第一話 ある街の公園で
ここは、大自然に囲まれた街〖テウルギア〗。そして、唯一の公園――国立公園〖エトワール ブリヤント〗である。
「ねぇ……〖呪われた物語〗って知ってる……?」
そう言い出したのは、金色に輝く髪が印象的な少女だった。彼女の名前はヘレナ=ルーカス。歳は16、好奇心旺盛で仲間思いの優しい少女だ。
彼女がこうきりだしたのには訳がある。
彼女の両親がいなくなってしまったのだ。
──『映画を見てくる』──
そう言い残して──……
「私、知ってる。昔は〖名も無き物語〗って呼ばれてたやつよね?」
そうヘレナのすぐ横で言ったのは、茶髪を下のほうで二つに結んでいる少女。ヘレナの友人、フローナ=アルフォードである。
彼女はヘレナの同級生で、落ち着いた雰囲気を放つ知的な少女だ。ヘレナとは親友と言ってもいいほど仲が良く、いつも一緒にいる。
「俺も知ってる。確か深い森の中にあるんだよな? この街の近くにある森だった気がする。俺、母さんからその話聞かされて絶対行かないように言われた」
「そうそう! 映画館もその物語も、男の人がたった一人で全部つくったって聞いたよ? それにその映画館って、ヘレナちゃんが言ってた〖呪われた物語〗ってやつしか上映しないんだって」
この顔のよく似た双子の名前は、アラン=バーナード、エレン=バーナードである。アランが兄、エレンが妹でヘレナと同じ16歳だ。
兄のアランは皆から信頼され慕われる存在。そして妹のエレンのことをいつも最優先に考える優しい性格の持ち主である。
妹のエレンは16歳にしては幼稚な性格で、アランだけではなく皆の妹のような存在だ。少しわがままな一面もあるが、それも彼女の個性である。
「僕も知ってるよ……。その物語を見に森の中に消えていっちゃった人は、一人も戻ってこなかったんでしょ……?」
そう言って肩を縮こませているのは、ウィリー=ディクソンである。
ヘレナやアランたちよりも一つ年上というのにも関わらず、一番の恐がりだ。
「あぁもうっ!! 恐い話はやめようよぉ……。僕、寝れなくなっちゃう……」
「何恐がってんだよ! そんな話どうせデマに決まってんだろーが!! そんな話したって何の意味もないだろ。 別の話しよーぜ」
彼の名前はスティーブ=アンダーソン。歳はウィリーと同じ17である。
彼の性格を一言で言い表すとすれば、〖恐いもの知らず〗という言葉が一番しっくりくるだろう。その点では皆から頼られるのだが、彼の自己中心的なところには皆頭を悩ませている。
「私は、デマじゃないと思うの──……」
ヘレナの言った言葉に、皆の視線は彼女に向かった。
「私のパパとママは『映画を見てくる』って言ってたんだ。だからもしかしたら、〖呪われた物語〗を見に行ったのかな……って」
ヘレナの両親のことは皆知ってる。三日前、ヘレナ本人から直接聞いたからだ。
「パパとママが……帰ってこない……」
そう言った彼女の表情は、まるで魂が抜けてしまったかのように真っ青になっていた。
ヘレナの両親は今から丁度一週間前に出かけたきり、帰ってこないという。
警察に捜索願を出したところ、ヘレナの両親以外にも同じように『映画を見てくる』と言って出かけたきり、行方不明になった人がだいたい800人近くいるらしい。80年ほど前に行方不明者が出て以来、消息がわからなくなってしまった人は増え続けている。
しかし警察は〖呪われた物語〗というものを信じようとせず、行方不明になった理由は他にあるとみて捜査を続けている。
「「……俺もそう思う
……エレンもそう思う」」
アランとエレンが同時にそう言った。
「……俺たちの知り合いも、『映画を見てくる』って言って行方がわからなくなったやつがほとんどだ」
「えぇ!? じ、じゃあ……本当のお話ってこと……?」
「そういうことかも知れないわね」
フローナが言い放った言葉にウィリーの表情は青ざめていった。
しかしそんなウィリーには構うことなく、フローナはいつも通りの落ち着いた様子でヘレナに問いかける。
「それで。ヘレナはどうするつもりなの?」
そんなフローナの問いかけにヘレナはこう答えた。
「〖呪われた物語〗を見に行く。
パパとママ、そして皆を、助けるために……」
そう言った彼女の目からは、固い決意のようなものが感じられた。
「えぇ~……」
「ま、そうだろうな」
「ヘレナちゃんのことだし!」
「そう言うと思ったわ」
「ちっ……めんどくせぇ……」
それぞれがヘレナの言ったことに対し独り言のようにつぶやく。
でも、皆の気持ちは一緒だった。
「でも、ヘレナちゃんのためなら……僕、頑張るよ……!」
「よしっ! じゃあ行こう。
〖呪われた物語〗を見に……」
「うん! ヘレナちゃんのパパさんやママさんを助けに行こー!!」
「あと、消えた人たちもね」
「めんどくせぇ……が、仲間のためならしょうがない」
「ありがとう……皆」
仲間たちの言葉に少し涙ぐみながら、ヘレナはそう言った。