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Only Sense Online  作者: アロハ座長
短編・SS・外伝集

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358/359

4-3


 新たな生産アイテムを作るために、【大瑠璃スカラベの加護】でLUKステータスを上昇させた。

 だけど、生産アイテムを作るのに、3日の時間は長く、そして生産素材が無くなってしまった。

 そのために俺は、生産素材を揃えるために、フィールドに向かうのだが――


「うーん。これは、運がいいのか、悪いのか」


 未だに効果が続いている【大瑠璃スカラベの加護】のLUK上昇効果のためか、普段なら遭遇しないイベントMOBに遭遇する。


『フシュゥゥッ――』


 気炎を吐き出し、後ろ足と尻尾で立つその獣は、カンガルーだ。

 背中は薄茶色でお腹側は、白の毛皮に覆われ、その毛皮からでも分かる盛り上がった筋肉。

 特に、胸を反らして立つ姿は、胸筋と腕の筋肉を見せつけるようにも見える。

 そして、警戒するように耳を立て、体に寄せた腕を振るって連続で拳を放てば、風を切る音が響く。

 天性のボクサーを思わせるマッチョなカンガルー型MOBは――疾風のエトヴィーというイベントMOBだ。


 俺は、警戒させないようにじりじりと疾風のエトヴィ―と対峙し、エトヴィーも反って、スウェーによる回避ができるようにじりじりと睨み合う。

 だが、長く続けていると、俺たちに向かって、このエリアのMOBが襲ってくる。


『ガウガウガウッ――』


 狼型のMOBが五体群れを成して襲ってくる。

 その内の三体は俺に、もう二体は、エトヴィーに向かう。


「ちっ、嫌なタイミングだな!」


 近距離まで接近されたために、長弓ではなくマギさんの解体包丁をインベントリから取り出し、振るう。

 三体のMOBに囲まれての交戦を辛く感じる俺だが、突然、キャンという甲高い声が聞こえ、そちらを振り向く。

 その先には、腕を長く伸し、一体の狼型MOBを殴り飛ばすエトヴィーが居た。

 エトヴィーの攻撃を脅威に感じた敵MOBのヘイトがエトヴィーに集まり、俺に向かっていた敵MOBもエトヴィーを襲い始める。


 そして始まるのは一方的な蹂躙劇である。


 飛び掛かってきた狼型MOBに対してカウンター気味に前のめりに勢い付いたパンチを決めて吹き飛ばす。

そのままの全身の勢いで一体の狼型MOBに迫ると、頭上から拳を振り下ろし、頭の位置が下がったところで体を捩り、地面スレスレから放つアッパーが狼の顎下から掬い上げ、体が後方縦回転して地面に落ちる、

 最後の一体も怯えるように後退りするが、破れかぶれのように飛び掛かるが、魅せプレイのようにエドヴィーのように上体を反らすようにして回避する。


 スウェーによる回避に魅入っていた俺は、逃げるタイミングを忘れて、最後の一匹がパンチが分裂して見えるほどの残像を残すマシンガンパンチを見舞われて倒れる。


「あっ……」


 そして、全ての敵を倒し終えたエトヴィーは、ゆっくりと俺に振り向く。

 イベントMOBのエドヴィーは、本当に何が起こるか分からないのだ。


 気まぐれにプレイヤーに戦いを挑んだり、一時的に共闘を結んだり、エドヴィー固有のユニークアクセサリーをくれたり、そんな感じのイベントMOBだ。


 そしてエドヴィーの強さとしては、並のボスMOBを軽く超えるために戦闘になったら、ソロでは絶対に負ける。

 不幸中の幸いとしては、エドヴィーは、相手プレイヤーのHPを絶対に1残して戦闘を終了させるので、死に戻りはないが、それでもボコボコに殴られたくない。


「どうする、どうするんだ……」


 じりじりと近寄ってくるエドヴィーから距離を取るように後ろに下がるが、すぐに木の幹にぶつかり、逃げ場を失う。

 そして、近寄ってきたエドヴィーに殴られてもいいように顔を守るように腕を掲げるが――


『スンスン、コォー、コォー』


 俺の匂いを嗅ぐような仕草をして、思ったより、低い声を出す。


『スンスン、キィー』


 甲高く、エドヴィーの下よりも低い位置から聞こえる声に恐る恐る目を置けると、エドヴィーのお腹の辺りの袋からクリっとした瞳の小さな赤ちゃんカンガルーが顔を出していたのだ。


