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第五部〜愕然、奴らの本性〜


生徒会会報!第五部〜愕然、奴らの本性〜


「……は、はあ……はあ……はあ、は……」

生徒会室の前から逃げるように立ち去った俺は、あまりの緊張と疲労のために、廊下に座り込んで荒く息を吐いた。

あんなに緊張したのは、初めてかもしれない。

もう終わったことなのに、それでもこの心臓の激しい高鳴りはまだ収まりそうにない。

「どうしたよ雪弥。偉い疲れ果ててるじゃねえか」

充が、俺の肩を叩き、相変わらずの軽口を叩く。

俺は背後の充を軽く睨み付けた。

この野郎、俺が生徒会室でどんな思いだったのかも知らないで。

まあ、俺の恋愛の邪魔をした上本当に助けて欲しい時には眠りこけるような男にまともな救いなど期待しても意味はないけど。

「……うっせえなあ……俺にも色々あったんだよ色々」

まさか会長の前で泣きそうになったなんてこいつに話したら、一生の汚点だ。

まずげらげら笑われ、その後クラスの皆に言いふらされるのがオチだ。

「ふうん、色々ねえ。まあそれはいいとして、どう、手応えは」

楽しそうな、充の声。

手応え……ああ、そんなものすっかり忘れてしまっていたよ。

絶望的な、ため息が漏れる。

「……り」

どうしても、声は小さくなる。

「……は?」

充が変な顔をして俺を見つめる。

「な、何て言ったんだ、お前?」

「……絶対、無理」

多分俺の顔は引きつっていたと思う。

「はあ!?何言ってんだお前はよお……」

「だだだだって!名前もまともに言えなかったしどもりまくりだったし!」

そういう俺の声は、次第に小さくなっていく。

話せば話すほど不安が増し、自信がみるみるうちに減退していくみたいだ。

「やっぱ、俺には無理なんだよ」

ため息を吐き、下を向いた。

いい、もう。どうせ期待したってどうしようもない。

「な、何言ってんだよ、おま」

だって、無理だよ。……いくら俺が声模倣出来ても、あんな奴生徒会はおろか学級委員にもしてもらえねえよ……」

そうだ、だって俺は普通なんだから。

俺が生徒会長だとしても、あんなに頼りない少年を誰が生徒会に入れたいと思うか?

ただ、恥をかいただけなんじゃないか。

知ってるよ、どうせ俺みたいな凡人には、一瞬の輝けるチャンスすら得られないんだってことは。

普通の人間には、自分を変えることすらできないってことは。

『あの日』から、よおく知ってるはずなんだ。

「……そお…………かよ」

俺の不安そうな言葉を聞いて、充はしばらく俺を見つめた後、

「……ばあか」

重い口を開き、そう言った……ってえああえええ!?

だ、誰が馬鹿だ。俺か、俺なのか!?

ふつふつとこみ上げる怒り。

馬鹿?頑張った親友に向かって馬鹿は、さすがに酷すぎるんじゃないか?

「……なっ……!だ、誰が馬鹿だっ……!」

思わず荒い声を上げる。

「だって、馬鹿じゃねえか」

充は、下を向いて小さな声で呟いた。

「……結果も出る前から何にも選んで貰えないなんて……何で思い込むんだよ」

聞き取りにくい声だったけど、でも確かに聞こえた。

少し、泣きそうな声だった気がした。

「……みつ……る……?」

俺より明るくて、滅多に事を荒だてない充が、泣く?

小さな声が、少しずつはっきりと涙声に変わっていく。

普段ふざけ調子の充が、肩を震わせているのが見て取れた。

「……何で、決めつけるんだよ。何でいつもいつもお前は、自分には何も出来ないなんて思うんだよ。

……お前が知らないだけで、お前は…お前には色んないいところ、あるし、

お前は色んな奴を幸せにしてる、お前のお陰で、沢山の人が幸せになってきたし、そして、これからも……」

そう言って、充は口を噤んだ。

俺は呆気にとられ、ただ悔しそうに唇をかみ締める充の顔を見つめていた。

充の言いたいことの意味が、分からなかった。

何で、充は俺にそんなことを?

どうして、そんなに泣きそうなんだよ?

なあ?

「……気づけよ。気づいてくれよ、お前が駄目な奴なんかじゃないってこと」

そう、言われた。

意味は、やっぱり分からなかった。

でも、心の底から、喜びのようなものがかすかに沸き起こるのを感じた。

充は、俺を俺より見てくれている……?

