Sense315
取り下げていた二話の改訂と最新話をお待たせしてしまい、すみませんでした。
長期で更新間隔があいてしまい申し訳ありません。
そして、これからのOSOとアロハ座長をよろしくお願いします。
自由落下が怖くない訳ではない。
前にもグランド・ロックから落ちたこともあるし、今は何とかするだけの力があるつもりだ。
所持SP6
【料理人Lv19】【魔道Lv28】【大地属性才能Lv11】【調教Lv40】【看破Lv40】【空の目Lv29】【付加術士Lv10】【登山Lv21】【物理攻撃上昇Lv15】【俊足Lv35】【念動Lv7】
控え
【弓Lv53】【長弓Lv40】【魔弓Lv18】【調薬師Lv18】【合成術Lv3】【錬金術Lv3】【彫金Lv30】【生産者の心得Lv19】【言語学Lv24】【泳ぎLv18】【呪い耐性Lv30】【魅了耐性Lv16】【混乱耐性Lv13】【怒り耐性Lv12】【身体耐性Lv1】
城壁の下を見て情けない声を上げる俺は、逃走ルートを脳内で思い返しながら落ちる。
「怖くても歯を食いしばれ! ――《キネシス》!」
ナイト・ゴーンドによって突き落とされると共に、念動スキルを発動させ、落下の速度を緩めつつ、城壁の壁に近づいていく。
落下の速度は弱まるが、それでもこのままでは、地面に叩き付けられる未来が待っている俺は、城壁の壁に解体包丁を突き立て、速度を殺す。
以前、タクが行ったことを今度は自分の身で行う。両手で突き刺した解体包丁が城壁の石材を切り裂き、大きな線を生み出しつつ、落下の速度を殺すが、勢いが止まらない。
「まだだ! ――ザクロ《召喚》。そして、俺に憑り付け!」
呼び出した使役MOBのザクロを体の中に憑依させると共に、生えて来た黒い尻尾が自動で城壁の壁に突き立てられ、勢いを殺していく。
包丁と三尾の尻尾、念動スキルによって落下の勢いが完全に殺すことができ、宙にぶら下がるような形で留まっている。
「ふぅ、何とか止まった。あとは、――《クレイ・シールド》を足場にして」
『完全に倒したと思ったのに、本当にしつこい! いいだろう! 私の手で直々に引き裂いてくれる!』
俺を突き落としたナイト・ゴーンドが蝙蝠の翼を羽ばたかせながらこちらを見下ろしていた。
このままだと、《クレイ・シールド》の土壁で安全地帯に逃げ出す前に、一方的に攻撃されるのが目に見えている。
どうするべきか、周囲を見回し、打開策を見つける。
『今度こそ、落ちろ!小娘!』
「――《ゾーン・クレイシールド》!」
俺は、視認する範囲の城壁に垂直に土壁を生み出し、ナイト・ゴーンドの視界を遮る。
『そんな、子供騙しで悪魔の攻撃を防げるかぁ!』
侮られたと思ったのか、咆えながらも急降下して土壁を破壊していく。
真っ直ぐに土壁を破壊して、そのまま俺を鉤爪で引き裂いていくつもりだったのだろうが……
『なに!? 居ないだと! どこに消えた、あの小娘!』
内心、俺は男だ。という言葉を押さえつつ、ザクロとの憑依を解除して、召喚石へと戻す。
俺が隠れた場所は、城壁内部に設けられた階段の窓だ。
【登山】センスと【念動】スキルを駆使して、何とか、ナイト・ゴーンドの視界を奪った隙に逃げ込むことができた。
ナイト・ゴーンドの巨躯では入りこめないが、俺の細さならギリギリで滑り込ませることができた。
ただ、その代償に城壁に刺した解体包丁を置いてきてしまったが、後で回収しよう。
ナイト・ゴーンドの声は、俺が残した解体包丁の場所で止まる。
『あの小娘、どこに逃げた! どこに隠れた! それとも観念して自ら落ちたのか』
だから、小娘じゃない。と内心、ツッコミながらナイト・ゴーンドが俺を探して時間を潰すのを待っている。
今も俺の真上である城壁上部では、タクとミカヅチたちが残った一体のナイト・ゴーンドを仕留めるための攻撃音が俺のところまで響いている。
(このまま、俺を探して見つけられずに、上の一体を仕留めたところで戻ってくれれば最高なんだけどな)
そんなことを考えながら、城壁の階段で膝を抱えるようにして、音だけで追って来たナイト・ゴーンドの気配を探る。
