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7話

 会場には、どよめきが轟いた。

 ミラは動揺のあまり、石像のように固まっている。

 王女はこちらを振り向かない。


「すいません、これで顔を隠してください」


 王女は、顔を背けながら、自らのハンカチをスカートのポッケから渡してきた。

 目だけを出して、口と鼻が隠れるようにした。


「隠しました…王女様」


 すると、王女はこちら側をゆっくりと振り返った。

 近くで見ると、王女というだけあって華美な顔つきと衣装である。


「ふうう…やはりその顔面とんでもない芸術ですね…普段から国宝を見てる私でないと、しばらくは回復できないレベルです…」


 王女は息を吹きながら、ドレスの背中の土を払いながら冷静さを保とうとしている。


「私の罪は、無罪…ということでよろしいでしょうか」


「ええ、先ほど申し上げた通り無罪です。ただ、私から一つ提案がございます」


(何か、急ピッチで刑がなくなったな…てか、提案怖いな)


「それはどういった提案ですか?」


 恐る恐る提案を聴いてみる。


「私の宝物の一つになってはくれませんでしょうか」


「え…宝物?」


「イケメン教などはやめて、私の宝物になれば、一生の生活保障がある状態で、王都暮らしができます。ただ展覧会の展示物としての仕事があることにはなりますが…」


(要は観賞用のペットになれってことか…)


 異世界に来てからというもの、命の危険に晒されすぎて全く世界を見ることがなかった。だが、今回王都に来て、この世界の広さや美しさを少し知った。そして、まだまだ知りたいという欲求が心の底から湧いてきている。

 このまま、世界を知らずにペットライフなのか、それとも異世界を知るために危険だけど神として生きるのか。答えは決まっているのである。


「王女様…私は恵まれた人々のための存在ではありません…助けを求めている人のための存在…」


 王女は少し驚いて、目を丸くした。


「そうですか、安全な生活を選ばないのですね…あなたはただの宝石以上の人。そうですね、皆の者のために輝く星なのですね」


(あんたに星にされかけたけどね…でも納得してくれてよかった…話が通じる系だ…)


「そうなのです…信者を早く救いに行かねばなりません。ミラ騎士に村まで送ってもらってもよろしいですか?」


 勝手に帰れと言われたらたまったものではないので、ここはしっかり固めておく。


「彼女にも伝えましょう…くれぐれもお顔に傷をつけないようにお願いします。またお会いする機会もあると思います…その時までご無事で」


(ミラとかいうアホ騎士に強く言っといてほしいね…顔が消し飛びそうな魔法をやってくるので…)


 ——————


 そんなこんなで刑の執行は中止となった。もとから無罪なので、元通りになったというのが正解である。

 そして、一部の兵士に連れられ、顔を布で半分隠しながら闘技場の通路を歩いていると、一人のさわやか青年が立っていた。


「きみがイケメン教の人?」


 背中に剣を掛けて、壁に寄りかかっている。身長はそこまで高くないが、風貌が人を引き付ける魅力のある人間である。


「ええ、どちら様ですか?」


「僕は、この国の第一王子ヘイルだよ。以後、お見知りおきを。君の価値は、その美しい顔面以外にもあるということをみんなは未だ気づいていないんだよね…そこはすごくもったいない」


「王子様⁉これは失礼いたしました……顔面以外の価値というのは?」


 オイッ!——————


 ミラが遠くで呼ぶ声が聞こえた。


「ミラの邪魔は、ダメだね…またいつか会えると思うから、またね」


 そうやって手を振りながら去っていく。


(なんか思わせぶりなやつだな…)


 ミラは苦虫をかみつぶしたような表情で立っていた。が、王女の命に逆らうわけにはいかないので、仕方なく仕事をしているようである。


(やっと帰れるのかな…)

————————————

 首都から、村に帰ると村民たちは大きく出迎えてくれた。

 ミラは『いつかあの世に送ってやる…』という恐ろしすぎる捨て台詞を吐いて、おとなしく王都に帰っていった。

 まさかこの村に再び帰れるとは自分でも思わなかった。まるで故郷に帰省した都会人の気分である。


(村長がおばあちゃんに見える…なつかしい…)


 改めて、ゆっくりとここで生活を営めることの素晴らしさを実感した。

 そして、信仰を伸ばさないとこの世界で生きていけないことを改めて決意した。

 つまり、国家と渡り合えるだけの宗教にしないと身の安全は確保されないのである。


 ——————————


 そして、村に帰還後、面会業務がルーティン業務として再開した。

 貰った寄付は、不作や働けない人に再分配をすることで村の運営の基盤を築き始めている。


(今日も今日とて、面会だー!最近アドバイスの質も上がってきているから満足度も高くなっているはず!信者増やすぞー!)


