襲われた集落
「よし、動物念話を覚えよう」
そう決めた私の行動は早かった。
テレポートで数冊の魔導書を呼び寄せる。
魔王様の書庫のもので本当は許可がいるんだけど、すぐに返せば問題ないでしょ。
「ええと、これだ」
テイマー入門の本の102ページ。
「なんだ、思ったより簡単じゃん」
習得条件は満たしてる。
全属性扱えるし魔力なんて有り余ってるし。
「我が目前の獣よ、我と念を交わそう。
汝の言葉を理解し、声を飛ばせ。動物念話」
いつも思うけど、魔法の詠唱ってなんでこんなに厨二くさいんだろうな。
唱えるとき、ちょっとはずかしい。
いくら無詠唱が可能でも、一番初めは詠唱しなきゃいけない。無詠唱や詠唱省略だと威力が落ちたり効果が長く続かなかったりするしね。
「改めて人狼少年君、どうしたんだ?」
「きゅ・・・ぐる・・・」
『助けて』
悲痛な声が頭に流れ込んできた。
ぐずってて他の言葉が聞き取れないから、何から助けてほしいのかわからない。私が怖くて言ってるんだったら別問題ですが。
「とりあえず落ち着こうよ」
人狼少年の頭や背中を撫でて、宥めてみる。
しばらくそうしていると、なんとか泣き止んだ。
「落ち着いた?」
こくりと頷く人狼少年。
「じゃあ、何から助けてほしいのか教えて?あ、その前に、君の名前をきいてもいいかな?」
聞き忘れてたよ。
『ない』
「え、ないの?」
『一人前にならないと、名前、もらえない、決まり。一人前、違うから、まだ、名前ない』
片言だなぁ。
私の動物念話が初めてだからなのか、この子が幼いからなのかわかんないけど。
『半人前、だから』
「それは奇遇だね」
『?』
「私も半人前なんだよ」
同じだね、と笑うときょとんとしている。
「何から助けて欲しいのか教えてくれるかい?」
再度聞くと、人狼少年はおずおずと話し始めた。
『集落、人間に襲われた。人狼、人間より強いけど、人間、多かった。から、皆捕まった・・・お願い、皆を助けて』
なるほどなるほど。
人狼は希少価値がある。
狼形態の際の毛皮は、人間界では目をひんむくくらい高いらしい。
それに人狼の人形態は美形ぞろいだとか。
しかも人狼は、主と定めた者に忠義を尽くす。主の為なら平気で命を投げ出す種族だ。その人狼に主と認められることはステータスになる。人狼の奴隷がべらぼうに高い理由はそれだったりする。
魔力も体力も人間なんかより断然多い上にかなりの美形ときた。そりゃあ高いわ。
となると、捕まった人狼は無事なはずだ。
人狼は希少価値のある少数種族。
奴隷にするにしても何にするにしても、めったなことでは傷つけられないだろう。
『お願い・・・助けて』
こんな可愛い子に助けを求められてほっとくわけにはいかないよね。
「・・・集落にいた人狼の数と、人間の数ってわかる?」
『え・・・集落は、全部で、20、くらい。大人も、子供もあわせて。人間は、たくさんいた。魔法、使ったり、武器もってたり』
小さな集落だったんだな。多勢に無勢じゃないか。
ったく、正々堂々としてほしいな。
「ちょっと、まってて」
私1人で軽々しく決めちゃうような問題じゃない。
私の可愛い教え子に意見を仰ごうじゃないか。