第二部〜衝撃、生徒会長の作戦〜
生徒会会報!第二部〜衝撃、生徒会長の作戦〜
「……で、逃げられたみたいだな、なんとか」
ぜえぜえと荒く息を切らす俺に、充がけらけらと笑いながら言った。
こいつ、よく笑う余裕なんてあるな。
俺なんか疲れきっているのに。
「逃げられなきゃ……困るよ……」
実はこんな経験は、何も今日始めてのことじゃない。
中学の頃通っていた塾で、充が俺の力のことを、仲のいい連中に振れ回ったのだ。
お陰で俺はその日、男子生徒のリクエスト攻めに合い、帰宅したときにはもう夜八時を回っていた。
授業が終わったのは七時だったのに。
「……はああ……やっぱ言わなきゃよかった……」
今更落ち込んでも、もう遅い。
「仕方ねえよ。言ったもんは遅い。あきらめろ」
分かっていることを充に言われ、更に落ち込む。
「……あーあ、」
大きくため息を吐き、廊下を歩き出した。
ああ。
外は、こんなにいい天気なのに。
失敗したなー……
「おい、雪!雪って!前見ろ!」
無理無理。
俺にはもう、前は向けない。
どうせ俺は、明日から「オタクっぽいキモい奴」って呼ばれるんだ。
「聞いてるのか!?ぶつかるぞ!」
俺は、もう、いろんなものにぶつかって……
え?
ぶつか?
そう思って、気づいた時には、もう遅く。
強烈な、衝撃。
誰かの頭が見え、そしてそのまま俺の意識は暗転した。
い……うぶ……
ああ、誰かが何か言っている。
誰だろう。
ていうか、俺どうなったんだっけ?
訳が分からない。
……ようぶ?
誰か、喋ってるのか?
誰だ?
俺は瞬間的に、体をがばりと上げた。
どこだ、ここは??
霞む、視界。
なのに、体は温かい。
俺は、夢でも見てるのか?
「……大丈夫?君」
次こそははっきりと、聞こえた。
柔らかで可愛らしい、女の子の声。
……。
って、……お、おおおお女の子!?
「うわあっ!」
顔を真っ赤にして、素早く体を離した。
恥ずかしい。
もしかしなくても俺は、この女の子にぶつかったんだろうか。
だから、暖かく感じたのか。
というか、その子が俺に膝を貸してくれたのか……。
こんなときにそんな場合じゃないだろ、と思いつつも、口元が自然ににやける。
「……す、すみません……」
そう言って振り返り、俺は絶句した。
「いいのいいの、私もよそ見してたし、気にしないで、ね?」
そこに居たのは、超絶美少女。
身長は見たところ150と少しくらい。
少々茶色に染まった髪に、ぎりぎりの長さのスカート丈。
小柄な割にスタイルがよく、まるでファッション雑誌のモデルのようだ。
派手な印象を受けなくもないが、とにかく美人には変わりない。
「…………!」
一瞬にして、違う意味での衝撃。
まさか。
俺はこんなに可愛らしい女の人に頭からぶつかっ・・・・・
「……ごっ……ごめんなさい!ごめんなさい!」
必死で頭を下げる。
どうしよう、顔に傷がついたら。
お嫁にいけなくなる。
それなら俺が貰いた、って、何考えてるんだ俺は!
「え、そ、そんなに謝らなくても、大丈夫だよ?ほら、私はこのとーり」
立ち上がって、両手をぶんぶんと振る。
「ね?」
ね、って。
可愛すぎるんですけど……!!
「……す、すみません……」
「大丈夫だって!それより君こそ大丈夫?しばらく倒れてたから……」
恥ずかしい。
まさか、女の子の前でそんなみっともない姿を。
「大丈夫です!」
突然、叫んだ。
「全然、もうぜんぜん大丈夫っす!
あんなん、豆腐にぶつかるくらいなんともありません!」
充が隣で、しらけた顔をしている。
顔が明らかに、「調子よくしやがって」と、訴えている。
「そう、それなら、いいけど……」
少女は笑い、スカートのすそを払いながら立ち上がった。
「……あ、あの」
「もう謝らない!私は全然大丈夫だから!……優しいね、君」
そう微笑まれて、俺が冷静でいられる筈もなく。
「……っ、え、や、優しいなんて……っ!」
顔を更に真っ赤にし、手が千切れんばかりに否定する。
「あ、君、一年生なんだ」
そんな俺を見ているのかいないのか、少女は俺の上履きに目を落とし、呟いた。
え?
