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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第8部【攻城戦イベントと魔女城】

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Sense320


 その後、俺はリーリーとあれこれ明日の予定を話している間と、別の場所で攻城兵器の作成に携わってたマギさんが、金槌をぶらぶらと持ちながらこっちに来る。


「リーリー、あっちの破城鎚の先端に金属補強終わったわよ~。あー、疲れた」

「マギっち、おつかれ~」

「マギさん、お疲れ様です」


 俺とリーリーがそう答えると、マギさんは、だらっと一気に脱力する。


「これで明日までやることがないから休めるなぁ」

「俺もやることがなくて今日一日完全にフリーなんですよ」


 初日から続くバタバタも大分落ち着き、異次元の魔女の軍勢も城の中に押し留めている状況で優先すべきものは特にない。

 明日の一斉攻勢まで準備を進めたり、英気を養ったりするのが普通だろうが、今まで走り続けて、突然やることがなくなると何をすればいいのか分からなくなる。


「マギっちとユンっちはいいよ~。僕は、今日一日この攻城兵器の総チェックで休む暇がないんだから」

「でも、その代わりリーリーは、初日の方は、あんまり忙しくなかったでしょ。ユンくんは、料理を作ったり、私と一緒に戦場で駆けまわったりしてたんだから」


 だから、私と一緒に休むのよ~、というちょっと無防備にだらけるマギさんにちょっとドキッとしつつも、マギさんに今日一日付き合うことが決まり、苦笑いを浮かべる。

 だが、迷惑というわけではなく、こうして何の予定もない俺を誘ってくれるのは、ありがたかったりする。


「それじゃあ、ユンくん。行こうか」

「はい。それじゃあ、リーリーも頑張れよ」

「マギっちもユンっちも楽しんいってらっしゃ~い」


 俺たちは、リーリーに見送られて平原に展開された攻城兵器群を見ながら、第一の町に戻る。


「それでマギさんは、どこに向かうんですか?」

「んー、実は、事前にこういう物を貰ってるんだよねぇー」


 そう言って、指の間に挟んだ長方形の紙を差し出して来るので、それを受け取り、目を通す。


「えっと、喫茶店の招待券、ですか?」

「そうそう。【料理】系のギルドがクロードとは全く層の違う喫茶店を建てたから来てくれ、って言われてたんだよ。それで朝に連絡入れたらそのギルドの子たちが暇してたからお店開いて貸し切り状態よ」


 数日ぶりのお菓子楽しみだなぁ、とニシシッと笑うマギさんに釣られて、俺も頬が緩む。

 そして、ザクロだけでなくマギさんのリクールまでもがお菓子と言う単語に反応して機嫌良さげに尻尾を振っている。


「着いた。ユンくん、ここだよ」


 大分、大通りから離れた場所に建てられた喫茶店は、白を基調とした光を取り込む明るさがある喫茶店だった。

 そして、店内に入れば、可愛らしい服装の店員のプレイヤーが明るい挨拶をして、甘い紅茶の香りが店内に広がっている。

 クロードの【コムネスティー喫茶洋服店】は、どちらかというとシックで落ち着いた雰囲気の大人の喫茶店と言った感じだが、それとは対照的で面白かった。

 観葉植物があったり、店内にはフルーティーな香りも感じ取れた。


「いらっしゃいませ。当店では、主に菓子パンやドーナツ、サンドイッチなどの軽食を中心に提供しております。また、お飲み物に関しては、紅茶だけで種類が多く取り揃えています」


 その説明から喫茶店というよりは、お洒落なパン屋さんといった感じだ。

 コムネスティー喫茶洋服店の厨房は、パティシエ志望のフィオルさんが担当しているために、ケーキやクッキーなどのお菓子類が多いために、メニューの違いも俺たちを楽しませる。

 そう言って、深くお辞儀をするプレイヤーの店員ロールの気合いの入り様に感心する。


「それじゃあ、ユンくん。メニューを選ぼうか」

「そうですね」


 俺は、マギさんが確保した窓際の一番明るい席に座り、渡されたメニューを開く。

 それをパートナーのリゥイとザクロと一緒に見えるように掲げて、どれを選ぶか考える。


「私は、このリンゴのデニッシュとカスタードプリン、スコーン。飲み物は、紅茶でフレーバーはパイナップルマンゴー。リクールには、チョコクロワッサンとクリームコロネ、ミルクティーでお願いね」

