Sense322
ファンタジア文庫大感謝祭2016、お疲れ様でした。
楽しかったです。アフターレポートは、活動報告の方にありますので興味のある方は見て頂けたらと思います。
プレイヤーの城壁への攻撃は、次々と積み上げられた石を打ち砕き、穴を広げていく一方、城壁を防衛している敵MOBの集団も侵入だけは許さないように立ち回っている。
そんな硬直した状況の中で、城壁側で大きな動きが見られた。
『――城壁が崩れるぞ!』
敵MOBを倒すことよりも城壁の石を崩すことを躍起になっていたプレイヤーたちの掛け声に合わせて機敏なプレイヤーはすぐさま城壁の側から離れる。
直後、崩していた城壁からボロボロと岩が抜け落ちるように落ちていき、後方で待機していたプレイヤーは、歓声を上げる。
そして、そんな光景を見ていた俺は、全く別の感想を思い浮かべる。
「ユンっち、やったね! これで攻城戦の戦況が動きそうだね」
「……なんか変だったぞ」
「えっ?」
遠視能力のある【空の目】でずっと城壁を観察していたが、城壁を崩す直前、プレイヤーたちの攻撃を受けたわけでなく勝手に城壁の上部と穴の周辺が崩れたのだ。
一気に崩壊したことでプレイヤーすら巻き込む崩壊を見せた城壁に違和感を感じる俺は、次の瞬間の光景に目を見張る。
「城壁の石材が組み上がってる……」
崩れた石材が互いに繋がり合い、組み上がり、徐々に足元から形作られていく。
そして、崩れた城壁がそのまま攻撃に転じ、そして、巨大な人型のMOBになる。
「――【ウォール・ゴーレム】ってこれはちょっとヤバいんじゃないかなぁ」
城壁の半分ほどの大きさの石材の巨人が五体立ち上り、プレイヤーに向けて拳を振るい始める。
また、城壁から石材が抜け落ち、穴が広がったためにそこから一気に獣型の敵MOBが放たれ一気に乱戦状態に持ち込まれた。
『――全軍、少しずつ後退し、戦線維持と立て直し!』
慌てて戦場に飛ぶ大号令だが、少し遅かったようだ。
機動力の高い獣型MOBがプレイヤーたちの背後に回り込み動きを封じ、特大戦力のウォール・ゴーレムが正面からプレイヤーを薙ぎ払っている。
『――予備戦力、投入! 味方プレイヤーの救助と撤退の補助だ!』
状況が悪いと判断し、すぐさま待機行動可能なプレイヤーたちが、獣型MOBに襲い掛かるが、それでもウォール・ゴーレムの進行は止まらず、挟撃されたプレイヤーの破れかぶれの攻撃を受けても歩みを止めない。
「これって最悪、逆侵攻される可能性あるんじゃないのか?」
「ユンっち、どうする?」
「……リーリー。バリスタの矢弾は、残りあるか?」
「全部打ち尽くしたからないよ! でも、今からでも作れる!」
「なら、一応作ってくれ。使わないに越したことないんだけどな」
俺は、そう呟きながら駆け出した予備戦力のプレイヤーたちの背中に可能な限りエンチャントを施していく。
そして、バリスタに張り付いている俺やリーリー、そしてバリスタの射角調整に協力してくれているプレイヤーたちは、予備戦力が駆け出す中で、加われないヤキモキした思いの中で、ただリーリーが準備する新しい矢弾の一本を待つ。
その間に、戦況は少しずつ立て直していく。
予備戦力が獣型MOBを倒したことでプレイヤーたちがウォール・ゴーレムたちと距離を取り、すこしずつ後退しながら魔法によってダメージを蓄積させている。
それにより、五体中、三体は、バリスタや投石機のあるライン前で打ち倒せる雰囲気にあるが、残り二体は、撤退するプレイヤーを超えて近づいている。
「ユンっち、新しい矢弾ができたよ!」
「それを装填してくれ! ウォール・ゴーレムが接近したら、片足を打ち貫くぞ!」
