Sense334
OSOの今後の展開についての説明文が同時投稿されております。
ご注意ください
ミュウが巨大な光の剣を振り回して作り出した頭上の安全によって無事に異次元の魔女城から脱出することができた。
「これで――」
終わりだ、と呟こうとした矢先に、目の前に飛び出して来たマギさんに抱き締められ言葉を紡ぐことができなかった。
「ユンくんのお馬鹿! 一人で危ない場所に戻るなんて!」
「ぷはっ、マ、マギさん、苦し……」
胸に顔を押し付けられて苦しさに悶えるが、抵抗するほど締め付けが強くなるために逆に抵抗を弱めると締め付けも弱くなる。
恥ずかしさに顔が赤くなるのを感じる中、マギさんの背後に立っていたリーリーとクロードも一歩踏み出して来る。
「ユンっち、怪我はなさそうだね。よかった……」
「リーリー、心配かけてごめん」
マギさんの締め付けは緩まったが、それでも俺を逃がさないと後ろから抱き抱えるようにしてくっ付いてくるので引き離せない。
そんな状況でリーリーに素直に目を伏せて謝り、再び二人の顔を見ると、目の前にクロードの手が近づき――
――ピシッ!
「あ、痛っ!? デコピン!」
マギさんに後ろから抱き付かれて逃げられない俺の額をクロードのデコピンが当たり、快音が響く。
見た目ほど痛みはないが、それでも音と突然のことに思わず声を上げてしまう。
「少しは反省しろ。確かに効率優先で考えるなら俺たちを脱出させるのは正しいが、だからと言って一人で戻る必要はないだろう」
「うっ……」
「一度脱出して戻って来るまで三分、いや、一分でも待てば、手伝えたぞ」
そう言って、淡々と理詰めの正論で俺を怒るクロード。確かに、あの時は気が動転していてそういうことに気が付かなかった。
だけど、言い訳をさせてもらえるなら言いたい。
「けど、折角無事に脱出できたのにわざわざ崩壊して死に戻りする危険のある場所に戻る必要はないだろ?」
「死に戻りが怖くてゲームなどやってられるか」
今度は呆れたような溜息を吐き出すクロード。
まぁ結局、独りよがりな考えで危ない場所に戻って俺を探しに来たセイ姉ぇやタクも危険な目に合わせてしまった、と反省する。
だが、そんな余計な危険のリスクを負わせてしまったセイ姉ぇとタクは、楽しそうに微笑んでいた。
「嬉しかったわ。マギちゃんたちに助けを求められた時は、驚いたけど、一人でなんでもやろうとしちゃうユンちゃんを助けることができて」
「まぁ、たまにはユンに振り回されるのも悪くはなかったな」
そう言う二人の言葉を聞いて、恥ずかしくなって俯く。
そして、恥ずかしさを誤魔化すように話題を変える。
「そう言えば、さっきのアレはなんなんだ? ミュウの持ってた剣」
今、ミュウは巨大な光の剣を振り抜いた後で幅広の両手剣をぶんぶん振り回して素振りを繰り返す。
あの一撃に満足がいかないのか納得いくまで剣を振るい続けている。
「そう言えば、あれは凄かったわね。私たち魔法使いの広範囲殲滅魔法に匹敵する威力よね」
「あれは凄かったな。まさにロボット物に出てくる斬艦刀みたいだった」
感心するセイ姉ぇとタクを他所に、俺に抱き付いていたマギさんがそっと離れて視線を泳がしている。
「えっと……まぁ、何と言うか。ユンくんを無事に脱出させうために作ったロマン装備をミュウちゃんに上げたら予想以上の効果になったと言うか……」
「あの剣を作ったのはマギさんなんですか?」
「うん。まぁ、今回の攻城戦イベで対軍用武器とかできないかなぁ、と思って手に入れたばかりのイシルディン金属で鍛えた両手剣に【斬撃強化】とか【攻撃範囲強化】【スキル範囲拡大】とかの追加効果を盛り込んだものをミュウちゃんが使ったら……ね」
最後に可愛らしく、ね、と言われてもそれによって生み出された光景が自分に向けられた時を想像して恐ろしかった。
剣に魔法を込める《マジックソード》のスキルを事前使用した攻撃は、追加効果により通常よりも攻撃範囲が広がり、広範囲を薙ぎ払う飛ぶ斬撃を次々と生み出す。
