最弱の彼女
兵士視点です
人間は下等な生き物であり、弱く脆い。
そのくせ我ら魔族を滅ぼそうとする馬鹿な種族。
それが魔族の、人間への共通認識だ。
昔は人間も我らと対等に戦える者が数多くいたという。しかし人間のもつ魔力は年々減り、我らに匹敵する者はごくわずかとなった。
ラナンキュラス=オリべ=アシアティクス様の母親は人間だ。
魔族の血を半分しか受け継いでいない彼女は半人前だ。オリベ様は魔王城最弱の魔族で、魔力も人間よりやや多いくらいしかない。
それに普通の魔族に比べて短命だ。
その代わり彼女はエルフに匹敵する程博識で賢いらしい。
その頭脳を買われてルーキフェル様の教育係の抜擢された。
弱い彼女がルーキフェル様のおそばにいることが不満な奴は少なからずいる。
トレ二ア様の侍女のイルジーナなんかは、彼女のことを魔王城の恥だと言って蔑んでいる。
今日俺達は、マンドラゴラの畑が荒らされていると知らされ現場にかけつけ、人狼の子と遭遇した。
人狼を殺すと後で厄介なことになる。
それをみた同僚のマグフォスが、俺にオリベ様を連れて来いと言った。
なぜ弱い彼女を連れて来いと言ったのか。
マグフォスはイルジーナに惚れていた。そのイルジーナはオリベ様のことを蔑み嫌っている。
つまりは面倒事をオリベ様におしつけ責任をとらせよう、あわよくば人狼に殺されてくれ・・・と言った魂胆だろう。
そして俺はマグフォスに従い、オリベ様を連れてきたのだった。
魔族は実力主義。
強者こそ正義であり、弱者に人権などないのだ。
そして俺の種族はバンパニア。
吸血鬼の下位種と呼ばれる俺たちは夜中にしか実力を発揮できず、日中は3分の1以下にまで弱体化する。日中の俺たちは、この城では弱者だ。
「人狼の子はマンドラゴラの畑に留まっているの?」
「いえ、おそらくは他の畑に移動しているかと」
「・・・人狼は支配系の魔法はほぼと言っていい程聞かないし、魔力量も魔族レベルにあるんだよなぁ…あれは天性の才能だよね」
どう対処しよう、と呟くオリベ様。
口元には苦笑いが浮かんでいた。
マンドラゴラの畑の近くで、マグフォス達がアイスボールだのファイアボールだのと攻撃魔法を放っているのがみえた。
マグフォスがこちらに視線をむけた。
俺と目があった瞬間、叫ぶ。
「オリベ様が来てくださったぞ!退却しろ!」
マグフォスご自慢の蝙蝠の羽を広げ空に飛ぶ。
他の奴らも俺達を残して退却してしまった。
・・・・・・・・・え?
「・・・行っちゃったね、皆」
正気か。
魔王城最弱のオリベ様と弱体化中の俺2人で人狼を生け捕りにしろってか?いや、無理だろう。
「さて、どうしようか?」
笑みを崩さないオリベ様。
なんでそんな余裕があるんだ。
圧倒的に向こうのが強いんだぞ。
なんでそんな不敵なオーラをにじませているんだ。
「大丈夫だよ、なんとかなるさ。そんな絶望した顔しなくてもいいさ」
絶望するに決まってるだろ。
明らかな戦力差だ。
むこうはボロボロでも凄まじい魔力と戦闘センスがある。
こっちはピンピンしてて2人いるが、魔力が圧倒的に足りないし片方は戦闘経験すらないんだぞ?
敵うわけない。
マグフォス達が増援を呼んでくれるか?否、俺たちを嬉々として置いていった奴らがそんなことをするわけがない。
ああ、俺の人生、終わったかもしれない。
2015.2.25
「ラナンキュラス=オリべ=アシアティクス様の父親は」のところを母親に修正しました。