Sense326
イベント5日目、夜の内に異次元の魔女の討伐が続いたのか城の上のカウントが『197』に減っており、更にダンジョン内の情報もかなり出始めている。
第一階層がチュートリアルの多様な環境フィールド。
第二階層がそれぞれの区域に中ボス敵MOBがいる独立型の小型ダンジョン。
第三階層が、若干ダークファンタジー色の強い城の区画が連続して続く一体型ダンジョン。
第四階層が、階層自体はシンプルだが動く鎧や操り人形などの敵MOBが闊歩し、役割を持って襲ってくるMOBを掻い潜り、ギミックを発動させて道を開く往復型ダンジョン
第五階層が、もうほぼ総力戦とも言える中ボスクラスのMOBが待ち構える連続バトルのダンジョン
第六階層が、そこまで辿り着けば、やっとボスMOBの異次元の魔女との戦闘で、倒した後は、直接ダンジョン入り口に送り戻される。
なので、異次元の魔女を攻略する際には、第三階層まで最短コースで進み、第四階層からが本番となるのだが……
「リーリーの狙う植物園とかは、第二階層にあるのか。けど、ユンの狙う薬とかポーション系のアイテムが見つかる区域ないらしいな」
「そんなぁ~」
「ユンっち、気を落とさないで。他にも鉱石とか色々探そうよ!」
他の戦闘プレイヤーから見たらこの異次元の魔女城は、難易度の高いダンジョンのように見られるが、俺たちにとっては、巨大な資源収集場所だ。
倒す敵MOBのドロップは、効果は低い強化素材であり、通常時のプレイ中にも同一効果を付与する強化素材を入手できるために生産職にとって旨味がない。
ただ、その反面、様々な生産素材が豊富であり、そちらの方面で生産職たちを満足させるのだが、俺の狙う素材の物が見つからないのは辛い。
「今日こそは、目指そう木工素材!」
「お、おぉ……」
そう言って高々と拳を上げるリーリーに合わせて恥ずかしがりながら俺も拳を突き上げる。
その様子を見たマギさんとクロードに笑われて縮み込むが、リーリーの手を引かれて、異次元の魔女城に入る。
第一階層を抜けて、第二階層、そして、昨日行けなかった残り一つの霧のアーチを潜れば、そこは華やかな花々や木々が植えられた植物園の異次元が広がっていた。
「結構、広いかな? リーリー、木を伐採するのか?」
「欲しい木を見つけたら、とりあえず木の実や種を回収かな? 次に根元付近に苗木があれば、それも収集する予定」
そう言って、早速艶やかな濃い葉っぱの木を見つけたリーリーは、その樹の周りをじっくりと観察して、その木の苗木を回収していく。
俺も誰かが見落とした薬草系のアイテムがないか探すが、あるのは、派手な花の種や苗木だけだ。
まぁ、野イチゴっぽい木を見つけたので果物を摘み取り、リゥイやザクロ、他マギさんたちのパートナーの使役MOBたちと分け与えながら、何時でも食べられるように苗木を回収する。
「あんまり大きくなりそうにないから畑拡張して果樹園作るかな」
「あー、ユンっち、そんないい苗木見つけてる! 僕にも分けてよ!」
「それならそっち先に譲るよ。俺は、もう一つ見つけたからそっち回収するな」
そう言って、他数種類の果物の苗木を手に入れた。
その間、マギさんたちが俺たちを護衛してくれて無事に苗木などを回収できた。
この植物園で襲ってくる敵MOBは、巨大な果物が上下にパカッと割れて噛み付いて来り、果実から滴らせた蜜や果汁を高速で噴出してくる果物MOBたちだったが、マギさんの戦斧によって叩き割られていった。
「ユンっち! ミスリルのジョウロ見つけたよ! それも二つ! 一個上げるね!」
「おおっ、凄いじゃん! NPCのキョウコさんにプレゼントしよう!」
軽くて丈夫。更に見た目以上に水が入るのに、重さはそのままの亜空間持ちの不思議なジョウロを手に入れた。
これを使えば、今までの何倍の速さで畑の水遣り作業が終わるので俺は目を輝かせる。
「あ、ああ。なんというミスリルの無駄遣い。私なら鋳潰してナイフにするのに」
「マギ、諦めろ。あの二人は絶対に手離さない」
俺とリーリーがジョウロを掲げて喜び合っている時、マギさんとクロードがこっそりと話しているが、十分に聞こえている。
その後、一通り植物園の異次元を巡ったが、目ぼしい樹木は、杖作りに向いた樹木の苗木が入った。
苗木の育て方によって、特化する杖の属性の変わる不思議な苗木を手に入れたリーリーは、ついでに成長した樹木も伐採し、ホクホク顔だった。
ただ、俺だけは、欲しいアイテムが見つからずにしょんぼりする中、【看破】のセンスと空籠のイヤリングが同時に反応を示し、真上を見上げる。
「こいつが、この植物園のボスか」
黒と黄色の体に黒い半透明な艶のある羽根を持つ巨大な蜂型MOB【オオカラスバチ】が植物園の木の上にしがみ付き、羽根を震わす重低音を響かせていた。
俺たちは、そっと距離を取るように後退りするが、既に空籠のイヤリングが反応しているために、空中でホバリングして俺たちを追ってくる。
「逃げるぞ!」
