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第三部〜驚愕、生徒会の素顔〜



     生徒会会報! 第三部〜驚愕、生徒会の素顔〜


「……ど、どうしよう……」

俺は、隣の充に、生気を失くした声で漏らした。

やばい。

あまりに大きな出来事のため、俺一人では冷静な判断ができそうにもない。

きっと俺よりも大人っぽい充なら、俺の気持ちを汲んでくれるはず。

そう思っていたのだ。

そうだ、きっとそうだ、充はきっと俺の不安な気持ちを分かってくれ

「……やってみりゃあいいじゃん、生徒会」

俺の期待に満ちたまなざしを華麗にスルーし、充が笑顔で告げる。

「やってみろよ、何事も挑戦ってやつだ」

「……そんなあ……」

嘘だ。嘘でもいいから、お前に生徒会なんて無理だろ、止めとけって言ってくれ。いや嘘じゃ困る。でも嘘でもいい。……ああ、もう、訳が分からない。


ほんの、一時間前。

俺は、全校生徒の真ん前で、聖倫学園の麗しき生徒会長様に、名づけて『生徒会に入ってくれたら嬉しいんだけどなあ』宣言を受け、今に至る。

ちなみに断っておくけど、俺は生徒会長直々に名指しされるほど優等生でもないし、人望もないし、しっかり者でもない。

ただ、『一度聞いたものの声を真似ることができる』という、奇妙としか言いがたい能力を持っている、あとはごくごく普通(成績からスポーツテスト、身長体重から容姿まで)の高校一年生だ。

中学時代教科書をなくし、財布を落とし、解答欄を間違えたために公立に落ち、彼女にまでふられ泣く泣くこの私立聖倫学園にやってきた、ただそれだけの俺を、

あんなに女性にモテモテで、頭脳明晰容姿端麗を絵にしたような生徒会長様が、皆の前で探すよう依頼してまで、俺を生徒会に欲した理由が、未だに分からない。

しかも、会長は言った。

『一年生で、声模倣の力を持っている男の子を、捜しています』

はっきりと、俺の奇妙な特技の名を、呼んだ。

あんな下らない、少々オタクっぽい、失敗すれば激しく引かれるような力を、何故会長は探そうとするんだろうか?

持っている本人(=俺)が分からないのでは、どうしようもない。

しかも、俺の不安を助長させることには、会長の思召しを聞いた会長ファンクラブ(多分)の先輩(無論女子)が、自分が会長の探す人を見つけ出して会長とお近づきになろうと、俺、もとい『声模倣の能力者の男の子』を、血眼になって探し回っているのだ。

クラスの奴に、既に力をばらしてしまった俺は、なんとかクラスメイトに頼み込んで、俺のことを言うのは辞めさせた。だが、問題は先輩方だ。

捕まったらどうしよう、会長に知られたら、と思い、休み時間はトイレに行くのも慎重にする。

頼みの綱の充は、あんなだし。

うう、どうしよう。腹が痛くなってきた。

「……まあ、お前は嫌がるかもしれないけどさ、俺はやってみるべきだと思うぜ、本当。

せっかく会長様からお呼ばれされたんだぜ?」

お、お呼ばれ……。

「それにほら、昼休みに適正面談するって言ってただろ?だからお前が生徒会なんてできそうもないってことが分かったら、補佐なんてならなくていいんだよ。俺が言ってるのはさ、せっかくだし生徒会長に顔出しぐらいして来いよ、ってこと。誰が見てもお前が生徒会なんてできそうにないことぐらい分かるしさ、一応だよ、一応」

そこまで言われると、何だか悲しい。

「そ、それはそうだけど……」

「なあに、不安がることねえって」

充が笑う。

ああ、今日の充の笑顔は、いつもと違ってとっても怖いよ。

「……で、でも、も、もし入ることになったら!」

「大丈夫だって、お前なら絶対選ばれない」

だから、そこまで言われると悲しいよ。

「……でも……」

やっぱり、不安だ。

まず、俺はあんな人気者の生徒会長と顔を合わすことすら緊張するのに、それで面談?会話?ああ、考えただけで倒れそうだ。

凡人が、アイドルと対峙したときの感覚だ。きっとそうだ。

充は自分とは関係ないからって楽しそうだけど、俺の気持ちを少しは考えろ。

「……本当は、お前、ちょっと嬉しいんじゃねえの?」

充が、パンをくわえたままそう言った。

「……う……」

実は、図星なのかもしれない。

確かに、嬉しくないと言ったら、嘘になる。

今まで何の変化も段差もない平凡な人生を歩んできた俺にとって、突然の生徒会への誘いは、驚きと不安半面、実はとてもわくわくしている自分も、いる気がする。

もしかして、俺は変われるかもしれない。

あんなすごい人たちに認めてもらえれば、平凡な俺から、今まで自分も見つけられなかった俺に出会えるかもしれない、なんて。

思っちゃったりしなくもないけど。

でも、やっぱり小心者の俺は、自分の中に芽生えた好奇心と期待より、不安と恐怖を優先してしまう。

「ま、まあ、そうだけど……」

「なんだ、それなら話早いじゃん。やってみろよ?」

「そんな、簡単に言うなよ……。だいたい、お前生徒会ってものがどんなに大変か知ってんのか!?前項集会で司会やったり、清掃活動したり、行事のたびに借り出されたり……!」

俺だってろくに知りもしないくせに、充に訴えても説得力ないかもしれないが。

「……ああ、じゃあこういうのは?」

充は俺の言葉に少し考え込む仕草をみせ、そして、ナイスアイディア、と言わんばかりに両手を打ち、

「お前が生徒会にめでたく入ることになったら、俺も執行委員になるから。それでいいだろ?」

「……は……?」

突然の言葉に、呆れて声も出ない。

何、言ってるんだ、この目の前の充君は……?

