番外編SS【OSO1周年の悲喜こもごも】
オンリーセンス・オンライン5周年を記念したSSを投稿しました。
そして、OSO5周年を記念して、ファンタジア文庫にキャラクター人気投票企画が実施されます。
キャラクター人気投票は、下記のURLにて行なわれますので是非、投票をお願いします。
URL:https://fantasiabunko.jp/sp/201404onlysense/touhyou/
また、明日4月20日には、オンリーセンス・オンライン17巻が発売。更に来月5月9日には羽仁倉雲先生作画のコミカライズ版オンリーセンス・オンライン9巻も発売します。
そちらの方もぜひよろしくお願いします。
「そろそろOSOも1周年になるのよね」
定期的に開催されるマギさんたちとの生産職のお茶会の中で、その話題が出る。
「そっかぁ、もう1年経つのか……」
現在は、6月下旬に差し掛かり、そろそろ梅雨も明けようとしている。
OSOが正式稼働したのが去年の7月の夏休み中だったので、それからもうじき1年が経つと考えると早いように思う。
そして、OSOが正式稼働を始めて1周年の節目に、大型アップデートも告知されていた。
「新しい敵MOBやアイテム、クエストが楽しみだよね」
「けど、β版をやっていた俺たちからすると、1年以上もやってたんだよなぁ」
リーリーは1周年の大型アップデートに期待を膨らませ、クロードはこれまでのOSOの歴史を振り返っているようだ。
俺も楽しかったり、大変だったり、色んなことを思い出すことができた。
「1周年かぁ……その前に何かできることはあるのかな?」
1周年のアップデートに期待を膨らませた俺がぽつりと呟き、マギさんたちが考え込む。
「うーん。普段通りが一番なんだろうけどね。折角だから何かする?」
「いいと思うよ! 何する? 今まで手を出してこなかったボスMOBに挑む? それとも高難易度クエスト?」
「それはちょっとなぁ……」
リーリーが提案したボスMOB討伐や高難易度クエストに関しては、生産職なのであまり興味がなく、流石に戦闘職のように立ち回れる自信がない。
何かをやりたい。でも、手当たり次第に何でもやりたいわけじゃない、という面倒くさい心境の俺たちにクロードが一つ提案してくる。
「なら、レアな強化素材を集めに行くのはどうだ? 例えば――【奈落瘴石】とか」
「――【奈落瘴石】かぁ……」
【奈落瘴石】とは、鉱山エリアの地下4階層以下の採掘ポイントでしか採掘できないレアな強化素材だ。
その効果は、装備にプラスの追加効果を付与すると、同時にデメリット効果がランダムで一つ付与される。
例えば、剣などの武器に【物理攻撃上昇(小)】の追加効果を選んで付与すると、同時にデメリット効果として、回復魔法やポーションなどの回復アイテムの効果が10%減少する【回復量低下(小)】や攻撃する度に自分にHPの1%のダメージを負う【自傷】などの効果がランダムで付与される。
装備には、隠しステータスとして、追加効果のスロット上限が設定されている。
そのスロット上限以上の追加効果を付与しようとすると装備が自壊してしまう。
だが、マイナスの追加効果は、スロット数を減らすことができる。
【奈落瘴石】は、プラスとマイナスの効果を同時に付与するので、スロット上限に達した装備でも更に強化できる。
また、【奈落瘴石】のデメリット効果は、アイテムを再度使用することで、再びランダムで付与し直すことができる。
なので、自身の装備を限界まで強化したいプレイヤーは、自分のプレイスタイルの負担になりにくいデメリットが出るまで【奈落瘴石】のデメリット効果の付与を繰り返すのである。
「でも、あれって確か採掘率1%よね。それに狙った効果を手に入れるのに複数個必要なやつ」
マギさんが言う通り【奈落瘴石】は、極めて採掘率が低く、また使用する時には狙ったデメリット効果を選び取るための試行回数が必要となる。
単純に強化するには、かなり効率の悪い廃人向きの強化素材である。
それに第三の町の鉱山エリア4階層以降は、敵MOBもかなり強くなっているので、そこそこの強さがないと採掘も大変である。