俺は、矢弾が装填され、予め狙う場所に向けて微調節している間にも最も接近するウォール・ゴーレムから目を放さない。
斜め右に重たい攻城兵器を動かしている間にも、もう一体のウォール・ゴーレムが投石機の一つを破壊しているが、俺たちには二体同時に攻撃する力はない。
一発しかない、バリスタの矢弾を確実に決めるために、MP回復のためのポーションを飲み、ウォール・ゴーレムを攻撃する場所を設定する。
「ユンっち、調節の準備できたよ!」
「わかった!」
俺は、バリスタの射線上に入り込むのを待つ。
そして、射線に入り込んだ瞬間――
「――《マッド・プール》!」
ウォール・ゴーレムが踏み出した右足の地面に、【空の目】のターゲット能力を利用した座標発動により、ピンポイントに右足が泥沼に入り込み動きが鈍る。
だが、拘束できた右足もすぐに引き抜かれるだろうが、確実に足を止めることができたタイミングで、矢弾を放つ。
「――《弓技・一矢縫い》!」
極太の矢が泥沼に足を止めるウォール・ゴーレムに迫り、その右足に突き刺さる。
アーツによって威力を増した矢弾は、右足付け根を突き抜け、足の石材の半分を周囲に散らす。
またウォール・ゴーレムの抉られた右足は、自重により右足を支える石材が砕けて折れてしまう。
「ユンっち、やったね!」
前倒しになるストーンゴーレムが、平原の地面を響かせながら倒れ、一体の足止めを成功する。
だが、残った両腕で這うように進むウォール・ゴーレムの姿を見て、凄い執念だ。と思いながら、これで突破してきた一体の脅威は減らすことができた。
そして、もう一体のゴーレムは――
「採掘で鍛えた生産職の力を見せて上げなさい!」
マギさんを中心に予備戦力でもない鍛冶師プレイヤーたちが皆、ピッケルを掲げて一撃離脱でウォール・ゴーレムの足にピッケルを突き刺していく。
剣や槍のような武器に比べて効率的にウォール・ゴーレムの体にダメージを蓄積させる鍛冶師たちは、投石機を更に壊されないために、逆に、ウォール・ゴーレムの足を部位破壊しに掛かる。
しばらくして引き倒されたゴーレムは、動けないように鎖とロープで地面に縛り付けられ、ガリバー旅行記のガリバーのようにプレイヤーに掴まるウォールゴーレム。
そこから少しずつ城壁の石材の体がピッケルによって削られ、抵抗もできずに徐々にダメージを受けていく。
「ふぅ、あっちは、なんとかなりそうだな」
嬉々としてピッケルを振るう鍛冶師たちから視線を外し、俺たちが足止めしたゴーレムを見れば、追い付いたプレイヤーたちに攻撃を受けていた。
これでウォール・ゴーレムの脅威は去ったが、ファンタジーらしい奇策に肝を冷やしたところはある。
そして、俺は、一段落して安堵しているバリスタを運用する仲間たちに声を掛ける。
「みんな、ありがとう。みんながいなかったら、ウォール・ゴーレムの足止めができなかったよ」
俺のその言葉にリーリー以外の手伝ってくれた仲間たちが目を見開く。
「そ、そんな。これは全部射手のユンさんやこいつを組み立てたリーリーさんの力ですよ!」
「それに、ウォール・ゴーレムが出た時、ほとんど役立たずだけど、前に駆け出しそうになった自分が恥ずかしいですよ」
「普通に戦ったなら目立った戦果はなかったけど、ユンさんたちと一緒だったからウォール・ゴーレムの足止めって戦果を上げることができたんですよ。逆に感謝してます!」
なんか、逆にお礼を言われて俺は、嬉しいけど気恥ずかしさを感じる。
「あー、ユンっち、照れてる。照れてる」
「なんだよ。リーリー」
とりあえず、ウォール・ゴーレムを倒したが、まだ戦列は乱れており、逆に倒れたウォール・ゴーレムの石材の残骸が光の粒子とならずに残り続けるので、集団での行動に邪魔になっている。
「それにしてもユンっち、なんか攻め辛くなってるね」
