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魔王の元教育係ですが勇者の仲間になりました☆  作者: レーゼ
人間世界へやってきました☆
26/31

恋した少女の過ち

朱美視点です。

え?朱美って誰だって?プロローグに登場した女の子です。

私、我妻(アガツマ)朱美(アケミ)と織部ラナがであったのは、小学生の時だ。


 父親は海外で仕事をしており、母親もキャリアウーマンで深夜おそくまで帰ってこない。

祖母や祖父らに「孫はまだか」といわれるのがわずらわしかったから渋々子供を作った。

子供(わたし)よりも仕事のほうが大事。そんな両親だった。


 家は一切の音がせず、静けさにつつまれていた。

使われていない調理器具などは新品のままで、生活感だってまるでない。

私は自分の家が苦手だった。


それでも私は、両親は自分のことを愛してくれていると信じていた。

自分の子なのだから、かわいいと思っていないはずがないと。


 それが裏切られたのは、7歳の誕生日。

 その日小学校から帰ってきても、やはり母親はいなかった。

私は、どうしても母親にいてほしかった。私の読んだ絵本では、誕生日はどんなわがままだってきいてもらえる、一年に一度だけの特別な日だとかいてあった。

 だから私は思ってしまったのだ。

今日くらい、わがままをいってもいいのではないかと。


 母親の職場の電話番号は、家電の横のメモ帳に記されていた。

私は母親に「おめでとう」といってもらえることを期待して、母親の職場に電話をかけた。


「はい、こちら株式会社○○でございます」

「・・・も、もしもし!あがつまあけみです!えっと、お母さんいますか?」

「お、お母様ですか?あの、お母様のお名前は」

「あ、あがつまあけのです!」

「我妻朱乃さんですね?少々おまちください」


保留の音楽を、私はドキドキしながらきいていた。

音楽がとぎれ、私は息をのんだ。


「あの、おかあさん・・・」

「ちょっと、あんた!職場に電話なんてかけてこないでよ」


私の声をさえぎった、実の母親のつめたい言葉に、私はかたまった。


「で?何の用事でかけてきたわけ」

「あ、あの、おかあさん。私、今日、誕生日で・・・」

「はぁ?誕生日?あんたそれだけの為にかけてきたわけ!?仕事の邪魔よ、迷惑!