「……あ、はい、そうですけど……」
だから、何なのだろう。
そこでふと気づいたのだが、目の前の美少女の上履きの色は、自分たちと違っていた。
ああ。
先輩、か。
二年か三年かまでは分からないが、
自分たちとカラーが違う以上、同い年では同い年ではない。
「あ、やっぱり!」
少女……いや、先輩は、嬉しそうに手を打つと、俺ににっこりと笑いかけ、
「ねね、じゃ、さっきのお詫びと言っちゃあれなんだけど、よければ、人探し頼まれてくれない?」
人、探し?
誰を探しているのだろうか。
まさか、恋人、という嫌な予感は消し去って、弟だ、と思うことにする。
「……は、はい。それで、誰なんですか??」
「……んとねー、名前は分からないんだけど、」
少女は悩むようなしぐさをし、そして、言った。
「なんか……今年ここに入った一年生で、人の声真似ができるっていう変わった男の子がいるらしいのよ。その子を探して、見つけたら、こう言っておいてくれない?
“会長が、待ってる……”って。」
一瞬、ブレーカーが飛んだ。
彼女は今、なんと言ったのだろう。
声真似ができる、一年生。
男の子。
会長が、会長が、探してる……
それは、間違いなく、俺のことだった。
「…………!」
「お、おい……!」
横で充も、驚いた声を上げる。
俺が、
俺、なんかが……?
一瞬のことにくらくらして、信じられない。
「……え……?」
「だよねえ、やっぱそんな人いないって思うよねえ。私も思ったよ。でも会長がね、間違いないって。絶対にこの学校に入学してきたって。彼はうちにとって大事な人手だから、丁重にお出迎えしなさいって。」
そこじゃ、ないんですよ。
「ありえないよね、そんな変わった子」
いえいえ、貴方の目の前にいますよ?
俺がうろたえているのは、そんな摩訶不思議な人間(=俺)のことではなく、何故俺が会長などというすばらしい人物(多分)に目をつけられているのかということで。
「え、えええええ……」
どもったあまり、相槌が長くなってしまった。
「でしょう?まあ、とにかく、会ったら私に教えてね。あ、私は大抵いつも、生徒会室にいるから、見つけたら伝えに来てね。じゃあ、また」
少女は愛想よく手を振って、俺から離れていった。
ああ。
俺の運命の出会い。
「……なあ、雪」
充が、後ろで呟いた。
「……え?」
「あの女の子、お前を探してるんじゃねえの?」
充の、当然の言葉。
「なら、何で言わなかったんだよ。さっき言っておけば、お前今頃、あの可愛い先輩と今頃二人で廊下歩けたぞ」
……そんなこと、考えてなかった。
「そう、だ……!」
俺って、馬鹿だ。
「何で、言わなかったんだよ?」
そんなこと、言われても。
「……なんていうか……言葉が出てこなくて……やったラッキーって思ったんだけど、なんか言い出しにくくて……」
「おいおい……」
充はあきれたため息をつき、肩をすくめた。
「んなんだから、お前は振られるんだよ」
ザクリ。
言葉の暴力が、俺を突き刺す。
「う……」
「まあ、仕方ないって。それがお前の運命だって。お前は女縁がないんだよ。あきらめな」
そういわれて諦められたら、どんなに楽だろうか。
「……」
「ま、今のはいい思い出にして、忘れようぜ。一年にも可愛い子の一人や二人いるって。落ち込むな。ほら、もうそろそろ教室戻ろうぜ。もうすぐ入学式だ」
充になだめられ、しぶしぶ立ち上がる。
ああ。
俺の高校生活は、
どうも、順風満帆とは、言えなさそうです。
*
『今日、桜も満開なうららかな日に、我が聖倫学園の門をくぐり入学してきてくれた、200名の一年生諸君には、この学校での目覚しい活躍と、すばらしい栄光を期待し……』
校長が、もっともらしい言葉を俺たちにかけているが、
こういうとき、大抵興味深く聞いているのは親御さんだけで、当の本人は耳を傾けちゃいないんだ。
そして、俺も。
今は、襲ってくる睡魔と闘うので精一杯状態。
隣の充なんか、もう十分も前に、眠りについている。
のう天気な奴だ。
形なりにも、起きているふりを保とうとしている、俺の面目がない。
ああ、くそお、眠い。
『……以上で、話を終わらせていただきます』
髭が暑苦しそうな校長先生が俺たちに向かって礼をし、ステージを降りていく。
やった。
終わった。
ようやく眠らなくて済む、とこっそり安堵の息を吐いた。
…………そして、俺は、本当に我が目を疑った。
顔を上げた自分の視線の先に、見えた人物。
小柄で茶髪、ぎりぎりなスカート丈、男ならみとれずに居られないルックスの美少女。
その子は、
『次は、生徒会長から、一年生の皆さんへの祝辞です』
マイクをまるで今から唄を歌うアイドルのような格好で持ち、語尾に『ハート』でもつきそうな乗りで、そう、言った。
まさか、あの人……!