クロードの声に合わせて一目散に駆け出す俺たち。だが、植物園の蛇行する道で出口のアーチを目指すよりも空を飛ぶ【オオカラスバチ】の方が俺たちに迫る速度が速い。
「この――《弓技・一矢縫い》!」
俺は、走りながら一瞬振り向き、上空から迫る【オオカラスバチ】にアーツの矢を放つが、胴体の硬い甲殻に当たるも弾かれ、それほどダメージは入らない。
だが、第二階層の中ボスMOBたちは、見た目ほど強くはないために倒せそうだ、と感じさせ、クロードも杖を構え応戦する。
「――《シャドウ・ブリット》! 《ダークネスバインド》!」
クロードの背後から針状の影が放たれ、木々の影が【オオカラスバチ】を捕らえようと蠢くが、クロードの闇魔法は俺の弓矢同様に甲殻に弾かれ、捕縛のための影がするりと避けられる。
敵のターゲットは、どうやらクロードが選ばれたようだ。
更に動きは其れだけじゃない。
『BUUUUUUUUUU――』
「あがっ、音の攻撃かぁ!」
その煩さに俺やマギさん、クロードがその場に膝を着き、動きを止める。
似た攻撃をしてきたMOBは居たが、その時はダメージまで付いていたが良心的な攻撃だろうと思ったが、その音響による足止めは別の意味があったようだ。
『『『BUUUUUU――』』』
低い羽音が幾つも木霊し周囲の木々の影からカサカサと音を立てて姿を現すのは、【オオカラスバチ先兵】という取り巻きだ。
味方を呼び寄せるのか、召喚するのか分からないが、更に数を増やして追ってくると言う点だ。
ここで迎え撃つが、ダメージを受けながら撤退するか。
どちらもそれなりにダメージは受けるが、ちゃんと成功するだろう。だが、それよりも損害が少なくて済む方法と考えて俺は、インベントリから一つのアイテムを取り出す。
「みんな煙は吸うと咽るぞ!」
俺は、それだけ言ってインベントリからとあるアイテムに着火して煙を焚き、蜂たちに投げつける。
白い煙をゆっくりと広げるそれは、蜂たちが嫌がるように避け、その場で困惑するように8の字に動き始める。
「よし、こいつらには効いたな! 逃げるぞ!」
俺は、虫系MOBに対して有効なアイテムである【除虫香】を焚き、そのまま植物園の中から逃げ出す。
「ふぅ、危なかった」
「でも、欲しい苗木が手に入ったし、良かったよ」
霧の門を抜けて、セーフティーエリアの噴水まで戻って来る俺たちは、そこで一息吐く。
「さて、リーリーの欲しい素材も確保できたし、この後どうするか」
クロードの言葉に、俺たちは悩む。
次は、俺の欲しいポーションなどの素材を探したいが、それがある場所が思い当たらない。
「場所が分かればいいんだけど、無為に探し回るよりそれぞれ自分の生産分野のアイテム探した方が良いんじゃない?」
「ユンくん、それでいいの?」
俺の提案にマギさんが心配そうに顔を覗き込んでくるが、俺は困ったように笑って答える。
「別に良いですよ。探すだけなら俺一人でもできますから。それより、マギさんもクロードも素材を探しに行きたいんじゃないですか?」
俺が指摘すれば、言葉を詰まらせてそれから肯定する。
昨日見つけたイシルディン金属塊やオリハルコンの針などの素材を回収したい様子がありありである。
「リーリーはどうする? また植物園に行くなら【除虫香】を渡すけど」
「うーん。僕は、下の階層に行って密林フィールドを探索するよ」
「それじゃあ、解散になっちゃうけど、ユンくん平気? 無茶しないでね」
マギさんが心配そうに俺に聞いてくるが、俺は平気だと伝え、クロードに引き摺られるように連れられて行く。
リーリーも早速、素材回収しに行くために、下のエリアに通じる階段を降りて行き、マギさんたちが見えなくなるまで手を振って見送る。
そして――
「……やっぱり、反応があるな」
【看破】のセンスとアクセサリーの【直感】が噴水に反応を示している。
昨日は、気の所為だと思っていたが、改めて反応を調べて見れば確かに周期的に反応が見られた。
「とりあえず、入ってみるか」
俺は、周囲に見ているプレイヤーがいないことを確認して、噴水の上に登っていく。
水が循環されているためか水の受け皿となっている場所は、それほど深く感じない水の中をざぶざぶと進んで行き、四つある竜の口の噴水の前までくる。
「昨日は、この口の中に反応があったんだよな」
今も水を吐き出し続ける大きな竜の口を正面から覗きこもうとするが、大量に吐き出される水に奥が伺えない。
「仕方がない。手探りで調べるか」
俺は、意を決して腕を水の吐き出す竜の噴水の口に突っ込み、手探りで何かないかを探す。
だが、探した噴水の奥には、なにもなかった。
それならばと他の竜の口を調べるが同じように何も見つからず、諦め気味に最後の一つに手を突っ込むと――
「……ん? なんだ、これ」
何かを掴んだ俺は、それを掴み引っ張ってみる。
それは、竜の口の中にある把手であり、それを引っ張ると、重い音と共に俺の足元の一部が抜け落ちる。
「何かが変わっ……うわっ!?」
抜けた足元に流れ込む噴水の水が俺の足元を掬い、一気に水と一緒に穴の中に入り込んでしまう。









