3-1【アトリエール】で女子会
「ふ~ん、ふふっ、ふふ~」
俺は、鼻歌を歌いながら、オーブンストーブの中を覗き込む。
温められたオーブンの中には、ジャムを混ぜ込んだマフィンが少しずつ膨らみ初めていた。
「さて、オープンテラスも解放したし、お菓子もこれが焼ければ十分かなぁ」
俺は、この日のために毎日少しずつお菓子を用意していた。
手作りのクッキー、チーズケーキ、パウンドケーキ、チョコレート、ティラミス、ゼリー、チョコレートムース、マフィン、スコーン、ドーナツなどを用意し、それに合わせてクロードの【コムネスティー喫茶洋服店】でブレンドした紅茶を多数用意した。
店内に広がる甘い香りに、連日甘いお菓子の味見ができるリゥイとザクロは、そわそわしている。
そして、マフィンが焼き上がり、
「ユンお姉ちゃん、きたよ!」
「あっ、ミュウ。いらっしゃい。それにみんなも」
先頭に立つミュウを筆頭にミュウパーティーのルカート、ヒノ、トウトビ、リレイ、コハク。
「ユンくん、こんにちは」
「ミニッツとマミさんもいらっしゃい。楽しんで下さいね」
タクパーティーの回復役のミニッツと魔法使いのマミさん。
そして、少し時間をおいて、また別の一団も来た。
「やっほー。ユンくん。お招きありがとうね」
「マギさんもいらっしゃい」
「ユンくん、来たわよ」
「エミリさん、レティーア、ベル。それにライナたちも」
生産職のマギさんや【素材屋】のエミリさん、使役MOB使いのレティーアとその友人のケモモフ好きのベル。ライナとそのパーティーを組むフランとユカリが集まる。
「あとは……」
「そうだ。ユンお姉ちゃん、セイお姉ちゃんとミカヅチさんは今回不参加だって」
「了解」
見事なまでに【アトリエール】に俺の知り合いの女性プレイヤーたちが集まったのには理由がある。
それは、ミュウの一つのワガママが原因だ。
「いいなぁー! ユンお姉ちゃんばっかり、お茶会ズルい」
「ズルいって……好きにやれば良いだろ。ほら、クロードの店に行ってさぁ」
その日、ミュウとの世間話の中で、マギさんやリーリー、クロードと共に定期的に行なうお茶会の話をした。
基本的に、生産系プレイヤーとしての情報交換や互いの近状などを話し合ったりする場なのだが、ミュウとしてはお茶会のお菓子の方が楽しそうに見えたようだ。
「確かに、クロードさんのお店に行けば美味しいお菓子を食べられるけど! こう、秘密のお茶会! ってやつに憧れるの!」
「ええーっ」
そうだろうか、と思う俺だが、ミュウは、やろうやろう、と俺の体を揺さぶる。
「分かったよ。【アトリエール】に来たらお茶とお菓子くらい出してやるよ」
「それじゃあ、何時もの変わらないよ! そうだ! 女の子だけ集めた女子会なんてどうかな!? うん! いいかも! 男子禁制の秘密の女子会! 楽しそう!」
「ミュウ。俺は、男――『じゃあ、ユンお姉ちゃん。手伝ってね!』――行っちまった」
俺の話を聞かずに突っ走った結果、見事に俺の知り合いの女性プレイヤーが【アトリエール】に集まりお茶会をすることになった。
そして、今日――
「あ、このクッキーとこっちの紅茶、よく会う」
「ん~、この香りが良いですね。お替わりを頂けますか?」
「それでねぇ、その時はみんなで協力して何とか倒したのよ」
「うちの男連中ときたらねぇ、全然気が利かないのよ」
「あー、分かるわ。私の方も似たような感じよ」
好き勝手にグループに分かれる女子会の女性陣。
何故か、言い出したミュウなど早速楽しむ側に回り、俺は仕方がなくホストとして持てなす側に回った。
さて、誰の様子から見て回ろうか――
「ユンお姉ちゃん、こっち、こっち!」
「はいはい」
早速、ミュウの所に呼ばれたので俺は、そちらの方に向かえば、ミュウとヒノ。
それに、ライナとフランとユカリの六人がいた。
「ユンお姉ちゃん、ライナちゃんたち大分強くなってるね!」
「そそそ、そんな! 私たちより遙かに上のプレイヤーのミュウさんに比べれば、全然私たちなんて!」
褒めるミュウと謙遜するライナたち。
確かにミュウは、OSOの最前線をひた走るプレイヤーだ。
対するライナは、後発組であり、また最前線並とは行かないがそこそこ強くなっている。
「ど、どうしたら。ミュウさんたちみたいな格好良く戦えるんですか!」
「そうですわ。聞きたいですわ」
そんな真剣な視線を向けるライナとフランの視線を受けてちょっと嬉しそうなミュウとヒノ。
「えっとね。カッコイイってのは、抽象的かなぁ」
ライナとフランの質問にミュウは、苦笑を浮かべながら答える。
「まぁ、私たちの教えられることは、教えるよ」
「そうだね。ボクたちが通ってきた道だもん。教えられるよ」
「じゃ、じゃあ、――」
そうして始まるライナとフランの質問にミュウとヒノが答えていく。
内容は、所持センスに関する相談や現在攻略中のボスMOBに関してだ。
センスは、実際にライナとフランの物を見つつ、現在の攻略フィールドやエリアなどと比較して新規に取得すると有利に働くものや相互作用で効果が高まるセンスなどを教えてる。
「はぁ~、凄いですね。ミュウさんとヒノさん」
「だなぁ。俺は、ミュウとヒノの言葉が早すぎて、理解が追い付かない」
「私もです」
俺とユカリは、お茶のお替わりを飲みながら、四人の様子を眺める。
多分、もう少しゆっくり説明したら、俺もユカリも理解できるだろう。
ミュウもヒノもOSOの最古参と言っていいので、ゲームのことを隅々まで調べ上げているのだ。
その中に混じる有用な情報や様々な情報を精査して、自身の考察を生き生きと語るミュウとヒノを、よく喋れるなぁと感心しながら、二人に喉を潤すためのお茶を差し入れる。
「ほら、喋りすぎて、喉渇いてないか?」
「あっ! ユンお姉ちゃん、ありがとう!」
「ユンさん、ありがとう」
俺が差し入れたお茶に合うお菓子も食べ、嬉しそうにするミュウとヒノ。
対して、OSOの情報の詰め込みが行なわれたライナとフランは、若干辛そうにしている。
「……二人は大丈夫か?」
「大丈夫。でも、途中から話の半分くらいしか理解できなかった」
そう言って、疲れた頭に甘みを、とお菓子をパクパクと口にするライナと上品に食べるフラン。
「わぁっ、その飲み方、綺麗だね!」
「えっ!? わたくしですの?」
「うん! フランちゃんの髪型と合わせると、なんか様になってるよね」
確かに、金髪ドリルな髪型で綺麗な所作でお茶とお菓子を食べる姿は、派手さはあるがお嬢様っぽくも見える。
そんなところを褒められて、気恥ずかしそうに小さくなるフランとそれを羨ましがるライナ。そして、それを窘めるユカリに俺も小さく笑う。
「よかった。お茶会を楽しんでもらえて」
俺は、そっとミュウたちの集まりから離れて、今度は別の集まりの様子を見に行くのだった。
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