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その集まりを見た時、少しだけ納得である。
マギさんやトウトビ、ミニッツがお菓子を食べながら、穏やかな談笑をしていた。
「みんな、お茶のお替わりはいるかな?」
「あっ、ユンくん、ありがとう!」
マギさんが代表してお礼を言い、トウトビやミニッツも微笑みながら会釈して、カップを差し出す。
「どうですか? 楽しんでます?」
「楽しんでるわよ。こう、女の子だけって機会も中々無かったからねぇ」
そう言って、微笑むマギさんだが、俺は内心、ここに男の人が一人居ますよー、と答える。
「そうだ。ユンくんも話に加わる。ちょうど、女子会らしいテーマで話をしようと思うのよ」
「女子会らしいテーマですか?」
俺は、小首を傾げながら、近くの椅子に腰掛けると、ミニッツが、人差し指を立てて、説明する。
「女子会と言えば、ズバリ、恋バナよ! 恋愛話をぶっちゃけるのよ!」
「こ、恋バナっ!?」
まさか、女子の内心を聞いてしまうなんて、あんまりそう言う話題に縁がないために動揺する俺にマギさんとミニッツは、ニヤニヤと笑う。
またトウトビも言葉には出さないが、期待の籠もったような視線を向けてくる。
「恋バナで動揺するってことは、やっぱりユンくんは好きな人がいるんだ」
「い、いませんよ! って、いうかやっぱりって何ですか!」
俺がマギさんに抗議の声を上げるが、空かさずミニッツが別方向から聞いてくる。
「ユンくんの好きな男子って言えば、タクくんでしょ? 幼馴染みって言うし、リアルで付き合ってるの?」
「付き合ってないし! 別に、好きじゃないから!」
俺が否定の言葉を出すが、ちょっと意外そうな顔をする。
「あれ? ホントに?」
「ホントも何も、ただの幼馴染みの腐れ縁です」
ついでに、俺は男! と内心叫び、マギさんとミニッツが困ったように苦笑を浮かべる。
「ありゃ、お姉さんたちの予想が外れた。ユンくんとタクくんはお似合いだと思うんだけどね」
「タクをパーティー内で見ている感じだと、恋愛したこと無いんじゃないかな?」
そんな風に好き勝手言うマギさんとミニッツに、俺はジト目を向ける。
「そもそも俺をダシに遊ばないで下さいよ」
「ごめん、ごめん」
「あはははっ、でもやっぱり気になるじゃん」
そう言って笑って誤魔化す二人。
「でも、タクって、女の子に人気あるんだよねぇ、結構……」
ポツリつ呟くミニッツの一言に、振り向く俺と無言で話に集中するトウトビ。
「マジ!? えっ、それってどういうこと?」
「タクは、OSOで友好関係広いから、たまに女の子プレイヤーの子が好きになる子もいるのよ。前に、クエストで困っている女の子を助けた時なんて、あれタクに一目惚れでしょ! ってことがあったわよね!」
タクと同じパーティーを組むミニッツの話に、そんなことがあったのか、と俺の知らないタクの一面を知る。
「へぇ、そんなことがあったのか」
「あったのよ。それも一度や二度じゃなかったわね」
そう呟くミニッツ。
俺は、タクに惚れた女子は、早めに諦めてもっといい出会いを探せるように祈る。
「タクは、確かに背はそこそこだし、黙っていればカッコイイ部類だと思うな。でも、リアルだと結構ズボラだし、宿題は俺のを見させてくれ、って頼んでくるし、食事だって栄養バランス考えないで適当だし」
俺がそう言うと、ニヤニヤと言うより、なんか甘すぎるものを食べた時のような表情でマギさんとミニッツがこちらを向いている。
(これ、なんというか。恋バナっていうよりユンくんの正妻力が強すぎね。さらりと惚気ているし)
(ほんと。タクに惚れた子の9割がユンくんとのツーショットを見て、諦めたくらいだからね)
なにやら、こそこそと二人で話しているマギさんとミニッツ。
なんか、ちょっと腹が立ったので、逆に意趣返しとして恋バナについて聞くことにした。
