襲来
主人公視点。
「魔法」を「魔術」に修正しています。
それは、いつもどおりお嬢様とチェスをしている時だった。
ばん!ととびらがひらいて、ベンが入ってきた。
「ベンったら、ノックもなしに入室するだなんて・・・不躾ですわよ!」
声を荒げるお嬢様だったが、ベンの焦った表情をみて、怪訝そうに眉をあげた。
「どうしましたの?」
「お嬢様、緊急事態です」
つかつかとこっちにきて、そう告げる。
なにやら、深刻な事態に陥っているらしい。
「・・・大勢の魔物が山からおりてきていると、冒険者が。ジェイが遠視で確認したところ、山の向こうからなにかが迫ってきているようです。おそらく、魔族かと・・・」
「なんですって・・・!」
深刻どころじゃなかった。
なんで。三大魔王の誰かがしむけたのか?それともどこかの上級魔族の独断か。
いずれにせよ、この町は戦場になるだろう。
「ラスさん、あんた、どうする?逃げるのか?それとも残って戦うのか?
もし逃げるんなら、お嬢様の護衛に加わってほしい。俺たちは魔族と戦ったこともねぇ、お嬢様をまもりきれるかわからないからな」
「・・・相方と合流して、それから決めます。お嬢様たちはもう避難したほうがいい。
もし逃げることになったら、必ず追いつきますので」
「そうか・・・。お嬢様、一刻をあらそいます、すぐに避難しましょう。ディケム商会の馬車に乗せてもらえるそうです。必要最低限のものはすでにつめこんであります」
「わ、わかりましたわ」
そういってベンと一緒に連れ立つお嬢様。
私は、ロウのいる宿屋にむかった。
宿屋につくと、いつものにぎやかさはなりをひそめていた。
女将さんがあわただしく、荷物をつめている。
「ああ、ラスさん!あんたの相方さんならとっくに宿をでてったよ!」
「え!?」
「冒険ギルドの人がつれてったのさ」
まじですか。
ということは私たち、町に残ることになりそうだ。
「ありがとうございます、女将さん!」
宿をとびだして、山方面へ急ぐ。
荷物を抱えた町人たちとは逆方向を走った。
「この町は俺たちの手にかかっている!邪悪な魔物を打ち滅ぼせ!!」
「「「オオー!!!」」」
冒険ギルドの前に、大勢の武装した人々が集まっていた。
警備兵と冒険者だろう。その中に、ローブで鼻までをすっぽりとおおったロウをみつけた。
「ロウ!」
声をかけると、こっちをふりむく。
「ラナ」
「魔族が攻めてきてるらしいね?」
「・・・ん。多分、紅目たちだよ」
「え?」
紅目の指示だとロウはいう。
「なんで」
「さっき、山の方向から蝙蝠の超音波がきこえた。ヒトの耳にはきこえない。
蝙蝠男の超音波、だとおもう」
そうか。
私たちの魔王様のおさめる魔王領内に住んでいる魔族は、おもに男淫魔、蝙蝠男、半人半蛇、人喰鬼、首鳥人、そして吸血鬼だった。
そして、魔王様に仕える兵士の四割近くは蝙蝠男だった(マグフォスとかね)。
蝙蝠男の超音波がきこえたということは、そういうことなのだろう。
「・・・なんで攻めてきたのかはわからないけど、この町の人にはずいぶんよくしてもらった。
無意味な虐殺をさせないためにも戦うっきゃないね」
村から出て山方面にむかう冒険者の中にまぎれながら私はいった。
戦っても多分ばれないはずだ。魔王城に直接仕えていた兵士は遠征なんてしないだろう。それも、こんな国のはずれに。
他のやつらだって多分きづかない。私は魔力こそ膨大にあるけれど、威力はまったくないんだから。
「いっちょやりますか」
「うん、がんばろ。でもラナ」
「なに?」
「魔族と戦うってなると、このローブ脱がないと不便じゃない?着てても切りさかれそう」
「・・・・あ」
☆用語解説
・遠視・・・遠いところをみることができる無属性魔術。行使している間は術者が無防備になる。すくない魔力で扱える。