8話
「そう、私が使える魔法は『交換』ーー人と人の魔法を、一時的に入れ替える力よ」
セラの声は落ち着いているが、なんか色々使い道がありそうな魔法だ。それこそ、自分が強力なミラの攻撃魔法を使えるかもってことになる。
「ただ、魔力量だけは潜在的なものは変えられないから、身の丈に合わない魔力量の魔法とかは使えないわ」
見透かされたような解答をもらった。結局ミラの魔法は使えないらしい。
「魔力量が多い人にとっては逆にいろんな魔法使い放題ってことか」
「そうよ、他人の力を使いたいって人にとっては便利な力ね。特に貴族は、人の珍しい魔法を使いたがるから結構稼ぎがいいのよ!」
確かにいろんな人の魔法が使えるほど楽しいことはない。
「そうか、案外裕福なんだな…」
「そうでもないわ、魔王の邪気で両親は死んだ。残されたのは、妹と犬だけ。でも、生活していかないといけない…早く魔王を倒して目を治す。そして、もっと生活費や家賃を稼がないといけないの…」
セラは淡々と言ったが、手の指先がかすかに震えていた。
「お前に仕事をやる」
何かこの人は今後重要な役目を負っているような気がするのである。これは確信ではなく、完全な思い付きである。そして、ヴァン以外にも心置きなく話せる人間が欲しいという本音もある。
「え?なんの?」
突然の申し出にセラはびっくりしている。
「教団運営だ」
「このいかがわしい教団の運営をしろっての?絶対にいやだ」
セラは眉をひそめ、完全に拒絶の姿勢をしている。
「妹と犬も一緒に教団本部で暮らしていい。ヴァンという最強の護衛もいるし、安全だ。しかも、村の学校まで展開しているから、妹は教育も受けられる」
セラは、半目で少しだけこっちを見た。こんな魅力的な仕事はこの世界ではそうそうないのである。心が揺れているようである。
「なぜ、私を雇おうって思ったの?」
「神として認めさせるためだ…信者を増やすのは神の一丁目一番地の義務だからな」
この後、セラとなんだかんだ会話をして、結局教団運営という名の身の回りの世話をさせる仕事についてもらうこととなった。こうして新たな教団運営者が生まれた。
——————セラとの面会数日後
ドンドン!——————
「神ィーーー!」
(んあ、なんだ早朝から人がすやすや寝てるのに…)
「いかがされましたかな…」
ドアを開けると村の若者の一人が汗だくでいた。そして、いつも通り中途半端に微笑みながら聞いた。
「近くの村々が…魔王軍に襲われました!そこのイケメン教信者達が逃げ延びてこの村に来ています!」
若者は息を切らし、額から汗を滴らせながらやって来た。
「えーー⁉」
朝一番に聞く報告でかなり不幸な部類のもので思わず大声を出してしまった。
声には、神らしさが失われていた。
「…か…み…?」
(やべ、びっくりしすぎて、つい素が出ちまった…)
とりあえず若者についていきながら様子を見に行くことにする。すると傷だらけの人が村の入口付近で、十数人座り込んでいた。
「みなさん、昨晩魔王軍の襲撃を受けたみたいです。ここにいる人以外はもう…」
傷ついた人々の手当てをしていた、コダンが説明をしてくれた。
何日か前から、遠くの村が魔物に襲われていると聞いていた。しかし、その足音は確実に近づいているのを感じる。
「魔王軍の侵攻ルートから考えると、おそらく狙いはここから北西に歩いて2時間の都市バラックが狙いね」
起きてきたセラが詳細を推察した。
「バラック?」
「バラックは首都レインを守る最後の巨大要塞。ここが突破されれば首都での決戦になり、この国の被害はとんでもないことになる…絶対に守らないといけない拠点よ」
セラは、眠たげに髪をかきあげながらもセラの口調は鋭かった。
だが、この国がいつの間にか滅亡寸前に追いやられているのはかなりのピンチである。
(そのバッラクを守らないといけないのか…がんばれ王国騎士団!)
