2 自己紹介をしよう(その1)
「…………」
俺は今、教室で自分の席に座っている。
入学式の会場である体育館へ行く途中から今までの記憶は俺には無い。
『だって、雨乃はちゃんと話聞かないでしょ?』
そうだけど、会長閣下とやらの姿くらい見たかったんだが。
『大丈夫。会長閣下さんは出てこなかったよ。後で教室に来るみたい』
そうか……。じゃあ、もう引っ込んでろ。
『りょーかい。また自己紹介の時にね』
ああ、そうだな。
「あ、雨乃ちゃん終わった?」
いつの間にか俺の目の前に夏菜がいる。
「ああ、終わったぞ」
「ねぇねぇ、終わったって何がー?さっき雨乃ちゃん難しそうな顔して目を瞑ってたけど、何ー?」
どうやら花恋もいるようだ。
「多分この後にやる自己紹介の時に分かると思うよ、花恋ちゃん」
「べらべら喋らんでいい、夏菜」
「別にべらべら喋ってないよ」
夏菜がむっとした表情で睨んでくる。でも本人には悪いがこいつが怒っても可愛いとしか思えん。中学の時も怒った顔が可愛いと言う男子が沢山いた。
「みんなの自己紹介楽しみだなー。特に女の子のねー」
「あ、あはは」
花恋、夏菜が若干引いてるぞ。でも自己紹介が楽しみなのは同感だ。ここにいる全員がどんな奴らなのか気になるからな。
「あー、そうだ、夏菜。今って放課なのか?」
俺は意識が戻ってからずっと疑問に思っていた事を口に出した。
「うん、そうだよ。もしかして終わるまで意識無かったの?」
「ああ、無かった。クソ、あいつめ」
「ねぇねぇ夏菜ちゃん、雨乃ちゃん。私全然会話の内容が分かんないんだけど」
俺と夏菜の会話についていけない花恋は困惑気味の表情だ。まあ無理もないだろう。俺が花恋の立場だと同じ反応をするだろうからな。
「分からなくて当然だから心配しなくて大丈夫だよ。……あ、もうすぐ授業始まるよ」
夏菜が言い終わると同時に授業の開始を告げるチャイムが鳴った。
鳴り終わると、今度は教室の扉から先生とおぼしき人物が入ってきた。見た目は20代後半の独身男性、といったところか。いや、独身かどうかは知らんが。
「やあ、おはよう。僕は君達の担任になってしまった滝多悠吾です。一年間よろしく」
なってしまった、とはどういう事だろうか。一年生の担任になりたくなかった、とか?
「ちなみに、なってしまった、というのは……まあ今言わなくていいか。その内分かるよ」
ははっ、と笑って彼、滝多先生はこれからの学校生活について話し始めた。
いや、今の話の方が気になるのだが。
「じゃあ、これで僕の話は終わり。次はみんなの自己紹介をしよう」
『遂に自己紹介だよ、雨乃。僕達の存在を知らしめる時だよ!!』
お前は何をする気だ。
「名簿順で順番に自己紹介をしていってね。あと、面倒だろうけど、みんなに顔を覚えてもらう為にも前に出てね」
『うっわめんどくさっ』
お前が言うな。面倒なのは俺の方だろ。
『雨乃の代わりに代弁してあげたんだよ。ほら、ありがたがって』
嫌だ。
『あっ、雨乃。もう一番の人の自己紹介始まるよ。ちゃんと聞かないと』
む、いつの間にか名簿番号一番の人が前、教卓の所に立っている。
「あ、言い忘れてたけど、自己紹介の内容は適当でいいよ。自分で必要だと思う事を言ってね。まぁ絶対言わなきゃいけない事くらい分かるよね」
絶対言わなきゃいけない事、か。名前と、
『僕の事、それから……』
能力、だよな。
『うん』
そう、ここ架堂学園の生徒、先生は全員異能の力をもっている。その能力は人によって違うが、共通点が一つある。
それは、
『戦闘時に使う、だよね』
……。
『あれ〜?どうしたの、雨乃。もしかして僕間違えた?』
いや、間違ってはいないが……。その……俺の台詞を取るな。
『えー、いいじゃん。僕と雨乃は二人で一人なんだから。ほら、自己紹介する人の話を聞かなきゃ』
貴様……。
まぁいい、自己紹介を聞かなきゃな。どんな奴らなのか興味があるし。
「俺の名前は宇狩徹です」
俺が意識を前に立っている奴に向けると同時に、そいつ、宇狩が喋り始めた。
「実家が研究所をやっていて、俺が能力を持っているばっかりに研究対象にさせられ、そこから逃げる為にもここに来ました」
なんとまあ。ここにはそんな奴もいるのか。しかし何の研究所だ。
「因みに俺の能力はこれです」
宇狩が右手を上げると、その手のひらからメスが現れた。
「全身から出せます」
と言うと今度は両肩からメスが現れた。
痛くはないのだろうか。
『それ多分心配する所じゃないよ』
確かに痛そうな顔はしていないからな。痛みとかはないのだろう。
「このメスで切られると、そこから出て来る血は全部これに吸い取られますから、くれぐれも注意して下さい。俺の意思を無視して出て来る時がありますので」
吸血メス!?