「そうだな。城壁に穴が開いたけど、そこに敵MOBが詰まってるし、突入してもすぐに押し出されるだろ」
なんとかならないだろうか……と俺とリーリーが考える中、ほぼ同時に同じ事を思いつく。
「「城壁にウォール・ゴーレムの石材を送り返すか(そうか)」」
ちょうど、ウォール・ゴーレムの残骸がそのまま投石機で射出するための石弾代わりになる。
「ユンっち! バリスタは、投石できないからこっち放置して、昨日使った投石機のところに行こう!」
「わかった!」
そうと決まれば、投石機に残っているプレイヤーたちに声を掛けて、ウォール・ゴーレムの石材を城壁に送り返すための準備を始める。
投石機の角度調節や発射準備をしつつ、破壊された投石機を運用していたプレイヤーは石材を運び始める。
また、城壁付近にいたプレイヤーも後退していき、平原に出てきて散開する敵MOBを刈り取っている。
「こっちは、投石機の発射準備できました!」
「石材のセットできました!」
「射角は問題ありません!」
バリスタ運用を手伝ってくれたプレイヤーたちは、まだまだ攻城兵器で活躍してやる、と士気も高く、動きも機敏だ。
それに、俺たちの準備が完了し、少し遅れて他の投石機も再使用できる状態になっている。
『――投石機、再攻勢開始!』
そして、遂に下される号令を前に、俺は、投石機に触れて投石のための固定を解く。
バリスタに比べて補正は少ないがそれでも勢いよく投げたされる投石は、低い軌道のまま城壁に空いた穴の中に吸い込まれていく。
そして、転がるようにして着地した石材が穴の中にひしめく敵MOBを引き潰し、光の粒子となって消えていく。
その後も、プレイヤーたちの投石機による再攻勢により薄くなった城壁により穴を空け、穴の中に入り込んだ石材が敵MOBを倒し、戦況が再びこちらに傾く。
「石材が残り少なくなりました!」
「うーん。これで押し切れなかったか」
城壁はボロボロ。だが、ウォールゴーレムの石材を利用した投石攻撃が再び底を見せ始めた。
後は、城壁内外の敵を殲滅すればいいのだが、投石機ではやや届かない城壁上部に居座る弓や魔法を使う敵MOBの弾幕は健在であり、強引に突破すると予想外のダメージを受ける可能性がある。
ここに立ち再び苦難に直面するが、それを打開しようと無謀な知り合いが俺たちの投石機の周りに集まって来る。
「ユンお姉ちゃん! 私を投げて!」
「はぁ?」
「ユン。投石機で俺たちを投げろ。そんで城壁の上に乗ったら上にいる奴らを仕留める!」
ミュウやタクを含めた身軽なプレイヤーたちが投石機に投げられた勢いで城壁に乗るといい出すのだ。
「いやいやいや、そんな無茶だろ! 下手したら落下の大ダメージ受けるぞ!」
「だけど、相手は城壁をゴーレムに変形させて攻めてきたんだよ! なら私たちも奇策を使わないと!」
いや、その理論はおかしい、というか危なすぎるだろ! と内心ツッコむが、リーリーが俺の肩を叩き、首を振る。
「ミュウっちやタクっちたちの決意は硬そうだから何を言っても無駄だと思うよ」
「だけどなぁ……」
「お願い、ユンお姉ちゃん!」
「……全く、どうなっても知らないからな!」
俺の言葉に、ミュウとタクを含めたプレイヤーたちが歓声を上げる。
そして、俺たちは残り少ない石材を設置して、その上にミュウが飛び乗る形になる。
「ミュウ、絶対に大丈夫なんだよな!」
「安心してよ! やれるって思ってるから提案したんだから! それにユンお姉ちゃんは私を何時もサポートしてくれるでしょ!」
「全く……それじゃあ、行ってこい!」
俺は、そう言って投石機を使い、ウォール・ゴーレムの石材と共にミュウを空中へと投げ出した。









