人間の住む町へ
深い緑の木々が影を作る山道を、一匹の狼が駆ける。
実に見事な銀糸の毛並みがたなびき、琥珀の瞳がきらりと光る。
その背に跨って、薄く笑みを浮かべる軽装の美青年の容姿もあいまって、まるで絵画のようだった。けれどあまりにも早すぎて、誰の目にもとまることはない。
彼らは、凄まじいスピードで山道を下っていった。
「きもちよかったぁ・・・!」
大きくのびをしてからロウの背をとびおりる。
ロウの背に乗って駆けるのは、すごくきもちいい。風が頬にあたって、爽快な気分になる。
「ロウ、みなよ。あれが人間界だ」
私は、ロウを呼び寄せた。
崖からみえる、人間の国。煙突のある中世ヨーロッパみたいな家々がみえる。ファンタジーだ。
以前人狼を助けに人間界に行った時は夜だったから、町並みをみることはできなかった。だから感動する。
「あの国は確か、オールベル王国っていうんだ」
『のどかそうな国だね』
「私の調べたところによると、今代国王が平和主義らしい。あの町はマウンテって名前で、王都からは馬車で10日間くらいの位置にある。ロウなら2日もかからないだろうけどね」
『そうなんだ』
「で、この山はモーア山って言うらしい。モーア山には低級な魔物が住んでいるらしく、時々町を襲うそうだ。だから冒険ギルドもある。・・・私は冒険ギルドに登録するつもりなんだ」
さっきはスピードがはやすぎて、魔物に遭遇しなかったんだけどね。
冒険ギルドに登録して、ギルドカードをもっておけば身分証明になる。そしたら色んな町をスムーズに行き来できる。それに、異世界といえば冒険者だろう。実は、異世界に転生してから密かに憧れていたのだ。
今までの身分上冒険者になることはまず無理だったわけだけど、今の私は自由だ!
「ってことでロウ。あの町で私達は冒険者になるんだ」
『冒険者?・・・なんだかラナ、楽しそう・・・・ラナの決定したことに従うよ』
「ありがとな。・・・もういこうか」
『わかった、乗って」
そう言うとふせてくれるロウ。礼を言って跨ると、すっくと起き上がり、喉を鳴らした。あー、可愛い。首に顔をうずめると、めっちゃもふもふだった。当然である。行きにめっちゃブラッシングしたからな!
「とばしていくぞ!」
『うん!』
私の言葉に頷いて、ロウは崖をとびおりた。
スピードをあげ、崖をとび、伝っておりる。ジェットコースターとかの絶叫マシーンが大好きだった私には、物凄く爽快。変装の為に肩まで切った髪がばさっと後ろへ行き、ついつい笑みがもれる。
崖をおりきって、それでも速度は落ちない。ハイスピードで町を目指す。
このスピードなら、今日中にマウンテにたどり着くだろう。・・・・山の麓だからマウンテって、安直だなぁ。人のこといえないけど。
異世界の町への期待に、胸が高鳴った。