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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第8部【攻城戦イベントと魔女城】

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Sense319


 穏やかな朝の陽射しに自然と目が覚める。


「……そうか。【アトリエール】が壊れたからクロードのところにお世話になってるのか」


 俺は、そう呟き起き上がると、既に【コムネスティー喫茶洋服店】の厨房から美味しそうな匂いが漂ってくる。

 その匂いに釣られて、奥の応接間に寝ていたクロードやラテムさんたちが起き上がり、足元を幸運猫のクツシタが駆けていく。


「あっ、みんな起きたのね。朝食にしましょう」

「……ううっ、何かを忘れているような気がするのだが……何だったか」


 寝不足のクロードを【眠り】の状態異常薬を使って強制的に眠らせたが、前後の記憶があやふやになっているようだ。

 まぁ、クロードが欲しがったナイト・ゴーンドの強化素材は、防具向けのものではないために預けることはないために、何でもないようにその横を通り過ぎる。


「フィオルさん、カリアンさん、おはようございます。何か手伝うことありますか?」

「ないわよ。さぁ、朝食を食べましょう」

「お茶は私に任せて下さい」

「そ、そうですか」


 流石に昨日の夜や今日の朝も食事を作ってもらい、手持ち無沙汰に少し落ち着かない感じがする。

 そして、用意されたのは、チョコや果物を練り込んだ菓子パンとモーニングプレートだ。

 流石、パティシエのフィオルさん、と感心しながらふわふわの菓子パンを千切って少しずつ食べる。

 俺は、紅茶を。クロードとラテムさんはコーヒーを飲み食後の一杯を楽しんでいる。


「さて、今日は何をするかな。お昼の用意かな? それともポーションの準備か?」

「とりあえず、俺は、何をやるべきか一度思い出さなきゃな」


 こめかみに指を押し当てて何かを思い出そうとするクロード。

 俺は、とりあえず町中でも巡ってできることでも探すことにした。


「それじゃあ、行ってきます。行くよ、リゥイ、ザクロ」


 フィオルさんの菓子パンを必死に食べていたリゥイとザクロは、俺の呼び掛けに、慌てて食べていた菓子パンを口の中に押し込み、着いてくる。


「ユンさん、いってらっしゃいませ!」


 カリアンさんの言葉に、俺は笑みを浮かべて頷きながら、第一の町の様子を知るために歩き始める。

 昨日のナイト・ゴーンドの襲撃で町の一部分は破損しているが、それほど大きな被害はなく、むしろ町の外の方へと流れるプレイヤーたちが多く感じる。

 そして、その流れに乗って町の外に出れば、次元を割いて現れた魔女の城の前にプレイヤーたちが集まっていた。

 そして、遠くからでも分かる大きな物体に俺は眼が点になる。


「……あれって、投石機?」


 他にも、破城鎚やバリスタなどの攻城兵器が組み立てられている様子を【空の目】の遠視能力で見ている。

 その中で、一人指揮を取っているプレイヤーを見つけ、近づく。


「そっちの破城鎚は、上からの攻撃に備えて屋根付けて! あと、バリスタは、移動のための車輪を忘れないでね! 投石機は、後で石とか岩が集まって来るからその後に試運転だよ! あっ! ユンっちだ!」


 トップの生産職であり木工師のリーリーは、自身も一台のバリスタを組み立てながら、周囲に指示を出している。

 そして、俺を見つけて調整中のバリスタの上から飛び降りて走って来る。


「ユンっち、昨日は大丈夫だった?」

「ああ、大丈夫だけど……リーリーの方は何をやってるんだ?」

「うん? この城壁攻略の道具を設置しているところだよ」


 昨日のナイトゴーンドの襲撃の後、平原に展開していた敵MOBの集団は、大部分が消滅し、残ったMOBも周囲に散るか、城の城壁内部に逃げ込んで籠城を始めた。

 そこで追撃を掛けたいが、籠城による防衛能力の高さからプレイヤーの個人の力では対処しづらいために攻城兵器を作って突破口を開こうとしているらしい。


「だから、三日目の今日は、城壁攻略の準備で明日に攻める予定だよ」

「へぇ、俺は何をすればいいんだ?」

「うーん。別にやることはないよ。一日フリーで過ごしてもいいと思うよ」


 そう言って、少しだけ休憩を始めるリーリー。攻城兵器を作っているプレイヤーたちの外周では、敵MOBが木工系の生産職や攻城兵器を攻撃しないように護衛しているのを見て、俺もその場で少し休ませて貰う。


「そうだ。リーリーに頼みがあるんだ」

「何? ユンっち」

「昨日のナイトゴーンドからドロップした強化素材を弓に着けてくれないか?」

「わかった。ちゃちゃっとやっちゃうね」


 軽く承諾してくれるリーリーに黒乙女の長弓と遠投の強化素材を渡す。

 そして、リーリーがスキルを使い、黒乙女の長弓に新たなスキルを付与する。


【黒乙女の長弓】(武器)

