一章:ギルドヘ
町の中は騒然としており、幾つものレンガ造りと思われる建物が並んでおり、屋台で何かの肉を焼いたものを売って居るのだろう肉とタレが焼ける良い香りがする。
鎧を着た者、簡素な服を着た者、獣の皮を被ったかのような姿の者、煌びやかな服を着た者・・・様々な人が行きかっている。
あれから門に着いた俺達は幸いにも門の冒険者達が並んで居た所にはもう人は殆ど居なかった為それ程待たず、そして恐らくギルドマスターの威光なのか無茶振りなのか面倒な手続きも特に無く(本来身分証をなくした者は魔法による犯罪の有無の確認や、出身地や名前やらを名簿やらを書いた上で仮身分書を発行してもらい、銀貨一枚を払わなければ成らなかったが、それを発行する事無く)すんなり門を通り事が出来た。
「はい、確認出来ました。これ、何時ものやつです」
「毎度毎度、うちのバカギルマスが悪いね」
「ははは・・・遠目から見て御二人が子供を引き連れてきた時点でだいたい予想してましたから良いですけどね。ただ・・・」
「ん?どうしたんだい?」
グライスさんと門番の話を聞く限り俺達以外にもこうやって連れて来られた人は少なくないのだろうか。
当のエルグリードさんはどうやら近くの詰め所に門番に何かを言われ、野暮用だとかでさっさとギルドへ行ってしまった。
「なあ、オウマ?」
「何だ?」
「何か途轍もなく嫌な感じがするんだが」
「そうか、良かった」
「良くねーよ?!全然良くないからな?!」
「いや、俺も悪寒がしないという事はお前だけが酷い目に合うって事だからな」
「お前見捨てるつもりか?!」
「捨てはしないぞ、捨てはしない」
唐突にそんな事を言い出す幸太。
見捨てはしない。そもそも何も見なかった事にするだけだ。
捨てる為には一度拾わなければ成らないが、拾わなければ捨てた事には成らないからな。
だが、まあ・・・何かあれば早めに幸太を犠牲にして逃げる算段を考えておかねば成らないかもしれない。
「何かあったら絶対巻き込んでやるからな」
「言ってろ、絶対逃げてやるから」
まあ、巻き込むとか巻き込まないとかそんな事を考えるまでもなく巻き込まれる予感しかしないけれどな。
否応無くという奴だな。まあ、物事に巻き込まれるというのはそういうものなのだと俺は思う。
幸太とそんな話をしているとグライスさんが戻ってきた。
どうやら話は終わったらしい。
「さて、待たせたね。何時までも此処に居ると迷惑だろうから」
「もう大丈夫なんですか?何か難しい顔をしてましたが」
「なに、大した事ないさね。ちょっとした厄介事ができただけだよ」
「厄介事ですか?」
「今は言えないけどね・・・ま、そのうち解るよ。この町では稀にある事だからね」
「そう・・・ですか」
何でも無いと言う様な顔をして歩を進めるグライスさんの後ろを歩きながら、美奈子は良く有る厄介事と聞いて少し表情を曇らせている。
当然だろうこの世界に来て行き成りトラブルに逢うかもしれないのだ、トラブル慣れして居たとしても元の世界との勝手の違いが不安要素になるのだろう。
反対に、二人の話を聞いて幸太は目を輝かせて居る。まるでヒーローに憧れ、目指す子供のような目だ。恐らく、冒険者らしい事が出来ると喜んでいるのだろうか。
より大きな面倒事を巻き込まれないでくれれば良いが・・・
そんな事を考えながら下げていた目線を少し上に上げる。
日が傾き始め日暮れも近づいて来てるのだろう。空と建物が赤く染まり始め、影が長く伸びている。
帰る人が多いのか人足が徐々に増えつつ有る道を歩く。
「ふふ・・・そんな顔をしなくてもだいじょうぶさね。むしろ早めに慣れた方がいい、特に冒険者になるんならね」
グライスさんは他の建物よりも一際大きいレンガ造りの建物を背にして立ち止まり、不安そうな美奈子の顔を見てグライスさんは明るくそんな事を言った。
物言いは荒々しくキツめな言い方だったが、何処か温かみのある言葉。
「さてと・・・いろいろ言ったが実践するのが一番。ようこそ、ミザリアルギルド支部へ」