いつもふざけてばかりで、俺をからかって邪魔して笑ってる充が、今、俺の為にーー―

瞳が、少し熱くなった。

「……充……」

充は、俺をちゃんと見てくれていた。

その事実が、ただ嬉しかった。

そんな親友に、これ以上悲しそうな顔はして欲しくなかった。

充が何を言いたいのかは分からないけど、でも、純粋に喜んだ。

「……ごめ」

「……なあんて。マジにしたろ?お前」

‥………は?

申し訳なさで一杯になり、頭を下げようとした俺に、笑い声が振った。

「……く……くくくっ……はは……やっべえ、おかしすぎて笑い死にそう…」

背後の声の主は、くつくつと声を立て笑い始める。

訳が分からず、初めは呆然としていたが、腹を抱えて笑う充をじっと見つめていると、今度は喜びとは違う感情が腹の底から沸々とわきあがってくるのを感じた。

なんだ、こいつ。

俺の、俺の謝罪の気持ちを返せ、今すぐ返せ。

「……みー、つー、るー?」

「ああ、わりいわりい。そんな怒るなって、ちょっとお前の反応が見たくなって言ってみただけだろ?!軽いジョークだよジョーク!」

あんなに人を困らせるジョークがあるか!

「お前……俺をからかってるだろ?」

「んなことないって、だって雪弥はいつでも面白いじゃん、……あ、」

「……充……お前締めるっ!」

充が、俺の手でボコボコになったことは言うまでもない。

人を心配させた罰として、多少懲りてもらわないとな。

それにしても、

ていうことは、やっぱりあの顔も、嘘だったの…かな。

そんなこと、まあどうでもいいことなんだけど。

                 *


そして、いよいよ結果発表。

放課後、俺は(何か言われそうだから本当は連れていきたくなかったけど仕方ない)充を連れて、生徒会室前に向かった。

昼休みにやった面談が放課後に結果発表なんて早すぎるとは思うが、生徒会の考えだから仕方ない。速くても短所はないし。

そして、右腕候補の全員の前で、生徒会長自らの口から右腕を誰にするか、発表する。

やばい、かなり緊張してきた。

でも、結構心は冷静だ。

あの時は緊張しまくってた割に変なプライドがあって、どうしても右腕にならなきゃみたいな気持ちがあったんだけど、少し授業を受けて冷静になってみたら、

『なんか、右腕に慣れなくてもいいかなあ』と思えるようになった。

そりゃあもちろんやれるものならやりたい。でも、何だか充のお陰で(冗談だったけど)少し吹っ切れた。

もう、俺は十分頑張った。

だから選ばれなくても、きっと俺は成長することができたんだと思うから。

「……わ、もう結構来てる」

やっぱり早く出たつもりだったのに、既にほとんどの候補者が揃っている。

さすが、美形生徒会は伊達じゃない。

女の子の中には、再び姿を拝見できるであろう会長を想像し、すっかり恋する乙女の瞳になってしまっている人もいる。

やっぱ、すげえや、会長。ビバ美形だ。

「……」

右の拳を、きつく握り締める。

もう怖いものなんてない。

だって俺は、やれるだけのことはやったんだから。

「……ま、ここまで来たら俺には何も言えないけどさ」

充が軽く笑いながら言う。

「とりあえず期待してるぜ」

「……サンキュー」

そう言って、俺も笑う。

よし、頑張ろう俺。

すると、唐突にトイレ行きたくなってきた。

我ながら緊張感ないなあ俺。時間いつからだっけ。

「……充、発表何分からだっけ?」

「時間?ああ、確か二十分だろ?」

充は俺の言葉に右腕の腕時計に目を落とす。

「今は何分?」

「今は五分ジャスト。あと十五分はあるぜ」

ああ、よかった。

さすがに我慢しておきたくないし、今のうちにトイレ行ってこよ。

「……じゃあ、おれちょっとトイレ行ってくるよ」

「はあ!?お前緊張感無い奴だな!」

充が変な顔をして叫んだ。

……ほっとけ。それに俺もちゃんと自分で分かってる。

「大丈夫だって、すぐ戻ってくるからさ」

