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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第8部【攻城戦イベントと魔女城】

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330/359

Sense330


 それは突然だった。いや、事前に分かっていたことかもしれない。

 地下の隠しエリアである薬草畑手前の空間でのんびりしているとそのインフォメーションが流れる。


 ――【魔女・アイリシア】の一定回数『300』の討伐に成功しました。


 全プレイヤーに対して同時に一斉送信された内容に食後の穏やかな雰囲気に一瞬だけ緊張感が生まれる。

 朝に確認した残り討伐回数のカウントを見て、予想より早くに討伐したようだ。

 ここ数日間で異次元の魔女の行動パターンの検証が行われ、効率的な立ち回りが判明したからだろう。

 そして、流れるインフォメーションには続きがある。


 ――エクストラダンジョンのクリアに伴いイベント参加した全プレイヤーには、報酬として【SP10】【選べるアクセサリー型ポータル引換券】を送ります。


 すぐにメニューから報酬を確認する。

報酬の一つである【SP10】は、センスの取得に必要なポイントであり、センス拡張クエストでも大量に要求されたりもした。

貰ってうれしい物ではあるが、あまり手に入り過ぎると、SPの累積取得ポイントによって一部のポーションなどの消耗品で回復量制限に引っかかってしまうために長所短所は存在する。

そして、もう一つの【選べるアクセサリー型ポータル引換券】は、文字通りのアクセサリー型ポータル引換券だ。

ポータルとは、プレイヤーの拠点となる町や各地のエリアに移動するための転移オブジェクトであり、それらを一度登録することでポータル同士での転移が可能となる。

今回のアクセサリー型ポータルは、そのポータルの機能を更に限定的にしたものだ。


・事前に登録できるポータルは、3か所だけであり、最初から第一の町のポータルのみが初期登録されており、削除と登録が可能であること

・転移移動は、一方的な帰還転移のみ

・戦闘中・戦闘後一定時間の間の使用不能

・フィールド及びダンジョン内での使用は、各エリアのセーフティーエリア限定。

・パーティー転移にはパーティーメンバーの承認が必要


 他にも色々な制限があり、類似アイテムとしては、既にミニ・ポータルが存在する。

ミニ・ポータル所有者及びギルド関係者にのみ、アクセサリー型ポータルとの連動機能が若干備わっていたりする。


「個人的には、帰還用アイテムだよな」


 他にも幾つかの制限は掛かっているが、帰還用アイテムとしては有能である。

 採取のためにあちこち歩き回って、帰るために最寄りのポータルに寄るより若干時間短縮に使える。

 これからOSOが更に発展し、一回の戦闘時間が徐々に伸びだし、難易度が上がってくるとクエストやボス討伐後の帰還中の戦闘が煩わしくなる。

 また、今までフィールドやダンジョンから町に戻る場合、その場でのログアウトからの再ログインによる帰還という方法に代替えしてくれるアイテムとなる。

 アクセサリーの種類も豊富で自分好みのアイテムが選べそうだ。


「ユンっち、なんかクリア報酬が思っていたよりショボかったね」

「仕方がないんじゃないか? 本命は、攻城戦であって【異次元の魔女城】の攻略は、あくまでオマケみたいな物だしな」


 そんなイベントのやるべきこと全部終わった、と緩み切った雰囲気のプレイヤーたち。

 ボスの【異次元の魔女】が倒された後でも残されたユニークアイテムや城内に残された素材などの集め方を相談する中で運営のインフォメーションによって追い打ちを掛けられる。


 ――【魔女アイリシア】の討伐により異次元の魔女城を維持が困難になり、崩壊が開始します。(残り時間:59分59秒)


「崩壊!?」


 インフォメーションによって告げられる事実に、俺は目を見開き、周囲のプレイヤーたちも慌て始める。

 その中でも我先にと巻き込まれないようにこの地下の薬草畑から抜け出すために螺旋階段を駆け上がるプレイヤーたち。


「ユンっち、どうする!」

「とりあえず、この場で待機してマギさんたちと合流だ」


 唯一、出入り口と直結しない行き止まりである魔女の研究室からマギさんとクロードが降りてくるのを待つが、城の崩壊が始まっているのか、ゴゴゴッとこの地下空間に揺れが走り天井から細かな砂が落ちてくる。