「それに【奈落瘴石】の採掘だけだと、旨味が少ないんだよなぁ」
ミスリルやアダマンタイト、属性金属、各種宝石の原石などのアイテムの入手のついでに【奈落瘴石】が採掘できれば、素材収集のついでに集められる。
だが、最も近い入手場所である鉱山エリア4階層では、最高で黒鉄や鉄、宝石の原石も最大で中サイズが低確率とあまり効率が良くない。
ミスリルなどの上位の金属が採掘できるようになるのは、更に深い6階層だが、敵MOBも一気に強くなって、生産職だけで採掘しに行くのも難しい。
「だから、今行くんだ。アップデートで新要素が追加されたら、非効率的なコンテンツなど見向きもされないからな。」
「まぁ、いいか。【奈落瘴石】を採掘しに行くのは……」
本来は非効率なのだが、クロードの提案にたまにはそういう趣旨の探索もいいかもしれないと思う中、マギさんがクロードに尋ねる。
「ところで、クロード? 本音は?」
「1周年で始める新規プレイヤー用の装備を作る鉄鉱石を補充したい!」
クロードのもう一つの目的に、最初からそう言いなさいよ、とマギさんが肩を竦める。
俺とリーリーも、そういう理由もあったのかと納得しつつ苦笑いを浮かべる。
「それじゃあ、俺も生産職として1周年から入ってくる新規プレイヤーを出迎えるために頑張るとするかな」
「そうね。採掘は、私とユンくんに任せて、敵MOBはクロードとリーリーに任せたわ」
「任された! 敵を蹴散らすとしよう!」
「うん。僕らは、マギっちとユンっちを守るね!」
そう言って、四人でポータルで第三の町まで移動し、鉱山エリアの中に入っていく。
1階層、2階層と順調に降りていき、無事に4階層まで降りてくることができた。
「この辺になると、一気に視界が暗くなるのよね。ユンくん、大丈夫?」
「俺は、【空の目】の暗視があるんで大丈夫ですよ。あっ、マギさん、そこに採掘ポイントがありますよ」
「あっ、ほんとだ。こう暗いと見逃しちゃうわね。それじゃあ、早速掘っちゃいましょう!」
そう言って、暗い鉱山の中を俺とマギさんが肩に担いたツルハシで採掘を始める。
ザックザックと掘り返した採掘ポイントでは、一箇所に付きアイテムを30~40個集めることができた。
そして、目的の【奈落瘴石】は、採掘ポイントを三箇所回ってようやく1個見つかる程度に苦笑いが零れる。
「大体確率通りなのよね。目標数は、何個だっけ?」
「とりあえず、20個ですね。それにしても暗い中で延々と採掘し続けると気が滅入りますね。甘い物でも食べます?」
作業の合間にインベントリからお菓子を取り出した俺は、マギさんに勧める。
「ユンくん、ありがとう!」
「ユンっち、僕も、僕も!」
「はいはい」
俺が作ったフルーツ飴をマギさんに渡し、クロードとリーリーに護衛されながら、次の採掘ポイントに向かう。
そして、最終的に俺とマギさんは、10箇所以上の採掘ポイントを回り、【奈落瘴石】を4個集めたところ気力が完全に底を尽きた。
「あー、期待値よりも多いけど、疲れた~」
「そうですね。けど、思ったよりこれは辛いなぁ」
折角、集める気になったのに、【奈落瘴石】が大して集まらずに気が滅入る。
代わり映えのしない景色と作業、圧迫感のある鉱山の暗さと襲ってくる敵MOBの音に徐々に神経をすり減らしていく。
そして、何より――
「ユンっち、沢山敵MOBを倒したよ! ほら、ドロップがこんなに!」
「あはははっ、リーリー、お疲れ様」
俺たちが採掘するよりも護衛しているクロードとリーリーが敵MOBを倒して入手するアイテムの方が価値が高いのだ。
辛い作業をしているのに、目の前で成果の差がドンドン開いていくのは、ちょっとキツイ。
「なるほどね……【奈落瘴石】が廃人向きの素材だってよく分かったわ。色々と長時間はできないわね」
「もう、俺帰りたいです……」
「私も飽きてきた……青い空が見たい」
【アトリエール】に帰りたい、リゥイとザクロをモフモフしたい、と採掘の辛さからマギさんと共に、若干現実逃避気味になる。
「むぅ……これは少し予想外だな。仕方がない、早々に切り上げるか」
俺とマギさんの疲弊具合を見たクロードが帰還を指示して、【奈落瘴石】の採掘は終わりとなる。