充に背を向けて手を振り、歩き出す。

ええっと、どこにあるのかな。生徒会室(ここ)って三階だからなあ。三階のトイレってどこだろう。

俺達一年生の教室は一階にあり、三階なんて移動教室の時くらいしか使わないみたいだし(おまけに入学してまだ一週間しか経ってないし)、土地勘もないし。

どうしよう。三階ってことは三年生の教室があるってことだから、通りがかりの三年生にでも聞いてみようかな。

しかし運悪いことに、もう放課後になってしばらく経ったからなのか、廊下には人の姿は見えない。

やっべえ、どうしよ。

俺方向音痴だし、滅茶苦茶行って迷っても困るし。

「……どうしよ……」

俺が辺りを見回しながら困り果てていると、どこからか声が聞こえてきた。

「……よ、……って、……じゃん……」

「……?」

聞き覚えのある声だった気がした。

とりあえず、誰か教室に人がいる。それだけは判明したので、少し緊張しながらも教室に近づく。

ドアのところには『3―A』と書かれている。

俺がこっそりとドアの隙間から中を覗くと、

「……あ、会長、この子どうですか!?」

少女の、声。

え、え、え、え、え、え、まさか、まさか。

「……すごいですよお、イタリアに留学後ドイツ語を習得。今は日本語英語ドイツ語イタリア語中国語の五ヶ国語話せるんですよ!!!」

あ、あ、あ、あ、あ、あ、藍せんぱ……!

ドアを思いっきり叩きたくなるのをこらえ、俺はじいっと見入った。

よく見れば、そこにいるのは全員知った顔だった。

知った顔だった、否、『今日知った人物』……だ。

「……俺はその子、ちょっときついかな。何か生徒会に入って内申上げて欲しいっていう感じがしたな、俺は」

そう呟いたのは、会長に負けず劣らずの美貌の先輩。名前は分からない。

「僕も、忍が嫌ならいいよお」

そう頬を膨らませたのは、小柄で愛くるしい外見の先輩だ。

うわあ、もしかして、これ、見たとおり生徒会右腕の候補調査?

すごいなあ、こんなギリギリまでやってるんだ。すっげえ。

「……うん、彼も素敵だと思うよ」

そう笑ったのは、やっぱり麗しき生徒会長様だ。

「……でもやっぱり、僕の中ではもう彼しか右腕にする気はないな」

……え?

何、今の発言。

も、もしかしてもう決まってるの?右腕。

何何々!?すっごい気になるんですけど!

「……本気ですか?会長」

そう、少し困惑気味に口を開いたのは、……ってえ、あ、あのムカつく先輩じゃねええええかよ!

何、あの先輩も生徒会!?た、確かに藍先輩と仲良くしてたけどっ、でも……うう、認めたくねえ。

「うん、本気さ。僕は彼しか右腕に適任なのはいないと思ってる」

うわあ、すげえなあ。誰か知らないけど会長から絶賛されて。

いくら選ばれなくてもいいとはいえ、あそこまで会長に気に入られているとちょっと悔しいかもしれない。

「……私もいいと思います、会長」

ああ、どこの誰だか知らないけど羨ましいぜこんにゃろう。

藍先輩からも絶賛浴びるなんて。

「……俺と美琴はさっき言った通り全然ok。後は?」

超絶美貌の先輩が笑う。

「……純はさっき連絡を取ったら全然大丈夫だって。皆がいいって言ってる奴ならきっと俺も大丈夫って言ってたよ」

会長はそう言って笑い、そして、少し顔を曇らせる。

……ん?どうしたんだろ?

「……千歳は……分からない。今日も帰ったみたいだし。……多分……いいと言ってくれるとは思うけど……」

千歳?純?

聞かない名前だ。この場にはおそらくいないのだろうが。

「……まあ、多分大丈夫ですよ。千歳さんはきっと」

ムカつく先輩が、ぽつりと漏らす。

「……あああああっ!」

突然、可愛らしい先輩……美琴とかいう名前だった筈だ…が声を上げた。

その声に俺はびくりとし、危なくドアに右手を打ち付けそうになった。

せ、セーフ。

こんなとこで盗み聞きしてることがばれたら、大変なことになる。

あれ、そう言えば俺、トイレ行くんじゃなかったっけ?

