Sense1
――《Only Sense Online》
通称【OSO】。プレイヤーは、センスと呼ばれる才能を装備し、唯一の生き方、only oneなプレイスタイル、を謳い文句にオープンβ版より話題を集めているVRMMORPGらしい。
発売元のエプソニー社が開発した自立型AI、リアリティ重視のグラフィックと大型サーバーの物量的演算能力によって可能な限りのリアルな仮想現実を実現。その世界観は、中世を基盤とした剣と魔法のファンタジーというテンプレ世界観だが、他のVRが霞んで見えるほどの完成度らしい。
センスの極め方は人それぞれ。派生のセンスなどが無数にあり、オープンβから新たに追加されたセンスも存在するらしい。
――プレイスタイルは、まさにonly――との友人談
そして俺は、正式オープンの前日、なぜか、なぜか。友人宅に拉致監禁、もとい夏休み初日に宿題の強制消化を手伝わされていた。
その相手は、悪友の巧である。
「おい、峻。ちょっと数学の答え見せてもらうぞ」
遠慮なく、俺の労力をかすめ取る巧。俺は今、こめかみに青筋を当てて、痙攣し始める頬、そしてふつふつと湧き出す怒りを無理やりに押しとどめる。
「お前、何故だ? 何故に俺はここに連れてこられて、宿題を公開しなければならない」
「良いだろ。毎年の風物詩、夏休み終了間際の宿題消化が前に来ただけだろ」
そう、しれっと言うのは悪友にして幼馴染の上屋巧だ。しかも理由は、今年の夏はゲーム三昧をするためらしい。
「で、今年の理由は、ゲームを夏休み中にやるって理由なんだろ?」
「そうそう、後顧の憂いなくやるためよ。それにしても助かったぜ。ソウルブラザーは、俺を裏切らないな」
「いや、お前。俺のばらされたくない過去を楯に揺すっただけだろ。まあ良い。今年は早く宿題を終える気になったんだからな。だが、俺にとってメリットが無いぞ」
我が家は、両親共働きで、夏の長期休暇は、子供たちが家事を担当するが、実質的な担当は、兄の俺だ。一番上の姉は、遠方の大学に行き、妹の美羽は家事能力壊滅的。だから、何時までここに拉致されているのかが、かなり心配なのである。
「お前、静姉さんと最近電話でしか話をしてないだろ? 実は、静姉さんもこのゲームやってるんだ。だから、お前もこのゲームをやって久々に兄妹三人で遊べばいいんじゃないの?」
「という事は、美羽もこのゲームやってるのか?」
「ああ、β版の時にたまに会っていたらしいぞ」
ああ、なるほど。大学へ進学して家に居なくなると分かった時、あれだけ騒いでいたのに。最近ではそれを忘れたかのような明るさは、そういう理由か。
「さあ、宿題を全て置いていけ! 代わりに貴様を開放し、ゲームの機材をやろう」
「……全く、分かった。俺もゲームをやってやるよ。だが廃人のお前らにはペースは合わせないからな」
そう言って、巧は紙袋を取りだした。その中身は、新品のゲームの機材であるVRギア。最新のVRは、ヘッドディスプレイ型ではなく、催眠誘導型らしい。
エプソニー社が開発した最新型の中で、現在対応しているゲームは、件の【OSO】だけらしい。つまり、現状ではそれ専用のゲーム機材だ。
催眠誘導型の利点は、操作が脳波で行われているので、従来のように一人称視点のディスプレイを見ながら、手元では別のコントローラーを操作するという、長年の課題である操作性のギャップが解消された。
「お、おい。これ、テレビでやってた新商品なんだろ。今、出荷数が追いついてないって、こんな物貰えないぞ」
「気にすんな。それは懸賞で当てたような奴だ。俺はβ版のテスターで貰ってある。ただ、設定に時間がかかるんだよな。固有の脳波検知だかで。だからもう帰れ。分からないことは美羽ちゃんにでも聞けばいいから」
「お、おう」
俺はそれを持って悪友に送りだされる。
危険もない、オンリーワンなゲーム攻略が始まる。
改稿・完了