 面会室で何人かと話をした。おおむね満足をして帰ってくれた。人は話を聞いて貰えるだけで、多くの人は、心が軽くなるのである。

 そして次の相談者を呼ぶ番となった。


「次の方、入ってください」


 ドアの外にいる相談者に入るよう呼び掛けた。


「…入ります」


「どうぞどうぞ、お入りください」


 自分と同い年くらいの女性が入って来た。この村の人間ではないが、近くの村娘であろう。昔の欧風なエプロンのような格好から、いかにも純朴そうである。ただ一つ気になる点がある。


(なぜこの人は目を布で覆ているのだろうか…)


「…何よ、ただの人じゃない!」


 村娘はいきなり声を張り上げた。静かな室内に急な緊張感が走った。

 当然自分もびっくりした。人である点には間違いがない。


「ど、ど、どうされましたかな?」


「どうって、あんたがどうなってんのよ!神じゃない!」


(なんか最初っからすんごいキレられてるんだけど…なんかしたっけ…?)


 彼女の言葉からは歩み寄りの手段が思いつかないほどの拒絶が感じられる。

 だが、いろんな面会経験からこういう系の人はお手の物である。素直に話を進めるのが一番納得してもらえるのである。


「ん~、わたしは神ではないと?なぜそう考えるのですか?」


「私は、目が見えない。けど、人の魔力量を詳しく視ることができる才能があるわ。少なくともあなたの魔力は、そこらへんの虫と同じくらい。その魔力量で『神』なわけないじゃない」


(おれの魔力って虫と同じなの!魔力あるだけうれしいけど…にしても少ない!)


「魔力量が神を神たらしめるとはいえないのではないですか?」


「…それもそうかもね、ただ魔法が使えなければ、私の目は治せないわ…」


 彼女は、物憂げな表情で語りかけてくる。どこか神という存在に期待をしていたのだろう。だが、当然自分には何もできない。この世界に来て、いくら生き抜くためとは人を騙しているという罪悪感が芽生えた。


(やはり、救いを求めているのに悪いことだよな…)


「魔法でしか治癒が不可能なのですか?」


「というより治すには一つしか方法がない。この病気を生み出した魔王を殺すことよ。その為には、魔王を殺せるような魔法が必要だわ」


「魔王…を殺す?」


 この世界に来て魔王の存在は、聞いたことがなかった。が、どうやら実際にいるらしい、ファンタジーな存在が。


「この目は病気ではないわ、正確には呪い…魔王の邪気にあてられたのよ!」


「…呪い?」


 魔法の他にそんな概念が存在することは初耳である。


「そんなことも知らないの!アホなの!?そこら辺の子供でも知ってるのに…はあ……いい?魔王は、その誕生と共に世界に膨大な邪気をもたらすの…」


(魔王はその誕生と共に邪気をぶっ放し、世界にこういった病気をもたらすのか…結構陰湿で厄介なタイプなんだなぁ…)


 とんでもない常識が自分には欠落しているらしい。村の人間以外にも情報源が必要なことを痛感する。


「…すいません…いつ誕生したんですか?」


「ついこの間よ!!丁度1ヶ月半前くらいかしら…」


 偶然にも自分がこの異世界に飛ばされてきた時期と重なる時期である。魔王さんとは、この世界の同期にあたるのである。


「とにかく、その魔王が倒せればいいんだな?」

 

 思わず口をついて、日本時代の態度で臨んでしまった。しかし、神と崇められていない以上この態度でも構わないように感じる。


「何か急に口調が変わったわね…その通りよ、魔王を倒せば呪いを解呪できる…ただ人間には無理よ…どうあがいても無理…」


「…なぜだ?」


「魔王の能力の一つは、相手の魔力の2倍になるというものよ…つまり、相手が強くなればなるほど魔王もどんどん強くなる…」


「運よく魔王のところまでいっても、絶対に差が縮まらない戦いを強いられるのか」


「そうよ、さらに魔王は魔法攻撃に対する絶対的な耐性がある。そして、相手の魔法の能力を下げ——————


 めちゃくちゃ説明をされた。尋常じゃないチート生物が自分と異世界同期である。確かに人では到底倒せない存在。まさにファンタジーの存在。


「つまり、この魔王を倒せる存在は神くらいしかいないと?」


「そうよ…神くらいでないと絶対に倒せない…嘘だとわかっていたけど『神』とやらに期待して、こうして遠くの村からわざわざやってきたのよ…」


「私が魔王を倒せば、私がイケメン教の神であると信じるか?」


 異世界人の宿命は、魔王攻略である。そう頑張らねばならないのである。


「え?あんたが、魔王を倒そうっての?100%無理!」


 女は強く首を横に振り、力強く否定した。

 だが、否定されると実現したくなるのが人である。

 ここにきて、魔王という存在が人類と対峙していることに最強にときめいているのである。

 加えて、魔王が死なない限り安息の異世界生活はどこまでも手に入らない。


「いや、やるんだ…やってやるんだー!」


「なに、テンション上げてんのよ!」


「貴様の呪いも祓ってやる!絶対に本当の神と認めさせてやるよ…」


(にしても、こいつ話しやすいな、つい口が滑りそうだ…)


 少しだけこの人について、興味が湧いてきた。村娘にしては、やたらと豪胆で物怖じしない精神力を感じるのである。自分とは正反対である。


「少し、素性を聞くが名前と仕事を教えてくれ」


「名前はセラ、仕事は農業と人の魔法を交換する仕事よ」


「…へ?魔法を交換…?」



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