「……ど、どうしたの美琴」

「こ、これ何!?」

先輩の指差す先には、赤い包み紙にくるまれた箱。

「さっき、響のファンからお菓子預かってきたんだ、渡し忘れてたよ」

美形な先輩がそう教えると、無言でにこにこと、嬉しそうに笑う先輩。

え、なんで貴方が楽しそうなんですか。

「……食べたいの?」

何かを察したらしい会長は、ふうと短くため息をつき、美琴先輩に告げる。

「……いいの!?」

「いいの、も何も明らかに物欲しそうな目をしてるでしょ、美琴。いいよ食べて」

「やったあ!ありがとう、響大好きっ!!!」

先輩は遠慮という言葉を知ってか知らずか、満面の笑顔で包みを乱暴に(本当に顔に合わないぐらいに引きちぎって)開ける。

ちらりと見えたお菓子は、どうやらカップケーキのよう。

いいなあ、美味しそうだなあ。俺も女の子(ていうか藍先輩)から貰いたいなあ。

「いっただきまーすV」

そう言うなり、素早くそれを口の中に放り込む。

「……本当好きだよね、美琴も」

先輩(名前なんだっけ……?)が横目でくすくす笑う。

美琴先輩は、それこそ天使のような顔でそのお菓子を噛み、しっかり味わい、そして、多分次も同じように天使のような顔で、

「……何、これ。最悪」

そう、顔をしかめ、まるでゴミ箱の中に手でも突っ込んだような顔でそう言った。

……ん?え?……ええ!?

「…ちょっと忍、これどういうこと!?すっごい不味いんだけど」

「俺に言われてもどうしようも。あ、でも良かった、俺食わなくて」

……はい?

「え、どういうことですか先輩?これは響先輩のファンがくれたものですよね?」

ああ、藍先輩可愛い。

「……ああ、あれ嘘だよ。ごめんね美琴」

先輩―――確か今忍と呼ばれたーーーはくつくつと楽しそうな苦笑いを浮かべながら答える。

「今の本当は俺が貰った奴なんだ。でも俺要らないから、響か美琴にあげようかなあって。だってほら、どうでもいい女からのお菓子とか『要らない』じゃん?」

……要らない……ですと?

なななな、何、この人たち?

すっごい黒いことを連発してません?

「……確かにこれは要らないよ。不味い、不味過ぎ。これ捨てていい?最悪な味」

「先輩は少し舌が肥えすぎなんじゃないですか?」

ムカつく先輩が冷静な意見を述べる。

「そうだよ美琴。あんまり酷いこと言っちゃ駄目だよ」

会長が、息をつく。

ああ、やっぱり会長はいい人だ。

一瞬愕然としちゃったけど、でもやっぱり会長はいい人だよ。うん。

「……そういうこと言ったことが生徒にばれたら、支持されなくなるだろ」

……え?

「だあいじょおぶだもーん。捨てればごまかせるし。だいたいこれ、人間の食べる味じゃないって」

そう言って美琴先輩は、お菓子の入った箱を地面に落とし、憎しみをこめ踏みにじる。

ああ、ああ、何てことを。

箱の形が崩れ、粉々になったカップケーキの姿。

「……相変わらず美琴もやることえげついね」

「それは忍もでしょお?女の子からもらったお菓子人にあげちゃうし」

「とにかく、二人とも世間にばれたら色々言われそうな行動は抑えてね。僕らはこれで終わりだからいいけど、駿や藍の次戦に差し支えるかもしれないし」

「分かってるって、ばれないように言うからさ」

「……ああでも、たまにありますよねー。無理やり色々押し付けられたりするんだけど、正直ちょっと困っちゃいますよね」

「それはお前がその男に何か欲しいって言ったからじゃないのか藍。自分で言ったのに相手のくれたものに責任転嫁するのはどうだかな」

え、え、え、え、えあ、あ、あの、藍先輩まで?

「だってえ、これ本当不味いんだよー?最悪」

「てか、たまに勘違いしすぎの奴っているよね。俺ら生徒会と自分はつりあうって思ってるんじゃないか、っていう馬鹿」

ばばばばば、馬鹿……?

「本当。いるいる。一般人の分際で調子乗ってるじゃねえよって感じい」

「二人とも、声大きい。話すなら小さい声で話してよ、誰かに聞かれたらどうする?」

「ねえ駿、この人の遍歴面白いよねー。世界選手権で優勝ってすっごい嘘っぽいよね」

え、さっき面談のときその人のこと褒めてましたよね?

「人間なんて嘘の塊だろ。こういう奴はいつか身を滅ぼすんだ」

「藍も駿も会話は静かに、それにもうそろそろ結果発表の時間だよ」

……なんですか、これは。

俺は一体何を見ているのでしょうか?

嘘だよな?


