Sense220
軽く片付けを済ませた俺たちは、二日目も各々受けたいクエストを受けに行く。
「それでは、ユンさん。私たちは、ギルドのメンバーとクエストを受けに行きます」
「とはいっても、安全マージンを取り易い簡単な奴や費用対効率の良い奴を選んで受けていくけどねー」
レティーアとベルは、準備を済ませてこの場所から立ち去る。俺も街中のお遣い系クエストを終えるために、リゥイとザクロを引き連れて、街中を歩く。
やはり、幼獣を連れて歩くと多少は目立つのを感じながらも、残りの配達物を届けていく。
道中のクエストボードも立ち寄り、その場所ごとに良さそうなクエストを探す。
討伐や採取などのクエストがある中で変わり種として、NPCを所定の位置まで護衛するクエストがあった。チップと報酬が非常に良く、それを嬉々として受けていくパーティーが居たが、その紙の色は、真っ白だったのに気がついた。これは無いと思った。そもそも、護衛クエストなど一人で受ける物では無い。
それから一面に張られる依頼用紙の中から良さそうなクエストを見つけることが出来た。
一度指定のNPCと接触する必要があるクエストで配達のルート上にあるのを確認していく。
新たに受注したクエストは――【僕の相棒を助けて】と【農業手伝い】という二つのクエストだ。何方もクエストチップ二枚と追加報酬は、要相談という物だ。
「ルートの途中だし、失敗時の金銭消失の無いクエストだから様子見で良いよな」
一つは、北東部の家に、もう一つは、北西の防壁の外周付近にある農耕地と指定された。
また、配達の先々のNPCにクエストが無いか軽く尋ねるのだが、今の所クエストになりそうな話は聞かない。
【僕の相棒を助けて】のクエストは――
「僕の相棒を助けてください!」
開口一番、俺より背が高く細い、枝木のような青年に凄まじい剣幕で詰め寄られるという事態に顔が引き攣る。
話を聞くと、彼の相棒とは、使役MOBの事らしい。そんな彼の相棒ことスカウト・クロウが瀕死の重傷を負ったようで方々に手を尽くしたがどれも効果が無かったと彼は言う。
スカウト・クロウは、非常に大きな灰色のカラスで、その特性は、光物や金属を収集する性質があるとか。彼は、その習性を利用して宝石や鉱石を集めて貰っているために、仕事が出来ず困っているとの事。なんとこの青年の仕事は、彫金師。アクセサリーとかを作るのが仕事との事。とは言え、沢山作るのではなく、日々の糧を得る程度の細々とした物だと自分で語る。
そして、俺の前に連れてこられたスカウト・クロウは、ぐったりとして死んでいる様な様子だった。余りに動かないものだから、剥製かフィギュアのような印象を受けるが、赤ん坊サイズのカラスを抱く青年の迫力に気圧され、一刻も早くこのクエストを終えたかった。
「まぁ、ダメージ受けてるならポーションで良いのか?」
取り出したポーションを振りかけるが、反応がない。回復量が足りないのか、続いてブルーポーション、ハイポーションと使うがハイポーションの時、僅かに反応が見られた。形状の違う丸薬タイプの薬も試したが、それだけで動き出す様子は無い。
回復が駄目ならと各種状態異常回復薬を使用するがこれも効果が無い。アプローチを変えて、MP回復薬を使っても意味は無かった。
回復系の魔法を使えるリゥイも頑張って貰ったが、【浄化】でも反応は無く、落ち込んだように頭を下げたので、その首筋を撫でる。
反応の有ったハイポーションを複数与えてみたが、それ以上の反応は得られず、逆に細工師の青年に止められる結果に……。
「回復駄目、状態異常もなし。MPでもないって。他に何か思い当たることはありますか?」
「分かりません。瀕死と言われただけですので……」
「瀕死かぁ……って、まさか」
一つの可能性が浮かび上がる。もし、この方法で目を覚ましたなら、クエストはクリアできるが、それで失う物の方が大きく感じる。俺が回復魔法を習得し、極めているならまた違っただろうが、俺が出来る手段は、これしかない。ただ、間違えていた場合は、俺の損失が大きすぎる。また、イベント期間中は、替えが利かないアイテムでもある。ここで諦めても良いのだが――
「――使おう。これで頼むぞ」
取り出したのは、薄桃色に色付く液体。それを死んだように動かないスカウト・クロウに振りかける。
ハイポーションを与えた時の様に閉じた瞼が微かに動き、そのままゆっくりと持ち上げていく。
「あ、ああっ! 相棒が目を覚ました! ありがとう! ありがとう!」
グイっと顔を近づけて、手が痛くなるほどにぶんぶんと縦に振る青年NPC。力を加えれば、折れそうな腕からどこにそんな力があるのか不思議だが、センスとステータスで管理されるゲーム世界なら外見と能力の違いはあるか、などと思ってしまう。
