2話
村人の間に『イケメンロバ神の再臨』の噂が瞬く間に広がった。
どうやら助けた少女の祖母は、村長だったらしく村の皆に話をして回ったのである。
家に様子を見に来た村民が、自分の顔を見た瞬間に卒倒していくのである。
「顔面神だ!」
「ギャアアアァァァ」
中には化け物と出会ったのかというくらいのリアクションを取る村民もいた。
だが、これに乗らないほど自分はアホじゃない。
(イケメンを活用せねば…この野蛮な世界で生き抜くのは難しい…)
『無限微笑活動』なるものを始めた。
村民と目があえば微笑する。くしゃみをしても微笑する。何がなくとも微笑する。
ひたすら、微笑をし続けた。口角がイカレそうである。
その結果、村民たちは『天の恵みだ!』と都合よく解釈をはじめてくれた。
そして、野菜をもらったり、お金をもらったりと若干のお布施に近いことが始まった。
——————————
そんなこんなで村での生活が1週間ほど過ぎた。
基本的には村長の家で過ごし、時たま『無限微笑活動』をしている。
(今日も、平和だ―!異世界案外悪くないな~)
今日も今日とて、呑気に『無限微笑活動』と散歩を始める。
自然と村人たちは自分の周りに群がり始め、ちょっとした集団散歩となった。
「神よおおお!助けてくださいィィ」
突然集団の中から、大きな声で呼びかけられた。
「どうされましたか?」
「息子が、息子が、アアアア、大変でェェ」
どうやら息子がピンチらしい。
そして、話をゆっくり聞いてみると、息子がすごい熱をだしていて寝込んでいるみたいだ。そしてこの親は、その治療を自分にお願いしに来たのである
いくらイケメンでも病人を治療するのはいささか無理なのである。
「ロバ神様は、そういえば万病を治す能力を持っていたよな」
村民の一人が余計なことをつぶやいた。
「これで治そうものなら、ロバ神の再来じゃあ…」
老人が余計なことを言って、テンションを上げている。
どうやらロバ神とやらはこの世界の伝染病を沈めたという奇跡を持ち合わせていたのだ。
こちとらロバ神ではないので、病人なんぞ治せるわけがないのである。
「お願いします、神よおお」
『いや、ただの人間です。』と言いたかったが、ここで引いたらせっかく手にした異世界生活の基盤が崩れかねない。一応病人の様子は見に行かざるを得ないと思い、助けを求める村民の家について行くことにした。
その家では確かにベッドの上で、子供が苦しんでいる。医者でもないので診察もできない。とにかく、熱と咳の症状から風邪っぽいのだけはよくわかった。
(特段なんもできないぞ…どうすんの、これ)
子供の前で茫然と打ちひしがれていたが、何かできるわけではない。
「助けてくださいいい」
何となく不憫には感じられる。この時代の村で得られる医療では、この子を治せないのだけはよくわかる。
(よし、とにかく常識的な看病をしよう…どうにかなるはず)
我ながら楽観過ぎるが、やるしかないと考えた。
こまめに水分、『寒い、寒い』と子供が言うので体を温められるように布団を多めにかける。そして、時折換気。
これしか俺にはできない。
—————看病を始めてから2日経過
子供は完全ではないが症状が落ち着き、立って歩くことができるようになった。
(どうやらただの風邪だったんだ…良かったよ…いろんな意味で…)
「もう行ってしまって、いいかな?」
もうできることはないし、さっさと村長家のふかふか布団で寝たいのである。
「ありがとう神様!入口まで見送るよ」
「はは、ありがとう。気をつけてね」
神と言われすぎて自然に『神様』呼びが受け入れられてきた。
そして、子供と一緒に家から出ると村民が大挙して待っていた。
「わあああ!奇跡がなったぞーーー!」
「ロバ神の再臨で間違いないぞ!」
軽いフェスくらいには村民が湧いている。
(ただの免疫の勝利だよ…)
だが、こうして一つの奇跡と呼ばれる偶然が生まれてしまった。
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イケメンさに先日の徳が加わり自分の人気が加速した。
特段なんもしていないのに、イケメンさとロバ神信仰のダブルパンチのおかげである。
無論、この状況を活かす。なぜならこの異世界であまりに自分は無能なのである。
(異世界の気候は穏やかで気持ちいいなぁ~)
何となく暇なので、村をぶらぶら歩きながら『無限微笑活動』を行っている。
村を歩いていて気がついたが、この世界にはどうやら魔法があるらしい。
火・水・風・土を中心とした魔法体系があり、一般人でも、軽く火を出したり、水を出したりと相性のいい魔法は基本的に扱える。一方、自分は全く使える気配がない。
(魔法使えたら…きっと楽しいだろうな…)
「すみません…少しよろしいでしょうか…」
村長が背後から普段とは違う真剣な声で話しかけてきた。
そして、村議会の会議室へと来るように呼ばれた。
(なに、この重々しい雰囲気は…ロバ神の再来じゃあとか言って、いつも浮ついている人たちだよな…?)
村長をはじめとする村の中心メンバーがそろっていた。
普段はにこやかに話しかけてくる人たちが何やら真面目な顔をしている。
「これから私共が申し上げることは、村民の総意であります」
村長が開口一番、堅苦しいことを言い始めた。
「単刀直入に申し上げますと、我々はあなた様を神とする宗教を創設したいのです」
「え?」
「最近、不作や野盗の襲撃で村には希望がない状況です。生きる希望、つまり信仰の対象が必要なのです!そこへ、突然現れたロバ神そっくりのあなた様は、私たちにとってこれ以上ない希望なのです」
「そういうことですか…」
(どういうことですか…私、ただの三浦日ですよ)
「よろしいでしょうか」
(少なくとも無職の居候からは確実に脱却できる…魔法も使えない、チートもない、このままではいつ追い出されるかもわからない…やるしかないか…神様、やるぞ神様!!)
「かしこまりました、私は神となりましょう」
オオおおおおお!—————
会議室が歓声に包まれた。
(とにかく平和で安全な異世界ライフを実現のための宗教にせねば…)
「では、早速この宗教の名前を決めましょう」
—————そこから3時間後
「美しさを表すなら——」
「いやいや、顔面の造形にもっとスポットライトをあててだな、——」
(こいつら名前にどんだけこだわるの…?)
「神よ…今まで出た案の中で良いモノはございましたかな?」
村長が急に話を振って来た。
こちとらロクに話なんぞ聞いていなかったので、決めようがない。
(この人たちはかっこよさに着目してるんだよな…)
「顔面教…?ハンサム教…イケメン教?」
何個か候補をつぶやいたみた。自分でも気恥ずかしいが、こうでもしないと村民が納得しない。
「イケメン?」
一応ほとんどの言葉は通じているが、イケメンという言葉は通じないらしい。
「イケメンというのはとにかく美しいという意味です」
オオおおおおお!—————
「イケメン教!それにしましょう!」
「あ、あ、そうですか」
—————この瞬間「イケメン教」が爆誕した。




