Sense2
「ただいま」
「お帰り、お兄ちゃん。巧さんの所に行ったんだよね」
真夏の陽炎立ちこめるアスファルトの上を汗を流しながら帰宅した俺に対しての第一声がそれである。
しかも、にやにやと何かを期待するような視線。分かっているよ。お前の言いたいことは。
「帰りにアイス買ってきたぞ、後で食べようぜ」
「わーい。アイスだ。私の好きなボリボリくんある? って違うよ!? 私が言いたいのはその事じゃないよ!」
ふっ、我が妹ながらなかなかのノリツッコミだ。中学三年生としては幼さの残る顔立ちと元気の良さで可愛い系の美少女だ。ただし、時々残念な行動をとるゲーマーで兄である俺は心配が尽きない。
最近まで姉の静が大学進学のために家を出て、少し元気がなかったが、そのゲームで元気を取り戻したようだ。だから俺も、多少の興味を持ったのだ。
「分かってるよ。俺も静姉ぇに会いたいからやるよ」
「ありがとう。明日が正式稼働だから今のうちに、設定片付けちゃおう」
「おう、その前にアイスは冷やしておくな」
俺は、美羽の指示のもと、VRギアをパソコンに接続する。
ゲームをインストールして、VRギアを付けて脳波を検出。それだけで二時間の時間が取られた。
しかも、その殆どが脳波を検出するために俺はVRギアを装着したまま、ベッドに寝かされたのだ。
設定だけで時間が取られ、夕飯の準備をしなければいけなくなってしまった俺は、キャラエディットをカメラで撮影した俺自身そのままに設定した。
少し体や顔を弄りたかったが美羽に、時間が異常にかかる、と言われてしまったので俺は諦めざるを得なかった。
俺の容姿は、女寄りと呼ばれる部類だ。髪を短くしているが、伸ばすと中性的な顔立ちから少女に見られてしまう。それが嫌なのだが、ゲームなら多少の自動補正がかかったりするらしい。例えば、左右の体感バランスの調整などがその内に入るのだとか。あとは、体の筋肉の付き方とかだ。
夕飯の席で俺は美羽から、ゲームについて簡単な講義を受けている。
「お兄ちゃんは、どんなセンスを取ろうと思うの?」
「うん? センスってなんだ?」
「あー、まだ説明受けてないんだね。良いよ。私が簡単に教えてあげる」
「サンキュー」
「あのね。センスってのは才能なの。その才能を持っているとそれに関する行動に補正が掛かったり、それに関する行動が可能になるの。例えば、剣センス持ちだったら、剣を持てて、剣の攻撃に補正が掛かったり≪スキル≫や≪アーツ≫とかのえっと、必殺技の動きが出来て、ダメージに補正が掛かるの」
「へー。つまり、職業制じゃないんだな」
「うん。だから自由にセンスを持ちかえられるの。センスも使っていけば成長して、効果も増強するんだ。ただ、一度に持てるセンスが十個までなの。大体、標準的なセンス構成は、単一武器の場合は、武器センス一つ、防具センス一つ、後は、ステータスセンスが二つか三つかな? 残りは全部魔法系のセンスで構成するのが鉄板だね。複数の武器を使う人は、マルチジョブって呼ばれて、武器センス二つ以上で防具センスやステータスセンスを削っているの。凄い人で、全部武器センスにしていた人がいたな」
「それって、なんか器用貧乏って感じだな。俺の場合は、武器なら二つくらいかな? 後は、何かセンスについて無いか?」
「うーん。あとは、武器の必殺技アーツの中にはMPを消費する奴があるから魔法センスの≪魔力≫は必要になるかな?魔法センスは、≪魔法才能≫、≪魔力≫が二つで一つみたいな扱いだし、後は、攻撃属性とか。私は取るつもりないけど生産系のセンスは、鍛冶や裁縫、料理とか色々あるらしいけど、そこは攻略サイトを見て」
また適当だな。と思う。
「それで、静姉ぇや美羽はどんなセンス構成だったんだ?」
「あー、β版って所持金以外は全て初期化されるんだっけ? 私の場合、剣、鎧、攻撃力上昇、防御力上昇、気合い、魔法才能、魔力、魔力回復、光属性、回復魔法、だったよ」
「あー、お前の場合その元気の良さで敵に突撃する役割なんだな」
切り込み隊長的な役割で。
「違うよ! 私は壁役でパラディンをイメージしたんだよ!」
「それで、静姉ぇの構成は?」
「お姉ちゃんの構成は、純魔法職で杖、ローブ、魔法攻撃力上昇、速度上昇、魔法才能、魔力、魔力回復、魔力転用、水属性、回復魔法、だよ。だけど複数のセンスを同時に育てていたから場合によっては変わるんだよね」
「へー」
美羽の気合いのセンスは、ステータス上昇系だろう。そして静姉ぇの魔力回復は通常のMP回復量が微上昇って所だろう。そして、魔力転用は、魔法の消費MPの減少だろうな。
一般的なRPGはたまに手を出すが、廃ゲーマーの二人ほどではないので、大体の当たりしか付けられない。
「なあ、アイテムとかって戦闘中どうしているんだ?」
「あー、アイテムは、実際にバッグのショートカットに入れて、使うんだよ。でも重量級の両手剣の人とかって一度攻撃が中断させられるから、私は回復魔法を入れているんだよ。唱えるだけで回復出来るから」
「へぇー」
大体見えてきたな。俺のセンス構成は二人に重ならないようにしようと心に決めた。
そして、部屋に戻り、攻略サイトを流し読みながらチェックした。
かなりあるセンスの数。
俺は、どんなセンス構成にするべきか。兄妹でプレイする中で俺は初心者だ。そして、姉と妹の足手まといに絶対になる。それはわかる。
じゃあ、どうするか。サポートに徹底すればいい。
そうなると取るセンスは、遠距離攻撃、冒険のための生産職、そして普通ではない魔法職だ。
そして俺は、攻略掲示板のアンケートをふとみた。
アンケート上位には、美羽の言っていたセンスが確かにあった。だが、俺の見たのは下の方。いわゆる不人気センスというやつだ。
「狙うなら隙間産業的なセンスだな」
よし、決まった。俺の使うセンスはこれだ。
さあ、俺は明日に備えて、寝るとする。
改稿・完了