異世界召喚は突然に
朱美視点です。
激情をおさえきれずに、私は、ラナを刺した。
馬鹿な私は、嫉妬で頭がいっぱいになっていて、
『ラナを殺せば、ラナは誰のものにもならない』『最後に目にするのは私』
そんな想いにとりつかれていた。
しかしそんな想いも、ラナが呻いて倒れるのを見た瞬間、恐怖と罪悪感に変わった。
なんてことをしてしまったんだろう。とりかえしのつかないことをした。
もしもこのままラナが死んでしまったら。
怖くて、怖くて。凶器を投げ捨て、その場から逃げた。
ラナの肉に刃がくいこんだ感触が、手に残っていて、がたがたとふるえだす。
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。
つい、逃げてきてしまった。
すぐに救急車を呼べば、なんとかなったかもしれないのに。いや、今からでもまにあうかも。
・・・そう思いながらも、私は救急車をよぼうとはしなかった。
だって。
もしラナが無事でも、二度と私をそばにはおいてくれない。むしろ私の顔も声もみたくないほど憎むに違いない。ラナにそんな目でみられたら、私は今度こそラナを殺すだろう。
一度ならず、二度までも。
ここでラナが死んでしまえば、ラナにそんな目でみられることはない。
ラナは誰のものにもならず、綺麗なままだ。
そうだ。
ラナがもし死んでいたら、私も後を追おう。命をもって償えば、やさしいラナのことだ、許してくれるかもしれないものね。
そしたら、あの世でまたラナのそばにいられる。
うん、名案だ。
どうせ、生きてたってなんもいいことなんてない。
私は人殺しとののしられ、惨めな一生をおくることになる。
あ。両親も、人生が狂うんじゃない?
なにしろ、娘が人を刺したのだ。
大事な仕事だって辞めることになるだろう。娘より大事だった仕事を、ないがしろにしていた娘のせいで辞めることになり、周囲の人間からは人殺しの親としてさげすまれて。
あいつらの人生はめちゃくちゃだ。
それは、最高だ。
きっとラナは助からないだろう。
ラナより先にむこうに逝って、ラナをまっていよう、そうしよう・・・・・・。
どうせなら、ラナと同じ死に方がいいな。
台所の包丁をとりに、自室のドアをあけたその瞬間。
足元が、金色のまばゆい光をはなちはじめた。
そのまぶしさに、思わず目をつむって―――――――――――――・・・。
「え?」
目をあけたら、そこには。
「成功だ!」
「勇者様があらわれたぞ!!」
「やりましたな、ゴーマン殿!」
「ええ、でもまさか、一発目で成功するなんておもいもよりませんでした。
やはり、女神シャイリアは我々をみすてなかった!」
白い服に身をつつんだ大勢の外国人―――――――にしては髪が緑やら桃色やらやたらカラフルだが――――――が、喜色満面で私をとりかこんでいた。
「え?何、これ・・・とうとう私、頭がおかしくなっちゃったわけ?」
幻覚かと疑った。
彼らは私の言葉をきくと、口々に、
「勇者様、我々を悪しき魔王たちから救ってくだされ!」
「その聖なる力で、悪をさばいてくだされ!」
「勇者様!!どうかわれらが王国に平和をもたらしてくだされ!」
「は・・・はい?」
勇者?魔王?なんのことなの?
まるでありふれたファンタジー小説のような台詞に、私はあっけにとられてしまった。
「どういうことなの・・・」
我妻 朱美、17歳。
どこにでもいる(?)普通の(?)現役女子高生。
嫉妬で愛する人(女性)を刺してしまい、後追い自殺をしようとしたその瞬間、異世界に勇者として召喚されてしまいました。