4話
村民は鳥人の戦いのちょっとした勝利に湧いている。
中には、「神の奇跡だ」と叫んでいる者もいる。信仰が厚くなるのを感じる。
(なんとか、なったな…あっぶね~)
血だらけの鳥人が膝をついて畑の真ん中で、ぐったりしている。
「教祖様、この状態なら皆で攻撃すれば何とかなると思います。攻撃した方がよろしいでしょうか」
村民の一人が火の玉を、手のところに作りながら話しかけてきた。
(う~ん、なんか話を聞く感じ、人間を助けて追放されたんだよね~…)
「いや、私に任せてください。話を聞いてみます」
(危険もあるだろう…だが、心が踊るんだ!待ってろ、ファンタジーーー!)
「え~!気をつけてください。皆、魔法の準備はしておけ!すぐに攻撃できるようにするぞ!」
村民は驚愕をしたが、教祖の決定を無理に止めないでくれる。
(ありがとう村の若い人。君のおかげで安心して近づける。くれぐれも俺にその火の玉をぶつけるなよ…頼むよ、それで死んじゃうからね…)
入口近くの畑でうずくまっている鳥人に一歩一歩近づく。まだあたりは土煙が立ち込めていて、少し喉がイガイガする。
「そなたは、人間を助けたために味方に襲われたのか?」
鳥人の背中から声をかける。
近くに来るとその体格の大きさに驚く。身長は2mはあるだろう、そして筋肉質な筋張った体つきは、まさに動物である。
「貴様には関係あるまい…」
鳥人は、一瞥をくれて、低い声で言い返してきた。
「畑をこんなに荒らされて、無関係とはいえない。せめて事情くらい話してはくれないか」
「ふふ、恨むか…なんてことはない、野盗に人間の家族が襲われていた。両親はすでに死んでいた。しかし、子供はまさに殺されようとしていた。子供は死ぬ必要はない。物はもう奪えるのだから…」
少し諦めを感じる表情で細々と語っている。
同時に、この鳥人は物凄い迫力を帯びている。あれほど不利な状況を、いくら助けたとは言え乗り切るだけのことはあるように感じる。
「野盗を皆殺しにして、子供を助けた。それを仲間に見られた…他の種族を助けるのは掟違反、そしたら死罪だ」
(なんて野蛮な掟だ…にしても、こいつそんなに悪い奴に見えないよな…)
「野蛮な掟か…確かに人の理とは異なるな…それに俺は悪い奴が嫌いなんだ…俺自身は悪いことをしないぞ」
「そうなんですね…ん?」
(あれ、声に出てかな『野蛮な掟』とか)
「いや、声には出てないぞ」
鳥人は、体の向きをこちらに向け返して冷静な面持ちでいる。
一方、こちらは変な動悸が胸を叩きと変な汗をかいている。
「え?ん?……まさか…なのかな…?」
「俺には心の声が聞こえる、悪いな勝手に聞いちまって」
(やばい!やばい!天敵だ!こいつには設定が通じないぞ!)
「そんなに慌てるもんか?口調と心の声が大分違いがあるようだな」
(やっべーぞ…ん?ホントにヤバいのか?)