それ以降は【奈落瘴石】集めをしようと口に出すこともなく、OSOは1周年のアップデートを迎えた。
そして――
「なんでなのよ~! そりゃ、嬉しいけど、あの苦労は何だったの~」
「あー、もー、そういう告知はもっと早くに出してくれよ~」
俺とマギさんは、【コムネスティー喫茶洋服店】のカウンターで管を巻くようにリーリーとクロードに愚痴を零していた。
その原因は、先日採掘しに行った【奈落瘴石】である。
鉱山エリア4階層の採掘ポイントから入手できるアイテムの調整が、1周年アップデートと共に行なわれたのだ。
その結果、ミスリルや魔法金属などの鉱石アイテムが採掘ポイントに追加され、【奈落瘴石】の採掘率が1%から3%に引き上げられたのである。
俺とマギさんが一生懸命採掘したのに4個しか手に入らなかった【奈落瘴石】だが、もしも今同じ作業をすれば、3倍多く集められたし、副産物でミスリルや魔法金属などの使用頻度の高い鉱石も集めることができる。
アップデート内容で採掘アイテムの追加と採掘率の引き上げは喜ばしいことだが、素直に喜べないでいる。
「そう言えば、マギとユンは、この前集めた【奈落瘴石】はどうしたんだ? もう何かの装備に使ったのか?」
前回の採掘で集まった4個の【奈落瘴石】は、俺たち全員で1個ずつ分けた。
その【奈落瘴石】のことで、俺とマギさんが互いに顔を見合わせて答える。
「ほら、俺とマギさんは、去年のキャンプイベントで【メイキングボックス】を手に入れただろ?」
「あれの複製機能を使って、確率複製しているところよ。オリジナルが1個手に入れば、時間があれば、増やすことができるからね」
【奈落瘴石】は、採掘率がかなり低いがメリットとデメリット効果を同時付与する強化素材なので、アイテムとしてのランクは高くない。
なので、【メイキングボックス】の複製機能での複製成功率は約50%と言ったところだろう。
今は、少しずつ増やしているところであると説明する俺とマギさんに、クロードとリーリーは、抜け目ないと苦笑いを浮かべる。
そんなOSO1周年アップデート前後の悲喜こもごもとした出来事だった。
あとがきオマケ【5周年記念~キャラクター人気投票企画~SS】
「なんだ、ここは?」
その日、OSOにログインした俺は、謎のエリアに強制転送された。
同じように強制転送された知り合いのプレイヤーたちは、大体30人くらい居た。
そんな彼らと顔を見合わせ、小声で話し、辺りを見回す。
「パーティー会場?」
飾り付けられたパーティー会場のようなエリアは、壇上には幕が下り、薄暗く照明が落とされている。
そんな中、突如として幕が上がり、スポットライトの光が壇上を照らす。
「レディース&ジェントルマン! ようこそ、オンリーセンス・オンラインの5周年記念祝賀会へ!」
「ミュウ!? それに5周年記念祝賀会って!」
「もう、ユンお姉ちゃん。大事なことなのに忘れちゃダメだよ! 今日はとても大事な日なんだから!」
困惑する俺に、周りはさも当然のように拍手と歓声が送られる中、ミュウが手を振り上げると全員が静かになる。
「皆様のお陰でファンタジア文庫様より刊行しているオンリーセンス・オンラインは、五周年を迎えることができました」
「ああ、もうそんなになるのか……」
「それじゃあ、ユンお姉ちゃん。新刊の宣伝もお願いね!」
「うぇっ!? いきなり!? って引っ張るな!」
突然ミュウに無茶ぶりされ、壇上に引っ張られていく俺は、どうすればいいか分からず視線を彷徨わせると、カンペを持ったタクが目に入り、その内容を読み上げる。
「えっと……2019年4月20日にオンリーセンス・オンライン17巻が発売します。また来月5月9日には、コミカライズ版OSO9巻も発売します、で良いのかな?」
「それと、書籍1巻発売から5年と続いたOSOをこれからもよろしくお願いします」
そう言葉を継いだミュウの言葉をゆっくりと噛み締める。
「そっか、俺たちは、5年も頑張っていたのか……」
俺は、そうぽつりと呟き、ライトノベルの1巻が発売したのが2014年の4月……思えば、俺は色々な冒険をしてきた……主に巻き込まれる方向で……
ただ一つ、気になることがあった。
