10話
ケルテンは窓ガラスを蹴り破って外に飛び出した。
砕けたガラスが陽の光を反射する。
(うおい、アブな!やんちゃすぎるだろ!)
慌てて後を追う。
村の広場で馬に乗っていたミラがケルテンの方をにらむ。
「貴様、何者だ?」
ケルテンは、ミラから数十m離れたところで距離を取って止まっている。
「名乗るほどのものでもない、ただこの国のクソ貴族に媚びへつらう王国騎士団が俺は嫌いだ」
「ん?お前顔を見たことあるな…」
ミラは眉をひそめ、馬の鞍にかけてある小さな袋から巻物を取り出した。
そして、巻物をじっくりと覗いている。眼鏡のせいでうまく見えてないようだ
眼鏡の奥の目がわずかに見開かれた。
「貴様……義賊のケルテンだな」
「そういうあんたはミラ、王国騎士団筆頭騎士…この国3英雄の一人。あんたを倒せば貴族どもは震えて眠れなくなるだろう?」
「ふん…虫けらの分際で私に盾突くのがいかに無謀か教えてやる」
ミラが空に向かって手を掲げる。すると眩い光が一気に収束をして、光の槍が創成された。
「————聖なる槍!」
ミラが魔法を使うと皮膚がびりびりと細かく振動する。村で見た時と同様とんでもない圧力だ。
「盗人の力を見せてやるよ!」
ケルテンは少し腰を下げて、剣を抜いた。すると、シャムシールのような剣の周りに砂のようなものが渦巻く。
「なかなか面白そうな魔法だ……だが関係ない…オラァアア!」
ミラが光の槍をぶん投げる。放たれた槍は一直線の光の線を引きながら進む。
その槍はケルテンの胸を貫いた。
「…ッ!」
(ミラとは実力差があるのか…)
が、次の瞬間その体は砂となって崩れ落ちる。
バンッ————
ミラの背後に現れたケルテンが、剣を振りぬいた。
だが、剣は見えない空気の壁に阻まれて、ケルテンの後方に弾かれている。
「魔力濃度が高すぎて、自然にバリアが出来てやがる」
「…その通りだ、私には半端な攻撃は効かない。だが、貴様もまだ本気ではないようだ」
ミラは汗一つ流さずに、冷静にケルテンを見下ろす。
「魔力を見抜くのも一流なのか…こっちも出し惜しみしている場合じゃないだな」
地面がざわめき、土が崩れて砂の渦となった。その土はケルテンの体の周りを渦巻く。
その渦の中から急に無数の砂の刃が飛び出し、ミラに目掛けて飛んでいく
だが、ミラは即座に魔力の壁を用いて阻む。
だが、その一瞬のすきにケルテンの体が消える。
キンッッ————
甲高い剣が交わる音が響く。ミラは、目の前に現れたケルテン攻撃を帯刀していた剣で受けた
「ミラの魔力を分散させて攻撃の隙間をつくったのか、あの男は冷静だ」
ヴァンがぼそぼそと解説をしてくれた。ミラは、常に攻撃に対応する見えないバリアを張っている。その隙をつくには、バリアを分散させる必要があるようだ。
「…これでも通らないか」
「ふん…私に不意打ちなど通じない」
ミラは、少し見下すような冷笑をする。
ボンッ!!————
地面からケルテンが4人跳び出てきた
その勢いのまま四方から、ミラに思いっきり切りかける
「色々と工夫しているな…面白い!」
(このお姉さん、まだ余裕ありそうだ…)
ミラは攻撃に対して、光の槍を即効で創造して作り出す。
そして、四方向の相手すべてに対して突き刺す。
だが、いつの間にかミラの数メートル上にいるケルテンが上から切りかかる。
「————くッ」
ミラは、さすがに予想外だったようで自らの剣で受けた
————バンッ
そして、自分の後方から空気を切り裂きながら、剣が飛んできた。
いつの間にか自分の後ろ側にケルテンがおり、そこから投げたようだ。
ミラは、とっさに避ける。しかし、頬に赤い血が伝う。
「やるなガキ!」
「あれを避けられちゃ、やることないな」
ミラはにやりと口角を上げる。
自分の後ろにいる以外のケルテンは崩れて砂になった。
ケルテンは、だいぶ消耗をしているようで肩で呼吸をしている。
ミラはケルテンに向けて手を伸ばす。
「————拘束魔法…黄金の鎖」
地面から黄金色の鎖が出てきてケルテンの体を這っていく。
そして、鎖はケルテンを縛り上げた。
「くっ……!」
「貴様もバラックに行くぞ!」
(自分を殺しに来た奴をスカウトした!…さすがミラさんです……)
「なッ!なんだそれ⁉」
「私に傷をつけられる奴は貴重な戦力だ」
ケルテンは体を思いっきり揺らし、じたばたしたが鎖が切れる気配がない。
「無駄だ、ここで死ぬか、バラックで死ぬか選べ」
(二択の意味なくない?)
