Sense323
「ひゃぁぁぁっ――!」
ゴーレムの石材に乗ったプレイヤーたちは次々に投石機によって投げ飛ばされていく。
石材の上に立ち、バランスを保ちながら、放物線の頂点に差し掛かった時、石材の上から魔法を放つ者や石材を足場にして大きく跳躍して城壁の上に乗り込むプレイヤーたちがいる。
魔法を放つプレイヤーたちは、今まで城壁という位置的アドバンテージを持っていた魔女の軍勢に対して、一時的だがその距離が縮んだことで、城壁に死角に隠れていた敵MOBに攻撃を仕掛ける。
「はぁ、薙ぎ払え! ――《コンセンサス・レイ》!」
投げ出されたミュウも魔法を放つプレイヤーの一人であり、背後に引き連れた光球から発せられる収束光線が、光のレンズに集まり、極大収束光線となり、城壁の一部を薙ぎ払う。
薙ぎ払い、敵のいない安全地帯に次々と乗り込むプレイヤーたち。
そして、攻撃をした後の硬直時間で本来なら乗り込みに遅れるはずだったミュウは――
「――《エアウォーク》!」
空中で見えない足場を蹴るように大きく飛び上がり、城壁の淵に手を掛ける。
「ミュウ!?」
俺は、投げ出したミュウの危険な場面を見て冷や汗を掻くが、先に乗り込んだタクによって引き上げられ、そのまま城壁上部や城壁内側に雪崩れ込む電撃作戦の開始に胸を撫で下ろす。
その間も、投石と共に投げられた魔法使いたちは、自力で着地し、また投げ出した石材をその場で加速させて威力を増すなど様々な方法で貢献し、攻城戦の内外で敵をボロボロに崩していく。
城壁内部で繰り広げる戦闘音を聞きながら、どうか無事であることを祈りながら、待っていると城壁の硬く閉ざされた城門が開かれていく。
「敵将の首、取ったぞぉぉッ!」
内部に侵入したミュウとタクたちが攻城戦の要である敵の大将MOBを倒したようだ。
その後、城門を内側から開き、プレイヤーたちに見せつけるように敵MOBのドロップらしい長剣を掲げて高らかに宣言する。
そこでプレイヤー側の士気が一気に上がり、投石機などの出番から白兵戦の城内侵入に移行し、しばらくして攻城戦で城壁の内側に籠っていた敵MOBが掃討され、プレイヤー側の勝利となる。
そして、イベントは最終フェイズに移行した。
『――これにて公式イベント【攻城戦】は達成により攻城戦フェイズの報酬が確定しました』
流れるアナウンスに全プレイヤーが喜ぶと同時に呆気なさを感じた。
まだ残る次元の魔女の存在は、目の前に鎮座する城の内部はどうなるのか。
だが、続くアナウンスの内容に更なるイベントの告知にプレイヤーたちが更に歓喜の声を上げる。
『これよりエクストラダンジョン【異次元の魔女城】を開放します。最深部では、【魔女・アイリシア】が待ち構えており、一定回数を討伐することで追加報酬があるほか、様々なユニークアイテムをダンジョンで入手することができます』
そのアナウンスと共に、既に投石機の攻撃を受けてボロボロの城壁がずずずっ、と沈んで行き俺たちの前に無防備な異次元の魔女城の全貌が姿を現し、俺たちの前で城の入り口がゴゴゴッと音を立てて開いていく。
「ついに異次元の魔女城か――」
俺がポツリと呟いて見上げる城を前に多くのプレイヤーたちは――
「よっしゃぁっ! 乗り込めぇぇっ!」
『『『うぉぉぉぉぉぉっ!』』』
一気に入り口へと殺到し、入り口でプレイヤーを阻む敵MOBたちを数の力で蹂躙していく姿が僅かに見えた。
「……とりあえず、ボクらは投石機やバリスタを片付けようか。ユンっち」
「……そうだな」
俺は、リーリーの言葉に頷き黙々と組み立てた攻城兵器を解体する。
このためだけに用意した兵器群を解体すれば、どの部品の損耗が激しいのか、どのような部分で運用の問題があったのか分かり、解体しながらも議論が白熱する。
その中で、プレイヤーが攻めて行った異次元の魔女城に出入りを繰り返し、次第に平原のど真ん中に、料理系生産職プレイヤーたちが大釜を用意して料理の配給も始める。