「なぁ、ミュウ。なろうの連載が2012年の3月だから、7周年じゃないのか?」
「まぁまぁ、Web版だと7周年、書籍版5周年記念の祝賀会ってことだよ。どっちにしても嬉しいことだよね! 祝おうよ! カンパーイ!」
『『『――カンパーイ!』』』
俺がそうツッコミを入れるがミュウは、ノリと勢いでジュースを掲げる。
「そして、OSO5周年記念としまして、特別企画の告知! それでは、ユンお姉ちゃん! 発表をどうぞ!」
「だから、俺は何も聞かされてないって……うん? またカンペだ」
俺がツッコミを入れると、今度もタクがまた新しいカンペを持ち出してくる。
「えっと、今度はなんだ? ……本日、2019年の4月19日から5月24日まで特設サイトにて、オンリーセンス・オンラインに登場した主要キャラクターたちの人気投票があります!?」
「そうなんです! 私やユンお姉ちゃん、セイお姉ちゃんたちに投票して人気を競う――OSOキャラクター人気投票が始まります! ぜひ、私! パラディンのミュウに清き一票を!」
「人気投票なのに、いきなり自分に投票して貰えるように誘導するなよ、全く」
俺が溜息を吐く中、カンペが捲られ、新しい説明を読み上げる。
「なになに……投票は一人につき、1日1回となります。そして、上位1位のキャラクターには、作者のアロハ座長さんの書き下ろし短編小説が公開!?」
「つまり、推しキャラが居たら、その人のために全力投票だね! それでは、特別審査員席のトップ生産職三名のコメントも貰っています!」
「ちょ、人気投票なのに特別審査員席とかなんだよ!」
そう言って、現れるのはマギさん、クロード、リーリーの三人がにこやかに手を振っている。
「それじゃあ、マギさんから!」
「OSO5周年おめでとう! これからもトップ生産職として色んな装備を作っていきたいわ!」
あー、マギさんらしいコメントになんだか、ほっとする安心感を覚える。
「じゃあ、続きまして、リーリーくん!」
「うーん。僕としては、ユンっちやミュウっち、マギっちたちも頑張って欲しいと思うかな! でも僕にも投票してくれると凄く嬉しいな」
俺は、そう素直な感想が言えるリーリーが羨ましく思う。
なんと言うか、人気投票で人目を集めるのは、ちょっと恥ずかしいと思ってしまう。
「それじゃあ、最後にクロードさん、どうぞー!」
「推しキャラに投票しろ! そしたら、そのキャラ用の衣装を全力で作ってやる!」
なんともクロードらしい台詞だが、これは逆に何を着せられるか分からない不安が生まれてきた。
「うーん。1位は恥ずかしいけど、色んな人の期待も裏切りたくないし……俺は、4位くらいがいいかなぁ……」
「ユンお姉ちゃん! 主人公だからって、最低4位以上取れる自信満々だね! だけど、私も負けないからね!」
「全く、そういう意味じゃないから……って、抱き付くなよ!」
俺にじゃれつくミュウを引き剥がそうとするが、ステータス差で全く離れず、会場から微笑ましげな笑いが盛れる。
そして、ミュウが落ち着き、離れたところでホッと一息就く中、最後の締めに入る。
「ぜひ、OSOキャラクター人気投票にご協力をお願いします。そして、みんなの好きって気持ちが1位を勝ち取れば――」
「うわっ、なんだコレは!?」
そう言って、ミュウが片手で指をパチンと鳴らすと、俺の体が白い煙に包まれ、装備が変わる。
「うぇっ!? ちょ、これシスター服! なんで!」
「ほかにも――!」
更に指をパチンと鳴らすと、ドレスや巫女服に切り替わり、最後には今まで着たこともないチアリーダーの衣装になる。
俺は、何故か手に持っているボンボンで腕やお腹を隠すように腕を交差させる。
「1位になったキャラクターの嬉し恥ずかしの短編小説が見れるかもしれないよ!」
「ちょ、恥ずかしい! 既に恥ずかしいから元に戻せ!」
「それじゃあ、あらためてオンリーセンス・オンラインとキャラクター人気投票をよろしくお願いします!」
「だから、俺の話を聞けよー!」
そう締めくくるミュウに対して、抗議の声を上げるが聞き入れられなかった。
最後に、全くと溜息を吐いた俺は、今年も楽しくも大変な一年になりそうだと思った。









