Sense318
その日の夕飯は、フィオルさんの用意したものを食べたために、久しぶりにゆっくりと出来た気がした。
「はぁ、料理が美味しいと食後のお茶も更に美味しい」
「そう言って貰えると作った甲斐があったわね」
フィオルさんは、そう言って微笑む一方で、今晩の寝床についてラテムさんとカリアンさんが話し合っている。
「急遽、家なき子になってしまったユンさんをどう保護すべきだろうか」
「そうね。取り敢えず、クロードさんと一緒は駄目ね」
「その、気にしなくてもいいぞ。適当な場所に毛皮でも敷いて一人で寝るから。あと、家なき子って表現は止めてくれ」
真剣な表情で話し合っている二人に対して、そう言うが取り合って貰えない。
「まぁ、私たちは、別の場所にホームを持っているから私とカリアンは、そっちで寝て、ラテムが、クロさんの監視をさせるから適当に椅子でも並べてベッド代わりに使っちゃって」
「はぁ、じゃあそうします」
フィオルさんの言葉に頷きながら俺は、食後の片付けなども全て奪われたお客様状態でやることがなくて手持ち無沙汰になる。
そのやることのない不安感にソワソワしていると、カリアンさんが気を利かせて話掛けてくる。
「ユンさん、そう言えば、昼間のかなり強い敵と戦ったみたいだけどどうだった?」
「その正直……何で生き残れたのか不思議なくらいボロボロになりました」
脇腹に投石喰らうわ、城壁上からフリーフォールするわ、粉塵爆発起こして階段を転げ落ちるわで、ロクな事がなかった。
自分でも生きているのが不思議なくらいだ。
それを話すと、中々に濃密と苦笑いを浮かべる。
「それじゃあ、その手に入れた【遠投】と【直感】の強化素材はどうするの?」
「【遠投】の強化素材は、リーリーに頼むとして、【直感】の方は、交換素材かアクセサリーに付けようかと思います」
防具には、汎用性の高い追加効果が欲しいので、効果が不透明な強化素材は使いたくない。そのために、自由に付け替えし易いアクセサリーの方に【直感】の追加効果を付けるつもりだ。
「そうなんだ。それじゃあ、ユンさんは、交換するならどんな効果のものが欲しいの?」
「うーん。そうですね」
カリアンさんに尋ねられて悩み、自分のセンスステータスを確認する。
所持SP9
【料理人Lv20】【魔道Lv29】【大地属性才能Lv12】【調教Lv41】【看破Lv41】【空の目Lv30】【付加術士Lv11】【登山Lv22】【物理攻撃上昇Lv16】【俊足Lv36】【念動Lv10】
控え
【弓Lv53】【長弓Lv40】【魔弓Lv18】【調薬師Lv18】【合成術Lv3】【錬金術Lv3】【彫金Lv30】【生産者の心得Lv19】【言語学Lv24】【泳ぎLv18】【呪い耐性Lv30】【魅了耐性Lv16】【混乱耐性Lv13】【怒り耐性Lv12】【身体耐性Lv1】
昼間の戦闘では、普段のプレイスタイルとはまるで違う方法で敵を倒したために、サブ寄りのセンスのレベルがあがっているのを確認して、俺が現在、補助したいセンスは……
「一番は、やっぱり生産系ですかね。でも、襲ってくる悪魔が戦闘技能に使える技能を持っていないっておかしい話ですし、攻撃系のセンスを補助してくれる追加効果ですかね」
例えば、地属性魔法の能力向上や耐性系の効果、ステータス上昇系などが汎用性が高いと思う。
それを告げると、納得しつつも難しいという表情をみんなが作る。
「確かに、その辺の追加効果のアイテムは、人気になりそうだね。でもそもそもユンさんの【直感】の効果ってのが判明しないと難しいよね」
「あー、確かに気になるなぁ。仕方がない今から調べるか?」
「えっ!? 調べるって、そんな簡単に」
「普段、【彫金】センスの練習で作ったアクセサリーの素体があるのでそれに強化素材を使えばできますよ」
俺は、そう言って、今まで作ったアクセサリーの中でも特に出来のいいアクセサリーを幾つか取り出す。と呆れた様子のフィオルさんとラテムさん。
「わぁ、これいいじゃない! 可愛い!」
「アンクレットですね。宝石をあしらった」
一方、カリアンさんは、俺の取り出したアクセサリーに夢中になっている。
今、手に持っているのは、細い糸で通したビーズアクセサリーに小さな宝石を使ったアンクレットだ。足首に巻いて使うタイプのアクセサリーであるために、目立ち難いのが特徴であると説明する。
「私たち、接客業ロールをしているから指輪とか腕輪のような目立つアクセサリーはちょっと控えてるんだよねぇ。だからもっぱらイヤリングやピアスなのよ」
そう言って、髪を掻き上げて見せる耳には、イヤリングが真珠を揺らしている。
「なら、それをプレゼントしますよ。あっ、でも片足だけだとバランス悪いんで、もう一個渡しますね」
「ホント!? ユンさん、ありがとう!」