この鳥人の前では、隠し事は通じないのがわかる。だが、この鳥人に対しては、隠し事も必要がないのも何故だがわかる。何故かこの鳥人には、温かみ、人としての温かみがあるような気がしているのである。
「あー、えーっと、俺はこの村で神として崇められてるんだ」
自分のことをこの鳥人には知ってほしい気持ちになった。心を通わせられそうだからである。
「神なのか?」
「いや、人間だ。だが、勝手に信仰されてるんだ」
「人間は、不思議なことをするな」
鳥人もどことなく柔らかい表情をしている。
さっきまでの強張った殺気のある顔はどこかへ消えた。
「ところで、お前いく先ないならこの村で暮らさないか?」
特に何か大きな考えがあるわけではなかった。直感的にこの鳥人を仲間にすべきだと思うのである。
「な、なんだと…」
鳥人は目をまん丸くして驚いている。
「ただ暮らしてくれっていうわけじゃない。俺の護衛として働いてほしいんだ!」
「護衛…なぜ俺なんだ?」
「とんでもなく強いからだよ、あと俺も本音で話せるやつがいてほしくてな。神は色々本音で過ごすのは難しいからな…」
「お前が良くても、他の人間は許さないだろう…」
「いや、俺はこの村の神だ、何とかするよ」
「ふふ、そうだったな…行く当てもない、この村に落ちたのもなんかの縁かもな…」
鳥人は何か空を見上げて少しの時間考えた。
少し浅く息を吸った。
「この村で世話になるぞ『神』よ…」
「オー!よかった…名前は『三浦日』だ。”デイ”と呼んでくれ。あ、村民の前では一応教祖とかそこらへんで呼んでくれ」
「わかった、気は遣うよ…俺の名前はヴァンだ」
「ヴァンか、よろしく」
——————この世界に来て初めて対等に話せる相手ができた。
——————つまり、友達ができたのだ。
————————————
ヴァンを村に連れていき、村長たちにヴァンのことを話した。
「教祖よ、あまりに危険ではありませんかね…正直私は反対です」
村長は不安そうな目で訴えかけてくる。他の村民も同様の反応である。
「彼はこの村を守るために、死力を尽くして戦ってくれたのです」
「そうなんですか⁉」
「そうなんです…彼は以前この村の人間に助けられたことがあり、同じ仲間がこの村を襲おうと画策した際に彼だけは止めたのです…その結果追放されてしまったのです…」
こんな会話をいたるところで繰り返し、何となく納得をさせることに成功した。
ヴァンは『嘘はつくな』というが、嘘でも言わないとおよそ納得してくれる状況ではないのだ。そんなこんなで、ヴァンが新たな村民となり教団本部の一室に住むようになった。
——————
イケメン教は村の外に少しずつ広がりを見せているらしい。要は勝手にみんなが布教しているらしい。村外からも寄付をしに来たり、相談に来る人が増えてきた。村自体も外部からの人の流入で少しずつ活気があるように感じる。
そんなある日、村の入り口で村民たちが騒然としていた。
細目にして教団本部の窓から入り口を見ていると武装した騎士が20人ほど馬にのっている。
「イケメン教なる宗教を立ち上げ、住民をだましている教祖を取り締まりに来た!教祖よ出てこい!」
武装した騎士の一人が馬上で叫んでいる。
(おいおい…本物の騎士さんだよ。てか、イケメン教を取り締まりにきたのか…別に人を騙してないよ…)
村民たちは、どことなくイケメン教本部までの道を塞いでいるが。
騎士の一人が目ざとく見つけた。
「ミラ様、あちらにイケメン教なる看板が」
「あそこか、みな行くぞ!ハッ」
ミラと呼ばれた女騎士が部隊を引き連れ、こちらにやってくる。
遠目に見てもわかるほどの彫りが深いエキゾチックな絶世の美女である。だが、やたらと眉間にしわが寄っていて、よほど厳しい性格の人間なのだろうと感じる。
「ヴァンどうするよ、これ」
教団本部の部屋にいるヴァンは、一緒に窓の外を眺めている。
「さあな、あの騎士団は魔力量がとんでもないレベルだ。俺一人ではどうにもならん」
「ヴァンでも戦えないのか…あ~、国に歯向かうわけにもいかないしな~、ちょっとやってみるか」
ドカドカと教団本部に騎士が入ってくる音がする。
そして、自分の部屋のドアが『バンッ』と開いた。
「教主はいるか!」
女騎士は率先して部屋に侵入してきた。
「はい、私です」
顔面を布で覆い、相手に顔見せないようにしている。
「顔を見せよ!ロバ神というこの村で信仰されている神に似ているという話を聞いている」
「かしこまりました…」
か細い声で応答する。これで顔面が与える衝撃の差分をもたらすのである。
慎重にゆっくりと少しづつ覆っていた布を取り外す。
そして、顔面を突き出しながら
「教主のミウラ・デイ……と申します…」
「ガワハァッッ」
女騎士は血を吐くような声を出して、その場に前がかりで『ズデン』と倒れた。
周りに一緒に来ていた男たちも自然と膝をつけ、武器をおろしている。
(あっぶね~、騎士にも俺の顔面通じるわ…でもこの状況どうするよ…顔面がイケメン過ぎてこの女性は死んだのか…?)