可愛くて小さくて天使のような美琴先輩は、ケーキを踏み潰してゴミ箱に捨てるし、

さわやかなマスクの忍先輩は、人を馬鹿扱いのあげく女の子からもらったお菓子を人にあげるし。

会長はこの二人の行動に対して注意しないし、隠れて策略家だし。

藍先輩は笑顔ですっごく怖いこと言ってるし。

あいつはあいつでこの状況にただ頷くだけだし。

なんだよ、ここは……!

何よりも、何よりも、誰もこの状況に対してつっこまないのか?

この性格悪すぎ集団が……!

俺の中で、何か名前のない美しさと憧れが音を立てて崩れていく。

「……え……」


ガタリ。


気づいたときには、もう遅い。

俺の肘は、驚いた衝撃で、軽くドアに打ち付けられていた。

「……誰かいるのか?」

やばい。

血の気が引いていくのが分かった。

やばい、やばい、やばい、やばい、やばいやばいやばいやばい!

息を荒くつく。

「……誰かいるんだろ?出てきて」

会長の、少し怒ったような声。

やばい、俺もしかして殺される?

指先から寒気にも似た震えが走る。

でも、でも、何か言わなきゃ。

最悪じゃないかあの人達。性格性悪だし。

そ、そうだ、俺は生徒会の秘密を握ったんだ。

何の怖いことがある?何も怖くないだろ?

そうだ、勇気出せ中原雪弥。弱味を握ってるのはこっちなんだぞ。……で、でも、

もし先輩達が本当は会話ほど悪い人じゃなくて、俺の勘違いだったら……まさか、

いやまさか。明らかに口悪すぎだろ。でも、でも……


「あ、雪弥君?」

肩が、跳ね上がった。

ああああああ、やややや、やばいやばい、ばばばば、ばれた。

しかも、俺の耳が正しければ、

「……ほら、やっぱり雪弥君だ」

よりにもよって、藍先輩にっ……!

「会長―!雪弥君ですよ!」

しかも言わないでえええええっ!

やばい、本当に殺される。助けて神様。

俺は無信教だが、救ってくれたら例えキリストだろうとガウタマだろうと孔子だろうと誰だって信じてやるから。

「……雪弥君?」

会長が一瞬整った顔をしかめ、俺に歩み寄ってくる。

やややや、やばい。本格的にやばい。

「あれま、新右腕が盗撮ですか。まあ、それもそれで面白いけどね」

忍先輩がくつくつと笑う。

会長は俺の目の前に座り込んで、そして綺麗な色の瞳で俺をじっと見据えた。

「雪弥君……聞いてた?今の話」

本当なら何があっても否定したいところだが、あまりにも麗しすぎる先輩に見つめられては、否定するなんてできなかった。

どこ行ったんだよ、俺の度胸。

「……す、すみません……」

ああ、きっと俺の人生は今日で終わりだ。あはははは。もうどうにでもなれ。

いいさ、この16年、満足とは言わないがなかなか楽しかった。いつ死んでも本望だ。

ああ、でもできれば死ぬ時ぐらい藍先輩の膝の上で……


「……よかった」

会長は、はあ、と小さくため息を吐いて、立ち上がった。

「安心したよ。君なら大丈夫だ」

「……」

唖然として、動けない。

ままままま、マテ。待て。マテ。今なんて言った?

『俺なら大丈夫』?そう言ったよな、この方は。

まままま、ま、待て、

「ど、どういうことですかっ!?」

死ぬ覚悟をしていたことも忘れて、思わず叫んだ。

やば、聞いちゃいけなかったのかな、と思ったときには既に遅い。

しかし会長は、俺の無礼な質問に怒った様子は見せなかった。

「どういうことって?」

寧ろ、笑ってる?

うっそお、めっちゃ意外。あんな腹黒集団なのだから、きっと俺は即座に息の根を止められると思っていたんだけど。

「……え、あの、だから……そのままの意味なんですが?」

「要するに、何で雪弥君は怒られないのかってこと?」

首をかしげる藍先輩。ああ、可愛い。可愛すぎる。

さっきの台詞さえ聞かなければ、天使だ。

「あ、はは、はい」

「そんなの当たり前じゃん、雪弥君」

藍先輩が笑うと、会長も、忍先輩も、美琴先輩も、あのむかつく先輩でさえも、いっせいに藍先輩の言葉に同意した。

あ、当たり前?どういうことだ?

