3話
先日、イケメン教という極めてふざけた宗教が爆誕した。
同じ日本からの異世界人がいたら、噴き出すだろうということはわかっている。だが、村民は、なんか盛り上がってるので野暮は控えようと放っておいている。
教団本部として、村のあばら屋が改修された。だが、生活は相変わらず村長宅で居候している。
(あ~、やっと衣食住職の完璧な配置だ。でも、何でもかんでも頼られるの結構疲れるなぁ…)
村長の家で飯を食べながら、やんわりとそんなことを考えた。ここ数日、何か争い事が起きるたびに助けを求められ、そのたび『恨みを水にながせば、未来に幸福の花が咲きます』という意味わからないことを言って誤魔化している。
(こんなことを続けていたら、いつか無能さがバレる…ただのイケメンでは餓死しかねない…そうだ、教義を作ろう!)
「村長さん、イケメン教の教義なるものを決めてはいかがですかな」
「なるほどなるほど…皆が拠って立つべき教えを定めるのですね」
早速、村民会議を開いた。先日集まった村の中心メンバーに集まってもらった。
彼らと話をして気づいたのは、複雑な教義を理解することができないということである。そのため、できるだけシンプルで自分に都合のいい取り決めにした。
(他人と争うな 健康でいろ 神に逆らうな)
(尊敬 善行 神に従う)
—————それだけだ。やってはいけないこととやるべきことを示す。
(治安と衛生が終わると、自動的にこの自分の生命も終わる…自衛のための戦略だ…)
村には看板で教義が張り出された。
村民たちは、おおむね理解し教義を大切にする意思を示していた。
中には、『やけに簡単だなぁ』だの、『神に従うってどういうことだ』だの、少し不穏なことを言っている者もいた。
「いかがされましたかな?ニッコリ」
顔面の威光で、そいつらは抑えこんでいった。
——————————
教義も定まり村民たちは、無益な争いを減らし、衛生的な環境の整備に努めるようになった。教義というより村の方針であるような気もしないでもないが、とりあえずより良くなれば、なんでもいい。
そんな中で、
「神様と対話をする部屋が欲しい!」
という声が相次いだ。
詳細を聞くと、お布施などをすることで神、つまり自分と対話をできるシステムを作れというものである。正直迷惑な話だが、神聖さを高める良い契機だと感じた。
「ぜひ作りましょう、面会室」
(キター!高額課金制でたんまりもうけるぞ…)
教団本部に面会室を設けた。
高額課金制度にして、しばらくはウハウハだったが、その喜びは一瞬で消え去った。
予約が大量に殺到し、わけわからない連中のわけわからない悩みを大量に浴びせられるという面会地獄に突き落とされたからだ。
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イケメン教の足場がだんだんと固まりつつあるのを日々感じている。自分は面会地獄で辛いが、一定のやりがいを感じている。
村長は村長職と教団のナンバー2としての要職を務める働きぶりである。老体に鞭をうっている点は申し訳ないが、この世界の常識を知らない以上頼れるのはこの人だけだ。
(色々頑張ってもらってるから、自分も面会とか頑張らないとな…にしても天気いいな今日)
自分は、気軽に出歩くタイプの神であるから、ちょっとだけなら村の外への散歩もする。
今日も今日とて散歩をしている。村民であるイケメン教信者たちは慌てふためいているが、ずっと部屋にいるだけでは気がおかしくなる。
村の入口の方までやってくると、遠くの山で空が光り輝いているのが見える。
(雲一つないのに、あんなに光っているのはなんだろう…)
「そちらの方、あの空の光は何ですか?雷にも見えますが…」
「きゃあああ~!」
そのリアクションは『もういいよ』と正直に思うがもう慣れた。
「恐れ多くも、私はあのような光が空に発生するのをみたことがありません…」
「そうなのですね、ありがとう」
例によって、微笑する。信者は、平伏していた。
なるほど、あの光は珍しいモノなのだと理解した。では一体なんなのか。
だが先ほどから段々とあの光が近づいているように感じた。
『ドオン、ドオン』と低い音が地面の振動を伴って鳴っていた。
光の一部から一つの塊が隕石のようにこちらに飛んできているのがみえた。
(え、こっち来てない…?)
ドォンッ—————
突然一つの塊が村の入口付近に飛んできた。
幸い自分たちのいるところから数十メートル先の畑の中に落ちた。
そして、モクモクの煙の中から、黒い物体が立ち上がるのがわかった。
「人か⁉」
村民は大声を上げ、明らかにおびえている。
自分もおびえている。足が信じられない速さでガクついている。
良く覗いてみると、人のそれとは似つかない点もある。
(羽毛?羽?鳥?いや、でも人間のような足がある!)
さらに、その影を凝視する。
顔は完全にタカ、背中に羽、だが二足で立ち、腕も生えている。
(鳥人だ!)
ファンタジーな展開に心が踊る。
だがこの鳥人はやたらと傷ついている。血だらけでフラフラだ。
「教祖様!下がって!」
「え?」
村民たちは、明らかに鳥人へ警戒をしている。
遠くの空から鳥人が5人?やって来た。
「裏切者め、なぜ人間の子を助けた…」
5人組のうちの眼帯をつけている鳥人が落下した傷だらけの鳥人に話しかけた。
「それが正しいとその時感じたからだ」
「他の一族を利する行為、一族の掟に反する。お前は許されない」
「ふ、そうか、勝手にしろ。俺の生き方は俺が決める!」
「そうか、では、死ね!」
眼帯の鳥人の手から雷が放たれた。
バァンッ—————
傷だらけの鳥人もすかさず撃ちかえす。
バァンッ—————
ドォンッ—————
雷が地面を貫き、焦げた匂いを伴った土煙がたちあがった。
村の前で大魔法怪獣戦争が始まった。
(これどうすんの?こんな化物が本気で戦ったら、村が消えちゃうよ…生活圏守らないと…)
村民たちも、いつ雷がこちらに飛んでくるのか恐怖におびえている。
「教祖様、一旦逃げましょう。みんなも逃げよう!」
村の若者が声をかけてくれた。
皆荷物をおいて、一目散に逃げる準備をしている。
その中で、村人の一人が台車に乗せて運んでいた小麦粉があった。
「皆さん、待ってください。あの小麦粉を布や小袋でくるんでください。」
「小麦粉?なぜです?」
「あの方たちにどこかに行ってもらうためです。急いでください」
鳥人たちの方を指さし、村民に呼びかけた。
「かしこまりました!皆急ぐぞ!!」
「オーー!!」
村民は一心不乱に布や袋に小麦粉を詰めた。
続々と小麦粉が入った袋が出来上がった。
「準備はできましたか?それをあの方たちに投げてください!」
「身体強化!投擲力向上!」
(何それかっこいい!魔法いいなぁ)
皆一様に身体に魔力を纏い始めた。
そして、村民みんなで小麦粉袋を投げつけた。
空中に真っ白な小麦粉が広がり、鳥人達は瞬く間に小麦粉に包まれた。
「グワァァ」
「ゴホッゴホッ、クソッ」
小麦粉は、どうやら鳥人たちの目や喉に入ったようだ。
鳥人たちはむせたり、目をこすったりと苦しんでいた。
「皆さん、もっと投げましょう!!」
「オラァああ」
鳥人達は小麦粉の攻撃に身動きがつかなくなっている。
「撤退だ!撤退だー!覚えてろ…必ず復讐してやる人間!!」
鳥人の恐ろしい集団はどこかへ飛んでいった。
ただ一人の血だらけの鳥人が残った。




