夏の日
病室のベットの上で少女は窓を外を見た。空はすでに黒く染まり、眼下では無数の人出ににぎわうお祭りが模様されていた。年に一度開かれるそれは、非常に大規模で県外からの客も多く来ているものだった。
しばらく、少女が眺めているとーー
「おい~す」
親しげな少年の声と一緒に病室の扉が開いた。そして、その張本人たる少年は病室に入り込むとベッド横の椅子に腰を下ろした。
「よう、元気か?」
「うん。なんとかね」
「そっか。そいつはよかった」
そう、自分のことのように少年は屈託なく笑うとなにやら手元の紙袋をガサゴソといじくりだした。
「ほれ、これ」
と、少年が差し出したのはキャラクターの印刷された袋に入った綿飴だった。
「やるよ、気分だけでもな」
「ありがと」
受け取って、少女はどこか寂しそうに笑った。
「来年は一緒に回れるといいなぁ」
「そうだね、そうなったらいいね」
どこか上の空といった様子で答える少女に少年は一瞬、違和感を覚えたが祭りのことで頭が一杯なのだろうと勝手に推測し切り捨てる。
「まあ、ほかにもいろいろ買ってきたからよ。よかったら食べてくれ」
そういって、少年が拡げた袋にはたこ焼きや、リンゴ飴等のお祭り特有の食べ物が広がっていた。
「それじゃな、また来るよ」
「うん、ありがとう」
そう、少女の笑みに見送られ少年は病室を後にした。
それから数か月後、少年は少女が死んだことをしる。原因はここら一体で流行り病だと医者は言った。彼女の体の免疫力が低く、病魔にあらがえ切れなかったと。
少年は泣いた。悔やんだ。それこそ、かつてないほどに。
そして、彼女とあった最後の日、その一年の後。
「――ごめんな」
言葉と共に少年は少女の墓にまた、あの時と同じように綿あめを供えるのだった。