とりあえず外に出よう。物騒な連中からは離れるのが一番。
建物の外にでると、多くの村民が神との再会を待ちわびていた。
オオおおおお!—————
そして、例の如く村民は湧いた。
手を挙げて歓声に応える。
(いや~、ピンチを乗り越えるのは気持ちいいなァ~、あの騎士さん達には後ほどお帰りいただこう)
ガチャ——————
背後から金属音が聞こえた。
次の瞬間
ドンッ—————
自分の体が謎の力に地面に抑え込まれていた。うつぶせの状態で一切動けなくなった。
誰も自分の体に触れていない。魔法か。
「クッ、先ほどは不覚を取ったが顔さえ見なければどうってことはない…」
背後から先ほどの女騎士の声が聞こえる。
恐らくその女の魔法だ。
そして、別の騎士に顔面を目出し帽で覆われた。
「ふう、これで顔面から発せられる怪しい術も聞くまい」
女騎士は手拭いで汗をぬぐい、冷静さを取り戻そうとしている。
そして、腰に巻き付けていた紙を開いた。
「貴様にかけられた被疑事実を読み上げる」
急にかしこまった態度を取るため、村民たちも女騎士の声に耳を傾けた。
「被疑事実は、竜が教祖のあまりの美しさに涙を流して平伏した、くしゃみでこの森を創造した、欠伸をするだけで畑に野菜が生えまくっただのの虚言で人々をだまし、自己への信仰を煽動し、金品などをだまし取ったことである。つまり、貴様は大詐欺師だ!!」
(いや、信者のやつら勝手に盛りすぎい!教祖が知らない話をつくるな!)
(嘘なのか?)
ヴァンがテレパシーで話しかけてきた。
(嘘だ!大前提、神なのも嘘だけど…)
(じゃあ、捕まっても仕方ない、俺はいくぞ、この女騎士には俺でも勝てない…)
(おい、護衛の仕事しろ!)
目出し帽のおかげで、遠くに飛び立っていくヴァンの姿が見えた。
どうやらこの女騎士は、やたら強い奴らしい。逆らうのは不可能だとわかる。
「よし、連行するぞ」
「はッ」
いつのまにか手には縄を通され身動きが取れない。これからどうなるのか非常に心配である。
「神様を離せ、神様を離せええええ!ファイアァァ」
依然助けた村民の子供が女騎士に向かって火の玉をぶん投げた。
「フンッ」
手でその火の玉を虫でも払うかのように簡単に弾く。
すると、火の玉は霧散した。
「クソ!みんなやるぞ!神をお助けするのだ!」
「オー!」
(やめろお前ら!騎士団と戦ったらこの村が灰になるぞ!俺の家もなくなっちゃう!)
「いい度胸だ、バルデン王国筆頭騎士の私に歯向かうとは!消し炭にしてやる!」
(お前もお前で、一般人にムキになるな!てか、王国の筆頭騎士なの⁉やばいわけだ)
女騎士の周りには小さい光の球が無数に集まりだした。そして、身に付けている甲冑が輝き出す。魔法が使えない自分にもわかるほどの圧倒的な魔力。
(これどうすんの…騎士団と戦争すんの?)