また、剣に込められた極太の収束光線を解放しつつも【範囲拡大】の追加効果の恩恵を受けつつ振るわれる攻撃はもはや斬撃というよりも宇宙戦艦のビーム兵器のような一撃である。
話を聞く限り、高レベルの魔法センスやスキルを有しつつ、武器センスも両方鍛える魔法剣士スタイルのプレイヤーに限定されている。
また、マギさんの作ったロマン装備の追加効果のデメリットとして、装備中のスキル使用時のMP消費量と待機時間の延長がされるようになったので短時間に連続で使えるようなものではない。
「普通に使う分には、ただの斬撃範囲が強化されて回避しようとしても直前で見えない斬撃が伸びるような特殊対人用武器なんだけどねぇ……」
普通に振るう分には、十センチ分の見えない斬撃が伸び、紙一重で避けたら確実に切り裂かれるという種類の武器だが、ミュウとのセンスの相性が良過ぎようだ。
困ったように乾いた笑みを浮かべるマギさんに俺は、額を抑える。
「またミュウに新たな伝説が生まれるのか……」
今度は城をぶった切る、海をかち割る、とかって話が出るんだろうなぁ、と内心遠い目をしながらも幅広の両手剣を素振りしているミュウを見つめていると、俺の視線に気が付いたのか屈託ない笑みを浮かべて手を振っている。
「まぁ、俺が無事に脱出できたんだからいいか」
そう言って、振り返った崩壊を続ける異次元の魔女城は、徐々に内側の方に向けて崩れていくのが見えた。
周囲に飛び散る瓦礫も攻城戦の障害となった城壁に阻まれて外へと飛び出すことも少なく意外と静かに城の終焉を迎える。
舞い上がる粉塵の中には、プレイヤーが死に戻りを選択した時の光の粒子が見え隠れしたためにやっぱり脱出に失敗して逃げ遅れたプレイヤーがいたようだ。
今頃、第一の町の大聖堂や広場で復活していることだろう。
『――異次元の魔女城の崩壊が完了しました。これにて攻城戦イベントの全工程が終了します。イベント終了予定時刻までをインターバル期間とし、特別サーバーでの活動が続行可能です』
そんなアナウンスと共に、完全に崩落を終えて危機の無くなった魔女の城に突撃して取り残したアイテムを探し始める。
「行けない! 私もイシルディン金属の一部を探さないと!」
「俺も行こう! ダンジョン内では侵入不可能だった尖塔が潰れたんだ。そこに眠っていたアイテムが瓦礫に埋もれているかもしれん!」
「マギっち、クロっち、いってらっしゃ~い!」
他のプレイヤーたちと同じように駆け出すマギさんとクロードをリーリーがにこやかに送り出し、残された俺は、リーリーと顔を見合わせてからセイ姉ぇ、タクに目を向ける。
ちなみに、ミュウは、ルカートたちパーティーメンバーを引き連れて瓦礫の探索に向かって既にいない。
「まぁ、とりあえず帰りますか」
俺はこの場に残る全員に声を掛けて、第一の町に戻り始める。
その時、ずっと無くさないように握っていた【幻想空間】のガラス球を確認し、インベントリに収納したことでやっと自分のものになったことに安堵を覚える。
その後、攻城戦イベントは無事に終わり、瓦礫の中から取り逃した素材だけではなく複数のユニークアイテムも発見された。
そして、俺が落とした【幻想空間】を拾う時にインベントリに回収したアイテム群の中にごく少数のユニークアイテムがあったが、こちらは、有用だが自分好みのアイテムではなかったので、欲しいプレイヤーの人とアイテムを交換した。
またそのアイテムが欲しいプレイヤーと交渉して更に交換という無限トレードを繰り返した結果、俺の手元には何故かデメリット持ちのユニークアイテムばかりが集まってしまった。
まぁ、一部は俺好みのアイテムでトレードを持ちかけられても交換しなかった物もあるが……
そして、通常サーバーに戻り、第一の町はイベントで受けた戦闘の被害がフィードバックされていた。
