1-1【薬草のわらしべ長者:薬草から燐魂鉱石へ】
――わらしべ長者。
それは、一本の藁を様々なものと交換し、最終的に一軒の家を手に入れるお話。
ゲームの中でも、わらしべイベントと呼ばれるものが存在し、低レアリティーのアイテムを交換し続けることで最終的にレアなアイテムと交換できるというものだ。
そして俺は今、そのわらしべイベントに挑戦しようとしている。
「とは言っても、別にそんなに壮大な話じゃないんだけどなぁ」
「ユンさん、どうかされました?」
「いや、なんでもないよ。キョウコさん」
麦藁帽子を被り、ミスリル製のジョウロで畑に水遣りをするキョウコさんに答えながら【アトリエール】の裏手にある薬草畑からぷちぷちと薬草を引き抜き、インベントリに次々と仕舞い込んでいく。
多分、この作業で薬草50個以上集めた。
そして、薬草の採取が終わり、キョウコさんの畑仕事を手伝い終えた頃、【アトリエール】の裏口からリゥイとザクロが姿を現し、駆けてくる。
「おっ!? もう待ちきれないのか? 仕方がないなぁ。それじゃあ行くか」
幼獣の姿のまま早く行こうと服の裾を咥えて引っ張るリゥイと嬉しそうに三尾の尻尾をブンブンと振るザクロの姿を見て、微苦笑を浮かべつつほっこりと癒される。
今回のわらしべイベントへの挑戦だが、本命は、ただのリゥイとザクロとの散歩だ。
普段とちょっと変わった目的を持った散策の意味も込めたわらしべイベントだ。
そして、早速第一の町の南門から抜けて、俺が散策しなれた場所に向かう。
「……湿地帯。ウィスプたちがいるかなぁ」
火の玉のMOBであるウィル・オ・ウィスプを探しに湿地帯を歩いていく俺たち。
時折、踏むぬかるんだ地面にザクロが嵌るとリゥイが咥えて引き抜かれる。
また散策のために歩いた場所を振り返れば、俺やリゥイ、ザクロの足跡が地面に残っており、リゥイの綺麗な蹄の形やザクロの可愛い足跡を見て、小さく笑う。
しばらく、寄り道として湿地帯の採取ポイントで更に薬草を採取し、採掘ポイントでも鉱石などのアイテムを集めていくと、ウィスプの集まるセーフティーエリアを見つける。
「よし、おーい。薬草あるから食べるか~」
俺がノンアクティブなMOBであるウィスプたちに近づき、薬草の束を掲げると、ふわりふわりと薬草に吸い寄せられるように近づき、俺の腕に集まる。
大量の火の玉が集まり、見た目は熱そうに見えるが、敵対状態ではないウィスプに触れても熱くない。
たまに、面白プレイとして、全身に薬草を張り付けて、体中にウィスプをくっ付けて全身炎上、とかやる人がいる。
そんなどうでもいいことを考えているとウィスプたちは、器用に薬草の束から一枚ずつ体内に取り込んで離れては別のウィスプたちが近寄って、また一枚体内に取り込んでいく。
体内に取り込んだ薬草は、ウィスプに消化されて消えるが、食べ終えたウィスプたちは、俺の前に近寄ると、ぺっと可愛らしく吐き出すようにMOB由来のアイテムを地面に落としていく。
その殆どが、燐魂結晶であるが、極稀に交換されるアイテムが目当ての――【燐魂鉱石】が混じっていた。
俺は、次々と吐き出して積み上げるアイテムの山を見ながら、ウィスプたちが満足して湿地帯に散っていくのを見送り、ほっと落ち着いたところで【燐魂結晶】と【燐魂鉱石】を拾い集める。
その時、リゥイとザクロも咥えて、拾い集めるのを手伝ってもらい、その後セーフティーエリアでアイテムを確認する。
「【燐魂結晶】が48個。【燐魂鉱石】が10個かぁ。まぁまぁかな」
これでアクセサリー作りのインゴットが2個分確保できるが、その殆どは、次のわらしべイベントで交換するつもりだ。
「まぁ、わらしべイベントって言ってもクエストがあるわけじゃないんだけどなぁ」
実は、俺のやっているわらしべイベントは、正式な連鎖クエストではないのだ。
偶然か、意図的なのか、必要なアイテムを欲するMOBやNPCがOSOの各地に単発クエストとして存在していたり、クエスト関係なく要求したりすることがある。
そうした状況がただ連鎖的に繋がっているだけなのだ。
そして、正式なクエストではないから途中で飛ばしても問題ない。
実際に、このウィル・オ・ウィスプに薬草を上げて、【燐魂鉱石】に貰う行動も露店で【燐魂鉱石】を購入してショートカットもできるし、別に湿地帯のウィスプではなく、レティーアの使役MOBのウィスプに薬草を食べさせて、吐き出した物を貰っても問題ない。
次のアイテム交換先に渡すアイテムを確保できればいいのだ。
だから、こうやって湿地帯に出向いて薬草を食べさせて貰うのは、割と非効率な部類だが、趣味だから仕方がない。
「さて、とりあえず十分な量の燐魂鉱石が集まったし、次の場所に行くか」
俺はそう言って、次の場所である第三の町に向かって歩き出す。
その途中、採取ポイントや採掘ポイントを巡り、ちょっといいアングルの景色をスクリーンショットに納めながら、のんびりと移動する。
ちょっとリゥイが幼獣のまま散歩するのが不満なのか、こちらに頭を擦り付けるようにして不満を漏らすが、もうちょっと待ってほしい。
成獣化して満足いくまで走らせることができる場所があることを伝えて宥める。
そして、そうこうしている内に、第三の町に辿り着き、ある場所に向かう。
「えっと……たしか錬金術師NPCの家だったか?」
【錬金】系のセンスに関するNPCのいる家が次なるわらしべイベントの相手である。
【素材屋】のエミリさんに教えて貰った場所で俺自身は初めてくる場所であるために、若干の期待と不安を抱きつつ、錬金術師NPCの家をノックした。
ゴールデンウィークの長期休暇に合わせたOSOの短編です。どうぞ、お楽しみください。
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