絵本の世界である!
加筆しました。
収穫祭がはじまる少しまえのことである。
私は家の中で、母上が読んでくれていた本の世界に逃げるようになっていた。父上は村の外で働いているから、村にいることは少ないのだ。本の中は私を一人ぼっちにすることはない。陰でひそひそと話し合うこともないのだ。
本の主人公と私は一緒に、様々な国、街、村の人たちと話す。いろいろなダンジョンを冒険しては、綺麗なお宝を手に入れたり、大きな魔物を討伐し、身体の一部を薬にしたり、防具にしたりする。
クールな魔法使い。優しい神官。熱い戦士。ひょうきんものの盗賊。主人公はほかにもいろんな仲間と一緒に冒険をした。悪事を企てる王族や貴族、文官の悪事をこらしめたり、世界征服を目論む魔王を倒した。そして最後には主人公とヒロインと恋をするのだ。私も大人になったら冒険家になって、いろんな人と話して、仲間をみつけて、様々なダンジョンへ行き……と、夢みていた。
それでも、しかし。
もちろん、家で遊ぶよりも外で遊ぶほうが大好きだ。外で一人遊べば嫌な視線がまとわりつく。村でつまはじきされるのが常であったのが嫌になり、村から少し遠くにある森に出かけたのである。私は一人であるのに一人になりたくて。
久しぶりに冒険家である父上が家に帰ってきたときのことである。酔いつぶれながらこんなことを言ったのだ。
森の奥に大きな洋館がある。そこには人間はいない。
その言葉に、私は街に住んでいたときのことを思い出したのだ。母上にたくさん読んでと強請ったお気に入りの絵本。今は手元にない。
父上の言葉と絵本の内容が似ていたのだ。森の奥にある大きな館。私の心は踊っていた。村の皆からされた嫌なことなんか忘れていた。それに、村の皆も私に気づきはしないのだ。
父上が出かけ、私はすぐに森へと進んだ。父上からは冒険の話をせがみ、母上からは冒険の本を読んでもらっていた。私も、主人公と同じ。父上と同じ。冒険者になったいい気分だった。わくわくしていた。
本にでていた、不気味な森が不気味な館があるのだ。私は本の世界にはいったようで嬉しかった。館の門は閉まり、正面からははいることができなかった。もちろん、それは予想通りだった。私は荒れた庭へ移動するのだ。そこの割れている窓から入る。
中は埃臭く、埃がたくさん。私が一歩とすすめるたびに、きしきし悲鳴をあげるのだ。床板を踏めば、綺麗に私の足跡ができた。もちろん、靴の裏にはたくさんの埃がついた。それくらい館は汚かったのである。
それでも、私はそんな汚れを気にしないくらい嬉しかった。わくわくしていた。ここは、私の秘密基地である! と。
そのころのなっちゃんも部屋に引きこもっていた。私と一緒である。