「えっと……」


 スンスン、と鼻を鳴らして、何かを求めるエドヴィーとその子どもの赤ちゃんカンガルー。


「えっと、確かエドヴィーが敵対しない場合は――」


 敵対しない場合は、色んなパターンのイベントがあり、それを思い出し、一つ一つ確かめる。


「えっと……回復アイテムが必要?」


 戦い続けるエドヴィーにも休息が必要であるために、ポーションなどの回復アイテムを求めるのかと思い、ハイポーションを取り出すが、首を横に振られた。

 では、次に――


「じゃあ、食べ物? えっと今はハチミツクッキーしかないけど……」


 ムーちゃんの畑蜜を使ったハチミツクッキーのあまりを取り出し、包みを開く。

 スンスンと匂いを確かめると、その手でハチミツクッキーの包みを手に取り、お腹のポケットの中に仕舞ってしまう。


「あっ、食べ物が欲しかった――あっ、違うのね」


 一瞬、正解を当てたかな? と思ったが、エドヴィーとその赤ちゃんカンガルーにも首を横に振られた。

 どうやら違うようだが、差し出されたハチミツクッキーは、とりあえず貰うと言った感じの仕草をするので、多分奪われたのだろう。

 まぁ、また作ればいいか、と溜息を吐く。


「えっと……他に何かあったかなぁ」


 俺は、エドヴィー遭遇イベントを思い返しながら、インベントリの中のアイテムを確かめるが、時間制限があるのかエドヴィーが段々と苛立つような反応を見せる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! ええっと、あった! これでどうだ!」


 俺は、【彫金】センスの練習で作った指輪を取り出す。

 シンプルな形の指輪が掌で山のように取り出され、互いにぶつかってジャラジャラと音がなる。

 それを見たエドヴィーは、苛立った様子からやっと欲しい物が出たことに雰囲気が柔らかくなる。

 エドヴィーは、自身の手を差し出して、指輪を付けるように強要してくる。


「こ、これを付ければいいのか? えっと、指の大きさは自動で調節されるから、よし――と」


 右と左の指にそれぞれの指輪を嵌めていく。

 そして、エドヴィーがニギニギと自身の拳を握り締め、俺から少し離れたところで拳を素振りする。


 風を切る速い音は変わらずに、全ての指に付けた指輪が鈍く光りの残像を残す。


「なんか、メリケンサックっぽくて怖いんだけど……」


 これで満足したかな、と思っていると、エドヴィーが体を縮め始める。


「えっ、なに、どうしたんだ?」


 苦しんでいる様子はない。ただ、ミチミチと脚や腕の筋肉が盛り上がっているのが見えて、俺は、危険だと思い、その場から後退る。

 そして、溜められた力を一気に解放したジャンピングパンチを近くの木にぶつける。

 木は、大きく揺れ、木に実った果物が雨のように振ってくる中、その木もミシミシと音を立てて、倒れる。


「……絶対に、相手したくないぞ」


 エドヴィーは、満足したように拳を下ろし、地面に落ちた果物を拾い集め、その一つを赤ちゃんカンガルーに渡し、俺にも投げ渡してくる。


「食え、ってことかな。えっと……いただきます」


 エドヴィーと遭遇してから困惑しっぱなしだな、と思いながら、果物を齧り付くと梨っぽい食感と瑞々しさで美味しかった。

 倒した木から落ちた果物を拾い集めるエドヴィーだが、あのお腹の袋以上の果物を詰めているためにインベントリ的なものなんだろうか、と思う。

 そんなファンタジーな光景を見ていた俺に、果物を拾い集めたエドヴィーが近づき、ごそごそとお腹の袋の中から何かを探る。


『ゴォー』

「あははっ、ありがとう」


 低く鳴いたエドヴィーがお腹の袋の中から探り当てた何かを俺に渡してくる。

 それは、草臥れた背表紙の手帳だ。誰かの荷物でも拾って入れっぱなしの物だったんだろう。

【言語学】のセンスを持つ俺は、一応は読めるためにそれを受け取る。


 そして、その手帳を受け取ると、用はないとばかりに背を向けて、両足でジャンプして進んでいくエドヴィーを見つめる。


「……さて、それにしても荒らしたなぁ」


 倒れた木を見つめ、勿体ないと思ったために、その木を持ち帰り、リーリーへのお土産にするのだった。


 後日、その時エドヴィーから渡された手帳は、とある冒険家の日誌らしく一冊の冒険小説として読むことができたので、意外といいアイテムだったと思う。

 ゲームを有利に作用するアイテムでもレアな素材でも生産アイテムでもないけど、俺にとっては貴重なアイテムとなった。


 ただ、やっぱりマッチョなボクサーカンガルーのエドヴィーは、ちょっと威圧感があって怖いからあんまり遭遇したいとは思わないけど――



引き続きの短編・閑話を読んでいただき、ありがとうございます。

現在、別作品モンスター・ファクトリーも毎日投稿をしておりますので、そちらもよろしくお願いします。

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