「マギさん、早っ!? えっと、俺たちは……」


 マギさんの注文を受けて俺は慌ててメニューに目を走らせる。

 リゥイとザクロはもう決まっているのか、先にそちらを注文する。


「リゥイには、サンドイッチセットを。ザクロには、クリームパンとドーナツ。それで俺は……」


 そして、反射的に目に付いたそのメニューの名前を口にする。


「俺は、飲み物はストロベリーのフレーバーで――ミニドーナツボール」


 お店にあるドーナツと同じミニサイズのドーナツボールが全種類出てくるメニューを注文し、味の食べ比べをする。


「ユンくんはそれかぁ。気に入ったのがあったら教えてね」

「なら味見してみます? 気になるドーナツボールを半分に割りましょうか?」

「いいの? じゃあ、私の頼んだやつも一口味見して良いよ」


 そう言って、俺とマギさんは、わいわいしながらメニューが届くのを待つ。

 だが、その会話にはこのイベントに関する話題も混じる。


「今回のイベントって攻城戦だから、あんまり生産職って思ったように活躍ができない。まぁ、攻城兵器を作るのも生産かな?」

「そうですね。俺の場合は料理作って、あっちこっち走り回っただけですよ」


【調合】や【鍛冶】なんかのセンスの上達がないためにその部分の旨味が少ないイベントだと互いに愚痴を口にしつつ、先に来たお茶のフレーバーを楽しみつつ、やって来た菓子パンやドーナツなどを食べ比べしながら、三日目のフリーな時間を楽しみつつ、明日四日目の攻城戦に向けて英気を養う。


 そして、今までのイベントとは違い人との接触が多い今回のイベントでは、相当ストレスでも溜まっていたのか、マギさんからこんなお願いをされる。


「ねぇ、ユンくん。ザクロと融合ができるんだよね」

「融合とは違いますね。ザクロの【憑依】って能力で一部の能力が俺も使えるって感じです」


 三本に増えた尻尾によるオートガードやザクロの黒炎が限定的に使えるくらいだ。


「ねぇ、その状態のユンくんを調べさせてもらえる?」

「はぃ?」

「尻尾の付け根がどうなっているとか、耳がどんな風に生えるようになるのか気になってね!」


 力説するマギさんに、それが単純な好奇心だと分かるが、やられる側の俺は男だ。

 あまりに近い接触は、よろしくないと思い断ることにする。


「マギさん……すみませんがそのお願いは……」


 俺が断ろうとした時、テーブルの足元でドーナツを食べ終わり、こちらを見上げてくるザクロと目が合う。

 口の周りにドーナツの粉砂糖を付けて白く汚しているザクロは、きゅっ! と短く威勢のいい鳴き声を上げる。

 わかった、と言わんばかりに俺に跳び込んでくるザクロは、そのままスッと俺の中に入り込むと同時に、ポフッと軽い音と共に頭の頭頂部に耳が生え、三本の尻尾が座っている椅子から食み出すように、生える。


「……マギさん、勘弁してください」

「いやぁ、目の前にあってお預けってのは辛いなぁ」


 そう言って、席を立ち、座っている俺の後ろの回り込むマギさん。

 そのまま、優しい手付きで俺に生えた黒い狐耳の手触りや髪を退けた生え際などを確かめる。


「へぇ、結構リアル。それに、毛が柔らかくて、体温の温かさがある。ケモミミカチューシャとはやっぱり違うねぇ」

「んっ、……マギさん、くすぐったいです」


 俺がむず痒さに体を強張らせるが、マギさんは構わずに自分の好奇心のままに俺を調べてくる。


「へぇ、人間の耳は一時的に消えるんだ。音の聞こえ方はどうなの?」

「それは……あんまり、違いは……ない……です」


 俺の悩ましいような声を聞いて、お店の奥の方からこの喫茶店のギルドメンバーらしき店員のプレイヤーたちが俺たちの様子をこっそりと覗いている。

 そして、マギさんの手は、俺の耳から椅子から零れ落ちる三尾の尻尾に移る。


「やっぱり、憑依だけあって手触りはザクロに似ているわね。あっ、生え際は、尾骶骨付近からになっているんだね」

「ちょっと、服捲らないでくださいよ!」

「それに、装備に尻尾を出す穴が無いのに装備を傷つけずに尻尾が出てる。これは、ゲームのご都合主義かな? 一応、尻尾も触られている感覚ってある?」

「あり、ますよ。なんか、自分の体にない場所を触られている不思議な感じです」


 マギさんの手付きが優しいので、少しだけ体から力が抜ける。

 お店の奥からは、悩ましい声を上げていた俺に対する熱のある視線から尻尾をモフモフしたいという視線に変わった。


「暖かい、気持ちがいいし、頬擦りして抱き枕にしたい大きさね」

「やめて下さい。俺が動けないじゃないですか」


 マギさんの一言に俺は、否定するが、俺の中にいるザクロは、きゅぅ~と嬉しそうな声を上げる。

 それは、いつもリゥイの体に寄り掛かっているので、逆に寄り掛かられることが嬉しいのだろう。


「まぁ、これ以上やってユンくんに嫌われると嫌だからお終いとしますか」

「はぁ……満足したなら幸いです」


 若干、疲れたような俺に対して、マギさんは、顔が凄い元気に満ち溢れている。

 その後、マギさんのパートナーのリクールが俺から伸びる尻尾に顎を乗せて眠り始め、動けないので長々とお茶をすれば、喫茶店の店員をやっているプレイヤーたちが、次々と尻尾を触らせてくれないか頼みにくる。


 対人恐怖傾向のあったザクロにこんなに人が集まることに驚いて尻尾がきゅっと座っている椅子の足に巻きついたり、俺の足の間に入り込もうとするのを見ても満足したらしい。


 リクールもお昼寝を楽しみ、お店の店員の人もイベントで殺伐とした雰囲気の中で癒しを見ることができた、とお土産をどっさりもらい、お店を後にした。



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