 これからはそんなくだらないことでかけてこないでちょうだい。私はいそがしいのよ」


そういって、電話は切られた。

私はしばし、呆然としていた。


 私は期待していたのだ。

「そうだったわね、お誕生日おめでとう、朱美」

そういってもらえることを。そして、

「今日だけでいいから、早く帰ってきて」

と、少しだけわがままをいおうと思っていた。


 現実は、こうだ。母親は私の名前すら読んでくれず、誕生日も祝ってくれなかった。それどころか、誕生日であることを忘れていた。

 しゃくりあげながら、私は思ったのだ。この家に、私の居場所なんてないのだと。


 学校でだって、私は浮いていた。

私は母親と顔をあわすこともなくて、私服だって殆どなかった。幼い私は洗濯機のまわし方も知らなかった。

いつも同じ服を着ていて、うわばきも汚くて、髪もぼさぼさな私は、いつでもひとりぼっちだった。


でも、それはさびしくはあったけれど、図書室で本を読んだりしてすごしていたからつらくはなかった。



でも、それはさびしくはあったけれど、図書室で本を読んだりしてすごしていたからつらくはなかった。


最もつらかったのは、体育の時間だ。

二人組をつくれず、あぶれてしまった私は、余った人とくんだ。クラスは男子のほうがおおかったので、組む相手は決まって男子。

その子はいつもいやそうな顔をかくしもせずにいうのだ。

「せっかくの体育なのに、最悪」

このときのみじめさったらない。


クラス替えで同じクラスになった。

ラナのことは前から知っていた。否、この学校で知らない人はいないだろう。

男子よりも運動神経がよくてかっこよく、頭もよく、それでいて優しい。

同級生からも先生からも大人気だというラナは、私と最もとおいところにいる人だと思った。


「ねぇ、よかったら私とくまない?」


体育の時間のラナのその一言で、私の生活が一変した。


ラナは、私がひとりでいると決まって話しかけてくれた。

皆の輪にいれてくれようともした。私が拒んだんだけど


「せっかくかわいいのに、もったいないよ」って笑いながら、髪をとかしてくれた。


私の家に遊びに来てくれた。

まったくつかっていなかった新品同然の調理器具をつかって、お菓子なんかも一緒に作った。

ラナがいると、静かで生活感のない家が、途端にあたたかくなった。


ラナのことが好きな女子が、私に嫌味をいって来たり、嫌がらせをしてきたこともあった。

私がラナに泣きつくと、「私のせいだね、ごめんね」と謝り、「私が誰と仲良くしていたって関係ないでしょう」とその子たちに怒ってくれた。

ああ、きっとラナにとっても私は特別なんだ。だってこんなに私を大事にしてくれるんだもの。


そう思うと、嫉妬の視線すらここちいいものに感じられた。嫌味や罵声だって、ラナの特別になれなかった負け犬の遠吠えにしかすぎない。そう思うと、優越感から笑いすらこみあげてきた。


中学生になっても、私とラナは一緒だった。

ラナは背がぐっとのびて、より一層かっこよくなって、女子にモテモテだったけど、それでもラナは私と一緒にいた。だって私はラナの特別だもの。


高校も同じところにいった。

ラナは推薦で決まっていたから、同じところにいけるよう必死に勉強した。


ラナの特別にふさわしいように身なりにだって気をつけたし、文句をいわせないように努力した。

それなのにラナは、私と違う女と仲良くなりはじめた。

私は、ラナが他の子と仲良くすることも多少は許してあげていた。束縛がすぎると嫌われるのだと、なにかの本で読んだからだ。だから、私以外の女の子と遊ぶのも許してあげていた。

思えば、それが悪かったのかもしれない。


私の知らないところで、ラナは交友関係を広げていった。

私との会話に、知らない人の名前がでるようになった。


そして、今朝。


私は、とんでもない過ちをおかした。


学校の休み時間、こんな話を耳にしたのだ。


「2組の鈴木さん、織部さんに告白したらしいよ」

「え、織部さんって女の子でしょ!?」

「まぁそうだけど、織部さん、そのへんの男子よりずっとかカッコイイしね」

「で、どうなったって?」


同じクラスの女子が、けらけらと笑いながら噂していたそれに、私は耳をそばだてていた。


「ふられたらしいんだけど」

「そりゃまぁそうだよね」

「ふり方もやっぱりかっこよかったらしいよ」

「へぇ、どんな?」

「『君にはもっといい人がいるはずだ。だって、こんなにもかわいいんだからね』って」

「っかぁ~、キザ!!」

「でも織部さんだと寒くかんじないよねぇ」


ここまでならいつもどおりだった。

私もこの話をきいただけじゃ、あんな行動にはでなかった。


この続きが、問題だった。


「・・・それでもあきらめきれなかったんだって、鈴木さん」

「そうなの?」


クラスメイトは、ニヤリと笑ってこういった。




「思い切って、キスしちゃったんだって」


・・・一瞬、聞き間違えたのかとおもった。


「ま、まじで!?」

「さすがの織部さんも・・・そりゃ怒るよね」


「いんや?織部さん、笑ってゆるしたらしーよ」

「ええー?ってか誰からきいたのチエちゃん」

「ああ、愛から。愛、鈴木さんと仲いいじゃん」

「ってことはまじの話じゃん!織部さん心ひろー」



「大丈夫?我妻さん。顔、まっさおだよ?」


「・・・山田さんって、料理部だよね」

「私?そうだけど・・・」

「昼休み、料理室でやりたいことがあるから・・・鍵、かしてもらえないかな?」

「へ?なにするの?」


そこからは、あまり覚えていない。


けれど、これだけはわかるのだ。


大事な人はもう二度と。

私に微笑んでくれないということが。









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