スカウト・クロウが動き始めたのを確認して、クエストの達成がインフォメーションに追加される。
「はぁ……。消費が痛いな。十五万相当の蘇生薬でチップ二枚か」
チップ五枚で一回蘇生と考えると、このクエストで十五万消費して、六万G手に入れる様な非効率的なクエストだ。これは、追加報酬で取り返さないと。
「ありがとうございます! お礼にこのアクセサリーの中から一つ選んでください!」
「はぁ、じゃあ遠慮なく……」
とは言った物の、青年の持ち込んだアクセサリーは、数十点もあるが、どれも微妙である。青年の作品であるプレイヤーメイドと似た性能の物やドロップ品のような汎用装備ばかり、それに――
「なぁ、この禍々しいのはなんだ?」
「それは、スカウト・クロウが拾って来たんですよ。他人の物を拾ってくることは無いはずなので、盗品じゃないですよ」
いや、盗品って。そうじゃなくて、どう見ても呪われたアイテムなんですけど……。前回のイベントと同じくデメリット装備も何点かあるようだ。同じ様に状態異常のアクセサリーやネタやパーティーグッズ的な装備もある。
「まぁ、有用なユニークもないし、選ぶ人も居ないだろうからな」
溜息を吐きながら、デメリットの中で特に強力な呪いのアクセサリーを選ぶ。ある意味では、お金で買えない物だ。
デスカウント・チョーカー【装飾品】(重量:2)
MIND+5 追加効果:【死の宣告】【HP減少】
革と金属で出来た黒っぽいチョーカーで、着けたら俺の首を締め上げそうなほど禍々しい。
装備の解除は、自由に出来るが、装備中はHPが常に減り、また一定時間経過すると死亡判定が発生するという一切メリットの無い装備。どうしてこんな物を運営が作ったのか、そして、こんな物を一般NPCが持っているのかが不思議に思う。
ある意味、死と隣り合わせのドキドキ感を楽しみたい、二つ揃えて我慢比べや根性試しに使えなくはないが、本来の使い方ではないだろう。
「デザインも悪趣味だし……どうしてこれを選んだ、俺」
後悔先に立たず。せめて汎用性の高い装備を選べば自分でも使えたのだが、こんなデメリットを選んだ自分を恨めしく思う。
「はぁ、次だ次! 失った分を取り返そう!」
これで得たチップの数は、九枚。二日目の午前中だが、
落ち込みかけた気持ちを奮い立たせ、残りの配達先を全て周り、おばちゃんNPCたちに報告する前に、北西外周部の農耕地へと訪れる。
「おう、お前が農作業の手伝いに来た便利屋か?」
「ああ、ってあった事あるけど?」
「俺は初対面だ。仕事の説明をする」
腕組をした農作業服のおっちゃんだが、その容姿は、第一の町の南側。畑の売買や管理を任されているNPCと瓜二つだった。双子か何かか? それともパラレルワールド的な存在?
喋り方や声なんかは、何処となく似ている雰囲気があるために、これはNPCの使い回しか、と思ってしまうが、流石に町一つを半年かけて作って手抜きが無いなんてあり得ない。むしろ、見知った顔にどことなく安心感を覚え、他にも見覚えのあるNPCが居るんじゃないかと思ってしまう。
「じゃあ、仕事の説明だ。鍬を持って、この休耕作の土地を耕してくれ。草はそのまま土に巻き込めば肥料になるだろう。俺は、別の畑を見に行く」
そう言って放置された。鍬を持つなんてアトリエール横の畑で栽培の下地作り以来だった。
足首まで伸びた草の生えた畑に鍬を突き立てれば、重い抵抗感と共に、草ごと土を裏返すことが出来る。
エンチャントによるステータス強化を併用して、地味な作業を延々と行う。雑草に混じって、毒草や薬草、解毒草などの有用な草が混じるので見つけられる範囲で採取しながらの作業のために時間が掛かってしまった。
流石に、リゥイとザクロの出番は無いが、順調に作業を進めつつ、気がつけば太陽が真上に来ていた。
――クエスト【農業手伝い】をクリアしました。
時間だけなら一番掛かっただろう。
先程の相棒であるスカウト・クロウの蘇生に比べても長く時間が掛かってしまった。
俺の作業が終わると同時に戻って来るおっさんは、畑を見て満足そうに頷く。
「よく頑張ったな! ほら、日当とコレは採れたての野菜だ。持っていけ」
背中をばしんと強く叩かれ、ふら付くと同時に、少額のお金と野菜の盛り合わせのような籠を貰った。時給で考えて一番効率が悪いし、今までで一番拘束時間の長いクエストだったが、貰った野菜が今日一番の報酬の様に感じる。
瑞々しい生野菜と選びようのない多数のアクセサリーなら、断然野菜を選ぶ俺だ。
「丁度、お昼も近いし、これを昼食の一つにするか」
そう呟いて、農耕地の隅に腰を下ろす。
俺は、丁度良い熟れ具合のトマトを丸かじりにし、リゥイは人参を、ザクロはキュウリを丸齧りする。平和を噛み締める。
ほのぼの回・その二