「ケルテン、諦めていくしかないよ…どのみち連行されるし」
ケルテンに近づきミラの性格を含めてアドバイスをする。
必死に逃れようとしているが、少し諦めの表情を浮かべた。
「……くそが!」
————————
ケルテンは諦めたように、バッラクまでの道に付いてきた。
足を止めずに歩き続け、小高い丘を昇りきると視界がぱっと開けた。
城壁に囲まれた拠点が丘の中腹に堂々と姿を現す。首都ほどではないが、しっかりと中には町が形成されていて、小さな城も見える。
高原にぽつんと浮かぶその姿は、どこかもの悲しく、どこか情緒的な都市となっている。
「…すごい綺麗」
セラがぼんやりと眺めながら、呟いた。皆が恐らく抱いている感情を吐露した。
「気を抜くな、今からあそこが戦場だ」
(ミラさん空気読んでください…)
————
到着すると、ミラから目出し帽の着用を強要された。
ミラの部下の女騎士が自分たちを指揮する務めがあるらしく、拠点の案内は彼女がしてくれた。門番、兵舎、倉庫、簡素な医療所――戦地仕様の設備が淡々と説明される。終わるころには陽が沈みかけていた。
ケルテンとヴァンとは同じ部屋であった。コダンだけは、ミラに連れられ別の部隊に編成される都合で、他の部屋に泊まるようだ。
「ケルテン、明日は町にでる?」
結局都市を出歩いたことがないので、街に詳しそうなケルテンを誘ってみた。買い物の仕方とかを教えてほしいのである。
「ん~、まあいつか隙を見て逃げるつもりだが、明日くらいは付き合おう」
(こいつ、ミラから逃げ切るつもりなのか…さすがです…)
「よし!ヴァンも出るだろう?」
「いや、俺は人間社会出ていったら、大騒ぎだ、少し敵の様子をうかがってくる」
「そうかあ、すまんな」
「いやいい、人混みはそもそも苦手だ」
ヴァンは部屋の隅でゆっくりと目をつぶった。
————翌日、市場
「すげー!」
目出し帽の不審者らしからぬ大声を出すと通行人から目線をきつすぎる目線をぶつけられる。しかし、露店、行商、貴金属販売と異世界風のスパイスの香り。人の息遣いを感じるのである。
「まあ、田舎の村に比べたら大層な賑わいだな」
ケルテンは当然といった表情で歩いている。
「てか、その目出し帽目立つな…なんでつけてんだ?」
ケルテンは当たり前すぎる疑問をぶつけてくる。
だが、事実この顔で倒れる異世界人が結構いるもんで、これが最善ともいえるのである。
「不思議なことに、俺の顔を見るとぶっ倒れる人が結構いるんだ…ミラはその筆頭だが」
「人の顔見て倒れるとは失礼な奴だ、おれがいい布をおごってやるそれで顔の半分をかくせ」
そういうと通りがかりの露店で黄金色の綺麗な布を買ってもらった。
簡単に買ってくれたが、結構な値段がしそうな代物である。
「おお、ありがとう」
————邪魔だー!
市場の通りがざわついた。
大通りの真ん中を、上等な外套を着た貴族風の男が数人の兵を引き連れて歩いている。
肩で風を切り、必要以上の大股で歩いている。
「どけ、下民!誰のおかげで商売できてると思ってんだ。フォイル家様のお通りだ!」
近くの老商人が慌てて通りの荷物を片付ける。だが、持ち上げようとする箱はどれも重く中々持ち上がらずもたもたしている。
貴族の兵が老商人を蹴り飛ばす。箱の中身の果物が、地面に転がる。
「ひどいな…やばい奴だ…」
ケルテンが横で静かに前に進んだ。そして、剣を抜いている。
すると、一瞬突風が起こり、土ぼこりが舞い、通りを覆った。
「うわあ!」
目に尋常じゃない土が入って来たので、たまらず大きな声を上げる。
そして、瞬く間に風が収まり、皆が茫然となった。
貴族たちも何が何だかわからず『行くぞ!』といってどこかへ行った。
「……これはあんたのものだ」
ケルテンは老商人に華美な財布を3つ渡した。
「…これは?」
「まあ、あいつらが落としていったものだから気にするな」
老商人は、ぺこりとお辞儀をして財布を受け取った。
ケルテンは少し笑みを浮かべ、老商人から離れた。
「ああいう貴族のクソがこの国には蔓延ってやがる…」
「どうやらそうみたいだね…」
(こいつは、俺なんかよりよっぽど人を救おうとしているやつだ)
この国のいびつさを目の当たりにしたところで、軽く昼飯を食べて、兵舎への帰路についた。
少し冷たい風が吹いてきた。変わらず異世界な匂いを漂わせている。