「だろ、いいと思わないか?そしたら俺も生徒会っつうか執行部の大変さ分かるし。お前の気持ちも分かるし、いいだろ?」

なんで、俺が生徒会に入ること前提なんだ?

そして、俺が面談で右腕落選したときの考えはないのか?

さっきと言ってる事180度違わないか?

でもどうせこいつにそんなことを言ったところで、「お前の気持ちを代弁してやったんだぜ」とか、はぐらかされるに違いない。

この野郎。この気変わり魔。

俺は、目の前が真っ暗になりそうだった。

「な?頼むよ、ていうか頑張れよ、雪耶。お前ならできる、絶対できるから、な?」


そんなことを延々十分も言われ続けて、俺はついに、頭を下げてしまった。






                     *


「……遅かったね、会長が怒るよ?いや、怒るっていうより、困るかな」

生徒会室に遅れて入ってきた三人の少年に気づき、男は苦笑いを浮かべた。

ひびきは優しいから怒ったりしないもんねーvね、駿?」

明らかに高校生とは思えない外見をした少年は、隣にいる長身で落ち着いた雰囲気の少年に、同意を求めた。

首をかしげるその様は、まるでぬいぐるみのように愛らしい。

「……え、あ、ああ、そ、そうですね……」

唐突にそんなことを聞かれて当惑した少年は、形ばかりの返事を返す。

「それより、」

男は、そう呟き、そして背の高い少年と小柄な少年の間に立つ、非常に整った顔の少年をちらりと見て、そして指差す。

「……お前もいたとはな、二度とお前の顔なんて見たくなかったが」

「お前は酷いと思うよ、千歳」

“お前”と呼ばれた少年―――忍は、男に対していつもと変わらぬ、穏やかで、しかしどこが全てを見透かしたような笑みを見せた。

「……美琴、」

千歳、と呼ばれた男は、その言葉が聞こえていないかのように目をそむけ、小柄な少年に声をかける。

「生徒会会報! 第三部もうそろそろ、廊下に出ようか。『右腕』候補が来ているかもしれないし。先に行っててくれ。俺はこの仕事を片付けてから来るから」

「分かったー、じゃあ千歳も後で来てね」

そう言って、小柄な少年・美琴は、嬉しそうに鼻歌を歌いながら、忍は、いつもと同じような掴み所のない笑顔を浮かべたまま、部屋から出ていった。


無機質な、ドアが閉まる音。

「……千歳さん」

長身の少年・駿は、数秒の間閉まったドアを見つめていたが、やがて隣にいる男の名を呼んだ。

「……っ……くそっ……!」

男・千歳は、二人が出て行った途端、その背中が吸い込まれていったドアを憎憎しげに見つめ、窓ガラスに拳をたたきつける。

「……っ……畜生っ……、忍の野郎……!」

爪が拳に食い込み、赤い筋となって血が流れたが、そんなことに気を取られることもなく、ただ瞳を憎悪に輝かせる。

「落ち着いてください、千歳さん。今日は、『右腕』候補が来る日ですよ」

駿は、冷静に男に言い聞かせる。

「……知ってるよ、んなこと……」

「知っているなら、落ち着いてください。さすがに忍さんも、今日は」

「俺は、いつでも落ち着いてるさ……!」

まさか。そんなことあるわけない。

駿は思ったが、あえて口には出さずにいる。

今この状態の彼に反対意見を述べることは、自分にとっても彼にとっても不利益だ。


「……千歳さ、落ち着いて……」

「……なんだよ、その瞳は」

顔を上げた千歳の目は、憎しみの焔が灯っていた。

駿の眼差しを否定的に受け取ったらしく、駿に近づいて吐き捨てる。

「……んだよその顔は!下らないって言いたいのか!?あいつに女を取られたってだけであいつを憎む俺がそんなに哀れか!?馬鹿みたいかよ!?んだよ、それは……!」

「違います……!俺はそんなこと、決して思ってな……」


瞬間。

駿の頬を、何かが思いっきり殴った感覚があった。


その感覚だけで駿はスローモーションのように床へと崩れ落ち、息を荒くつきながら、頭上の男を見上げる。

切れた頬を拭うと、掌に赤い線の跡が残った。

「……生意気なんだよ……お前は……!」

千歳は、唇を噛み、抵抗しない少年の体を、蹴りつけた。

「……お前は……俺の言うことだけ聞いていればいいんだよ……!余計なこと考えるんじゃねえ……!!!」

男は険しい形相でそう吐き捨てると、もう一度少年の制服の端を踏みつけ、踏みにじり、そして荒い足取りで部屋から出ていった。


「っ……」

少年は誰もいなくなった部屋で一人起き上がり、制服の汚れを払った。

切れた唇の端を拭い、血液を止めようと試みた。

なんとか血の跡は隠せたので、あとは埃を払い、靴跡のついた制服をブラシで撫でる。

「……千歳さん……」

そして、呟く。

決して本人には届かないけれど、それでも、駿は言いたかった。

たった、一言。


「……千歳さん……貴方は……」




貴方は今、幸せですか?




次も頑張ります!

これからもキャラが増えてきそうです。


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