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『汚いのである』

なっちゃん視点の番外編です。


ナシュと同じ、外見の年齢をした少年。そう、あれはナシュが館に住んで数年した秋のころ。おそらく、近くにある村に住んでいる少年。この季節には収穫祭があるというのに、彼はナシュの館に侵入して、楽しそうにがははは、と笑って勝手に掃除をしていた。


そんな彼をナシュは部屋にこもり水晶玉からずっとみていた。いつか友達になれたらいいな、一緒に遊べたらいいなと期待を膨らませながら。


「自分から会いにいけばいいでしょう」


ナシュの後ろにいるメルドゥルがぼそりと呟いた。メルドゥルはナシュの召使のくせに、そう反論しようもナシュはメルドゥルをみる。メルドゥルはとすました顔でナシュなんてみていない。


「……」


目頭が熱くなるのをかんじ、口をわなわな震わせながら、ナシュは口元を引き締め目元を腕で覆い隠し、いつものをこらえる。そしてナシュはそれを聞かなかったことにしてメルドゥルを無視した。いつもこうなのだ。彼が館に入り、ナシュが水晶から眺める。そしてメルドゥルがナシュの背中を押すのだ。しかし、ナシュは泣きそうになるくらい緊張して恥ずかしくてどうにもできないのだから、水晶からじっと眺めていることしかできない。毎日、それの繰り返し。


水晶にうつる彼は楽しそうに掃除をしている。



そんなある日のことだ。彼がナシュの部屋に入り、ナシュの存在を認識しているなんて、咄嗟に状況を理解できなかった。いつかは玄関のほうにも掃除しにくるんだろうとは思っていたけど、ナシュとってあまりにもはやすきだ。


彼はナシュを上から見下ろし、ナシュはかれを下から見上げる。水晶で眺めるときとは逆だ。ナシュは近くにいる彼の目を覗き込んだけど、兄上や姉上たちのようないやなものがなかった。ナシュにたいして、特別な感情の目をしていなかった。


彼にとってナシュは、ただ、そこに存在して気安くみられている。それがナシュには居心地がよかった。


彼とまた目が合う。彼の表情は、やはり変わらない。しかし、彼は驚いたようにナシュと視線が合うと、気付いて睨みつけた。


「誰だ!」


ナシュは自分の口から洩れた声にがっかりした。これは、自分が緊張していて照れ屋で恥ずかしがり屋だと自覚しているけど、目の前にいる彼と話せるようにと頭の中で何度もイメージして練習していたのに。もういやだ。帰りたい。寝る。メルドゥル! 失敗しちゃったよ。目が熱くなって、呼吸が苦しくなる。せっかく彼に会うのを楽しみにしてたのに。


慌てて逃げようと、扉を閉めようとすると顔になにか投げつけられた。ひるんだすきに、扉は全開しナシュが見られる。泣くまいと頑張ったのに、唇を閉じようとわなわな震わせるも結局だめだったのだ。大声で泣いてしまうのだ。泣き続けていると、なぜか彼も泣き出してしまった。


「泣くなよ! ばかああああああああ!」


その言葉にナシュは悲しくなった。どうやら、自分が彼を泣かせてしまったのだ。どうすればいいんだろう? おろおろしているナシュをよそに彼はすぐに泣き止んだ。呆気にとられるナシュを見て彼は人睨みすると、部屋から出ていた。


「いかれましたね」


ナシュの足元からのんびりとしたメルドゥルの声がきこえてくる。メルドゥルはナシュの影に隠れていたようだ。


「……」


拳をぎゅっと強く握るナシュは、どんと床を叩く。メルドゥルの息をのむ音がした。


「つ、つぎがあるもん! そのときにお友達になるもん!」


ナシュは立ち上がると、汚れた顔をドレスで拭った。


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