『きゃぁ! 早く逃げろ!』

『押すな、危ないだろ!』

『クソッ、俺たちはどこに逃げればいいんだよ!』


 逃げる際に、押し合い圧し合いで三つの螺旋階段へと殺到するプレイヤーたちを冷めた目で見つめながら、待っているとマギさんとクロードが螺旋階段から降りてくる。


「ユンくん、リーリー! 待っててくれたのね!」

「マギさん! そっちは大丈夫ですか?」

「平気よ。それより、この状況何とかしないと逃げられないわよ」


 プレイヤーが詰まるように集まっているために全体の流れがなくなっている。その間にも時間が刻々と進んでいく中で、クロードが一歩前に進む。


「クロっち、何するの?」

「まぁ、見ていろ。すっ――」


 息を吸い込み大きく深呼吸するクロードは、騒がしい地下空間にやけに響く声を上げる。


「――『このポータルアクセサリーで脱出ができるみたいだぞ!』」


 クロードの言葉にその言葉を耳にしたプレイヤーから先程の報酬で手に入れたポータルアクセサリーを交換し、装備して早速、初期登録地点である第一の町に転移していく。

 そのプレイヤーの転移の波は、クロードから近いほどに順々に行われ、光の粒子に包まれて次々と詰まっていた螺旋階段から人が消えていく。


「よし、俺たちも行くぞ」

「行くってどこだよ! 逃げるんじゃないのか?」


 あたりにプレイヤーがいなくなったことで俺たちも落ち着いて逃げられると思ったのだが、クロードとマギさんは、そんなつもりはないらしい。


「やると言ったら、崩壊直前までアイテム収集だ! 窃盗、略奪、物取りは、勇者及び冒険者の特権! 空き家で家探しは基本だぞ!」

「そんな特権や基本なんか知らんから!」


 そんな夢を壊すようなこと言うな! とクロードに抗議の声を上げるが、そんな声を無視してマギさんが先頭に立ち、二階の植物園に繋がる螺旋階段を進み始める。

 長い螺旋階段を小走りで進み、何故か、侵入時にエリアの切り替わりとして存在した霧門が存在せずに目の前に横穴の空いた井戸底が見えた。


「先に誰かが起動させたのか足場が出ているわね!」

「それじゃあ、そうだね、とりあえず登ろう!」


 マギさんとリーリーが微振動を繰り返す異次元の魔女城の中でも軽やかに井戸の側面から競り出した足場を駆け上がっていく中、俺もクロードとマギさんの後を追っていく。

 そして、井戸底から抜け出した俺たちが見た物は――


「鉢植えの置かれた部屋!? 植物園は!?」

「ふむ。これが昨日行ってた【幻想空間ファンタスマゴリア】の消失ということか、とりあえず、崩壊まで時間があるんだ。辺りを調べ――」


 クロードの言葉を遮るように天井の一部が剥がれ落ち、それに合わせて床が抜け落ちたのが見えた。

 その下には、一階層部分の部屋が見ることができ、一階層の二つの部屋と二階層の植物園の部屋が繋がり、恐る恐る下を覗き込む。

 また剥がれ落ちた天井には、このエリアにいた敵MOBであるオオカラスバチの巣だったようでハチの巣がバラバラに砕けて破片が散らばっている。


「天井に張り巡らされたパイプと大量の水ってことは、熱帯雨林のエリアだ。床一面が氷ってことは雪原エリアか?」


 幻想空間が展開されていた時は、非常に広大に思えたがいざ魔法が解ければ、城の中の一画であることが分かった。

 各部屋には、素材系のアイテムは見て取れたが、お宝系のアイテムは見つからず、敵MOBの姿も見えない。

 残されたユニークアイテムなどがあるとすれば、これより上の階層ということになるだろう。


「この場所なら城内マップを確認せずに逃げ出すことができるな」

「何を言っている? 逃げるのはまだ早いぞ」

「はぁ?」


 自信満々のクロードに上擦った声を返せば、クロードが指を天井に向ける。


「一番奥まで行って逃げる。喜べ! 【幻想空間】が最奥で手に入ることは最奥付近のプレイヤーからのフレンド通信で確認済みだ」


 マギさんとクロードと合流するまでの僅かな時間でそのようなやり取りをしていたとは思わなかった。

 そして、クロードに先導されて、竜の噴水のあった庭園の幻想空間に辿り着けば、崩壊で床や噴水は罅割れ、それを素通りするようにして城の奥を目指す上位プレイヤーたちが次々と駆け出しているのが見える。


「俺たちもこのビック・ウェーブに乗り遅れるな!」

「いや、そんな波に乗りたくないから」


 走り抜け、それぞれの部屋の幻想空間に出現していた敵MOBがそろそろと駆け抜けるプレイヤーたちに吸い寄せられるように姿を現すが、鎧袖一触で次々と打ち取られていく。


 その中には、見知ったプレイヤーの姿もあった。


「行くよ! ルカちゃん! レアアイテムをゲットしなくちゃ!」

「残り53分! 間に合いますか!」

「片道最短10分なら十分だよ!」


 ミュウのパーティーが敵をすれ違い様に斬り捨てる中、植物園だった部屋から顔を出すとミュウがこちらに気付いた。


「あっ、ユンお姉ちゃんたちだ! 早くしないとレアアイテム取れなくなっちゃうよ!」

「ミュウさん、急ぎますよ!」

「わかってるよ、ルカちゃん!」


 ルカートに肩を軽く叩かれ、すぐに第三階層に通じる部屋に入っていくミュウたち。

 ぽかん、とそうしたプレイヤーたちの流れを見ていた俺は、クロードに肩を叩かれ――


「とりあえず、行くか。今なら湧き出す敵MOBが他のプレイヤーに任せて進める」

「はぁ、分かったよ。全く……」


 俺は、渋々この崩壊する城での脱出ではなく探索に加わることになった。


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