「コダンよ、村の講堂を開放して、人々の傷をいやしてください」
「はい、承知しました」
コダンは直ぐに村民たちに指示を出し始めた。
——————
我々の村にも魔物がそのうち来るのかも、などと考えていたがその瞬間は直ぐに来た。
「教祖―――!」
ある村民と面会中に、コダンが入って来た。
「コダン!面会中ですよ」
「失礼しました。しかし、村の外の森に魔物の軍勢がいるそうです!」
「なんだと⁉」
面会中の人に待つように伝えてすぐに教団を飛び出した。
すると、村民たちが群がって騒いでいた。村民の話を聞くと森の奥でキノコ狩りをしているときに、武装した魔物が拠点に築いているのが見えたらしい。すぐにそこから逃げてきて、村に連絡してきたのである。
村民の話を聞いたあと、ヴァンに頼んで森の様子を見に行ってもらった。
「ヴァンどうだった?」
ヴァンが偵察から帰ってきて、地上へふわりと着地した。
「確かに小さな拠点らしきものがあった。だが、数は少ない。ゴブリンが5体と黒カバが1体だ」
「この村の戦力でいけるのか?」
ヴァンはこの村で唯一気を遣わずに冷静な分析をしてくれる人物である。
「俺でもゴブリンだけなら行ける。だが、村の人間と俺の戦闘力でも黒カバは無理だ」
「黒カバってのはなんだ?」
名前はカッコいいが、敵にいるとなるとヤバそうな名前である。
「二本足であるくタイプのカバだ。普通の奴なら問題なく倒せるが森の中にいるやつは相当手練れだ」
「うわあ…どうすんのこれ…」
(カバってこの世界にもいるのかよ…二本足で歩いて武装してたら大分怖いかも…)
するとヴァンが突然後ろに振り向いた。ただならない表情をしている。
「村の入り口の方に強い魔力を感じる」
「え?まさか…?早くない…?」
————————————
村の入り口では戦闘が始まっていた。
幸いにもヴァンが急行し、ゴブリンを壊滅させて死傷者は出ていない。
だが、黒カバと呼ばれる二本足の巨大なカバが槍を抱えて武装をしている。
ヴァンが、現場の戦闘から離脱してこちらに飛んできた。
「おいおい、あれはやばいな…ヴァンどうする?」
「さっきから攻撃をしているが全く効かない。より強い魔法が必要だ」
黒カバが槍を振り下ろす。轟音がなり、地面がえぐれ、土煙が舞う。
——————ドオンッ!
軽い爆弾が破裂するくらいの威力があるのである。
コダンや村の若者が先頭に立って戦っているが避けるので精一杯といったところである。
「この村で一番強力な魔法を放てるのは誰?」
セラが後ろから話しかけてきた。
「おい、ここにいたら危ないぞ!」
セラには神口調がもう出てこなくなっている。なぜなら、セラの神にはなれていないからだ。
「いいから、誰なの?」
「威力だけで言ったら、コダンの『代行者』魔法だ」
ヴァンは冷静に答える。
確かに『代行者』はとんでもない威力なのである。いくらヴァンでもあの威力はだせないらしい。
「…なによそれ」
セラは眉をひそめている。どうやら『代行者』という特殊な魔法は知らない様子である。
「村民の魔力を集めて、雷魔法を放つというものだ…」
「なんて便利な魔法なの…他人の魔力の利用だなんて…そんな強力な魔法なんて、ただ条件があるでしょう?」
セラもそのコダンのぶっ壊れ魔法が気になるようである。
「そうだ、あの魔法は、魔力提供者の大半の魔力を奪ってしまう。心理的に信用できない場合には、魔力の移動がわずかでも行われない」
ヴァンはよくコダンと話をしているのを見ていたが、あの能力について尋ねていたのか。
「心からの信用が必要ってことか…」
セラは腕を組み、戦況を見つめている。そうしている間にも村の若者が黒カバとの戦闘で苦戦を強いられている。
「私がコダンの魔法とあなたの魔法を入れ替えて、村民から魔力を集めればとんでもない魔法が打てるんじゃない…?」
セラは自分を指さしながら言った。
「…なるほど!」
セラの画期的すぎる発案にヴァンは珍しく大きい声をだした。確かに、信者の魔力が全部自分に来るとしたら、とんでもないレベルの魔法を放てることになる。だが、一つ問題が。
「だ、だ、だが、俺はまだ魔法をうってことがないんだぞ…」
小声でヴァンとセラにいう。二人とも首をかしげている。
「そんなの小便をするのと対して差異がないから大丈夫だ。感覚的にできる」
ヴァンはケロリと答える。セラも特に否定しないでこっちを見つめてる。
(そんな感覚で魔法出してるのあんたら…)
「いいからやるわよ!コダンを呼ばないと……コダーン!」
セラは大声で手招きしながらコダンを呼んだ。
コダンは黒カバとの戦闘をしていたが、こっちを振り向いてやって来た。
「ハアハア……どうなさいましたかセラ様?」
コダンは、額に汗を滲ませており、腕や首の部分には切り傷が出来ていた。
「コダンの魔法をこのアホに移すわ」
セラは、コダンを指さした後、この教祖を指さした。
「……え?魔法を移す…?」
(やはり驚くよな…ちなみにアホと呼ばれてるところにも驚いてくれ…)
「ええ、あなたの『代行者』を移す。そして、それをあのデカブツにぶつける」
「よくわかってはいませんが…私の魔法を神が使用してくれて、あの黒カバが倒せるなら何でもします!」
「じゃあ、ヴァンは戦えない村民を講堂に集めて!集めたら黒カバとの戦闘でみんなをアシストしにいって」
「わかった、そうする」
「私たちも講堂に行くわよ…それまで、皆…頼んだわ」
窓の外から講堂内をちらっと覗くと、けが人たちが皆不安そうな顔をして座り込んでいた。
(できるだけ助けないとな…少なくともイケメン教に助けを求めてきたのだから…)
「よし、やるわよ。二人ともそこに立って」
講堂の壁を背にして、コダンと並ぶ。するとセラは両手を伸ばし、やたらと力んで、ロングブレスダイエットみたいな息を吐いた。
「ふううう!うりゃ!」
突然腕を交差させた。すると、自分の体にとんでもない熱を腹の底から感じる。熱いというより、大きなぬくもりが腹から湧いてくるのである。
「どう?交換できたかしら?」
「…出来てます…神のエネルギーが体からあふれてきます!!」
コダンは満面の笑みを浮かべている。
(多分それ勘違い…でも、交換はできているようだ…こんな感覚初めてだ…これが魔法!)