俺に、考える時間はなかった。
「きゃあああああああああああああっ!」
少女がそう宣言した瞬間、二三年生の方から、かなりの数の女子の黄色い声が、俺の思考をかき消した。
あまりの大きさに、隣で眠っていた充も、がくんと体ごと沈み、そして起き上がる。
「……っんな……なんだよこの声!」
無理やり起こされた充は、怒り気味に叫んだ。
しかしその叫び声さえも、女子の黄色い悲鳴に遮られ、聞こえない。
「わ、わっかんねえよ!」
あの子が、会長の名を出してからだ。
背後からは尚も、女子の声が聞こえる。
「響様……!愛してるー!!!」
「早くお声を聞かせてー!響様―!!!」
「ああ……このときを待ってたの!」
「そのお声を聞ければ……もう死んでもいい……!」
なんだ、これ。
あまりのことに、俺と充含む一年生は、呆然とするばかり。
『皆さん、落ち着いてください!』
ああ。
彼女、かわいいなあ。
マイク越しに叫ぶ声が、ほんのかすかに聞こえた。
しかしそれでも、なかなか一旦火のついた女子は止められない。
いかん。
耳が、キンキンしてきた。
『皆、静かにしてっ!!!』
マイク独特の、キインという金属音と同時に聞こえる、彼女の叫び声。
さすがに今回ばかりは聞こえたのか、皆が一瞬でしいん、と静まり返った。
「……」
充は呆然として、何も言えずにいる。それはもちろん、俺も一緒。
「「何なんだ……この学校……。」」
思わず、隣の充と同じタイミングで呟いてしまった。
すさまじいこの熱気は、一体。
入学したての一年生全員がぽかんとしている中、彼女の可愛らしい声が響く。
『……えっと、はい、気を取り直して、会長のご挨拶です』
心なしか、彼女の声はどこか疲れているようだ。
無理もないかもしれない、あのうるさい女子集団を静まらせたのだから。
可哀想に。俺が止めてあげられれば……!