 ATK+75 追加効果:ATKボーナス、遠投


 幾度となく装備の修理やアップグレードを繰り返し、装備自体の基礎性能が上がっている黒乙女の長弓に新たな追加効果が手に入った。

【遠投】の追加効果は、射撃・投擲などに強い補正を与えるボーナスのために弓と相性がいい。


「早速試していいかな?」

「いいよ。でもどこを狙う?」

「そうだなぁ……」


 どこを狙おうか、と周囲を見回すとちょうど城壁の上部に良さそうな的があった。

 魔女の軍勢を指し示す赤と黒の旗がそよ風を受けて揺れていた。

 俺は、曲射をするように斜めに角度を付けた構えで黒乙女の長弓の弦を引き、矢を放つ。

 斜めに上昇する弓矢は、勢いを衰えさせることなく城壁の上部にある旗の真ん中を捉え、穴を空ける。


「ユンっち、お見事。どんな感じ?」

「手応えから言うと、射程距離と威力が強化された感じかな。けど、そこまで劇的な強化って程じゃないかも」


 黒乙女の長弓を一回分アップグレードするくらいの強化だろうか。

 純粋な性能の底上げって感じだ。


「ユンっち。遠投の追加効果って、射撃だけじゃなくて投擲にも関係しているけど、石でも投げてみる」

「そうだな。【投げ】系のセンスがないから投擲物でのダメージは与えられないけど、飛距離が伸びれば、マジックジェムの範囲が広がるからな」


 俺は、インベントリからエンチャントストーンに加工する前の石を取り出して、遠くへと投げてみる。

 普段通りの投げ方で投げてみたが、勢い自体はないものの投擲距離が若干伸びた感じがある。


「ちょっとだけ、伸びたな」

「そうなの? 僕は普段と同じだと思ったけど、違いがあったんだね」


 そうして、一通りの【遠投】の効果を検証したが、これと言って大きな効果が見られなかったが、現状の能力の底上げと言ったところだろう。

 そして、リーリーも休憩を終え、攻城兵器の試射を行うので、見学させて貰うことにした。


「それじゃあ、投石機の試射を始めるね! 安全かくにーん!」


 リーリーの言葉に平原の前方500メートルくらいの距離は、無人の状態になっている。

 これは、大分余裕を持たせた距離で、他の投石機やバリスタの試射の後を見るに、300メートルくらいのところに岩や槍が刺さっている。


「それじゃあ、放てー!」


 リーリーの掛け声と共に、勢いよく投石機の腕が振り上げられ、放物線を描きながら岩が飛んでいく。

 そして、柔らかい平原の地面に岩が落下してクレーターを生み出す。


「次弾発射、準備!」


 リーリーの掛け声と共に、投石機の腕が元に戻され、発射前の状態に戻され、次の岩が置かれる。

 そして、次の岩の砲弾も投げられ、遠くの地面に突き刺さる。

 他の木工師の作った投石機よりも飛距離が高いのか、300メートルを優に超えている。

 そして、最後の試射の段階で――


「あっ……砲弾がない。うーん、ユンっち、砲弾になるものない?」

「ちょっと待ってくれないか?」


 俺は、インベントリからエンチャントストーン前の石を複数個取り出し、それを【錬金】センスの【上位変換】のスキルを使って岩を作り出す。


「リーリー、これでいいか?」

「うん。あと、乗せたら、すぐ横に退避してね」


 砲弾としても使えるか、リーリーに確認した岩を投石機の腕に乗せて、俺は、リーリーのところに退避する。

 そして、三度目の試射の発射される瞬間、投石機の砲弾と俺が背中に掛ける黒乙女の長弓が薄い青白い光と共に共鳴し、投石機が凄まじい威力で石の砲弾を射出する。

 放物線を描く岩は、青白い光を放ちながら、他の試射の砲弾跡を越えて、地面に突き刺さる。


『き、記録――420メートル!』


 その声に、何事かと投石機を記録していたプレイヤーたちの間でどよめきが走る。


「……ユンっち、確かに投石機って汎用攻撃アイテムの分類だけど、【遠投】の効果ってそこまで範囲が広いの」

「俺もビックリだよ。って言うか、もしかして俺って……」

「うん。明日は、城壁前で攻城兵器に張り付くことになるね」

「マジかぁ」


 もう、連日の戦闘でクタクタだよ、と泣き言をいう俺に対して、リーリーが慰めの声を掛けてくれる。


「大丈夫だよ。ユンっちの【遠投】の効果での投石機は、敵側の射程範囲外から一方的に攻撃できるから」

「うーん。そうなのか? そうだといいなぁ」


 俺は、何とも釈然としない気持ちを抱えたまま、しばらくその場でリーリーと話をしていた。


 


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