防具に着けられた【認識阻害】の効果があるために、そう簡単に見つからないと思うが、こちらから相手を探る手段がないことを歯がゆく思う。
『どこだ! どこ行った! 私を虚仮にした罪は重いぞ!』
頼むからどこかに行け、と願いながら息を押し殺す。
上の方では戦闘音が激しくなる中で俺は、隠れ続ける。
そして、ナイト・ゴーンドが城壁の外側から城壁に開けられた窓の中を確認していくが、ナイト・ゴーンドの体では、外から中の一部を確かめることしかできない。
順番に階段に用意された窓に影が射して、徐々に俺の方へと近づく。
そして、俺が侵入した窓からナイト・ゴーンドが中を覗くが、死角となる窓の真下に隠れた俺は、息を殺して去るのを待つ。
そして、不意に静かになり、ナイト・ゴーンドが去ったのだろう。と思い、ふっと肩の力を抜いた瞬間――
『見ぃつけた!』
城壁の壁を殴り付けて崩し、広げた穴から階段へと侵入してくる。
「ひっ!?」
どこの安っぽいホラー展開だよ! 【認識阻害】の防具効果は働いているのに、簡単に見つかるんだ! と内心、疑問が飛び交うが、まずやることは――
「――【クレイシールド】!」
俺は、階段の上へと駆けながら、追ってくるナイト・ゴーンドの足止めをするためのマジックジェムをばら撒いていく。
『ふはははっ、どこへ行こうとしているんだ!』
「なんで、俺の場所が分かった!?」
なんか、聞いたことのある台詞を口にしながら追い掛けてくるナイト・ゴーンドに対する疑問が自然と口を突く。
それが、敵への問い掛けだと思われたのか、土壁や爆発を素手で払いながら、盛大なネタ晴らしをしながら追い掛けてくる。
『ただ、異次元の魔女より召喚された我らナイト・ゴーンドたちにも個性はある。上の奴が【投擲】を得手とするなら、私は、【直感】だ。そして、外に居る奴は――』
逃げる俺に見せつけるためにわざと城壁の壁を殴り崩し、眼下に見える炎を連発するナイト・ゴーンドを目にする。
その炎に焼かれて、NPCの建物や城壁の一部が焦がされているのを目にする。
『――【火属性才能】を持つ個体もいる。まぁ、これから倒れる小娘には関係のない話だがな』
そんなネタ晴らしをしながらも追い詰めてくるナイト・ゴーンドは、足に力を籠めて一気に距離を詰めてくる。
【空の目】と【看破】の組む合わせから直感的に、壁に体を寄せて回避すれば、先程まで居た階段が大きく鉤爪で抉られていた。
『大人しく、この爪の餌食になるといい』
「絶対に、嫌だ!」
全力で逃げてやる! と続けて言葉にしようとした直後、首を狙う一撃を察知して、しゃがむようにして避ける。
そして、その後ろの壁に大きな切れ込みが入る。
「絶対に、逃げてやる!」
上のナイト・ゴーンドが倒されれば、俺の勝ち。その前に捕まれば俺の負け。
そんな状態で必死に階段へと駆け上がる。
ナイト・ゴーンドは、近くに一人しかいないプレイヤーの俺を追い掛けるが、ギリギリのところで回避を続け、掠っただけでも半減するHPをポーションで回復する。
手持ちのアイテムを駆使して足止めをするが、次第に追い付かれていく。
『ちょこまかと!』
「危なっ!」
痺れを切らしたナイト・ゴーンドが俺の頭上を飛び越えて前に周り、鉤爪を振るうので、咄嗟に横へと避けて、城壁のとある部屋へと入り込む。
部屋の中には、木箱に詰められた火炎瓶。投石用の岩に大量の鉛。
その他にも、俺ではない誰かが持ち込んだ攻城戦の防衛用アイテムとしての爆弾や鉛を溶かすために小さい火が付けられた待機状態にされている携帯炉。
ここは、ナイト・ゴーンドの出現する前にミカヅチに案内された場所だった。
『ふはははっ、もう逃げられないぞ! ここが貴様の墓場だ!』
「まだ諦めるかよ!」
とは言っても、ほぼこの真上ではタクたちとナイト・ゴーンドとの戦闘音が響いており、俺は援軍なしで逃げ場のない一室に追いやられてしまった。
「この部屋のアイテムを使って何か手を……」
俺は、周囲を見回して、余りに酷すぎる解決策を思いつく。
そして、俺は、それを躊躇いなく実行する。
「――《キネシス》! 《マッド・プール》!」
俺は、残りのMPを全て使い切るつもりでナイト・ゴーンドの動きを押さえる。
