テンプレ通りの雑魚キャラに絡まれました
冒険ギルドマウンテ支部には、大勢の人が集まる。
酒場も兼ねている為、荒くれ者の傭兵や冒険者達、情報を求めてやってきた者などが集う。
今日も、昼間にも関わらずギルド内はかなりの人数で埋め尽くされていた。
ギルド内が混雑しているということはすなわち、ギルドの受付嬢である私達はとても忙しいということに他ならない。
私はアニタ。このマウンテ支部のギルド長の姪であり、ギルドの受付嬢だ。
ギルドの受付嬢は常に笑顔でなければならず、私は毎日毎日表情筋がひきつりっぱなしだ。それでもなんとか笑顔をふりまき、毎日をすごしている。
受付嬢をしていると、常連の冒険者達の性格なども大体把握してくる。
たとえば、ギルドの中央のテーブルの3人組のパーティー。
パーティーリーダーであるジャイドは、新人潰しを楽しみとしている卑劣な男だ。残りの2人は、彼の腰巾着。
ギルドでは冒険者の強さに応じて個人とパーティーをランク付けしている。F-~SSまでだ。
ジャイドのパーティーはDランク。ジャイドは実力的にはC-はあるけれど、その素行の悪さからD+になっている。残りの2人は共にD-。
Dランクパーティーは、この町では上位に入る。
ジャイドは自分が強者だと思い込んでいて、ふんぞりかえっている。彼らに逆らえる者は今この場にはいないから。
「ここかぁ~。想像通りの光景だね」
ギルドの入り口から、そんな声が聞こえてきた。
声の方向をみた私は、業務中にも関わらず、彼らに見惚れてしまった。
蜂蜜色の柔らかそうな髪を襟足までのばした美青年。瞳は薄紫色をしていて、切れ長だけど冷たさは感じさせず、むしろ温和な感じがする。
フードを目元まで深く被った男と美青年の2人組は、私の方へ歩いてくる。
「冒険者登録をしたいんですけど・・・ここでいいんですよね?」
話しかけられてはっとする。そうだった、私は受付嬢だった。
「だ、大丈夫です、問題ありません」
「そうですか、よかったです」
わけのわからない返答をしてしまった。大丈夫って何がよ!
おまけに正面で微笑まれて、頬があつくなった。
受付嬢たるもの、常に平静を保たなくちゃいけないのに。
顔をあかくしたまま登録用紙を2人に渡し、ギルドの説明をする。
毎日のように言っている説明だから、詰まらずにいえた。
用紙を預かって目をとおす。
へぇ・・・美青年君の名前、ラスって言うんだ。
「他に質問はありますでしょうか」
「特にないですね・・・ありがとうございます」
ギルドカードを発行している時、ラスさんは隣のフードの男・・・ロウさんと話していた。
ラスさんもそうだけど、ロウさんも声かっこよかった。どんな顔をしているんだろう?
ギルド内で、美人な受付嬢さんにギルドカードを発行してもらってる時だった。
「そこの新米君達よぉ。ぺーぺーのくせして、ずいぶん良い格好してんじゃねぇか」
わぁお、テンプレ通りの展開。ガラの悪い3人組が絡んできた。
確かに、軽装とはいえ結構上等な服着てるよね私達。
3人組の真ん中のリーダーっぽいやつが私の前まできた。
「こんなほっせぇ体で魔物倒せんのかよ?どっかの貴族のぼっちゃんなんじゃねぇの?」
下卑た笑みを浮かべて私をみてくる。典型的な雑魚キャラだなぁ。
「ご心配なく。魔物は倒したことがありますので」
「へぇ?その顔だったら、冒険者やるより女のヒモの方がむいてるぜ。ぎゃははは!」
女のヒモて。私女なんですけど。
何がおかしかったのか笑い出す3人。
「ねぇ、やっちゃっていい?こいつら」
「あー、いいよ。他の人の迷惑にかからない程度で」
ロウとそんな会話をかわしていると、聞こえていたらしい真ん中のやつがなんか怒り出した。
「俺をなめてんのか!?」
「お前みたいなやつなめたら栄養に悪いよ」
ロウ、ナイス返し。
煽られたらしい真ん中のが、背中にしょっていた大斧をぬいて、ふりかぶってきた。
あれをくらえば、普通の人の頭ならかちわれることまちがいなしだ。
その大斧がロウの頭をかちわり・・・は勿論せず。
大斧はロウにあたる寸前で跳ね返った。
で、そのままバランスをくずしたそいつはごてん、とこけた。かっこわるー。
ちなみに今のは私のはった、目に見えないレベルのうすーい結界。魔族なら誰でも破れるし誰でも瞬時に作れるやつだったりする。
勿論、破られてもロウならよけられただろう。
それを破れなかったんだから、彼はかなり弱い。・・・まぁ、雑魚キャラだし、町の冒険者の中でも弱いんだと思うけど。
「俺に恥をかかせやがって!ひよっこ共め、表にでやがれ!!」
怒り心頭の彼の挑発にのってみることにする。
人間がどれくらい強いのか知りたいしね。
外にでたら、大勢の女の子がいた。なんか私を指差してる。
どうやら私をみに集まったらしい。
・・・自分で言うのもなんだけど、私イケメンだからなぁ。
「2対3でいいよなぁ?」
いやいや、ひよっこでぺーぺーな私達2人相手に3人ですか。卑劣だね。
でも、
「1対3で構わないですよ。私がでます」
ロウを相手にするのは、雑魚キャラには荷が重いだろうからね。
「命知らずだなぁ、俺に恥をかかせたことを後悔させてやるぁ!!!!」
いきなりつっこんできた真ん中。
「我が手を、我が足を、我が臓物を、肉体の力を強力に、身体強化!まっぷたつにしてやるぁぁ!!」
大斧をブンブンふりまわし、迫ってくる。
私にはそれが、とても遅く見えた。
ルー様達をみている私にとってはまるで、スローモーションのよう。
私は私の肩を狙ってふりおろされた大斧を右腕で掴んだ。
・・・・あ、これ、壊せるわ。
力をこめると、大斧はあっけなくくだけた。
「!?」
驚愕に目をみひらく男の顔面に、思いっきり力をこめて、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・デコピンした。
「ぐぁぁ!」
「嘘やん・・・・・」
額をおさえて蹲る男の目に涙がキラッ。
ま じ で す か 。
主人公初の戦闘シーンは哀しいかなデコピン。
1月12日 身体強化の詠唱を追加しました。