俺は、カリアンさんに二つのアンクレットをプレゼントして、再び【直感】の追加効果を付与に適したアクセサリーを探していく中で、カリアンさんがしていたイヤリングの印象が強く自然と、イヤリングのアクセサリーが目に付く。
その中で、俺は、一つのイヤリングを手に取る。
「これにしよう」
「ユンさん、それは?」
「空の鳥籠をイメージして作ったイヤリング。あとは、耳に穴を空けるとか想像しただけで痛そうだから、ネジ留め式だな」
そう言って手に取るイヤリングは、金で作られた空の鳥籠がぶら下がったネジ留め式のイヤリングだ。
以前、銀の鈴付きのイヤリングなどを作ったが、それは耳元で煩かったのでボツにしたという過去を踏まえた空の鳥籠のイヤリングだ。
「早速、それに使うんですか?」
「うん。それじゃあ、いくよ」
俺は、空の鳥籠のイヤリングと【次元魔の根源核の残滓(直感)】をそれぞれ両手に持ち、【彫金】スキルを発動させ、強化素材を使って、アクセサリーに追加効果を付与していく。
そしてできたアクセサリーは――
【空籠のイヤリング(装飾品)】(重量:1)
DEF+8、MIND+12 追加効果【直感】
できたアクセサリーを早速装備してみる。
「どうですか、ユンさん」
「どうってどうなんだろう? 何か変わったのかな?」
感知系のセンスである【看破】が反応しない状況でアクセサリーの【直感】が発動しているのか分からずただ首を傾げる。
そこに夕飯後片付けを終えて来たラテムさんとフィオルさんがお茶のお替りを持って、こちらに加わって来る。
「それでは、簡単なゲームをしませんか? トランプですよ」
「いいわね! ババ抜きとか、神経衰弱とかで直感って分からない?」
俺も手持ち無沙汰を解消できるなら、と頷き、ラテムさんがインベントリから一組のトランプを取り出す。
そして、四人で行われるババ抜きなのだが……
「普通に楽しんでいましたね」
「それに勝率とかも普通に勝ったり負けたり」
「全然、【直感】の効果が分かりませんね」
「その……ごめんなさい」
普通にババ抜きや神経衰弱を楽しんでしまった。特に、【看破】のセンスのように何かに反応することがなく、ますます意味が分からない。
「他にどういう状況で反応するのかしら」
首を傾げるカリアンさんに対して、これをドロップしたナイトゴーンドの反応を思い出し――
「隠れていた俺を見つける時に使っていたようだけど、俺の罠は予見できていなかったなぁ」
「そうなると、プレイヤーに対しての強い能力だろうね」
「なら、私たちが武器を持ってみたらどうかな」
ラテムさんとカリアンさんの言葉に、俺は二人にお願いして武器を持って貰う。
ラテムさんは、磨かれた銀のナイフとフォークを指に挟み、カリアンさんは、お茶やケーキを運ぶ銀のトレーを掲げる。
その瞬間、耳元の空籠のイヤリングが警報のような音を直接頭に響かせ、驚く。
その警報の間隔は、比較的長い感覚でなり、不快ではないがビックリする音だった。
「なになに、何か反応あった?」
ラテムさんとカリアンさんが武器を下ろして、近づいてくると音が次第に小さく消えてなくなり、ホッと胸を撫で下ろす。
次の瞬間、真横から短く強い警報を感じ振り向くとそこでは、フィオルさんが二本のバターナイフを取り出しており、逆に俺が反応したことに驚いている。
「凄い反応速度ね。それが【直感】の効果?」
「あ、いや、どうだろう? ちょっと、情報を纏めよう」
この一連の流れの中で俺たちは、情報を共有し、一つの結論を導き出す。
「なるほどねぇ。プレイヤー、MOB、NPCに対して、警報って形で現れるのね」
「それに、ラテムさんとカリアンさんの音の間隔が長くて、フィオルさんの間隔が短いんだよ」
「音の間隔って言うと、その相手の脅威度とかかな。例えば、強い相手には強く反応する。弱い相手には弱く響く、みたいな」
ラテムさんの推論を確かめるためにこの面々で一番強いと思われるフィオルさんに【空籠のイヤリング】を渡して、反応を見て貰うと……
「そうね。同格かやや下のプレイヤーには弱く反応してそれ以下だと、全く反応しないわね」
「ちなみに誰が反応しなかったんですか?」
「ふふふっ」
誤魔化すように微笑みながらイヤリングを外して返して来るフィオルさん。多分、俺が反応のない格下プレイヤーであり、それを言わないフィオルさんの優しさが心に沁みる。
「まぁ、そろそろ夜も遅いし、ユンさんは、この辺で寝るといいよ」
そう言って、それぞれが自分の寝床に戻る中で俺は、店舗の一角で簡易の寝床を作り、そこで眠りに着く。
結局、クロードはその日は起きてこないで、俺は、三日目の静かな朝を迎えることになる。
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よろしくお願いします。









