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柚木桜夜の語る演劇部の恋愛事情

 人生楽しくないと、って思うわけですよ。

 うじうじして悩むよりは、もう何も考えずに走り出しちゃえっていう……他人から見たらちょっと単細胞、ちょっと考えが足りない行動もしてきたと思います。

 それで衝突することもありました。

 でもそんな人生でも後悔はないんです、今のところ。だから――。


「伊倉に見せてあげたら」


 こういうお人よしを見てると、人生損してない? って心配になっちゃうんですよね。

 でもこれはたかちゃん先輩の人生であってわたしの人生じゃないですから、あんまり口出してはいけないって分かっているんです。

 なので、わたしはさりげなさを装いつつ大胆に、たかちゃん先輩が行動できるように仕向けています。

 でもたかちゃん先輩は強情っぱりなので、なかなかわたしの思うように動かすこともできないのが現実です。


「いいんですかぁ? 敵に塩送っちゃって」

「伊倉は敵じゃない」


 それが分かる時点で、アウトなんですよ。

 第一、みーちゃん先輩を見てる時の顔をちゃんと鏡で見たほうがいいと思うんですよね、この人の場合。

 わたしに対するときなんて、本当に棘ばっかりなのに。

 みーちゃん先輩には優しさが溢れかえって、むしろこっちまでむせてしまいそうなくらい。


「うるさいな、本当に」


 まあ、あんまりみーちゃん先輩とゆうたん先輩ネタでいじくりまわすと、本格的にたかちゃん先輩が機嫌を損ねてしまうので柚木は黙ります。

 そこは仕事でカバーするとして、わたしはたかちゃん先輩から木材を受け取って、たかちゃん先輩の考えた設計図通りに組み立てていきます。

 わたしも一応、美術センスはある方で、美術の成績は5以外とったことのない人間です。

 そんなわたしから見ても、たかちゃん先輩の描いた背景や設計図は感嘆の作品で、わたしには作れないなって思うんです。

 それは、あの先輩についても同じで。

 そんな先輩方がいる部活だからこそ、楽しいと思えるのもまた事実なのです。っと噂をすれば……。


「ワカ先輩」


 作業途中に、我ら演劇部部長のワカ先輩がいらっしゃいました。

 わたしたちの姿を見て、ワカ先輩はおもしろいものを見るような、でも困ったような、何とも言えない顔をしました。

 ちなみにはっきり言っておきますが、わたしはワカ先輩が苦手です。


「柚木ちゃんも、大道具手伝ってるの?」

「強制的にー。たかちゃん先輩、横暴なんで」


 わたしがそう言うと、やっぱりワカ先輩はにっこり笑顔を浮かべて、何か言いたげな顔をします。

 そうしてわたしのことをちゃんと視界にいれながら、たかちゃん先輩にこう尋ねるのです。


「みののドレス見たでしょ? どうだった?」


 もちろん、たかちゃん先輩の回答はおもしろくもない、テンプレもの。

 すると、やっぱりワカ先輩がわたしのほうを見ました。

 なんというか、わたしとワカ先輩は感性が一緒といいますか、思考回路が一緒といいますか、だいたいわたしが考えていることはワカ先輩も考えているみたいで。


「柚木ちゃん、お手本。みののドレス姿どうだった?」


 それをワカ先輩がわたしに聞くのもどうなのかと思いますが、やっぱりワカ先輩はイイ性格をしていると思います。


「もうそれは天使みたいでしたね」


 みーちゃん先輩は本当にかわいい。演劇部に入って「あ、この人かわいい」って思った相手こそみーちゃん先輩でした。

 その容姿に違わぬ性格のかわいらしさ。

 でも、たかちゃん先輩のタイプではなさそうな感じだとは思うんですけど……そこが恋愛の面白いところでもありますよね。

 わたしが答えると、たかちゃん先輩がまたワカ先輩にコメントを求められて、でも今度はちゃんと白状しました。


「かわいいとおもいました」


 言うからには、真面目にしっかりと。たかちゃん先輩は感想を言いました。

 本当にみーちゃん先輩のことが好きなんだなって、その言葉とその顔を見たらいやでもわかっちゃいますよ。


「いいこと言いますね! たかちゃん先輩! 柚木感動しました!」


 わたしは拍手して、たかちゃん先輩の背中をバンバンと叩きます。

 するとたかちゃん先輩はうんざり顔でわたしのことを見下ろして、また釘を打ち始めました。


「こんなに思われてることに気づかないみのは、本当に鈍感というかなんというか」


 まったくワカ先輩のおっしゃる通りですよ。

 たかちゃん先輩の好意なんて丸わかりです。でもゆうたん先輩もせりりん先輩も気付いてないみたいだし、そこは似た者同士のわたしたちだから分かってることみたいです。

 でもみーちゃん先輩が気付かないのは、行動しないたかちゃん先輩にも問題があるわけです。


「たかちゃん先輩もたかちゃん先輩ですよ!」


 ゆうたん先輩の応援なんかして。それって本当に楽しいんですか? それって本心でやっていますか?

