させてもらう」
俺がロングベアに駆け寄ろうと踏み出すとロングベアが呼応するようにパンチを繰り出す。予想以上のリーチだ。まだ、2メートル以上離れてるのに余裕で届く。そして早い。
肉体強化を全開にして真っ向に受け止めるが。余りの勢いで体事浮き上がる。この木刀じゃなければ間違いなく折れてた。
「ちっ」
吹き飛ばされながらも体制を立て直し。うまく着地をする。その瞬間をグレイウルフ達が襲ってくる
「邪魔だ」
襲ってきたのを一撃で叩き潰す。脳とか内蔵が飛び散ってグロテスクだが気にしてる余裕はない。ロングベアの次の一撃が迫ってくる。
「なめるな」
いくら、早くても一度見てしまえば直線的な攻撃避けるのは難しくない。体勢を低くし。腕を潜り抜ける。
「もらった」
力を込めた六連撃。ロングベアの頭。喉。両肩。両脇に叩き込む。
「グオッ」
短い悲鳴とともによろめいたが。まだだ、骨すら砕けた感触がない。むしろ、今の攻撃で目付きが変わっている。
思っていた通りの弱点が露骨にでた。木刀では軽いのだ。大概は俺のスピードと腕力である程度どうにでもなるが、それを上回る耐久性をもつ敵には滅法弱い。だが、それは対策ずみだ
「簡易付加魔術・ストーン」
木刀に地属性の付加魔術を付加する。
至近距離からの叩き下ろすかのような一撃。普段なら簡単に避けられるが今は無理だ。
「パワー負けしたわけじゃねぇぞ」
体を鋼の様にするスキル鋼皮化を発動する。この間山賊が使っていたスキルを見て覚えた。硬気功と同じ要領だったから簡単に覚えられた。
真っ向に素手で受け止める。さすがに、かなり痛いが耐えられない訳じゃない。そのまま力ずくでロングベアの腕を弾き飛ばす。
「とどめだ」
全力で飛び上がる。こんな剣何度も振り回したくない。 火属性を付加すれば燃え水属性を付加すれば冷やす。ならば、地属性を付加すればどうなるか?単純に重量が増える。今の剣の重みは軽く百キロ越える。肉体強化をもってしても振り回すのがやっとだ。
「重破斬」
ただの木刀でも俺のパワーで触れればそれなりの威力になる。百キロ以上の重さと俺の力を込めればその威力は自分でも計り知れない。ロングベアが体ごとつぶれて地面にまるで爆弾が爆発したかのような穴が開いた。
「ふぅ」
気分はすがすがしいが油断はしていられない。まだまだ魔物が残っているのだから。
この時の俺は勘違いをしていた。ただ昔の自分を乗り越えられたと本当に思い込んでいたこと。それに気づくのは少し先だった。
すいませんでした。ここのところ仕事が忙しく更新がだいぶ遅れました。待っていてくれた人は・・・いないかもしれませんが深くお詫び申し上げます。それと同時に誤字修正してきました。まぁ、気づいた限りの話ですが。誤字報告されてくれた方ありがとうございます。これからも気を付けますのでお願いします。さて、これで三万字がようやく超えました。でも一章が終わってません・・・あれれ?予定ではあと五話くらい・・・・あれれ?二勝が極端に短くなるような気が・・・・ソードイーターの力もまだ出ていませんし・・・ノリで書くのはだめですね。想定より書くのがどうしても長くなってしまいます。そして、次の話は週末くらいに・・・・かければいいな・・・構成はほぼ終えているので大丈夫です・・・たぶん・・・きっと・・・ブックマークしていただいた方ありがとうございます。とても励みになります。