ご褒美にはチョコレートケーキを
「こんなところに居られましたか、ルー様」
ベッドの下を覗き込むと、綺麗な二つの目が並んでいた。声をかければ、舌打ちをされた。
「ラナ・・・お前か」
「はい、私です。・・・まさかこんなところに隠れてるとは思いませんでした」
「そんなことを言いながら、隠れてる俺を一番最初に見つけるのはいつもお前じゃないか」
悔しそうにベッドの下からでてくる教え子。
彼はいつもどこかに身を隠しては、大人を翻弄する困ったちゃんだ。
「さてと、ルー様もみつかりましたし、お勉強の時間ですよ?」
有無を言わさぬ笑顔を浮かべつつ、可愛い少年を連行した。
私の名前はラナンキュラス=オリベ=アシアティクスという。魔族と人間のハーフだったりする。
前世の名前は織部ラナ。
ぞくに言う異世界転生者ってわけだ。
あ、今、キラキラネームって思ったでしょう?
産後ハイって言うんだっけ?そんな感じのテンションでつけられちゃって、参るよね。でも割と気に入ってたんだよな、これが。
好きな食べ物は甘いもの。
嫌いな食べ物はキノコ類。
そんな私の今現在の仕事は、目の前でふてくされている可愛い少年の教育係。
「ルー様とのかくれんぼで10分のタイムロスです、延長ですね」
「なっ・・・・・最悪だ」
「ルー様の為ですから」
この可愛い少年の名前はルーキフェル=ブラッドリー。愛称はルーで、私はルー様と呼んでいる。
・・・・・・
次期魔王候補で高位魔族。
そんでもって私の可愛い教え子だ。
私がこの世界に転生する前。
当時高校生だった私は、痴情のもつれで死んだ。
痴情のもつれって言うと、まるで私が何股もかけてたとか不倫してたとかそういった風に聞こえるんだけど、そういうのじゃないよ。
惚れられた相手がヤンデレになっちゃったんだよね。しかも女の子。
前世の私は同性にモテまくった。同級生の男子に「師匠になってくれ」と言われる程にはモテた。
告白してくるのは殆どが女子。
たまに可愛らしい男子にされたりもしたけれど、女子からの告白数がはるかに上回った。
確かに女らしさはあまりなかった。スカートとかは似合わないし、ひらひらして動きにくかったから履かなかった。
身長も170半ばあって、「俺より背の高い姉なんて嫌だ」って弟には言われたっけ。あの時はちょっと傷ついたよね。
顔立ちに関しては中性的な方だとは思うんだけど、身長と女にしては筋肉質な体つきもあって、初対面の人には男だと思われることが多かった。自慢じゃないけど、メンズ雑誌にスカウトされたこともある。
私を刺した朱美ちゃんはレズビアンだったらしい。
私が他の子のものになるくらいなら、と包丁を持ち出したわけだ。
私にそんな価値ないのにね。
私を殺してしまったことで彼女は犯罪者になってしまった。朱美ちゃんの人生はめちゃくちゃになってしまったんだろうな。
「今日はここまでにしましょうか」
勉強終了を告げると顔が輝くルー様。
マナー講座やら国の歴史を学ぶやら、そんな堅苦しい勉強より外で遊びたい年頃なんだろうね。
「ラナ、俺炎球を同時に50個作れるようになったぞ!」
得意げに報告してくるルー様。
炎球は基本魔術だけど、何十個も作ろうと思ったら相当の魔力と集中力が要る。
50個も作ろうと思ったら、並大抵の努力じゃ無理だし、途方もない魔力がいる。
「流石ルー様ですね!教育係として鼻が高いです」
そう言ってルー様の頭を撫でると、満面の笑みになる。
「ラナ、チョコレートケーキを作ってくれる?」
「チョコレートケーキですね、いいですよ」
ルー様は私お手製のショートケーキがいたくお気に入りだ。
「腕によりをかけて作らせて頂きます」
「60個作れるようになったら特大のチョコレートケーキケーキだぞ!」
「承知しました」
前世の弟も私のチョコレートケーキが好きだったなぁ。
そんなことを思いながら、厨房に立った。
2015.11.28
魔法→魔術
200→50
に変更しました。