「いやぁ、凄い盛況だねぇ」
「そうですね。それに……」
攻城兵器の片付けを終え、俺とマギさんが見上げた先にあるのは、異次元の魔女城の天辺に現れた光の文字。
それが最初は『300』となっていたが、時間が経過するごとに一つずつ減り今では『293』になっている。
「あれがダンジョンボスの異次元の魔女のカウントのようね」
「通算300回以上倒さないと報酬が出ないのかぁ。ペースは良い感じかな?」
「うーん。今日で四日目の夕方だし、攻略が進めばペースも早まるんじゃないかしら」
そう言ってまたもや目の前でカウントが減るのを見る俺とマギさん。
とりあえず、ダンジョン攻略でイベントボスに挑むほど体力がない俺は、残りは適当にサポートに回ろうと思い、のんびりと敵の駆逐された平原のど真ん中でリゥイとザクロにブラッシングしてやる。
マギさんもそれに便乗して、パートナーのリクールの毛並みを整えている。
「俺とリーリーで少しダンジョンを偵察してきた」
「それとユンっちとマギっちのお昼ご飯も貰って来たよぉ!」
料理系の生産職たちの配る食事を持ってきたリーリーとクロードに軽く手を上げて、生産職四人で食事を囲むようにしながら、クロードとリーリーの話を聞く。
「とりあえず、こいつを見てくれ」
そう言って、ビーフシチューに千切ったパンを浸けて食べている俺たちの前に、クロードが一つのアイテムを置いた。
まるで実用性のない調度品のようなランプと一本の薪だ。
それは、金で作られており、ゴテゴテとしたルビーの宝石が嵌められる他にも細部に火属性の魔法金属であるレッドライト鉱石っぽいけど、なんかちょっと違う気がする。
総じて、趣味が悪いランプだ。
「中は、面白いことになっているが、それはいい。あのダンジョン。オブジェクトがアイテムとして回収できたぞ」
「マジで? それは、大丈夫なのか?」
「RPGの基本だろ? 敵の城のお宝を回収するのは」
マギさんは目の色を変えて、ランプを手に取り、俺はクロードに尋ねれば、邪悪な笑いを浮かべてそう返される。
どっちかと言うとその顔の方が悪役だろ。と内心ツッコむ中、マギさんがポツリと呟く。
「フレアライト鉱石……」
「えっ?」
「これ、火属性のレッドライト鉱石じゃない。それよりも更に上位のフレアライト鉱石よ!」
マギさんは早速このランプに使われる素材を確認して、喜びの声を上げる。
実用性のないオブジェクトアイテムを回収し、鋳潰すなり、分解、解体して素材を集めれば、別の素材を回収できる。
その可能性に俺も、緊張と期待からかゴクリと唾を飲み込む。
「異次元の魔女城のダンジョンは、大よそ城にありそうな施設を一つの城に凝縮したようなダンジョンらしい。もしかしたら、ユンやリーリーの狙う素材も見つかるかもしれないぞ」
そう言って、悪魔のような囁きをするクロード。
「ボクとユンっちは植物系の素材探しかなぁ。それだと水場があれば良いけど」
「あとは植物園とかかな? それか種だけでも確保するなら調理場とか」
城にありそうで、木工系、細工系、調合系の素材を探すとなるとそれに近い施設だろうか。
俺がポツリと呟き、リーリーと頷き合うと――
「ボクも全力で探したいな」
「俺も、まだ持ってない生産素材を手に入れてアトリエールで育てたいな」
それに――と一つ前置きを入れて。
「アトリエールの再建をしないといけないからな。お金が欲しい」
俺の切実な訴えにクロードたちも渋い表情を作る。
だがそれも一瞬のことでこれからの俺たちの予定は決まった。
「なら、俺たち生産職は、異次元の魔女城でアイテム及び素材の回収を行う。先行する戦闘系のプレイヤーたちが宝箱や武器、ユニークアイテムを軒並み回収しているだろうが旨味は十分! 我ら生産職は全力で素材の収集に努めるぞ!」
クロードの宣言に俺たちは頷き、食後に早速異次元の魔女城の第一階層に挑むことになる。