 いろいろ問い詰めたいけど、全部ブーメランになりそうで、もうそれ以上は言えませんでした。

 何しろ、ここにはワカ先輩がいますから。


「勝手に盛り上がらないでください」


 そう言って、たかちゃん先輩は出て行ってしまいました。

 わたしはワカ先輩と2人きり。

 これはまずいなあと思って、わたしは他の衣装の手直しでもしておこうと立ち上がろうとしました。

 でも、こんなこともやっぱり考えることは一緒で。


「当て馬っていうのは、柚木ちゃんの願望かな」


 しゃがみこんで、ワカ先輩がにっこり笑ってきます。

 ああ、やっぱりこの先輩は苦手です。


「まっさかー。わたしはたかちゃん先輩を応援してますよ! だからってゆうたん先輩を応援してないわけじゃないですけど。どっちかっていうと、不利な方を応援したくなるんですよね」


 わたしもにっこり笑って返します。

 わたしとワカ先輩は似ています。

 だからたかちゃん先輩の恋心にも、わたしとワカ先輩は気づきましたし、同じ対応をしています。

 でも、わたしはワカ先輩には頭が上がりません。

 ワカ先輩はせりりん先輩が好きだって公言しちゃってて、すべて分かってそれを楽しんでるから、わたしにもからかいようがないんです。

 よくよく考えてみると、公言することがワカ先輩の一番の防衛線だったんだろうなって。

 だから悪ふざけも全然この人には通用しませんし。


「柚木ちゃんこそ頑張れば、希望があるのにね」


 似た者同士って周りにも言われるけど、わたしはこの人にだけは勝てる気がしません。


「たかちゃんの今一番近くにいるのは、柚木ちゃんだって……僕は言ってあげるよ。本心で」


 ほら、全然敵いません。


「あはは! そりゃあたかちゃん先輩をいじれるのはわたしくらいですからぁ!」


 わたしは笑ってやり過ごします。

 でもワカ先輩はやれやれといった表情です。


「じゃあ、僕はそろそろ演劇指導に戻るとするよ。向こうも十分イチャイチャしただろうし」


 ワカ先輩は「じゃあ衣装直しよろしく」と声をかけて練習部屋に戻りました。


 たしかに、わたしはたかちゃん先輩に偉そうなことを言える人間ではありません。

 でも、わたしはそれを楽しんでやっているんです。

 これは強がりでもなんでもなく、本当に。

 たかちゃん先輩がみーちゃん先輩を好きなことはどうしようもない事実です。

 それについて、あのときこうしていればとか、そういう気持ちはありません。

 そんなうじうじしたことを考えたり、みーちゃん先輩との仲を引き裂こうとしたりはしたくないんです。

 だってそれはすごく疲れることだし、無駄な労力だし、だれ一人楽しくないですもん。


「柚木ちゃん、衣装ありがとう。見せてきたよ」


 みーちゃん先輩とたかちゃん先輩が一緒に戻ってきました。

 みーちゃん先輩はかわいい笑顔を浮かべていて、きっといいことがあったんだって。ゆうたん先輩と楽しいひと時を過ごせたんだって分かって、それを見ているたかちゃん先輩もきっとそれはそれで幸せなんだろうなって分かってしまうんです。

 わたしはみーちゃん先輩のことも大好きなんです。


「柚木、進んだかー?」


 そう言いながら、たかちゃん先輩がこちらに歩み寄ってきます。

 演劇部1年生のあいだでも、たかちゃん先輩はクールで有名です。

 だからたかちゃん先輩に話しかけてもらうのは、本当にすごいことだって周りも言ってます。


「進んでませーん」


 ペロッと舌を出して答えると、たかちゃん先輩に頭を叩かれました。


「いったいですー!」

「ここまでやってって言っただろ」

「だってわたし衣装係ですもん! みーちゃん先輩、見ました? たかちゃん先輩の暴力!」

「うるさい」

「仲いいね、2人とも」


 のんびりしたみーちゃん先輩の声に、わたしは笑顔を返します。

 たかちゃん先輩は面倒そうな顔で、でも否定はしなくて。

 だから思うんです。

 両想いであることが恋愛において一番いいことなのかもしれないですけど、わたしにはその可能性が低いので。

 たとえそれが、先輩の恋愛相談でもなんでも、先輩の隣で先輩をからかうことができたら、それが今のわたしの一番の幸せだって。


「たかちゃん先輩、わたしのこと大好きですからねぇ、本当。愛されすぎて、柚木困っちゃいますよ」

「寝言は寝て言え。バカ柚木」


 楽しい今が、わたしにとっての1番なんですよ。

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