手をとるのである!
加筆しました。
私がなっちゃんになっちゃんとニックネームをつけてからのことである。
翌日の夜更け。掃除用具ではなく、お気に入りの冒険者の本を持って走る。どこもでも木が続く道。行き慣れていない者にとっては代わり映えのしない景色だろうが、しかし私はちがう。いつも一人で冒険しているのだ。夜道でも、迷子にならないし、誰かに道を案内してと頼まれればすらすらとできるだろう。それくらい、この森に詳しくなっていた。
私は走る足を止め、夜空を見上げる。今の時期は、月の近くに私の知っている星が綺麗に見えるのだ。
「ベルガさまいる!」
夜、私が一人で眠れないときに指差して教えてくれたのだ。世の男を全て魅了したという女神ベルガさま。そして、その隣にぼんやりと光っている星。
――あら、一人じゃ眠れないあなたみたいね。
そういって母上は私をこじんまりした星にたとえるのだった。私としてはもう少しあとのきらきら光る星が好きなのに。
「……」
私はなっちゃんにベルガさまの星を教えたくなって走り出す。転ばないよう、星ばかり見ているのではなく、しっかりと足元も注意する。転んだら痛いのだ。
絵本に登場するような薄汚い館。誰かが見たら、魔女が住んでいるかもしれない。もう、誰も住んでいない。そう、言いそうな館の一室だけ綺麗なお姫様の部屋。部屋の主はお姫様のような少女だ。
そこにやってくる冒険家が私だ。母上が読み聞かせてくれた絵本の世界に入ったようであった。私が主人公として。
割れた窓から入り、掃除した南廊下を走ると玄関へ。そこの階段を駆け上がると、開いた扉の隙間からこちらをうかがうなっちゃんがいる。
「なっちゃん!」
「っひ!?」
呼べば、なっちゃんは可愛らしい悲鳴をあげ後ろに下がった。そして尻餅をつく。失礼なのである。だが、私は心が広いからそんなことは気にしないのである。
「探検するぞ!」
「……た、たんけん?」
「ああ! 探検だ!」
冒険家は囚われたお姫様を救い出し、一緒に冒険するのである。それが当たり前なのである。
私は扉をばーん! と強く開けると、なっちゃんの手をとり部屋から出て館を冒険するのである! 一人よりも二人で探検するのは楽しいのだ。
「な、ナシュも……?」
立ち上がったなっちゃんは大きな瞳を小刻みに揺らしていた。私の頭の中で二種類の小動物が浮かんできたのである。一つは父上が狩って、母上が調理し、私が食す。なんと素晴らしいことか。二つ目は森で見かける小動物だ。とても可愛いくて、今度なっちゃんにも見せてあげようと思う。
「当たり前だ! なっちゃん出発するぞ!」
まだ、なっちゃんが尻餅をついていることを忘れて無視して歩きだしたのであった。私は館を探検したくてうずうずしていたのである。どうして、廊下を秘密基地を称し掃除していたのであろう。なっちゃんに会って、館は広いと気づけば、一緒に冒険もできていいことだらけだったというのに。
――いいか? 一瞬の判断が命取りになることがある。 お前はその選択、ミスんなよ。
冒険の話をせがめば、毎回、父上はいうのだ。
「いいか? 探検は一瞬で死ぬこともあるんだ! 心していくぞ!」
耳が痛くなるくらい聞かされていた言葉を使えて、私は誇らしくなっていた。私も上手くいえたのだ。
そのときのなっちゃんはおろおろしていたのである。