自分の無力さを一人かみ締めながら、俺はステージに視線を移した。
そして、絶句した。
「……!?」
……カツッ。
靴底を蹴る音が体育館中に響き渡った。
一年生全員が、その音の主を振り向き、見る。
『……おはようございます。生徒会長の、響です』
それは、少年だった。
学年は間違いなく三年生、身長170とちょっと。聞くだけで惚れ惚れする低すぎず高すぎない麗しいアルトボイスに、引き締まって無駄のない細身の体、切長の茶色の瞳、美しく整えられた制服、そして何より、
『今日、この第54回聖倫学園高校入学式を無事に行えたことを感謝しています』
その、王子様的、と言うのにふさわしい、驚異的な美貌。
「きゃあああー!響様―!」
「いつ見ても素敵―!」
「ああ……こちらを向いて欲しい……」
再び、体育館を悲鳴が呑み込んだ。
「成る程、なあ……」
隣の充も、俺も、もちろん他の一年生も、皆、その声援の意味に気づいたのだ。
「会長が美形さんだから、女の子のアイドルになってるわけね」
充が実に簡潔にあっさりと、しかし的を射た答えを発した。
「……そう、だね……」
最早、ただただ納得し、頷くことに終始するのみだ。
『苦しい受験を乗り越え、今日君達がこの聖倫に入学してきたことを、大変嬉しく思います』
女生徒が騒ぐのも、理解できる。
男性といえど、男臭さを感じさせないその美貌と、妙な清潔感と、清廉された雰囲気は、女の子のみならず男も……って何考えてるんだ俺は。
『これから、勉強やスポーツ、校内行事等、様々なことがこの学園で待っています。皆さんもこの学園での三年間を、思う存分楽しんでください』
言うこともまた素晴らしい。
『それでは、これで僕の話を終わらせて頂きます』
「えええーっ!!!」
そして話を終えようとした瞬間、案の定女子生徒から不満の声が上がる。
大変だなあ、人気っていうのも。
俺はしみじみと実感していた。
ところが。
『……あ……すみません。一つ、話し忘れていたことがありました』
舞台から立ち去ったはずの会長様が、いつのまにか申し訳なさそうに、再びステージ上に立っていた。
まあ、女子生徒にとっては喜ばしいことなのかもしれないが。
「……?何だろ?」
「さあ?」
言い忘れたことなら、後で放送でも流せばいいじゃん、とごく普通の公立高校生は思って会しまう。
「放送かなんかにすりゃあ、いいのに」
隣で充も、俺と同じ考えだったようだ。
「だよな、俺は早く教室に帰りたいよ」
俺は軽くため息をついて、椅子の背もたれに背中をくっつけ、体制を緩めた。
「……実は、この学校では、『生徒会補佐』を募集しています」
生徒会長の言葉が、俺の耳を流れて抜ける。
「正式な生徒会役員とは別に、この学校は生徒会活動が盛んで多忙なため、一年生から一人、生徒会室内での庶務や簡単な報告等をする『右腕』候補を募りたいと思います。参加資格等は特にありません。やる気がある一年生の諸君は、明後日の放課後、『右腕』適正面談をしますので、四階会議室まで来てください。特に、」
すごいなあ。
中学時代も、同じクラスから絶対立候補する奴がいた。
大抵そういう奴は、頭もよくて、運動神経も抜群で、基本的にクラス委員長とかを務めているような、パーフェクト人間だった。
そりゃあ俺も一度くらい憧れたけど、取り柄も何もない一般人には、所詮生徒会なんて無縁の話だ。
多分、その生徒会補佐って奴を希望する人は、皆すごいものを持ってるんだろうなあ。
もしかしたら……会長目当ての女子もいるかもしれないけど。
とにかく、すごいなあ。
そんなことを、ぼおっと考える。
急に眠気が襲ってきて、思わず欠伸をする。
「……『声模倣』の能力を持つ、と噂の男の子が、いるそうなのですが、もしいたら、
来てください。待っています』
そうか。声模倣かあ。
きっとすごいんだろうな、そいつ。
きっと頭も運動神経も、おまけに顔もパーフェク……え?
今、会長の口から聞いた単語を思い出し、我に返った。
何……
何て、言った?
「おい……雪弥……」
隣に座っている充の声は、心なしか、震えている。
「どうすんだよ……お前……?」
「え、な、何が?」
まさか。
いやいや、まさかそんな筈。俺の聞き違いだ。きっとそうだ。うん。
しかし充は、俺のそんな思いを、あっけなく打ち砕いた。
「……お前、全校生徒の前で、会長様から、直々にお呼びくらったんじゃねえか・・・!」
ああ。
やっぱり、聞き違いじゃあ、なかったんだ。
『特に、声模倣の力を持つ男の子のこと、待ってます』
「……冗談、だろ……?」
さて、俺はこれから、どうなるのでしょうか?
