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9話

 パァァンッ——————


 空気がはじけるような衝撃が耳をつんざく。

 腕が勝手に跳ね上がり、体の奥がしびれる。

 黒カバの巨体は一瞬で白い光に飲まれ、次の瞬間には跡形もなくなって消えていた。


 ——————数百m先では地面がえぐれ、黒煙が立ち上る。ホントの意味でサンダーストライクである。


「は、はは……やったぞ…」


(手が少ししびれている…ただ気持ちいい…)


 うおおおおお——————


 村民たちは歓喜に湧いた。セラとヴァンの方を振り返ると、二人とも安心した表情で微笑んでいた。


(初めての魔法……ま、人のやつだけど撃てた)


 ——————


 この村が襲われて数日、他の村やこの村で戦った怪我人の快方にも少しずつ目処が立ち始めた。村民たちもいろいろと手助けに全力を尽くし、助けられた側はものすごい感謝を示していた。

 寄付を受けていた食料は、他の村の人々の支援に用いられた。寄付を下手に使い込まずに、ためておいたのが功を奏したのである。


 ——————パカッ、パカッ


 甲高い馬の足音が近づいてくるのが聞こえる。そして、カチャカチャと金属のぶつかる音も一緒になっている。鎧の音だ。

 そして、依然も聞いたことのある非常に不快な音の一種である。


「悪徳教祖はいるか!人民をだまし、金品を奪い取る、悪徳教祖はいるか!」


(はい、きました…ミラさんです…来て早々悪口の大合唱って、あんたも変わらんな…)


 村民がミラの発言に癇癪を起し、勇敢にも口答えをしている様子が見える。ただ、止めないと、この村がおしまいになる。なので、向かう。


「いやはや…いつぞやは大変お世話になりました。ミラ様」


 もみ手をしながら、腰を低くし丁重な態度でミラの前に姿を現した。

 今度も顔面で馬上からひっくり返してやろうと考えている。


「おー、久しぶりだな。王女様の許しが無ければ貴様など今頃、土に還って、我らに踏まれていたところだのう、はっはっはっ」


(な、こいつ顔面を見ても意識を保てるようになってる…ん…?)


 ミラは眼鏡をかけていた。眼鏡が原因であること以外は考えられないのである。この顔面を見てまともでいられるはずがないのである。


「目がぐるぐる、する…今日は一応貴様に用がある」


(絶対に度がきつい眼鏡だよ、これ…てか、用事ってなんだ?)


「用事というのはどういうものですか?」


 ひたすら丁寧に機嫌を損ねないように接する。


「この村の住人で魔法能力が高い何人かを、バッラクでの防衛任務のために徴兵する」


「…え?」


「兵として何人かバラックへ連れていくと言っているのだ」


(あ~、有望な若者のスカウトみたいなやつなのかな…)


 ミラは、首をキョロキョロしている。どうやら目星がついているようであった。


「エセ教祖よ、この前私に雷魔法を打ち込んだ男はいるか?」


(あ~、コダンか…)


「はい…おります」


「そいつと鳥人族の奴と、お前が招集対象だ」


 自分に対して馬上から指をさしてきている。


「はいはい、コダンとヴァンと私ですね…って一人絶対に召集しちゃいけない人混じっております!」


 明らかに足を引っ張る奴を人選しているのである。ここは、何としても避けねばならない。

 魔王退治の前に消されるのはたまったもんではない。


「いや、今回招集する村々に貴様の宗教を信仰している人間がいる。士気を上げてもらうぞ」


「あ~前線には出ずに応援ということですね…なるほどなるほど…」


 ミラなら危うく『最前線に貴様を送る』などと言われかねないのでほっと一安心だ。


「いつ頃バッラクへは、伺えばよろしいですかな?」


「今すぐだ」


 耳がおかしくなったようだ。

 もう一度聞くしかない。


「え?なんておっしゃいましたか?」


「耳の穴かっぽじって聞け……今からいくぞオオ!!」


(鼓膜ちぎれるわ!…腹の底から声を出す元気な子…)

