苦手な属性
ドサッ。
「これにて討伐完了っと」
私とゴリットの攻防戦は、20分の時を経て私の勝利となった。
3体の敗者は皆地面に倒れ、息絶えている。
「ゴリットの討伐部位は確か片腕だったよね」
最初に風裂刃で切り飛ばした片腕を拾う。
ぬるっとした血が手についてしまい、つい顔をしかめた。
「この独特の臭さ、やだなぁ」
魔物の血は、独特の匂いがある。
浴びるには問題ないのだけれど、飲んでしまったり、なんらかの形で体内にいれてしまうのは危険だとか。特に免疫のついていない子供やお年寄り、毒などに少しも耐性がない者には危なくて、死んでしまうことさえあるらしい。
冒険者は屈強な者や毒物に耐性がある者が多いし、ギルドなどで販売しているポーションを大量に所持している。それに中には解毒の魔法が使える人だっているから、さほど問題にはなっていない。
地面にのびている残りの2体から少し離れた場所に立つ。すばやく詠唱し、風裂刃でそれぞれの片腕を切断。少し距離を置いたのは、血がかかるのがいやだったからだ。
2体の片腕を拾いあげ、腰に下げていた小さめの鞄から細く長い紐とやや汚れた袋を取り出す。
そのまま3本の腕を袋にいれて、その口を紐で手早く縛り、地面においておく。
「ここからが大変なんだよなぁ」
ゴリット3体の遺骸の後処理。
いつもなら、ロウがまとめて山にしてくれるんだけど、あいにくロウはいない。
私の力じゃこの巨体をひきずってまとめるころはできない。
「バラバラにするか・・・」
風裂刃を何度も放ち、ゴリットを切り刻んでいく。
辺りは最早、血の海である。
血で酸化して、この辺りの雑草は腐っちゃうだろうなぁ。ここ畑じゃないからいいんだけど。
「うっぷ・・・」
自分でやっといてなんだけど、非常にグロい。
触りたくないなぁ・・・でもひとつに纏めないと。
水の魔法で手をコーティングすればいいか。
そんなこんなで、バラバラになった3体の部位をすべて一箇所に集め終わった。
さぁ、土に還してあげようじゃないか。
「生を終えた魂の抜け出た殻よ、冥福を祈ろう。母なる大地で安らかに眠れ。還体埋葬」
唱えると、地面から触手のようなものがあらわれる。
触手のような、ツタのようなそれは一山になった、ゴリットであったモノにグルグルと巻きつく。
そのまま、地面の中へと引きずり込んでいった。
還体埋葬。
その名のとおり、死した生き物を埋葬する魔法だ。
一見、魔物の後処理にはとても便利にみえるが、この魔法には難点がいくつかある。
ひとつは、先程私が3体の体をバラバラにして一箇所へ集めたことでわかるだろうけど、あまり大きすぎると触手みたいなやつが耐えられないらしい。どれぐらいまで耐えられるかって言うと、一度に大人の人間2人くらい。
しかも同時に複数展開できず、一箇所に集める必要がある。
なので、大人なんかより遥かに巨体な3体はバラバラにしなくちゃいけないし、何よりバラバラにしないと私が集められない。
そしてもうひとつ、結構魔力が必要。私は魔力だけはかなりの量があるからこの心配はないんだけど。
本当はこの魔法より、単純に遺骸ごと燃やしてしまう方が効率がいいんだけど。
私は一応全ての属性に適正がでているのだけれど、最も得意なのは風属性だ。
風属性は遠距離から攻撃ができたりするが、いかんせん攻撃力に欠ける。逆に攻撃力、殺傷力の強いのが炎属性だ。見た目も華やかで、前世のライトノベルや戦闘系漫画の主人公には炎属性が多かったのを思い出す。
しかし私は、この炎属性が苦手なんである。
適正こそあるものの、使ってるこっちが熱い。一歩間違えれば大火傷だし。
教育係時代、炎属性の魔法を練習している時に、誤って通りすがりの兵士さんにぶつけちゃったことがあったなぁ。あの時は焦った。
幸い兵士さんは私なんぞより魔法に慣れておいでだったので、すぐに気がついて、直撃は回避された。髪の毛は焦がしてしまったんだけどね。
それからなんか、炎属性の魔法は使いづらくなっちゃって使用していない。ルー様に教える時も、他の属性の魔法で代用したりしていた。
ルー様は炎属性が大得意だったなぁ・・・派手なのお好きだし。
まぁ、そんなこんなで私は炎属性が苦手だ。