『んー、そんな所じゃないの?基本何でもありだからね。僕達の能力は』
それもそうだ。つーか、さっきからあの宇狩の笑顔が怖いんだが。何か黒いオーラが見えるんだが。しかもあいつ白衣着てるけど、絶対何度か赤く染まってるぞ。あれ。
『はいはい、落ち着いてね、雨乃。後でゲームやろうね』
わーい。ゲーム!ゲーム!……っておい!
「じゃあ、宇狩君、以上かな。皆拍手〜パチパチパチ。はい、次」
この教師やる気あるのだろうか。いや、ないだろう。
『反語?』
……反語って何だっけ。まぁいいや。
『雨乃は国語が苦手だっけ?』
うるせー。
と、二番目の奴がもう前にたっている。そいつは一昔前のヤンキーみたいな格好をしている。
『でも少し童顔だから、どちらかというと似合ってはないね』
「初めまして。木野雅人です」
…………。
『…………』
……えーと。
「趣味は園芸、好きな花はチューリップ。嫌いな花はラフレシア」
……あー。こいつ、何処からツッコミを入れれば……。
『さぁね』
「俺の能力は、……これだぁっ!」
なっ……!?
『これは……蔦、だよね』
そう、蔦だ。
その、蔦が。木野の能力により生み出されたのだと思われる蔦が。
教室内にいる女子生徒全員に絡みついている。
「キャー、何これ!?」
「離れないー」
「ちょっとこれどうなってんの!?」
「早くこれ止めなさいよ!」
女子からはブーイングの嵐。
「うおおぉ!いいぞ木野!」
「いいぞもっとやれ」
「お前は神か!?」
「やべぇ、鼻血が止まんねぇ」
男子からは木野を讃える声が。
『僕はノーコメントで。何て言えばいいか分かんない』
うむむ、これは困った。
「皆、思う存分楽しむがいい!」
木野本人は何か舞い上がっているし。
「見てない。何も見てないんだ……」
担任教師、滝多はそっぽ向いてるし。
……どうしたものか。
『雨乃がどうにかすれば?女子なのに絡まってないんだから』
あ……。少し間違いがあったようだ。訂正しよう。
俺以外の女子全員が蔦に絡まれている。これが正しい。
と言うことは、つまり、
『また男だと思われたね、雨乃』
何故だ。今皆名簿順に席に着いているのだ。なのに何故、俺だけ絡まれていないんだっ……。
『いや、これは絡まれてない事に対して喜ぶべきかと。て言うか、この状態のままでいいの?』
駄目だな。それは。どうにかしないと夏菜が
「――滅――」
「おわっ!?」
何処からか爆風が起き、危うく吹き飛ばされそうになる。
『雨乃、蔦が……!』
「――――!」
いつの間にか蔦が無くなっている。一体誰が……。
「お戯れ中すまないな」
教室のドアから、
「あんな事になっていたら、せっかく用意したサプライズが無意味ではないか」
目元に純白の仮面を着け、
「まあ、今のでちょっとしたサプライズになっただろうからよしとするか」
真紅のマントを羽織った、
「よく聞け愚民共!!私が生徒会長の御神桜子だっ!!」
巫女さ…………ん(?)が現れた。