————————————

 ミラに半ば連行され、村からコダン、ヴァン、セラと一緒にバラックへ旅立った。セラは、魔王軍に一矢報いたいとミラに直談判したら、『面白い!豚の餌にしてやる!!』と言われて同行が許可された。本当に豚の餌にされるかもしれないことはセラには伏せておいた。

 なんだかんだ徒歩で2時間程度で着くので、ダラダラと歩いていると、途中に村が現れた。


「魔王軍にすでに襲われた村ですね、建物や畑が荒らされてますね」


 コダンが同情がこもった声で呟いた。

 焦げた匂いがまだ残り、倒れた柵の奥には黒く焼けた畑が広がっている。


「そうだね…逃げられてればいいけど…」


 セラもどこか唇をかみしめ、自分とこの状況を重ねているようだ。


 ガタン——————


 全員が動きを止めた。村の方から木材か何かが倒れる音がした。


「ん?なんだ…エセ教祖!様子を見てこい」


(いつのまにか部下になり下がってるんですけど…)


「かしこまりました、ミラ様…」


「神よ!どうか私も着いて行きます!」


 コダンは小走りで背後から付いてきてくれた。この場で自分を神と慕ってくれる唯一の人物に心の底からの感謝を。

 魔法による建物の破壊の痕跡が色濃く残っている。土で汚れたぬいぐるみや子供の靴が落ちているのを見かけると平和な日常が思い出されて心が痛くなる。

 音のなった方に一歩一歩近づく。


 ガタン——————


(まただ!この壁の後ろだ!!)


 半壊している建物のドアを開け中に入る


 カチッ——————


 冷たい刃物が首に触れる。同時に手際よく、腕を背後にねじ上げられた。


「動くな首を搔っ切るぞ…」


 背後から男の声が聞こえる。少し香水の匂いがする。


「神!」


 コダンもあとから入ってきたが、自分の姿を見て絶望をしている。


「ちなみに貴方は盗賊かなんかですか…?」


「そうだね、こんな廃村をうろついているのは盗賊くらいだろ?」


 ナイフを首にペチペチと叩きながら軽やかな会話をしてくる。こんな状況に、男は慣れっこなようで、余裕を感じる。


「そうかもね…まあなんでもいいんだけど…」


「ははは、あんた何か変な奴だな」


「それは間違いないな」


 すると男はナイフをおろし、解放してくれた。腕がじんじんしているが、血がめぐってくるのを感じる。

 男は、正面に立った。年齢は自分より少し下といったところの幼さがあるが、少し吊り上がった目にやたら整った鼻筋。黄金色の服装に、体中に宝石をつけていてじゃらじゃらつけている。目がちかちかするほどの派手さである。


「俺の名前は、ケルテンっていうんだ。よろしく」


 ケルテンという青年は、さわやかな笑みを浮かべながら、さながらアイドル風の握手を求めてきた。相変わらず宝石が太陽の光を反射して、きらびやかに光っている。


「あ、ああ。私はロバだ」


(コダンの前だから適当に名乗らないと…てか、こいつ俺の顔面に完全に無反応だぞ…どういうことだ⁉)


(おい、無事なのか?)


 ヴァンのテレパシーが頭の中に響いてくる。相変わらず冷静な声でこっちも冷静になる。


(ああ、無事だ…だが、盗賊と会った)


(そうか、そんな小物はほおっておけ…)


(おお、わかった)


 確かに村で時間を潰しているわけにはいかない。バラックの状況は刻一刻と変わってしまうのだから。


「ちなみに、外にいる騎士さんは一体どこのだれだ?」


 ケルテンが何気なく尋ねてきた。ぼんやりと窓の外を眺めているようだが、その眼光は少し鋭いように感じる。


「あー、あれは王国騎士のお偉方だ」


「そうか、じゃあ倒しがいがあるな」


 ——————空気が止まる。


「んん⁉」


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