「そういうマギさんとミニッツは、どうなの? 恋愛って……」
「へっ? あたしたち?」
「そう。例えば、マギさんはクロードとβ時代から生産職仲間ですし、ミニッツは、結構ガンツとじゃれていると思うけど」
俺は、それぞれの傍にいる男性プレイヤーの名前を挙げるが、二人はいい笑みで笑う。
「あははっ、ないない。クロードとは生産職仲間で戦友ではあるけど、男としては見てないわよ。だって、変人だもの」
変人と言い切られるクロード。確かにコスプレ装備を持って迫ってくる時は、千年の恋も冷める気持ち悪さがある気がする。
「私もガンツは、パーティーメンバーだけど、恋愛対象外よ。見ている分には、アホなことして楽しいけどねぇ。まぁ出来の悪い弟みたいな感じかしら」
そう言い切るミニッツに、まぁ確かにガンツってたまにアホなことして見る分には楽しそうだよなぁ、と同意する。
「って、私たちは、恋バナしようとして提供できる話題がないわね」
「まぁ、私もマギさんもどっちかって言うと、女子にモテるタイプですし」
そう言って、何か傷を負ったのか、互いに慰め合うマギさんとミニッツ。
そして、俺やマギさん、ミニッツと話題を順番が巡り、静かに黙っていれば、逃れられると言うこともない。
「じゃあ、最後は、トウトビちゃんの恋バナでも聞こうかしら」
「……こ、恋バナ!?」
「ほらほら、お姉さんたちに話しちゃいなよ」
マギさんとミニッツがトウトビに聞く中で、トウトビは視線を彷徨わせ、いつもより言葉を選ぶのに時間を掛けて、話してくれる。
「……その、恋愛とか。私は、よくわからないです」
「うんうん。それで? 好きな人とかいるの?」
マギさんの質問に、首を横に振るトウトビ。
恥ずかしさで少し顔を赤くし、目元を潤ませている。
「トウトビ。恥ずかしいなら、無理に話さなくていいぞ」
俺がそう言うが、自分だけ恋バナを聞いて言わないのは、フェアじゃないと真面目に考えているのか、真剣にトウトビ自身の考えを口にする。
「その……あんまり、上手く話せないし、人見知りですけど。少女マンガみたいな、素敵な恋愛は、したい、です」
最後に消え入りそうな声で俯いて答えるトウトビにマギさんとミニッツが左右から抱き締める。
「うんうん。トウトビちゃんは、いい子だから素敵な恋愛ができると思うわ」
「そうよ! こんな良い子を見つけられない男子なんて、滅べば良いのよ!」
中々に過激なことをいうミニッツに苦笑を浮かべつつ、俺はトウトビが落ち着けるように特別にミルクティーを用意する。
「はい。これでも飲んで落ち着いて」
「……すみません」
まだ恥ずかしいのか、俯き加減でミルクティーを受け取るトウトビ。
「あー、恋バナトークって言っても、別にそこまで実りのある話が出なかったなぁ」
「そうですね。むしろ、私とマギさんの恋愛力の低さが露呈しちゃったわ」
なにやら嘆くマギさんとミニッツ。
「でも、まぁ、ユンくんとトウトビちゃんの可愛い反応見れたし、結果的に楽しめたかな」
「と、言うか、この手の話をできる人が居ないわね」
ニシシッと笑うマギさんに、同意しつつ、溜息を吐き出すミニッツ。
まぁOSOのプレイヤーなんて、ゲーマーか趣味人か凝り性な人が多くて恋愛なんて遠いように思う。
「はぁ、性格的には、ユンくんが男の子だったらなぁ。もしくは、私が男だったら」
「マギさん……」
俺は苦笑しつつ、だから、俺は男です、と内心思う。
「まぁ、恋に恋する乙女たちの恋バナって感じで悪くはないかな」
ミニッツによって、締めくくられた女子会の恋バナトーク。
結局、恋愛力の低さが露呈し、普通の談笑にシフトしていく。
俺もこのままここに入り浸りたい気持ちになるが、ホストとして他の所の様子も確かめるために、一言断りを入れて席を立つ。
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