『このような拘束、私には効かぬわ!』
普通に《マッド・プール》を発動させても翼で逃げられてしまうために、《キネシス》の念動で床に押さえつけて、泥沼に沈める。
室内で念動に動きを阻害され、泥沼に足を取られても、ナイト・ゴーンド自体のステータスの高さから強引に歩き出す。
『消えろ! 小娘ぇ!』
「――掛かった!」
俺へと真っ直ぐに走り込むナイト・ゴーンドを避けるために横に跳びながら、スキルを一気に解除する。
今まで掛かっていた体の負荷が消えて、力んだ体がそのまま暴走する勢いとなって、俺の後ろに用意されていた火炎瓶の山に頭から突っ込む。
『死んでもぶち殺してやるぞぉ!』
きっと人間だったら、血走った眼を向けて、憎悪の表情で顔を歪めているだろうと予想しながらも、振り返り吼えるナイト・ゴーンドを無視して、唯一の出入り口へと走り、インベントリからとあるものを盛大にぶちまける。
『また虚仮脅しか! 私は、そのようなものに何も恐れぬぞ!』
「今度は、本物の危険物だよ! ――【クレイシールド】!」
俺は、唯一の出入り口をマジックジェムの土壁で何重にも覆いながら、部屋が丸ごと危険物と化した場所から逃げる。
背後では、土壁を破壊するために暴れているのを聞く。
ナイト・ゴーンドの振るう拳が白い粉を舞い上げ部屋の中に充満させる。
それが携帯炉の小さい火に接触し、白い粉は燃え上がり、部屋の中で小規模な爆発が起こる。
その程度ではまだナイト・ゴーンドには嫌がらせにしかならないが、全身に浴びた火炎瓶の油に引火し、部屋に積まれた爆弾が一斉に爆発し、強烈な連鎖ダメージを生み出す。
トドメに溶けた鉛がナイト・ゴーンドの足裏を焼く。
『ギャァァァァッ、アヅイィィィィッ――!』
爆発の連鎖ダメージによって、轟音の中にナイト・ゴーンドの叫びが聞こえる。
部屋に密閉された爆発の衝撃は、逃げ場を求めて、設置した土壁を次々に破壊して、遂には、城壁の一部に大穴を開けて、外に石材の山を降らせていく。
爆発の勢いで投石用の岩が町中に降り注ぎ、遠くへと落ちていくが、落ちる方向は、プレイヤーの少ない町の南側であることが幸いしている。
そして、密閉された空間での爆発に対して俺は――
「俺も衝撃で体が痛いって言うか、目が回るぅ!」
「きゅ~」
爆発の衝撃を受けるはずだった俺は、階段を転がるようにして落ちている。
本来は、いくら土壁を張っても防ぎきれない衝撃を受けるはずだったが、自力で召喚したザクロの三尾が包み込んだ。
包み込む尻尾は、大きな黒いボールのようになり、爆発の衝撃を受け止め、その中で守られながら階段を転がっていく。
「だ、誰か、止めてくれぇぇっ!」
「きゅぅ~」
だが、最大の危機である爆発の衝撃を防いだが、回転するボールの中で上下左右の方向感覚が分からなくなるほど転げ落とされる俺とザクロ。
城壁内部の爆発の被害を受けないところまで落ちて来た後は、ザクロの尻尾が壁に突き立てられて、勢いを殺していく。
「と、止まったぁ」
「きゅぅ~」
ザクロも目を回し、俺も三半規管を狂わされてすぐには動けない。
ただ、肩に乗っていたザクロを胸元に抱き寄せて、落ち着くように撫でる。
「ははっ、上手くいったな。まさか、倒せるとは思わなかった」
メニューから確認したドロップには、ナイト・ゴーンドのドロップを手に入れていた。
そして、確認している間に、新たなドロップアイテムを手に入れたのを確認して、ふっと力を抜く。
「タクたちもナイト・ゴーンドを倒せたんだな」
遠くでは、戦闘が終わったのか、プレイヤーたちの歓声が聞こえる。
俺は、自分の状態を確かめる。
度重なる攻撃を受け、大爆発の衝撃を受けて、防具はボロボロだ。
いくら【自動修復】の効果が付いていても追加効果では直らないレベルで破損している。
だが、それでも生き残った。
「あははっ、まさか、ナイト・ゴーンドを倒せるとは思わなかったな」
そして、俺がナイト・ゴーンドへと投げたものの正体を口にする。
「――ピザ作りに使った小麦粉の残りが」
最後に、爆発オチ。
サブタイ付けるなら【悪魔、小麦粉で死す】ですね