だが、それと同時に【戦後復興クエスト】と呼ばれる期間限定のクエストも発生していた。
「城壁だけじゃなくて個人のお店とかも復興の対象で良かったわね、ユンくん」
「そうですね。それにお店の店舗部を拡張したデザインをNPCに提出しておけば、無償で拡張デザインの方を作ってくれますし」
俺は、マギさんのお店である【オープン・セサミ】でマギさんと並んでカウンター側に立っていた。
確かに、攻城戦イベントで破壊された【アトリエール】の被害はフィードバックされたが、無償で再建される。だが、再建完了するまでお店としての機能が使えないためにこうしてマギさんのお店の一画や時折、露店でポーションなどのアイテムを売り捌いている。
「そう言えば、ユンくん。空の【幻想空間】をどうするの?」
「あー、あれですか。一応、成長させるつもりです」
意外なことだが、攻城戦イベントのEXダンジョンである目玉の【幻想空間】だが、フィールドタイプの設定から産出されるアイテムのレベルアップなど様々な成長要素があり、必要素材を投入することで段階的に【幻想空間】を成長させることができる。
だが、成長のための必要素材の多さに期待して手に入れたプレイヤーたちを落胆させ、更に幻想空間内のエリアに入り込むとイベントのように時間の倍率が3倍に引き延ばされているという情報に再びプレイヤーたちは歓喜し、速報で手離すことを決意した。
【幻想空間】内の時間の引き延ばしは、長期の大型イベントなどで使われた技術だが、【幻想空間】では、連続使用時間の制限、【幻想空間】内でのレベルアップや経験値の取得不可などの制限が多大に掛けられており、戦闘系のプレイヤーにとってはあまり旨味が少ない。
「まぁ、大手のギルドと個人プレイヤーの格差ってところなのかな」
「そうですね。セイ姉ぇのギルド【ヤオヨロズ】では、PVPの練習場として活用したり、市街地戦や色んなフィールドを想定して複数の【幻想空間】を育てるみたいですよ」
そんな話をしつつ、のんびりとイベント後の時間を過ごしていると――
「お姉ちゃん! ユンお姉ちゃん! 新しいクエスト発見したよ!」
「はぁ、ミュウ。そんなに大慌てで来るなよ。全く……」
俺は、深い溜息と共に【オープン・セサミ】に飛び込んでくるミュウに注意をするが、興奮しているミュウはそれらを無視する。
「新しいレイドクエストが発生したんだよ! だから、ユンお姉ちゃん。レイド用に大量のポーションをちょうだい!」
「マギさん、すみません。今日はこれで上がりますね」
「うん、ユンくんお疲れ様。それじゃあね!」
俺はマギさんに挨拶をして、ミュウに手を引かれて【アトリエール】に駆けていく。
これからミュウたちがレイドボスに挑むために必要なポーションを用意する必要がある。
俺のOSOの生産生活は終わらず、こうして戦闘職のミュウたちをサポートするために奔走するのだった。
ステータス――
NAME:ユン
武器:黒乙女の長弓、ヴォルフ司令官の長弓
副武器:マギさんの包丁、肉断ち包丁・重黒、解体包丁・蒼舞
防具:CS№6オーカー・クリエイター
アクセサリー装備限界容量 2/10
・無骨な鉄のリング(1)
・身代わり宝玉の指輪(1)
・空籠のイヤリング(1)
所持SP23
【料理人Lv22】【魔道Lv31】【大地属性才能Lv14】【調教Lv41】【看破Lv44】【空の目Lv33】【付加術士Lv15】【登山Lv22】【物理攻撃上昇Lv20】【俊足Lv40】【念動Lv17】
控え
【弓Lv55】【長弓Lv41】【魔弓Lv20】【調薬師Lv18】【合成術Lv3】【錬金術Lv3】【彫金Lv30】【生産者の心得Lv20】【言語学Lv26】【泳ぎLv18】【呪い耐性Lv30】【魅了耐性Lv16】【混乱耐性Lv13】【怒り耐性Lv12】【身体耐性Lv1】
NEW
・空の幻想空間を手に入れた。
・魔女の技術書を手に入れた。
・多種多様な植物の種子を手に入れた。