「だって、」

藍先輩は、その天使のような顔でにっこりと微笑み、

「だって、雪弥君は右腕になるんだよ?仲間の間に、隠し事はなしに決まってるじゃん!」

ああ、成るほど。

ようやく、俺の中で一つの輪が繋がった。

成る程なあ、俺が右腕か。だからばれても問題ないってことだな。どうせ生徒会に入るんだから。ようやくこれで納得した。うんうん、俺が会長右腕、……は!?

「……ま、ままままままままま待ってくださいっ!」

待て、待て待て待て。今何て言った。もう一度今の言葉をワンモアプリーズ。

今、とんでもない言葉を聞いた気がしたんだが、気のせいだろうか。

ままま、まさかな。待て待て。落ち着け俺。頭がどうかしてるんだ、俺。

「え、何?雪弥君」

「いいいいいいいい、今、なななな、何て言いましたか!?」

藍先輩にしがみつく形で、必死でたずねる。

かっこ悪いことこの上ないが、俺はそれより何より頭がくらくらしていた。

「……やっぱり面白いなあ、君は」

忍先輩が、いつものような笑みを浮かべ、俺に向かって声をかける。

「さっき、俺も言ったんだけどね。君が『右腕』だって。なのに全然聞こえてなかったし、今の藍の言葉も信じられなかったみたいだし。本当面白いよ、君は」

……え?

さっきも言った?いつ?どこで?


『あれま、新右腕が盗撮ですか。まあ、それもそれで面白いけどね』


……ふふふ、普通に言われてたっ!

て、てことはですね、ええ、もしかして、いやもしかしなくても、もしや、もしや俺が、

「おめでとう、雪弥君」

麗しい生徒会長が、俺の肩に右手を乗せた。

「君が、今期の会長補佐だ。よろしく頼むよ、中原雪弥君」

まじですか……?

瞬間、体がぐらりと傾きそうになった。

幸い、五体満足の俺の体は、どうにか倒れるのを防いでくれたが、ああ、それにしたって。

「本当……本当に、俺が……?」

喜び以上に、驚きと不安。


まさか、俺みたいな臆病で、普通で、声模倣しか取り柄のない俺が、本当に右腕なんかでいいのか……?

それよりも、まず。

俺は、こんな外見天使様内面悪魔様な生徒会の皆さんと一緒にやっていって、生きていけるのでしょうか。

命の危機を感じます、お母さん。神様。


「……それなら。響。『あれ』は?」

忍先輩が、面白そうにくすくすと笑った。

「そうだよお、響。生徒会に秘密はなし、でしょお?藍もそう言ったよ」

美琴先輩までそんなことを言い出した。

何、会長の秘密?まあ、会長が皆から思われているほど善人でないことくらいは分かったが、更にすごい秘密でもあるというのか?

「……そうだね……」

会長はあきらめたようにため息をつくと、俺に向き直った。

またまた、真剣な瞳で見つめられ、男ながらにどきどきしてしまう。

馬鹿じゃないか、俺。いくらあまりのことに驚いているからって、男にときめいてどうする。

「……雪弥君」

ちょ、ちょちょ、顔近いですよ!

「今から見ることは、生徒会内部以外には絶対漏らさないで欲しいんだ」

「は、はい、ははははははは、はい」

止めてください、理性跳びそう。

忍先輩ではないけれど、自分の美貌を自覚してくだサイ。

死ぬ。俺は呪い殺されるのと別の意味で死にそうです。

「……お願いね?」

「もももも、もちろんでゴザイマス」

言えるわけないだろう、天下の麗しき生徒会長様に美貌で脅されては。

「……有難う」

そう言って会長は優雅に微笑むと、おもむろに自らの流れるような美しい髪に触れ、そして、

「…………え!?」

そのままそれを引っ張り、するりと地面に落とした。

そしてその下から現れたのは、元あった髪の二、三倍の長さの長髪だった。

長い髪を纏う姿は、まるで、

「……か、いちょ?」

「ごめんね、今まで隠してたんだけど……」

そう言って、会長は笑った。

ああ、もしかして、いや、もしかしなくても。


「……僕の名前は、(ひびき)。本名は、城谷響(きょう)。学校では男で通っているけど、本当は、女なんだ」


……はい?

何かの冗談ですか?ねえ?

「……え、は、はははは……」


今度こそ、俺の体はぐらりと傾いた。

五体満足でも、どうしても認められないものはあるらしい。

ああ、神様。


俺はこれから一体、どうなるのでしょうか。




お久しぶりです……。

まだまだ続きそうな連載です。

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