セラと目が合い無言でうなずいた。するとセラも魔法の交換ができたことを認識したようだ。
「これで準備完了ね…教祖はこのハンカチで顔を一部隠しな、信者の中にはまだ気絶するかもしれないからね」
するとセラに連れられ講堂内に入った。全員こちらを振りむいた。すると『おお』と、どよめきが起きた。
「あんたが皆に魔力を自分に分け与えるようにいいなさい…」
セラが小声で促してくる。覚悟は決まっている。
「皆さん!一つお願いがございます!皆さんの魔力を私に分けて欲しいのです!!その力で、外の魔物を打ち払います」
突然の教祖の発信に講堂内にいる信者たちは騒然としている。そりゃ、神は助けてもらう存在で何かを手伝う存在ではないのである。
「一体どういうことなのですか…」
村の老人の一人が前に出てきて、みんなの疑問を聞いてきた。
「えっと…」
「神は、信者の力でその能力を発揮できるの!今こそ信仰を形にする時よ!」
セラは、こっちが口ごもった瞬間、適切な返事をかぶせてきた。もはやこっちが無能なことを見越している速度である。
「そうなのです。皆様の力で私は生かされているのです。そのため、皆様に力を分けていただいて戦うしかないのです…」
(こんな弱さを見せるタイプの神っていいのか…?)
「そう、みんなの信仰が試されてるってわけ!みんなが心の底からイケメン教を信仰して、この困難に打ち勝ちたいと思っているなら、力を分けなさい」
理屈は意味わからんが、それらしいことをさっきから言っている。
「なるほど…つまり、本当に信仰しているのか…この困難で神は我々を試していると…」
「そんなところじゃないかしら…」
(こいつ、無茶苦茶だ…でも、どんなことをいっても魔力を集めねば…)
「わかりました…私は神を信じます!みんな神を信じる者は、魔力を神に!」
理屈は不明だが、老人は納得してくれた。
老人が体の前で手を広げると、小さな光の球がそこから現れた。部屋の奥からもふわふわと光の球がやってくる。灯篭流しのように、数十、数百の光の球がゆっくりと流れてやってくる。
「皆様、ありがとうございます…これで黒カバを倒せます」
体の奥から熱が膨らんでくる。
「すごいものすごい魔力が集まってきている。自分じゃこんな量にはならない」
コダンも普段結構な人数から魔力を集めているが、他の村の人やコダンとあまり親しくない村民たちまでもが魔力を提供してくれているからだろう。
「これならいけるわ」
セラの魔力を視る能力でも相当魔力が溜まっているのが見えているようだ。
——————ドオンッ!
外では、黒カバとの戦闘が続いているようである。
「よし、戦いにいこう」
村の入り口付近にセラとコダンを引き連れて向かうと、ヴァンと村の若者が戦っているのが見えた。何人かは、戦闘不能で倒れている。
「…やるわよ、てかやりなさい」
コダンが以前ミラに対して行っていた動作を思い出しながら、それを真似する
「ああ、手から小便をするイメージで…あ、出そう…」
「そんな具体的にイメージしなくていいのよ」
すると何となく手のひらがむずむずしてきた。血を手に回すようなイメージを強く持つ。すると、『パチパチ』と音が鳴り始めた。
「それをぶっ放すだけよ」
「わ、わかった、やってやるよ!皆、どいてくれ!」
黒カバと戦闘中の皆にどいてもらって、魔法を放つ準備をした。
荒れている呼吸を整える。心臓の鼓動が早くなっているのを感じる。
黒カバとの距離は、およそ15m。動きが鈍く、巨体のため狙いを定める分には問題はない。
どんどん緊張が上がっているが、頭は冷静である。
音が消えていく。黒カバの赤い目がこちらを見つめている。
「ーーサンダァァァァーストライク!!」
魔法を放った。
世界が一瞬真っ白になった。




