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「ユンさん? ほんとに、ボクが大きな姿になれるんですか?」
「まぁ、心配なのはわかるけど、とりあえず信じてもらうしかないかな」
十数分の夢のような時間を提供する俺は、ヒノを連れたミュウたちが来るのを【アトリエール】で待つ。
「ユンお姉ちゃん! 面白そうなこと、私にもやらせて!」
「ヒノさんの成長した姿ですか、楽しみですね」
「……わくわくします」
「ふふふっ、私は若返りのポーションを使いたいですね。幼女になってお姉様方の警戒心を解き、お近づきになりたいです」
「うちはあんまり気乗りしないわ。こんなイタズラに使えそうなポーション」
ミュウやルカート、トウトビは、ヒノの成長した姿を楽しみにし、リレイは、若返りの赤い【年齢偽証薬】の方が気になるようだ。
その中で、コハクは、心配そうな立ち位置を取りながら、リレイがワルさしないように見張っている。
「まぁまぁ、それじゃあ、先にお茶とお菓子を用意するな」
俺は、NPCのキョウコさんと一緒にミュウたちの前にお茶とお菓子を用意する。
そして、全員が軽く落ち着いたところで本題に入る。
「それじゃあ、とりあえずヒノの成長した姿の見る、っていうけど、これはあくまでも予想した姿だから。そこは、忘れないでくれ」
「「「はーい」」」
全員から元気のいい返事が返ってきたところで、俺は実際に【年齢偽証薬】を取り出す。
「この青いポーションが加齢のポーション。それでこの赤いのが若返りのポーション。赤いのは、前にも見たことあるよな」
実際に、俺が偶然で生み出し、事故で使ったことのあるポーションなので、全員頷く。
「使う時は、飲んでもいいし、振りかけてもいい。ただ、変化する年齢が大きいほど、効果時間は短い。最大で10歳の変化だ」
全員が、どのくらい成長してみたいか、など話を聞いてから使っていくつもりだ。
「ヒノは、4、5年くらいで良いんだったかな?」
「うん。ボクは、そのくらい大きくならないとあんまり実感できないかも」
そうなるとミュウパーティーの全員の今の年齢よりちょっと上になるということだ。
「それに、ボクもお姉さんってのにはちょっと憧れみたいなものもあるから」
えへへっ、とチャームポイントの八重歯を見せながら恥ずかしそうに笑うヒノに俺たちは微笑ましそうに見つめる。
「じゃあ、比較用にスクショ撮ろうか!」
「そうだね。そのあと、この青いポーションを飲めば良いんだよね!」
「ああ、他にも髪型を変えてみたいなら、【増毛薬】もあるから色々できるぞ」
そう言って、早速、ヒノは青の【年齢偽証薬】を飲む。
「うわっ、なになに!?」
すると体から白い靄が立ち込め、ヒノの体を覆い尽くす。
そして、しばらくすると、靄が晴れ、その中から成長したヒノの姿が現れる。
「えっと……なんか、視線がちょっと高くなってるかな? みんなはどう?」
小首を傾げて、困ったように笑うヒノに俺は事前に用意していた姿見を運ぶ。
「それは、自分で確かめた方がいいだろ。ほら」
「えっと、これが、ボク? なんか、その、あんまり変わってない気がする」
多分、17か18歳くらいの姿のヒノは、俺と同じか少し年上くらいに成長した。
だが、身長は、俺の目線より低くやはり小柄である。それでも――
「うわぁ! ヒノちゃん、くびれができてるよ! 体型が女の子らしくなってる!」
「ふふふっ、そうですね。子どもらしいロリ体型からスレンダー体型と表現できるくらいに変わりましたね」
的確に指摘するミュウと妖しく表現するリレイに、ヒノが微苦笑を浮かべる。
実際、身長は少し伸び、手足もすらりとなって、腰にくびれが生まれている。
ヒノは、元気な子どもから快活な少女に変身している。
「ボクは、もうちょっと大人っぽくなりたいけど、このままだとやっぱり子どもだよ!」
「ヒノは、快活な印象を与えるからそのままでもいいと思うけど、ちょっとした工夫でいくらでも大人っぽくなれるぞ」
例えば、身長が足りないなら、これを履く、と呟きながら事前にクロードから借りているヒール付きのブーツを取り出し履かせて立たせてみる。
「ヒール付きのブーツなら、背が高く見られるぞ」
「あっ、ほんとだ。ユンさんと目線が近くなった。……でも、これで立ち続けるの辛い」
ヒールを履く時は、使う筋肉が違うので、ヒノがプルプルと震えて、ミュウの手を借りて立ち続ける。
「他にも、うーん。例えば、これを使うと」
俺は、【増毛薬】を染み込ませたヘアブラシを取り出し、ヒノの髪の毛を軽く梳く。
それに合わせて、ショートボブだった髪の毛が一気にヘアブラシの動きに合わせて、成長し、肩甲骨辺りまで一気に伸びるのだ。
「ほら、これで印象が大分変わった。あとは、控えめに笑えば」
「えっ、嘘! たったこれだけで!?」
快活そうなヒノは、足りない身長をヒールで補い、髪の毛を伸ばせば、清楚な少女のようにも見える。
「後は、髪型次第で印象とかもがらりと変わるかな?」
例えば、と俺が【調薬】センスで作ったクリームをベースとしたヘアワックスで上手い具合に長くした髪の毛の毛先をカールさせて、ゆるふわ系の印象を演出する。
「うん。ヒノのクリーム色の明るい色だと、こういった感じだと大人っぽく感じる」
快活な太陽のような印象のヒノは、たったそれだけの髪型を変えるだけで、春の日差しのような柔らかくて暖かみのある印象を与えてくる。
「うわぁ、凄い。これがボク?」
「どうだ? これで将来に自信が付いたか?」
「はい、ありがとうございます。でも、ちょっとなんだか、落ち着かないかな」
にへらっと困ったように笑い、八重歯が覗くヒノは、やっぱり少し嬉しそうだ。
そして、ミュウたちも加わり――
「すごーい! ヒノちゃん、すごい印象変わった! ねぇねぇ、色んな髪型試させてよ」
「その前に、スクリーンショットを残しておきましょう」
「……可愛いヒノさんが綺麗になりましたね」
ミュウ、ルカート、トウトビが早速ヒノを着せ替え人形っぽくしようとする。
そして、リレイとコハクは、俺に声を掛けてくる。
「ふふふっ、ユンさん、私たちの分の【年齢偽証薬】も下さいな。ちょっとヒノさんをみていたら、幼くなって、あの体に甘えたい気になりました」
「あんた、煩悩ダダ漏れや無いか。まぁ、うちも変身は、してみたいかな」
「ああ、まぁ、【アトリエール】は、閉めておくから好きに楽しむと良いよ」
そうして俺は、【アトリエール】を閉店にして、ミュウたちが【年齢偽証薬】や【増毛薬】などを使い、互いに着せ替え人形状態にして楽しみ始める。
俺は、これは長くなりそうだ、と思いながら、そっと抜け出し、【アトリエール】の工房部でお菓子作りでもしていた。
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