神様仏様、生徒会長様。どなたか、教えてください。
*
「…………で、どうしたの?全校集会さぼってまで、こんなとこ呼び出して」
風が、少年の背中を吹き抜けた。
太陽はかすかに雲に掛かり、少しだけ明るさは消えている。
それでもまだまだ、時間は午前。
「そんなに、俺に話したいことでも、あった?」
風に揺れる髪をそのままにして、まるで風と戯れているかのように、少年は薄く笑った。
「……山浪君って、意地悪なんだね」
ふわりと宙に浮きそうになるスカートを押さえながら、少女は俯いた。
「普通、貴方ほどの人なら、分かると思うんだけど」
「うん、分かるよ。だから言って」
嫌味のない、穢れなき微笑み。
だからといって彼は、ただこの空気を淡々と受け入れている訳ではないのだ。
「……好きなの」
少女の、言葉。
「知っているでしょう?私が山浪君のこといつも見てたこと。私が……いつも貴方のことを視線で追っていたこと、知らないわけじゃないわよね?」
風が、少し強まる。
「……うん、まあね」
「じゃあ!」
はっきりしない少年に、しびれを切らしたかのように、少し荒い口調で少女が詰め寄った。
「じゃあ……何か返事してよ。私のことが好きとか、嫌いとか、付き合ってもいいとか悪いとか!」
「……そういうことって、あんまり考えたことないんだけどなあ」
口調だけは困っている風に、しかし顔は、相変わらず面白そうな笑みのままだ。
慣れっこなんだ。
少女でなくても、誰だって分かる。
少年は、背中を屋上の鉄柱に押し付けると、目を閉じて呟く。
「……いいよ?別に。付き合っても」
「ほ、本当!?」
あまりにも、予想外の答え。
めちゃめちゃに振られるか、あっさり断られるか……というより、成功例を全く』考えていなかったのだ……のどちらかしかないと思っていたのだ。
「うん、いいよ」
そして、微笑む。
「その代わり、」
「俺のどこが好きか、百箇所言ってみて」
「……え?」
ぽかんとする、少女。
「意味分からなかった?もう一回言おうか?だから、君が俺のどこが好きかを百箇所言えたら、君と付き合う。それでいい?」
面白そうに、尚も笑う。
「そんな、いきなり……!」
「思いつかない?なら君の思いはその程度なんだ」
悪気のない、笑顔。
この男は、楽しんでいる。
少年を愛し、ずっと見つめてきた少女だからこそ、この男の性格の悪さは知っていた。
人の思いを、たいしたものと思っちゃいない。
自分が真剣な時に、平気で横槍を入れる。
それでも、訳もなく、目が離せない。
「ねえ、言って?」
薄く、笑う。
「……え……えっと……ま、まず……頭いいし、生徒会もやっててしっかり者だし、あとは……あ、えっとそうだ、授業をきちんと……」
「もういいや」
あまりにも我儘に、少年の言葉は少女の言葉を切り捨てる。
「結局、君、俺のこと何も見てないんだね。正直に俺の顔に惚れました、って言えば?正直に、山浪君は顔も頭も運動神経も完璧で、マジかっこいーからです、っていやあいいのに。馬鹿だね、君、結局君はさ、俺のこと愛してないんだよ、きっと」
少女は、力が抜けた。
訳の分からない悲しみと、空しさが、全体を駆け巡る。
「……っ……」
気づいたら、涙が零れていた。
「……じゃあね、バイバイ?」
少年は、少女の顔も見らずに手を振ると、屋上のドアを開け、三階へと降りていった。
「……ああ!忍発見っ!」
三回の廊下に右足を下ろした瞬間、右側から自分の名前を大きな声で呼ぶのが聞こえた。
もちろん、声の主はよく知る少年だ。
「あ、美琴。と……駿」
「やっほー。忍があまりに遅いからさあ、様子見に来ちゃったよ。やっぱり忍、女の子を冷たく振ってたね、僕の思った通り!」
「忍先輩、とりあえず響会長が呼んでいたので、すぐ生徒会室に向かうべきです」
常時明るいテンションの小柄な少年とは対照的に、背の高い少年は、落ち着き払った態度で少年の名を呼ぶ。
「行きましょう、忍先輩……いや、忍副会長、ですか?」
「だね」
少年・忍はこの男特有の含んだような笑いを向けると、二人と連れ立って歩いていった。
やっとキャラが出揃いました。
頑張って書きたいです。