2-3
屋台祭りのメインステージ前には、長椅子が用意されており、その一角の座席を確保して座る。
「レティーアさんが出るの楽しみだね」
「確か、大食いの部門に参加するのよね」
ジュースを買い、軽く摘まめるお菓子を持って、ステージを見上げる俺たち。
そして、時間となり、ステージには、司会進行の男女のプレイヤーが姿を現わす。
『先程の早食い部門では、中々に熱い勝負が見られました!』
『そうですね。早食い部門では、予選10グループ、飛び込み予選、本戦、決勝戦と様々な戦いが見られました! 早食い一回の戦いは短時間でしたが、それでも多くの戦い、多くの名場面が生まれましたね!』
『それとは変わって、今度は、大食い部門。予選のようなものはなく、事前に申請された参加者がこちらの用意したメニューを規定時間以内にクリアすることで参加券が得られる仕組みです』
いよいよ始まる大食い大会の説明に俺たちは、耳を傾ける。
『そうした参加券の得られたプレイヤー9名による大食い大会のルールを説明しましょう』
『まず、大食いは、時間制限1時間の間にどれだけ多くのメニューを完食できるかで勝負が決まります。また、全メニューは30種あり、30種全てをいち早く食べ終えたプレイヤーは、無条件で優勝となります!』
そして、司会のプレイヤーが30種のメニューのスクショが載ったパネルを掲げ、それを会場に集まったプレイヤーたちが見上げる。
「あんかけチャーハン美味しそう。後で食べに行こう」
「僕は……あのカルボナーラ、美味しそう」
「あら、デザートもあるのですわね」
「あのデザートのアイス。さっき見ました。オプションで最中とかウエハースとか付けてくれる場所ですよ」
ライナとアルは、メニューを見て、後で食べるものを吟味し、フランとユカリは、デザート系のメニューに注視している。
ここに登場したメニューは、屋台の新作メニューとしても売りに出されるので、後で購入して、好きなメニューを楽しんだり、全種揃えて大食い大会を再現してもいい。
「どれも美味しそうね。ユンくんは、どう思う?」
「うーん。出てくる順番的に、最初は、軽めの物から途中で重めの料理に変わってるから、大食いで止まるとすれば、ガッツリ系メニューあたりかなぁ」
「いや、私が聞きたいのは、そういうことじゃ……」
俺の返答にエミリさんが困ったように笑うので、俺は冗談だよ、と答える。
「俺は、山菜そばが美味しそうだと思ったから後でそれを買いにいくつもり」
「なるほどね。私は、フィッシュバーガーにしようかしら」
俺とエミリさんは、ライナとアルほどガッツリではなく、軽めのメニューを後で食べに行くことに決めた。
そして――
『それでは、選手9人の入場です!』
『男性プレイヤー8人、女性プレイヤー1人の中で、どのような激闘が繰り広げられるのでしょうか!』
呼び出された選手たちは、中々に体格や恰幅の良さそうなプレイヤーたちがステージを上に集まる。
その中で目を引くのは、一人華奢な体に特徴的なエルフ耳を持つ少女・レティーアがいた。
その手には、どら焼きを持って――
「レティーア、なにをやってるんだ」
俺は、額に手を当てて溜息を吐き出す中、早速司会の女性プレイヤーがレティーアにインタビューする。
『おっと……大食い勝負の前からオヤツを手にするレティーア選手! これは、他の選手への挑発行動でしょうか!』
『はむはむ……このどらやき、生地と中のこしあんの甘さが程よくて美味しいです。あと、あんこの中に小さなお餅が入っているのでモチモチ食感が味わえて美味しいです』
『おーっと、タダの食レポだった! 本当に大丈夫か!』
会場で爆笑の渦が巻き起こる中、会場の一角では、そのどら焼きを作った屋台プレイヤーがおり――『宣伝ありがとー!』とステージに声を投げかける場面がある。
俺とエミリさんは、恥ずかしさから俯き、ライナとアルたちは、長くレティーアと行動を共にしているので予想できたのか、やっぱり、と言った視線を送ってる。
「大丈夫か? 他の選手が、妙に殺気立ってるぞ」
「レティーアさんは、気にしないだろうし……司会の人がなんとかしてくれるはずよ、多分」
ライナは、俺の疑問に視線を合わせずに答えるが、その内容はやや他力本願的である。
『それでは、他の選手にもインタビューをして意気込みを聞いていきましょう!』
そうして司会の人は、会場の雰囲気が緩みすぎているのを感じ、素早く闘争心に溢れた大食いプレイヤーたちにもインタビューをする。
そのプレイヤーたちは、何をどれだけ多く食べられる、という自己アピールや、【食い溜め】センスという満腹度の上限100%を超えることができるセンスのレベルを説明して会場で歓声が沸き起こる。
だが――
「えっ? それでレティーアさんと張り合うの?」
「レティーアさんのステータスを見せて貰ったけど、確か【食い溜め】センスのレベルって……」
「レベル50を超えてましたわ」
「その前に、上位センスも取得してませんでしたっけ? 【食吸収】ってセンス」
ひそひそとレティーアについて話すライナたち四人の言葉が聞こえた俺とエミリさんは、表情が引き攣る。
「なにそれ、怖い」
「なんて、言うか。伊達に普段から食べ続けていないよな」
そんな感じで、期待半分不安半分な気持ちで大食い大会を見上げている。
そして――
『それでは、この大食い大会の優勝者には、優勝賞金300万Gが進呈されます! さて、全員に最初のメニューが配られました! それでは準備はいいですか?』
全員がテーブルに置かれた三食サンドイッチを前に、準備を整える。
『それでは制限時間1時間。――スタートです!』
ブザー音と共にタイマーがカウントを始め、多くのプレイヤーが勢いよく目の前のサンドイッチを口に詰め込んでいく。
その食べ方は、早食いに通じるところがあり、もう少し上品に食べないものか、と思う一方――
『これは美味しいですね。甘めの薄焼き卵、好きですよ』
『おっと、レティーア選手、ここで食レポだぁ!』
「レティーア。大食い大会って分かっているのか?」
「ただ、沢山食べられるから出ているだけじゃないでしょうね」
俺とエミリさんが共に頭痛を堪えるように呟き見守る。
『まさかのどら焼きと共に登場した選手が最下位だぁ!』
『トップは、一番体格が優れているウッディー選手! 猛烈な勢いで3皿目に突入だぁ!』
司会の二人は、既にトップの選手の解説に移り、他の選手がトップの選手を横目に勢いよく食べる。
それでも俺たちは、レティーアを注視し続ける。
しっかりと味わうように食べるために他の選手よりも上品に食べている。
また、他の選手が勢いよく詰め込み、次のメニューを受け取っているために遅いように感じるが、レティーアは一定のリズムで食べていることに気づく。
『これも美味しいですね。ただ、ちょっとソースの味が濃いですね』
一つ一つ料理の感想を口にしながら、一定のリズムで食べ続ける。
その姿は、焦りもなく、気負いもなく、ただ淡々と料理を食べるレティーア。
そして、状況が動くのは10皿目に突入した頃である。
モンスター・ファクトリー3巻が3月20日に発売し、Web版モンスター・ファクトリー第4章も毎日投稿しております。
是非、そちらもお時間があれば見て頂けたらと思います。









