1-2【第三の町の錬金術師NPC:燐魂鉱石から根源体】
「はーい、どちら様ですか?」
錬金術師NPCの家をノックすると中から男性の返事が聞こえ、扉が開く。
そこから現れたのは、恰幅のいい眼鏡をかけた男性だった。
どこか研究者っぽいが清潔そうな見た目と柔和そうな表情の男性が錬金術師NPCだろうか。
「すみません。ここは錬金術師の家、ですか?」
「はい。そうですよ、先生、お客さんですよ!」
目の前の男性NPCが家の奥の方に向かって声を掛けると、薄暗い奥の部屋から一人の老人が杖を突いて出てくる。
曲がった腰とサイズの合わない大きな白衣、偏屈そうに顔を歪めた小柄な老人だ。
「先生。お客さんですよ」
「聞こえとるわ! 助手のお主は、茶の用意をするんじゃ!」
そう言って、大柄な助手NPCに指示を出し、こちらをジロリと睨まれる。
俺よりも頭一つ分小さく、更に腰が曲がっている小さな老人なのに、迫力がある。
「ふむ。弟子入りか? それとも、ワシらに何か依頼かの? まぁよい、奥に入りなされ」
そう言って、偏屈そうな表情を変えずに、杖を突きながら、家の応接間らしき場所に案内する。
【錬金】センス関連のクエストも受けることができ、クリアすれば弟子扱いされるようになるらしい。
弟子になれば、奥の工房や技術を教えてくれるらしいが、今回はそちらの用ではなく、アイテムの交換だ。
「改めて聞こうか、お嬢さん。わしらになんのようじゃ?」
「えっと……アイテムの交換を」
「ふむ。交換か。確かに、錬金術は、物質の分解と再構成じゃからある意味、アイテムの交換とも言えるのう」
そう言って、自慢げに錬金術について語り始める錬金術師の老人。
錬金術の等価交換やその等価交換の際の消失分、また錬金術の可能性などについては、【錬金】センスの非効率さと符合する点が多い。
そんな話に相槌を打ちながら聞いているが、一緒に家の中に付いて来たリゥイとザクロは、話が詰まらないのか部屋の隅で眠り始めた。
「――じゃから錬金術の最終目的は、命の研究なのじゃ。その過程に鉛を貴金属に変える研究や人工生命、復活方法の確立があるんじゃ!」
「先生、お客さんが呆れてしまいますよ」
「なんじゃい。折角、ワシが語っておるのに、邪魔しおって」
一度、台所の方でお茶を用意していた助手のNPCがニコニコしながら、錬金術師の老人の一人語りを止める。
気持ち良く錬金術について語れたのに邪魔されて不貞腐れる老人は、最初に睨んできた時よりも大分子供っぽく感じる。
そして、助手の男性からお茶を受け取ると、カップを両手で支えて、舌を火傷しないように息を吹きかけて冷ましている。
(ちっちゃいお爺さん……かわいいかも)
個人的には、ダンディーな髭の紳士に憧れるが、こういうちっちゃいお爺さんでほっこりするのも悪くないのかもしれない。
そう思いながら、俺も助手のNPCからお茶を受け取り、一段落したところで話を切り出す。
「今回来たのは、これをお願いしたいです」
「むぅ!? これは――【燐魂鉱石】か!」
「間違いないです。先生! では、このお嬢さんは、私たちの依頼を受けに来たんですね!」
「お嬢さん。これを譲ってくださっていいんじゃな……」
「えっと……はい。お願いします」
真剣な表情の錬金術師の老人の顔に、俺は頷く。
依頼については知らないが、どこかでクエストを受注できる張り紙でもあったのかもしれない。
たった今、メニューのクエスト受注欄に【お遣い系クエスト】の受注と達成が同時に発生していた。
「ふははっ! 任された! 儂は、工房に籠るぞ! 助手よ!」
そう言って、俺が渡した10個の【燐魂鉱石】を持ち、工房に杖を突きながら向かう錬金術師の老人。
後に残された俺は、助手のNPCに助けを求めるように視線を向けると苦笑いを浮かべながら、教えてくれる。
「先生の専門は、生命や魂の研究。私の研究は、金属の研究をしているのです。そして、その二つの条件を満たした特殊な金属が【燐魂鉱石】なのですよ」
そう言って、助手NPCの話に耳を傾ける。
「今、先生は、【燐魂鉱石】を分解し、魂の要素と鉱石としての要素。そして、その他の要素に分けているのです」
「魂と鉱石とその他……」
「はい。先生が魂の要素。私が鉱石の要素。そして、あなたには、残りの要素を再構成して作ったものを渡します」
そう言って、残りの要素で再構成するものについて深く聞こうと思った俺だがその前に工房から錬金術師の老人NPCが出てくる。
「ほれ、これが依頼の報酬じゃ……とは言え、元々お嬢さんのものじゃから技術料みたいな物しかないがな」
そう言って、10個の【燐魂鉱石】から抽出された残りの要素とやらが2本のガラスの小瓶に分けられていた。
「これは、【根源体】という物質じゃ。鉱石5個でガラスの小瓶1本分になった」
「これが次のわらしべイベントに繋がるアイテム……」
「さて、それを持って行きなされ。儂はこれから魂の研究をせにゃならんからの」
「あっ! 先生、ずるいですよ! 工房の機材を独占しないでください! 私も金属の研究したいんですから!」
そう言って、騒ぎ始める小さな錬金術師のお爺さんとその恰幅のいい助手の男性NPCの様子を見て、小さく笑ってから席を立ち、錬金術師の家を発つ。
「リゥイ、ザクロ。ここからちょっと大変な道のりらしいから、リゥイにはお願いするよ。――【成獣化】!」
俺は、幼獣状態で付いて来たリゥイに【成獣化】のEXスキルを使い、成獣状態に戻す。
立派な一角獣としての姿を見せるリゥイの首筋を一撫でて気持ち良さそうにする。
俺は、ザクロがフードの中に入り込むのを確認して、リゥイに騎乗する。
「さて、次の場所に向かうか! 第一の町を北側に進むぞ!」
俺は、最初ゆっくりとリゥイを走らせて、今度は、第一の町と第三の町を繋ぐ通りをリゥイに走ってもらい、北の森を目指していく。
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